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忘れられない夜

少しづつお気に入り件数が増えて、励みになります。

 焚き火に照らされ、地面に敷いた毛布の上で、オレたちは抱き合った。

 「おねえさんが教えてあげる」

 アンナは、イタズラっぽい笑顔を浮かべながら、そう言ってくれた。

 ごめんシヴァ、オレ、アンナと旅するよ。

 シヴァとアンナと3人でってのも考えないではなかったけど、シヴァがいたらアンナとイチャイチャできないし、間違ってもシヴァとアンナのことで喧嘩したくない。

 狩りに出ている間は防具をはずしたことがなかったのに、今オレたちは素っ裸だ。

 結界を張って、何者かが接近してきたら分かるようにしてるとは言え、屋外で素っ裸とは、妙に落ち着かない。 

 でも、そんなことで、チャンスを逃すわけにはいかないさ。

 4人で行動してる時、アンナのオトコは、どうやってアンナを抱いていたんだろう?

 狩りに出てる間は、手を出さなかったのかな?

 それとも、他の2人から離れてやっていたのかな?

 まさか、2人の見てる前で、平気でやってたりして。

 昔のオトコとのことを気にするなんて、アンナにバレたら尻の穴の小さい男だと思われちゃうな。


 結界に、何かが侵入して来た。

 アンナを抱くことに没頭していたオレは、結界に反応があることに気づくのが遅れてしまった。

 「やばい!服を着て!!」

 アンナから身体を離すと、オレは慌ててズボンをはき、ジャケットに袖を通した。

 下帯やシャツを着けてる余裕はない。

 長剣と盾を手にしたと同時に、真っ白な影が視界に入った。

 魔物だ。

 結界に入られたことに気づくのも遅れたが、それ以上に魔法感知がまったく効いてなかったのだ。普通なら、結界に入られる前に感知できてたハズだ。

 修行が足りないな。

 オレは、心の中で苦笑しながら、魔物に盾をぶつけた。

 魔物の輪郭が揺らぎ、動きが止まったところに、長剣を振り下ろす。

 ベビーサイズの魔物は、いつものように簡単に四散する。

 しかし、まだ終わらない。

 結界に侵入してきた魔物は、1体じゃなかったのだ。少なくとも、4~5体いる様だ。

 「その短剣を使って!」

 予備の短剣をアンナに使うように言い、オレは明かりの魔法を起動した。

 辺りを光源のはっきりしない光が満たす。

 空間自体が発光しているイメージだ。

 その光に照らされ。

 オレは、ギョッとした。

 オレたちを囲むように無数の白い影が蠢いていた。

 「こいつら、追いかけてきたんだ・・・!」

 アンナが悲痛な声を上げる。

 まさか、アンナたちのパーティーを壊滅させた群れが、アンナを追ってきたというのか。

 シヴァと2人で大物を倒した時を、はるかに上回るピンチだ。

 オレは、魔法結晶を取り出すために、腰の小物入れに手をのばし・・・。

 小物入れが、ない。

 ズボンをはいただけで、小物入れなんかを固定しているベルトをつけていなかったのだ。

 荷物を置いてある場所に目を向ける前に、ドッと白い影が雪崩れ込んできた。

 「くっ!」

 奥の手で、長剣に埋め込まれた魔法結晶を触媒とし、剣を振る動きにのせて炎の魔法を飛ばした。炎の壁が、ゴウっと音をたてて、魔物たちを呑み込んだ。

 「アンナ!」

 振り向くと、アンナにも白い影が襲いかかっていた。

 駆け寄ると、長剣と盾で魔物を蹴散らす。

 「逃げるぞ!」

 顔面蒼白のアンナを背負うと、前方に立て続けに雷の魔法を飛ばした。

 長剣が粉々に砕け散る。

 本来、長剣に埋め込まれた魔法結晶は、斬撃に魔法力をこめるためのものだ。魔法の触媒に使えば、当然こうなる。ただ、長剣ごと砕けるとは思わなかったけど。

 長剣の残骸を投げ捨てると、オレは雷の魔法で魔物が一掃された隙間に突撃した。

 「しっかり捕まってて!」

 右手に短剣を持ったままのアンナが、ギュっと抱きついてくる。

 ジャケットを羽織っただけの裸の胸が背中に押し当てられているが、喜んでいる余裕はない。

 長剣も魔法結晶もなく、魔物を防ぐ手段が盾しかないのだ。

 こうなったら、魔物とは一切戦わず、ただ逃げるしかない。

 魔物は足が遅いため、囲みさえ突破できれば、なんとかなるハズだ。

 アンナを守らねばならない。

 アンナの身体の重みと熱。それが、かけがえもなく大切なものに感じられる。

 雷で蹴散らした一角を抜けると、目の前に大型の魔物が立ち塞がった。

 頭にたてがみが生え、ずいぶん変形した個体だ。

 巨大な口を開いて噛み付いてこようとするのを、左手の盾で防ぐ。アンナを背負ったままなので、盾で殴りつけるまでは出来なかった。

 しかし、横をすり抜ける時間は稼げた。

 一気に、魔物の横を駆け抜ける。

 その瞬間、左足を灼熱感が貫き、オレはガクっと体勢を崩した。

 「くそっ」

 魔物のたてがみが、左足の太ももに突き刺さっていた。

 たてがみを矢のように射ち出したというのか。

 本体から離れたたてがみは、すぐに輪郭を失い、魔法力へと返った。が、オレの太ももに空いた穴は消えない。

 「ヴィシュヌ?」

 「大丈夫だ」

 オレは歯を食いしばると、また駆け始めた。

 治癒するにしろ、少しでも魔物と距離をあけなければならない。

 背後からは、大量の魔物が追ってくるのが感知できる。

 普通なら、人間を1人背負っていようと楽勝で振り切れるところだが、足の怪我が思った以上にひどい。

 なかなか魔物から逃げ切れない。

 むしろ、すぐ後ろにぴったりと付けられている。

 魔法感知に頼らなくても、足音だけでそれが分かる。

 真剣に、やばい。

 「ヴィシュヌ、アタシを置いていって!」

 「ばか!そんなこと言うな!!」

 オレは、必死に走る。

 肺が破れそうだ。

 心臓も痛い。

 自分の呼吸音が頭の中で響く。

 しかし、昼でさえ暗い森の中を駆けるのだ。定期的に明かりの魔法を唱えねばならない。

 はぁ。はぁ。はぁ。

 やばい。やばい。やばい。

 焦って、何度も明かりの魔法を唱えるのを失敗する。

 樹木に激突したら、一巻の終わりだ。

 はぁ。はぁ。はぁ。

 くそ。くそ。くそ。

 魔物の気配は、まだ消えない。

 ぴったりと背後から追ってくる。

 はぁ。はぁ。はぁ。

 と。

 不意に身体が軽くなった。

 限界の向こう側に届いたのか。

 なんでもいい。

 オレは、アンナを背負う手に力をこめると、一気にスパートした。

 はぁ。はぁ。はぁ。

 いける。

 魔物との距離が開いたのが分かる。

 はぁ。はぁ。はぁ。

 ぜえ。ぜえ。ぜえ。

 

 そのまま30分は走り続けたろうか。

 オレが魔法感知できる範囲から、完全に魔物の反応が消えた。

 今のうちに治癒魔法だけでもかけておこう。

 急には止まらず、歩をゆるめると、まだ歩きながら自分の足に治癒魔法をかける。

 痛みがやわらぐと、気分の悪さがスッとひいていく。

 「ふぅ。なんとか、逃げ切れたね」

 オレは、歩みを止めない。

 腰を下ろして休みたいところだけど、そうしたらもう立ち上がれなくなると分かっていた。

 「アンナ、大丈夫?怪我してないかい?」

 荷物を全て置いてきてしまった。アンナを魔法医に預けたら、取りに帰らなきゃな。その時まで残ってるかどうか分からないけど。

 盾だけでも持ってこれたのは、不幸中の幸いだった。

 「アンナ?」

 返事がない。

 オレは、足を止めた。

 足が震え出した。

 「アンナ・・・?」

 腰を下ろすと、アンナの身体を地面に下ろす。

 恐る恐る振り返る。

 アンナの頭部がなくなっていた。

 


 

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