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敵討ちの森

また、設定を小出しに語っています。

 この世界に魔物が生まれるようになったのは、1000年ぐらい前の大陸全土を巻き込んだ大戦からだ。

 この時、儀式魔法に秀でていた魔法王国ザムザラが、敵対する国家の国土において、ある大規模儀式魔法を発動させたという。

 それは、野に漂う魔法力を凝集させて、魔物に変じさせるというもの。

 魔物1匹1匹は、それほど脅威となるものではなかったが、退治しても退治しても、魔物はまた復活してくる。

 国内の流通は滞り、その国家は戦争どころではなくなった。

 しかし、ザムザラの計算違いは、その魔法の術式が他国にも流出してしまったことだ。

 たちまち、大陸全土において、魔物を発生させる大規模魔法が猛威をふるうことになる。

 大陸に魔物が満ちた。

 最初は、敵対国家を滅ぼすための布石だったハズだ。

 が、皮肉なことに、戦争そのものが消滅してしまった。人間同士で争っている余裕がなくなったのだ。

 兵士たちは、他国を攻めるのではなく、自国の魔物を退治するために武器を振るうことになった。

 やがて魔物の数が減じ始めると、兵士たちが集団で軍事行動を行うより、少数の戦士を自由に行動させた方が、効率のいいことが分かってきた。

 ここから、冒険者と呼ばれる自由戦士が生まれることになる。

 魔物から取れる魔法結晶を利用する技術が開発され、冒険者たちは魔法結晶を集めてお金を得るという構造が完成されてからは、冒険者たちはひたすら魔物を狩り続けてきた。

 しかし、1000年前の大規模魔法の効果が生きている限り、魔物が地上から消えることはない。


 オレは、地上に魔物をもたらしたザムザラを、別に悪く思ったことはなかった。

 逆に、戦争をなくし、魔法結晶を自動的に作り出すシステムを生み出したことを賞賛さえしていた。それが、ザムザラの当初の目的とは違っていたとしてもだ。

 しかし、オレは初めてザムザラの魔法使いに恨みを覚えていた。

 アンナを殺した魔物を生み出したザムザラの魔法使いに。

 もちろん、ザムザラの魔法使いが直接アンナを殺したわけじゃない。

 魔物というモノが生まれなければ、冒険者は存在しなかったし、オレがアンナと出会うこともなかった。

 そもそも、オレには冒険者になるしか道はなかったし、おそらくアンナもそうだったのだろう。

 だったら、ザムザラを恨むのはお門違いだということは、よく分かっている。

 でも、オレは何かに怒りをぶつけていなければ、おかしくなってしまいそうだったのだ。

 しかし、ザムザラを恨んでいても埒が開かない。

 オレは、アンナに直接手をかけたと思われる、たてがみのついた魔物を退治することにした。

 敵討ちだ。


 森の外でベビーサイズの魔物を何匹か狩ると、手に入った魔法結晶を売り払って、長剣を買い直した。

 安物だが、贅沢は言ってられない。

 今回の目的が達せられたら、かなり高価な剣が買えるだろう。

 あと必要最低限の野営道具だけ買いそろえると、オレはヤーミの森へ向かった。

 前回と同じルートで奥へと進む。

 途中で出会った魔物は、漏らすことなく狩っていく。

 目当ての魔物と遭遇したときに邪魔になる可能性のある魔物は、少しでも減らしておくべきだ。それに、武器となる魔法結晶は1つでも多い方がいい。

 アンナと過ごした最後の野営地には、2日で着いた。

 荷物は残っていたが、何もかもボロボロだった。

 屋根がわりに使っていた大布は、何ヶ所も噛み千切られていたし、毛布も踏み荒らされてズタズタになっていた。

 魔法結晶は、残っていなかった。

 バラバラになった小物入れの残骸はあったけど、中身はなかった。

 人間が持って行った感じではない。魔物が取っていったのだろうか?

 魔物が別の魔法結晶を取り込んで、成長するなんてケースがあるのか?

 鍋や五徳など、まだ使える物を回収し、背嚢に詰め直す。

 比較的、金属の物は無事だった。革でできた物は、とりあえず噛み千切られていた。かすかながら、魔法力がこもっていたのだろうか。エサと思われたのかも知れない。

 結界を作るために設置していた5つの魔法結晶も、1つ残らずなくなっていた。

 ここにたどり着くまでに手に入れた魔法結晶は、7個。

 結界を張るのに5個使うことを思えば、まだ足りない。

 そこから1日足らずの距離にある泉を目指す。

 途中で、更に1体のベビークラスを倒し、魔法結晶の数を1個増やした。

 泉に着くと水を補給し、すぐ近くの空き地に野営を張った。いつもと同じに結界を起動させ、焚き火を燃やし、調理を行う。

 ここからは長丁場となるかも知れない。体力を落とすわけにはいかなかった。

 森に入ってから獲ったウサギの肉をさばき、シチューと串焼きにした。

 ウサギは、雷の魔法で仕留めた時に、すぐに血抜きをし、皮も剥いでいる。

 食事を終えると、野営地のはずれに小さな穴を掘って、排便。

 狩りの最中に便意を催しても漏らすしかないので、やれる時に小まめに出すようにしているのだ。

 腸内に便をためてる状態で、腹部に大きな打撃を受けると、大変危険である。

 腸が裂けて体内に便が飛び散れば、まず命が助からない。

 小便も同じで、出来るだけ膀胱に尿は溜めないように心がけている。

 股間をカバーする防具は、背中側の留め金をはずすと、ペロンと前に持ち上がるようになっており、ズボンは、股間のところで布がかぶさっているだけなので、そこを左右に広げ、下帯を横にズラしさえすれば、ズボンを脱がずに大小便ができるようになっている。

 オレは、手早く排便すると、用意してあった木の葉で尻を拭き、防具の留め金を付け直した。

 そこで、魔物が数体近づいているのに気づく。

 そばに置いてあった長剣を手にし、盾を装備すると、明かりの魔法を唱える。

 結界を次々とこえてくる魔物の気配。

 あの夜ほどではないが、7~8体はいる様だ。

 オレは、いったん長剣を腰に戻すと、右手に魔法結晶を1つ握り込んだ。

 リボルバーの魔法を起動させる。

 手の中の魔法結晶は形を失い、オレの右手にリボルバーが宿る。

 闇の中から、明かりの魔法の光の中に、白い影が飛び込んできた。

 魔法結晶1個を使って、7~8個の魔法結晶が手に入るのだ。オレはニヤリと笑って、魔法の銃弾を撃ち出した。

 「バンっ!」

 

 長剣を使うことなく魔物を殲滅し終わると、オレはしばらく魔物の気配を探り続けた。

 15秒ほど経っても新しい気配は感知できなかったので、魔法結晶を拾い集める。

 8個のうち1個が2センチ大の大きさだった。

 ちょうどいい。まだ、このサイズのは魔法の触媒に使ったことがないけど、目当ての魔物に使用してみよう。

 明日はもっと奥に進むことにして、オレは横になった。

 

 


 

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