女冒険者
やっと、女性が出てきました(´-ω-`)
オレは、18歳になっていた。
シヴァとは、まだ再会していない。
魔法結晶でできた盾を手に入れたことにより、オレの魔物の殲滅速度は格段に上がった。
おかげで収入も増え、装備品やポーション等の消耗品にもお金がかけられるようになった。
魔法結晶もギルドに納入するだけじゃなく、大物の魔物を狩るのに使うようにもなった。おかげで、ますます成績も上がり、オレの冒険者ギルドでのランクは「かけだし」から「下級」に上がっていた。
これから「中級」「上級」と長い年月をかけて、ゆっくり上がっていく予定だ。
ちなみに、「上級」の上には「神級」が存在するらしい。
オレには関係ない話だけどね。
効率よくギルド内でのランクを上げようと思えば、実力者たち数人で組んで、大物狙いの狩りをすることが近道だ。
しかしオレは、あいかわらず1人のままだった。
魔法結晶の盾を手に入れてしまったせいで、よけいに他人の目を気にするようになってしまったのだ。
それに、シヴァと再会したときに誰かと組んでたら、気まずいしね。
そういうわけで、その日もオレは、1人で森を歩いていた。
部分的に金属板で補強された革のジャケットに革のズボン、革のブーツ。更にその上から革の防具で胸と股間を守っている。
背中には野営の必需品が入った背嚢と、魔法結晶とバレにくいように黒く塗った円形盾。
左腰には、シヴァと出会う直前に買った物より、はるかに切れ味が増した長剣。
腰の背中側には、背嚢に隠れるように短剣を装備している。
冒険者になった当初は、魔法使いの弟子として生きていた国を目指す気だった。
前世の自分を知る兄弟子たちが生きていれば、自分の居場所が作れるかも知れないと思っていたのだ。
でも、シヴァに出会って、そんな気もなくなった。
自分の居場所なら、自分の気持ち次第でどこにでも作れると分かったからだ。
まあ、いまだぼっちのままだから、あんまりエラそうなことは言えないが。
ただ、不思議と孤独感はない。
今は、1人で狩りを続けてウデを上げ、お金を稼ぐ時期だ。お金が貯まったら、どこかに小さな家でも買って、それから自分の居場所を作ればいい。
そんなこんなで、オレは、ここのところ大物の魔物が多く発生していると言われているヤーミの森を歩いていた。
森と言っても、日本の四国ぐらいはスッポリ入っちゃうんじゃないかという規模だ。
軍事上の理由なのか、この世界には信用できる地図が存在しないから、正確なことは言えない。だが、とんでもない広さであることは、確かだ。
だから、ここを訪れる冒険者たちも、森の外縁をかすめるようにして狩りを行う。
森の奥まで入っていけば、とんでもないサイズの魔物が数多く活動しているとのウワサだ。
オレは、場合によっては2~3ヶ月かけてもいいぐらいの気持ちで、森の奥を目指して真っ直ぐに進んでいた。
樹齢数百年を越えるであろう大木が鬱蒼と太い枝をのばし、ロクに太陽の光が届いてこない。そのせいで、ぼぼ下生えは育たず、歩くのは意外と楽だ。
明かりの魔法を常時点けていなければいけないが、疲れたら早々に休むこととし、のんびりとヤーミの森の探索を行うこととする。
ベビーサイズの魔物には、頻繁に出会った。
薄暗い上に大木が視界をふさぎ、目だけに頼っていると危険きわまりないが、魔法感知のできるオレには問題ない。
魔物を構成する魔法力を感じ取ると、オレは長剣と盾を両手に、魔物に接近していく。
以前は長剣と盾に風をまとわせたり、魔法力をこめたりしていたが、現在は、盾は魔法結晶製だし、長剣にも加工された魔法結晶が埋め込まれていて、ただ斬ったり殴ったりすれば良くなっていた。
大木の間から、例によって駆け足の速さで近づいてくる白い影を視認すると、オレは白い影に走りより、盾でタックルをかましてから、長剣で斬りつけた。
それだけで、魔物は簡単に魔法力へと分解していく。
それだけ、盾と長剣から発せられる魔法力が大きいのだ。
シヴァが大剣の一振りで次々と魔物を倒していたのを思い出す。
3日ほどで、オレは20体以上の魔物を狩っていた。ベビーサイズだけではなく、もう一段大きな個体も数頭混じっている。
もうけだけなら、もうじゅうぶんだった。
しかし、もっと大物を目指して、オレはどんどん森の奥に踏み入っていた。
と。
「にいさん、水を持ってないかい?」
突然聞こえた人間の声に、オレは飛び上がった。
あわてて辺りを見回すと、近くの大木の根元に座り込んだ人影があった。
「だ、誰?」
「驚かしちゃったのは、すまないね。おにいさんと同じ冒険者だよ。
ちょっとドジ踏んじゃってね、水だけでも恵んでくれないかねぇ?」
女の声だった。
しっかりした口調だが、苦しそうだ。
オレは、人影に近づいた。
革服を着ただけで防具は付けていない20代半ばぐらいの女冒険者だった。
全身血まみれで、特に右足がひどい。ふくらはぎの肉が抉り取られて、大量の出血をしているようだ。
オレは女に水袋を渡すと、右足に手をかざした。
「あんた、まさか治癒が使えるのかい?」
「こんな大きな怪我を治せるほどじゃないけど、出血を止めて、痛みをやわらげるぐらいは出来ると思います」
「ホントかい。頼むよ。お礼に、やらせてあげるからさ」
こちらの世界ではまだオンナを知らないオレに、どきっとしたことを言ってくれる。
「ホントに?じゃ、張り切って魔法をかけるよ」
魔物に肉を喰いちぎられたらしい傷口に治癒魔法をかける。
オレ程度のウデじゃ、失われた血肉を再生させることは出来ない。傷口の表面に擬似的な皮膚を作り出し、出血を止めるのが精一杯だ。
でも、そうしておいて、近くの町まで彼女を運んであげれば、後は魔法医が面倒を見てくれるだろう。
念入りに、ふくらはぎに治癒魔法をかけてやると、女の苦しそうだった呼吸が少し落ち着いてきた。
「じゃ、これも飲んで」
そう言って、ポーションを渡す。
「いいのかい?こんな高いもの」
「弱ってる人にやらしてやるって言われても、困りますから」
「はは。おにいさんを楽しませるためにも、元気にならなきゃね」
ポーションを飲んだ女の顔色が少しマシになる。血まみれで分かりにくいが、ほぼ土気色だったのだ。
オレは、この位置で野営をすることにした。
女を出来るだけ安全な場所で休ませてあげたかったが、特に身体を隠せるような地形も見られなかったし、まだ移動させるのは無理そうだったのだ。
「今は、寝てて」
女に毛布をかけてやると、女はすぐに眠りについた。むしろ、気絶か?
まずは、いつもの様に、周囲に魔法結晶を設置して結界を張った。
枯れ木があったので、それを運んできて薪にする。
途中で都合よく泉を見つけたので、自分の水袋と女の水袋を持って行って、水をくんでおいた。
焚き火を燃やし、簡単な料理をしながら、眠っている女に目をやった。
血糊でひどい顔になっているが、もともとは色っぽいいい女なのだろう。
しかし、1人で冒険者をやってるとは思えない。だとしたら、連れはどうしたのか?女の様子からすると、魔物に全滅させられたのかも知れない。
女の冒険者は珍しい。
一概に女が冒険者として劣るものでもないのだろうが、人里を離れた場所を転々とする以上、女には性的な問題がついてまわる。
そのため、オレのように1人で活動している女冒険者は皆無だ。
誰かと組むにしろ、それは同時に性的な関係を結ぶのに等しく、女の冒険者というだけで、世間からはアバズレ扱いを受けることになる。
それを分かっているからこその「やらせてあげる」ってセリフだったのだろう。
不憫な気はするけど、それでも冒険者という道を選ばなければならない理由があるということか。
ま。ややこしいことは、関係ない。
問題は、女を無事に町まで連れて行ってやれるかということと、ホントにやらせてもらえるのかっていうことだ。