港町サザンとギルド
説明多め。
森から南下して約1時間、ようやく街…港町サザンが見えてきた。
道中、コスイネンがやたらしつこく私の薬について探ってきたが、「以前貴族の命を救ったことがあってそのお礼に譲り受けた。今のが最後でもう持ってない」という設定でとぼけ倒した。
護衛三人組やネイルともいろいろ話をしたが、ぼろを出さずに情報だけ聞き出すのは難しく…途中『話術・上級』『色仕掛け・上級』という技能があったのを思い出しセットしてみると、今までの苦労は何だったのかと思うくらい情報を引き出すことができた。本来はゲーム中で敵国のNPCをごまかす技能なんだけどね。
それによるとゴーバック達、護衛三人組は『冒険者ギルド』と呼ばれる組織に属しているそうだ。
魔物退治や護衛、探索etcを主に請け負う一種の派遣業者みたいな所らしい。今回はコスイネンからの依頼で護衛に付いていたという訳だ。
あと、ギルドでは条件を満たした者達に職業の基礎知識や技能を魔法で焼き付けることもしておりそれを『クラス』というらしい。『クノイチ』はレアな隠しクラス…と思われていた訳だ。
ちなみにネイルの『雑益奴隷』というクラスも存在する。金で買った奴隷を自分の盾としてギルドの仕事に使う者達もいるためだ。
「そっすか、じゃあシノ殿は他の大陸からいらしたんですか」
「ええ、向こうの魔法研究機関の転送魔法の実験が暴発したらしくてね。たまたまお偉いさんの護衛で現場に居合わせたのが不幸だったわ…事故に巻き込まれて気が付いたらさっきの森の中よ」
「それは…大変でしたね」
沈痛な表情で同情してくれるクインさん。
「シノさんの薬も格好も見慣れない物だと思ったら他の大陸からだったなんて…びっくりです」
うん、自分で言ってて苦しい言い訳だと思うが、幸い技能のおかげで不審には思われていないようだ…まあ、異世界人だなんて本当のこと言っても、なおのこと信じてくれないだろうし。
「じゃあ、シノ殿もこの街でギルドに登録すればいいですよ!旅をするなら身分証代わりになるし、シノ殿ほどの腕があればAクラス入りだって夢じゃねぇ」
「うーん、そうしようかな?とりあえず先立つものが欲しいしねぇ」
そう、よく考えたら私はこの世界で使えるお金を持っていないのだ。戦オンの通貨は『貫』だし。
そうこう話しているうちに私たちはコスイネンの目的地、港町サザンへとたどり着いた。
「よーし、ご苦労だったなお前達。依頼完遂証明にサインしてやるから出せ」
「おお、これだ」
「よしよし…うむ、これで良いだろう…ほれ」
ゴーバックが差し出した書類にコスイネンがなにやら書き付けると再びゴーバックに渡す。
その書類を確認したゴーバックの表情がゆがむ。
「コスイネンの旦那、達成評価がCってのはどうゆうこった?荷は無事だったろう」
「ふん、イレギュラーな魔物が出たとはいえ獣人女の片腕を持って行かれたろうが…あの時点ではまだわしの所有奴隷だったからな、評価にマイナスが付くのは当然だ」
「…ち、しかたねぇ」
「まあ、依頼未達成と評価されなかっただけありがたく思え、ということだ。はははは」
コスイネンはそのまま邪悪(主観)な笑みを浮かべつつ、商店街の方へ去っていった。そのまま納品に行くのだろう。
「いちいちむかつくやつね…ネイルちゃんがあんなやつの持ち物だったなんて、考えるだけで腹が立つわ」
私がコスイネンの去った方向を睨みつけながらそう吐き捨てると私の上着の裾をネイルがつんつんと引っ張ってきた。
「ご主人様…でも今はご主人様の物です」
そう言うとネイルは本当の猫のようにスリスリと自分の首筋を私の背中にすりつける。
「ああっ!もうっ!可愛すぎるわネイルっ!」
私はネイルに振り返ると、がばっと両手で抱きしめた。
「でもね、ネイル、できればご主人様でなくて名前で呼んでくれる?」
「え…っと…シノ、様?」
「そう、そう、もう一回」
「シノ様…」
「うん、可愛い可愛い」
「あーっと…シノ殿?」
危うくネイルとの二人の世界に没入しかけていた私はゴーバックの声で我に返った。
「しっ、失礼…つい」
「どうします?とりあえずギルドに登録しに行くなら、ついでなんで案内しますぜ?」
「あ、うん、お願いできるかな」
ネイルの柔らかな肢体から自分を引きはがすのには多大な精神力を要したが、表面上は何ともない振りをしてゴーバック達の後について行くことにした。
「おお、結構ちゃんとした所なのね…役場みたい」
「まあ、この辺は王都に次いで大きな街だからな…ヤクバってのがなんなのかはしらねぇが」
私の独り言に律儀に答えるゴーバック。
「まあ、とりあえず入ろうぜ」
ゴーバック達に続いてネイルと一緒にギルドに入ると、中は役所のような窓口がいくつかあるスペースと、食堂が併設されたような作りになっていた。
「新規登録するならこっちの窓口だな。たしか…」
「はい、ここで結構ですよ」
受付のお姉さんがゴーバックの言葉を聞いていたのか答えてくれる。
「ああ、俺じゃねぇんだ。こっちの姐さんの登録を頼む」
「はい、それではこの用紙に名前とお年、性別、希望クラスを書いて下さい…出身地欄は任意です」
「分かりました」
受け取った記入用紙に書き込んでいく。文字は日本と一緒なのね。
…そう言えば言葉も普通に通じていたし、さすが一番近い異世界というべきか。
「それでな、こっちの姐さんは別の大陸からのお客でな。クノイチってクラスらしいんだが…大丈夫かい?」
「クノイチ、ですか。ちょっとお待ち下さい………………………………こちらにクノイチというクラスは無いので全くの新規クラスになります。魔法によるスキル焼き付けが出来ませんが、それでよろしければ新規クラスとして登録できますよ」
「ん、それでかまわない」
技能なんて腐るほどあるしなぁ。
「ありがとうございます。新規クラスのスキル情報をご提供いただける場合は登録料が無料になりますがどうしますか?」
「んー、それって所持スキル全部さらすって事?」
「いえいえ、クラスに独自のスキルなら一つで結構ですよ。汎用スキルなら5つ位お願いします」
「ならいいか…スキル情報提供します」
「ありがとうございます。こちらの感応石に手を置いていただいて提供いただけるスキルを思い浮かべて下さい」
と、差し出されたのはマウスパッドみたいな真っ白な石。
それに右手を載せクノイチ特有の技能を思い浮かべる。
「はい、読み取り終了です。ご提供いただいたスキルは
『影縛り』消費魔力0
相手の影に手裏剣などを打ち込むことによって
暗示をかけ、動きを封じる効果がある。
関連能力値 MID、DEX
抵抗能力値 MID
基本成功率80%
で間違いないでしょう…か…って…えええぇぇぇ!?消費魔力0で麻痺効果、成功率80%ぉ!?いいいいい、良いんですか!?こんな奥義クラスのスキル登録しちゃって!?」
「かまいませんよ」
「すげぇな、なんだその鬼スキル」
ゴーバックもしきりに感心しているが、そもそも、こっちで忍者になれる人っていないだろうし、私自身は影縛りに対する耐性があるし、影縛りの上位スキルも持っているし。
元になった戦オンでは死にスキルだったんだよね。
「あ、ありがとうございます。それでは後は書いていただいた書類の内容をギルドカードに転写して……はい、これに先ほどのように手を置いて下さい」
渡された先ほどのよりも小振りな…言ってみればスマートフォンサイズの板に手を置く。
「ちょっと一分ほどお時間かかります…………………はい、終了です」
一分間の内にスマフォサイズの板は漆黒に変わっていた。
「クラスによってカードの色は変化します…が、ここまで真っ黒というのも珍しいですね…カードを持ってみて『ステータス表示』と念じてみて下さい」
「はい」
ステータス表示…むん。
氏名シノ・カグラ 性別女 年齢21歳
総合レベル85 ギルドランクF
クラスレベル『クノイチ』85
ステータス
HP2500
MP測定不能
STR 17
VIT 15
DEX 18
SPD 18
INT 13
MID 18
称号
世界の天秤
クノイチマスター
固有スキル
キャラクターチェンジ
マナ解放
マナ譲渡
属性補正
闇+50%
炎+20%
光-10%
祝福
名も無き世界の管理者
…なんか、うかつに人に見せられない内容ばっかりな気が。
MP測定不能って!?称号世界の天秤ってなに!?キャラクターチェンジってのは、たぶん別キャラ使うための能力だと思うけど…。
「あ、あの」
「はい?」
「これ、証明書代わりに使いたい時って、全部見せなくちゃダメなんですか?」
「ああ、いえ、名前、クラス、ギルドランク、性別、年齢以外は消すことが出来ます。消したままでも証明書としての効力はありますよ。それに…ギルド職員でもそれ以外のステータス部分は余程のことがない限り見ることが出来ないので、プライバシー面も守られます」
うん、それなら何とかなるかな。
「異常なく表示できたなら各項目の説明をしたいと思いますが」
「あ、お願いします」
「こほん、それでは…
氏名、性別、クラスレベル、年齢、はそのままの意味です。
総合レベルは各クラスで得た経験値をすべて合算されたものから算出されます。
ギルドランクはギルド内でのシノ様の評価です。
ギルドランクは上から順にEX、S、A、B、C、D、E、Fとあります。
登録したばかりのシノ様はFとなりますね。
ちなみにCでベテラン、Bで一流、Aで超一流、Sは英雄クラス、EXは伝説クラスと言われています。
HPは生命力
MPは魔力
STRは腕力
VITは体力、頑健さ
DEXは器用さ
SPDはスピード
INTは知力
MIDは精神力
をそれぞれ表します。
HPMP以外のステータスは成人で平均8~12で、人間だと最高値は各18です。
しかし、レベルが高いほど実際の効果は補正がかかります。
称号は神々が認めた二つ名のようなものです。
固有スキルはクラス特有のスキルや個人の特性によるスキルで、スキルスロットに入れなくても効果を発揮します。
属性補正は属性を持つ攻撃の威力や受けるダメージに関係します。
もちろん+の方が良いですが+20以上を持つ方は滅多にいません
祝福は加護を受けている神やそれに準ずる存在のことです。
と大まかに言ってこんな所です」
「お、お疲れ様…」
凄い、一気に息継ぎ無しで言い切ったよ。
「依頼の受け方などは隣の窓口でご用命下さい」
「うん、ありがとう」
「よし、無事に登録できたみてぇだな。次はこっちの窓口だ」
私の登録を待っていたのかゴーバックが私を隣の依頼窓口に連れて行く。
「とりあえず今日はもう遅いし依頼を探すのは明日にしようかと思うんだけど」
「ああ、違うよ、シノ殿が倒したスケイルヴァイパーってのは常時討伐依頼が出ていてな、討伐証明部位を持っていきゃ、その場でギルドポイントと報酬に交換してくれるんだ」
「なんと」
「で、これがシノ殿が倒してくれた分、スケイルヴァイパーの額の宝珠が5個……ヤツの討伐証明部位だ。これをカードと一緒に窓口に出してみな」
「わざわざ私の分まで拾ってきてくれたのか」
「まあ、命のお礼としちゃ、安いけどな…こっちも今回はほとんど儲けが出なかったんで勘弁してくれ」
「そんなことはないよ、ありがとう」
体格の割に気の回る男だ。ありがたい。
早速依頼窓口に五つの宝珠を提出する。
「ではこれを頼む」
「はい、この宝珠は…スケイルヴァイパーですね?五つも!…少々お待ち下さい」
依頼窓口のお姉さんが奥に引っ込んでなにやらごそごそやってたかと思うと二つの袋を持って戻ってきた。
「こちらの小さな方には金貨2枚、こちらの大きな方には銀貨が50枚入っております。スケイルヴァイパー一体5000クラム、合計25000クラムお受け取り下さい」
「ありがとうございます…ところでこれってこっちの大陸ではどのくらいの価値なの?」
前半は窓口のお姉さんに向けて。後半は横にいたゴーバックへの問いだ。
「そうだな。10クラムもあればそこそこ美味い食堂で飯が食えるな。100クラム…銀貨一枚あれば一泊2食付きで中程度の宿に泊まれるぞ」
「…大金だな」
「まあな。でも冒険者は武器や防具、治療費で出て行く金も多いからな…油断しているとすぐ無くなるぜ」
「心しよう」
まあ、しかし、これでとりあえずはネイルと生活していく目処が立ったな。
今日はいろいろなことがあって疲れた(主に精神的に)さっさと宿を取ってネイルを抱き枕にして寝よう…
シノさんが凄い勢いでダメ人間になっていってます(笑)