かけだし冒険者の自己紹介
初めての小説です。
こんなので読んでもらえるんだろうか?
よろしく、お願いします。
雲が出てきた。雨が近づいているらしい。
オレは、足を速めた。
街道からも外れた高地にいては、雨宿りができるような建物も期待できない。
革の防具が濡れると、また後で臭うんだよなぁ。まあ、臭いのもとが細菌だと知ってるオレは、ひそかに殺菌の魔法を開発してるから、それをかければ済むんだけど。
一般の冒険者たち、いや普通の人たちにしても、経験的に日光消毒をしてるぐらいで、はっきり言ってくさい人たちが多いのは閉口する。
風呂だって、そんな頻繁に入れないしね。
なんてことを思いながら、雨をしのげそうな場所を探すオレ。
標高の高めな場所にいるせいで大きな木もロクに生えてないが、それでもなんとか、しっかりした枝が張り出した木を見つける。
木の根元にたどり着くと、背中にしょった木製の円形盾と背嚢を地面に下ろす。
作業がし易いように腰の小剣もはずし、地面に置く。
もちろん、小剣も盾も、何かあればすぐに手に出来る位置に置いてるよ。
魔物狙いでこんな人里はなれた所まで一人で来てるんだ。逆にいつ狙われるか知れたもんじゃない。油断は禁物だ。
背嚢にベルトで固定していた5メートル×5メートル大の布を広げると、木の枝を利用して簡易的な屋根にする。布と言ったが、実際は大型の魔獣から取れた皮らしい。軽くて薄くて柔軟で、丸めると持ち運びに不便しない。おまけに水をはじく性質があるから、野営の時には重宝する一品だ。
オレの持ち物の中では、一番高価な物だ。安物の小剣や盾に比べると、ずいぶん高かった。
屋根を張り終えると、オレは小剣だけを腰に装備し直して、薪を集めた。雨が降り始める前に、やることはやっておかないとならない。
ついでに、野営地を中心として30メートルぐらいの距離5ヶ所に、売り物にならない大きさの魔法結晶を人目につかないように設置した。
更についでに、食べられそうな野草を摘み、果実を集めた。
ウサギか鳥でも仕留めたいところだけど、そこまでは期待できない。
薪を抱えて野営地に戻ると、まずは5ヶ所に置いた魔法結晶を利用した結界を張った。
結界の内側にいる生き物を感知するだけの魔法だけど、一人で行動してるオレにはなくてはならない魔法だ。
大半の冒険者は魔法が使えないと聞いてるけど、どうやって身の安全を確保してるんだろう。殺気を感じたりするんだろうか。だとしたら、オレはまだまだ修行が足りないことになる。
いや、現実に、デビューしてまだ2年目の冒険者なんて、頭に卵のカラを乗っけたヒヨコ同然なんだろうけどね。
オレの名前は、ヴィシュヌ。
どこかの神様みたいな偉そうな名前だけど、ありふれた農家に生まれた17歳の若造だ。
15の時に家を飛び出し、冒険者の道に入った。
以来、大もうけもしてないけど、食べることにも困らずにやって来れてるとこを見ると、冒険者に向いてない訳じゃないんだろう。
武装は、小剣と盾だ。どちらも安物で、もっといい物を使いたいけど、はっきり言ってそこまでの稼ぎは無い。
ただ、オレには大きなアドバンテージがある。
魔法だ。
一般に、魔法は高度な教育を経て習得されるものだ。そこいらの農家の小倅が、例え初級の「明かり」の魔法だとて使えることはあり得ない。
それが、正真正銘、農家の小倅で教育も受けてないオレなのに、初級の魔法はもちろんだけど、上級に分類されるような魔法でも使えちゃったりするのには、大きな理由がある。
オレには、前世の記憶がある。
それも、2回分。
1回目は、50年ぐらい前に、とある魔法使いの弟子をやってたという記憶。
新しい魔法の開発や改良を研究していた魔法使いの下で、その研究を手伝っていたのだ。そこで魔法を覚えた。
実際に使う機会には恵まれなかったけど、トシの割にはかなり多彩な魔法を習得していたと思う。
今、魔法が使えるのは、その時の記憶があるからだ。
で、なぜ、そんな記憶があるのか?
魔法使いの弟子だったオレは、頭は悪くなかったようだけど、身体がひどく弱かった。そのせいで、15才だかそれぐらいまでしか生きられなかったみたいだ。
で、死ぬ前に魔法使いの師匠に一つのお願いをした。
「他の世界の魔法を見てみたい」と。
その願いを師匠が聞き入れてくれたのか、ただの偶然か、オレは20世紀から21世紀にかけての日本という別世界に転生することになる。
これが、2回目の前世の記憶。
ただ、その世界に魔法は無かった。
しかし、魔法とは別に、科学という興味深い研究対象が存在した。そして、平和な世界だった。
オレは、日本での生活を楽しんだ。
学校で教育を受け、身体を鍛えるために武道を学び、前世では持てなかった恋人も作り、40年近く生きた。
最期は、どうなったんだろう。
ちゃんとした記憶が無いとこを見ると、事故とかで突発的に亡くなったんだろうか。
そんな訳で、オレはまた転生を果たし、この世界に戻ってきた。
農家の三男坊として。
で、生まれ変わったと言っても、前世の記憶があるだけで、精神は年相応な訳で、オレは自分の2回分の前世の記憶と現世での記憶の区別がついてなかった。
おかげで、親や兄貴たちが理解できないようなことを口走り、あまつさえ魔法を使ってみせたりした。
そりゃ、気味悪がられるよね。
オレは、家族はおろか村の中でも腫れ物に触るような扱いを受ける存在になった。
成長して、自分の失敗に気づいた時にはもう手遅れで、オレは孤独な15年を過ごし、ある日黙って村を出た。冒険者として生きるために。
以来2年間、2つの前世の記憶に助けられて、オレは冒険者稼業をこなしてきた。
冒険者としても、オレは多分変わり者の部類だろう。
駆け出しの冒険者は、まずは自分を加えてくれる仲間を探そうとする。
自分で言うのも何だけど、一人で稼ぐのは大変なんだよ。魔物を狩る時に助けはアテに出来ないし、そうなると大物は狙えない。
こうやって野営する時も、仲間がいれば交代で見張りをやれるけど、一人だとそういう訳にもいかない。
実際、魔法を持ってないと、こんな真似は不可能だったろう。
でも、いくら魔法が使えるからって一人でやる必要はないってものだけど、そこは15年間のぼっち生活のせいで、オレは超ぼっち体質になっていた。
この2年間、オレは誰とも組んだことがないし、他の人間の前で魔法を使ってみせたこともない。
ただ黙々と魔物を狩り、魔物から得た魔法結晶を集めるだけの毎日を送ってきた。
町に入った時には宿屋にも泊まるが、娼館にも行ったことがない。
今、オレが目指しているのは、魔法使いの師匠と暮らしていた国だ。
あれから50年の時間が過ぎている。当時でさえ老齢だった師匠が今も生きてる可能性は低いけど、兄弟子たちなら、まだ存命じゃなかろうか。この世界の平均寿命が何歳かは知らないし、日本と比べりゃかなり短いとは思うけどね。
そして、その国は遠い。果てしなく遠い。
それを歩いて行くしかないのだ。
ウマやサイに似た騎乗用の獣だっていない訳じゃないけど、それはかなり身分の高い者しか使えないそうだ。ましてや、日本のゲームにあったような魔法を利用した移動技術も存在しない。
気分は、三蔵法師かマルコ・ポーロか。
そんなこんなで、オレは魔物を狩って小銭を稼ぎながら、遠い国を目指していてる。
ふぅ。ホントに遠いよ。