冒険者の性事情
リアル志向なら、シモの話は避けて通れませんよね。
女は、朝まで目覚めなかった。
よほど疲弊していたんだろう。激しい出血で死にかけていたんだから、無理もない。
とりあえず、水袋の水で、顔と手の血糊だけ洗い流させた。
まだ顔色も悪い上にひどい表情をしているけど、切れ長の目の色っぽい顔立ちが表れた。
名前はアンナ。
3人の男たちと組んで、行動していたらしい。
魔法を使える者はいないが、4人組となって1年、けっこう荒稼ぎをしていたようだ。
今回も大物狙いでヤーミの森にやって来て10日間。
30体近くの魔物を倒し(もちろん、ベビーサイズばかりではない)、そろそろ町に戻ろうかという話をしていた矢先に、魔物の群れに不意を討たれたという。
もちろん、魔物たちが示し合わせた訳ではないだろうし、不意を討つなんて考えもなかったろう。そもそも、魔物が何かを考えるなんてことはない。
しかし、その襲撃により、アンナたちのパーティーは壊滅した。
仲間たちが次々と倒れていくのを横目に、アンナだけがなんとか逃げ延びたというわけだ。
オレはそこまで聞いてから、朝食にスープを差し出した。
仲間を失ったことがショックでないハズがないし、精神的にズタボロになっている人間を慰められるようなスキルは、オレにはない。
今は身体を癒すことを手助けすることに専念する。
アンナは、黙ってスープを飲んだ。
強い女性なのだろう。生きようとする気力があるだけ、ありがたい。
「近くに泉があったんだ。そこで水の補給をするから、ついでに身体を洗ったらいいよ。
それから、出発しよう。」
「ここから森を抜けるのに、どれぐらいかかるの?」
「オレがここまで入ってくるのに3日かかってるよ。途中で狩りをしながらだけどね」
「そっか。あたしの足がこんなだし、もうちょっとかかるかも知れないね」
「心配しないで。きちっと町まで送り届けるからさ」
「ずいぶん優しいんだね。
アンタみたいなお人好しに拾ってもらえるなんて、アタシの運もなかなかだよ」
アンナは、薄く笑った。
「それとも、そんなにアタシとやりたいの?」
「あー、そりゃ、アンナみたいな色っぽい女から『おねえさんが教えてあげる』って言われるのは、男たちの永遠の夢だし」
「そんな話、聞いたことないよ!」
アンナは、けらけら笑った。
「どうする?前払いしようか?」
「まずは、身体を洗おうよ。さすがに、そのままじゃ・・・」
「あはは。そうだね」
オレはアンナを背負うと、泉に向かった。
荷物は置いたままだ。
泉の周りには、昨日の時点で魔法結晶の設置を終わらせていた。
結界を起動させると、アンナが水浴びをしている間に野営の撤収を行う。
オレ自身が結界の中にいなくとも、結界内に何かが侵入すれば察知できるのだ。
アンナの水浴びシーンには心が引かれたが、あまりがっついた顔ばかり見せるわけにもいかない。童貞には童貞なりの矜持がある。
まあ、前世の日本では恋人の1人や2人いたから、まだ気分的に余裕があるけどさ。
野営の片付けを終えると、泉に戻った。
結界に反応はなかったが、普通の獣が水を飲みにやってくる可能性が高いので、あまりのんびりはしていられない。
アンナも下級冒険者だし、獣だろうと魔物だろうと蹴散らす実力はあるのだろうが、なんせ今は弱り切っている。不安もあるハズだ。
泉に戻ると、色っぽ過ぎるダイナマイトボディの女が、素っ裸で身体を拭いていた。
「鼻血が・・・!」
「うふふ」
くそぅ、余裕あるな、チクショウめ。
「おかえり。おかげで、さっぱりしたわ」
「鼻血とか色んなものが出そうだから、早く服を着てよ」
「せっかく綺麗になったのに、また血だらけの服を着たくないんだけどなー」
「着替えなんてないんだから、我慢してよ。素っ裸で帰るわけにもいかないだろ」
「そうなんだけどねー」
アンナはブツブツ言いながら、汚れた服を再び身につけた。
においを抜くための殺菌魔法は開発したけど、汚れを落とす魔法は、まだ開発の目途も立っていない。
殺菌と洗濯の魔法をセットで使えれば、女ウケも良さそうだなぁ。
服を着終えたアンナに肩を貸し、オレたちは歩き出した。
アンナの右足には、今朝方、治癒魔法をかけ直してある。
「ヴィシュヌは、ホントに優しいねぇ。貴族のお嬢様になった気分だよ」
日本での女性の扱い方だと、この世界ではサービス過剰になるようだ。
「こんな色っぽい貴族のお嬢様なんかいないだろうに」
「あはは」
アンナがべったりと身体を寄せてくる。
やばいぐらいに柔らかい。腰に回した手を別の場所に持って行きたくなるじゃないか。
「ヴィシュヌは、ずっと1人でやってるのかい?」
「いちおう相棒がいるんだけど、今は離れてる」
「そうかい。足が治ったら、どうしようかと思ってさ」
仲間を失ったからって、女のアンナが1人で冒険者を続けることは難しい。これを機会に冒険者から足を洗うか、別の仲間を見つけなきゃいけない。
その点、魔法を使えて、女性に対して紳士的なオレは、良物件なのだろう。
「オレは、アンナの身体が目当てなだけだよ?」
「そんなの、どいつだって同じだったよ。みんな、アタシのウデより身体しか見てなかったさ。おまけに、一回やらせてやったらオトコ気取りで、あれこれエラそうに命令し出すし、たまったもんじゃなかったよ」
「ふーむ。女冒険者って大変なんたな」
「そんなこと分かってやってたから、しょうがないけどさ。
でも、ヴィシュヌは他の男とは違うね。
これまでのヤツらとは仕方なしに寝てたけど、ヴィシュヌとなら本気で相手していいんだけどな」
うはー。なんていう殺し文句。
ただ、これも本気かどうか分からないのが女の怖さなんだが。
「とにかく、今は無事に町にたどり着くことを考えようよ」
「仕方ないわね。じゃ、町に着くまでに、ヴィシュヌを骨抜きにしてやるか」
「・・・・・・・・・・」
骨抜きにされたいです。
その日は、2体のベビークラスの魔物に遭遇し、倒した。
魔法感知にかかった時点で、かわせる相手はかわし、かわせない相手だけと戦った。
ほぼ一撃で魔物を倒すオレを見て、アンナが「若いのに、やるねぇ」と妖しい目を向けてくる。
休憩をはさみながら夕暮れまで歩き、早めに野営の準備を始める。
アンナの体調も悪くないようだ。ポーションの1本や2本、まだ提供する気だったけど、その必要はないみたい。
食事は、アンナが準備した。
ずっとパーティーの雑用をこなしていたそうで、料理の腕も悪くなかった。仲間たちの無責任な注文に応えてるうちに、自然とうまくなったらしい。
ちなみに、食材もアンナが確保したものだ。
途中で見つけたウサギを投げナイフで仕留めたのだ。
むぅ。悪くないな。
美人だし、エッチだし、料理もうまいし。投げナイフの腕前からしたら、戦力的にも期待できそうだ。
シヴァのことは忘れて、アンナと旅しようかなぁ。
マジで。
そして、ウハウハな時間がやってきた。