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偽クノイチ異界譚  作者: 蒼枝
偽クノイチ、外伝
34/34

外伝:マスクオブクノイチ

活動報告に外伝執筆中と書いたら予想外に反応があってびびりました(笑)

ご期待に応えられるか分かりませんが、投下いたします。

字数はやや長めの7000文字ちょい。

 俺は時代劇俳優を生業としている。

 まあ、20年以上この道で食っているし、40代半ばとなった今もそこそこ売れていて、御堂敬一郎と言えば茶の間の奥様方のアイドル(死語)だ。


「はい、今日は『ナヲナヲの日本全国グルメ紀行』にゲストとして呼んで頂いた訳ですが……僕は今、娘と新潟市のラーメン村と言うところに来ています。ここでは県内の有名なラーメンが一度に食べられるとあって、平日でもお昼時には長蛇の列が……」


 だが、まあ、今のご時世、時代劇俳優1本で食っていくってのも中々厳しいものがあって、今日はこうしてグルメ番組にゲスト出演をしている訳だが……

 おかしい。俺の目がどうかしたのか……?

 俺の目の前では一人の若い女性がカウンター席に座って幸せそうな顔でラーメンを啜っている。

 それ自体は良い。

 ラーメン屋で客がラーメンを食うのは当たり前だ。

 問題はそのお客の外見だ。


 一見20代前半(・・・・・)の長い黒髪をポニーテールにした、ごく美しい女性。


 俺の思い違いで無ければ20年以上前(・・・・・・)に俺はその女性と一度ベッドを共にしている。

 というか、彼女は俺の子を産んでいたはずだ。


 神楽紫乃。


 それがその女性の名前のはずだった。


          ※


「待ってくれ!」


 俺は撮影が終わると、とるものもとりあえずその女性に声を掛けた。

 その女性は撮影にも俺にも興味を示さず、ほぼ撮影終了と同時に食事を終え、店を出て行こうとしたのだ。

 普段ならいくら俺でも仕事の最中に女性に声を掛けたりはしないのだが、その女性があまりにも昔のあの人にそっくりだったので、確かめたくなったのだ。

 ……本人で無いとしても、彼女はもしかしたら紫乃ちゃんの血縁なのかもしれない。

 そう、あの時……20年以上前、赤ん坊を抱いて俺の前から姿を消した紫乃ちゃん。

 もしかしたら彼女がその時の赤ん坊なのではないかと思ったのだ。

 幸い、その女性は俺の掛けた声に気付いたらしく、歩みを止めて振り返ってくれた。


「あー……その、いきなり声を掛けてごめんね。君、僕の顔に見覚えないかな?」


 この娘が紫乃ちゃんと俺の子だとして、母親から俺のことを聞いているかどうかは賭だ。

 何しろあれだけはっきりと三行半みくだりはんを突きつけられたのだから。

 だが、その女性は一瞬眉をひそめたものの、しばらく俺の顔を凝視してはっとしたように笑みを浮かべた。

 やはり……?


「俳優の御堂敬一郎さんですよね? 時代劇は好きなのでよく拝見しております」


 違う! いや違わないけど、そうじゃなくて。


「ああ、ごめんなさい。ちょっと急いでまして。ではごめんください」

「あ、いや、ちょっとまって!」


 踵を返し店を出て行く女性。

 俺は反射的にその後を追って店を飛び出したのだが、すでに女性は影も形もない。

 ……え? こんな見通しの良い道路で今出て行ったばかりの女性を見逃すって、あり得ないだろ?


「パパ、どうしたのよ、いきなり店を飛び出して……もう、いくら好みだったからって、ママと別れた途端にはっちゃけ過ぎじゃない?」


 俺の後ろからそう声を掛けてきたのは、チェックのスカートに白いブラウス、猫耳付きカチューシャを着けた御年17歳の現役女子高生タレント、御堂紫みどうゆかり……まあ、俺の実の娘だ。

 猫耳は番組のマスコットとしてのトレードマークらしい。

 その父親という事で今回特別ゲストとして俺が呼ばれた訳なのだが……


「……いや、昔の彼女に似ていてね」

「アハハ~定番の言い訳だよね、それ」


 本当にただ似ていただけか? 他人のそら似にしては似すぎている……どこか浮き世離れした雰囲気まで。


「……そうだな。本人だとしたら40を超えているはずだものな」


 俺は無理矢理自分を納得させ、次の撮影場所に向かった。


          ※


 次の撮影場所は高速道路の名物SAサービスエリア

 ここの「山菜天へぎそば」が今、大ブームだという。

 だがここで問題が起こった。


「えー、名店とかじゃなくてサービスエリアの食事? 最悪ー鳥の餌じゃん。もっと美味しいところあるしー」


 ……我が娘が空気を読まない発言をかましやがったのだ。


「は、あ? じょ、嬢ちゃんは普段よっぽどいい、いモン食ってんだな……俺らの飯は鳥の餌ってか……おい……コラ」


 おまけにそれを聞きつけたゴツイトラックドライバーにからまれる始末。


「あー、すみません、娘が失礼なことを……ほら、謝りなさい、ゆかり

「えー、だって本当のことじゃん。こいつ等みたいな底辺がありがたがって食べてる時点でもう確定ってゆーかー」


 無精髭に濁った目をしたその男は、娘の火に油をそそぐ発言にとうとう何かが切れてしまったようだった。


「……こっ……殺す……殺して良いよな……? うん……うん……ははは……ほら、殺していいって言ってるじゃねぇか」


 口から泡を吹きながらブツブツと意味の分からない事をつぶやくトラックドライバー。

 ……あれ? これやばくねぇ? もしかして薬でもやってる?


「お、れは悪くない、その女ビッチがあくのこんげんだからころしてもころしてもおれのわるぐちをいうからいいっていきかえるあのひともいってたしめいをはたせって」


 ますます支離滅裂な内容をしゃべりながら、作業ズボンの大型ポケットから大ぶりのサバイバルナイフを取り出す男。

 ……って、ナイフ!? おい、マジやべぇよこいつ! ああ、鞘を抜き放ちやがった!


「ひぃっ!? な、に? なにしようっての!?」


 流石に娘もまずいのに関わり合ったことに気付いたのか、悲鳴を上げて後ずさる。

 ここまで来るとまわりの一般人達も異常に気が付いたのか、騒がしくなってくる。

 悲鳴が何カ所からあがり、「ナイフが」「警察をよべ」「110番」「写メれ」等の声が聞こえてくる。


「お、おい、ディレクターさん、撮影中止して……逃げるぞ」

「で、ですよね。流石にこれは……」


 俺はロケチームと娘を促し、そろそろと男の動きを見ながらロケバスの方へ移動する。


「……けるなにげるなにげるな……おれがせいさいせいさいをぉぉぉ!!!」


 そんな俺たちを男はサバイバルナイフを振り上げて追いかけて来た。

 ひぃぃぃ! 正直、ちびりそうなくらいこぇぇぇぇっ!


「いやっ! いやぁぁぁぁっ! 来ないでよぉぉぉぉっ!!」


 俺は悲鳴を上げるだけで、半ば腰の抜けたように動けなくなった娘を抱き上げると、一目散にロケバスへと走る。 

 他のメンバーはすでにバスに乗り込んでいる。

 あ、今エンジンも掛けたようだ。

 後は俺と娘がロケバスに乗れば逃げれる……んだが。

 まずい、娘を抱えている分、ヤツに追いつかれそうだ。


「にげるなっていっただろぉぉぉぉぉぉぉぉ! おぐっ!?」


 なぜだか俺たちに追いつく寸前で盛大にすっころぶ男。

 ……なぜだ? 別に足下にはつまずくような物は無いようだが。


「御堂さん! 早く今の内に!」


 スタッフの声に我に返る俺。

 そうだな、考えている暇は無い。

 俺は娘を抱え直すと、ロケバスに飛び込んだ。

 途端に急発進するロケバス。

 俺たちは男に一瞥をくれることも無くその場を逃げ出したのだった。


 ……なので、ヤツが転んだ付近にマキビシ(忍者が使ったと言われる四方に棘が伸びたアレだ)が撒かれていたのには、とうとうその時、俺は気が付けなかった……。


          ※


「おい……あの男、追ってきたぞ!」


 スタッフの一人が悲鳴のような声を上げる。

 その声に車内から後ろを確認してみると、確かに運転席に先ほどの男が乗った大型トラックがいまにもぶつかりそうな距離に迫ってきている。


 「ばかな! トラックをぶつける気か!?」


 高速道路上で追突事故など起こされたりしたら、とてもじゃないが無事に済むとは思えない。

 向こうもこちらもだ。本気でぶつけたりは……


「ひゃは! ひゃは! て・ん・ちゅうぅぅぅぅぅぅぅっ!!!」


 風に乗って響いてくる男の狂気をはらんだ叫び声。

 それと同時に『ドガン!』と盛大な音を立ててトラックはロケバスの後部に追突する。


「「「「うわぁぁぁぁぁっ!」」」」

「「きゃあああっ!!」」


 くっそっ……もう自分の危険がどうだとか判断できないくらいぶっとんでんのか。

 ロケバスはトラックに追突された勢いで1.5回転ほど路上をスピンした後、コンクリートの壁に側面をこすりつけるようにして停止した。

 横転しなかっただけマシだと思うしか無い。


「お、おい……みんな無事か?」

「な、なんとか……」

「ほ、骨までは逝ってないと思う」

「血ぃ! 血ぃ出たよパパぁ!!」


 ……約一名、娘だけが頬から流れたちょびっとの血に大騒ぎしているが、おおむね大きな怪我は無いようだ。

 これで、ヤツの気が済めば見逃してくれるか……?


「いーーーーひゃひゃひゃひゃ! 潰す潰す潰すぅぅぅぅぅ!!!」


 ……ダメみたいだな。

 トラックは白い煙を吐きながらもバックしてロケバスとの距離を開ける。

 勢いを付けて再び追突しようとしているのか。まずい。


「おい、バスはまだ動くか?」

「だめっす御堂さん、たぶん……前輪が壊れた外装を巻き込んだみたいでっ!」

「くそ! なら、バスの外に出て逃げるしか……」


 それにしたって相手は車だ。逃げ切れるかは怪しいが。


「う゛あぁぁぁぁぁっ!! ぱぱぁぁぁっ!! 死にっ……たくないっ!」


 涙やら鼻水やらよだれやら全開で俺にすがりついてくる娘。

 おいおい、一応アイドルの端くれなんだから、流すのは涙だけにしておきなさい。

 しかし、御堂敬一郎の一生もこんな事で終わりか……


「しにぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」


 十分助走距離を取り、再び突っ込んでくるトラック。

 これでジエンドか。と思ったその時だった。




「『影縛り・極』!!」




 凛々しい女性の声が辺りに響いたかとおもうと、トラックは慣性の法則を無視(・・・・・・・・)したかのようにビタッ! っとロケバスまで後3メートル、というところでその巨体を停止したのだった。


「え」

「……な、なんだ?」

「一体……」

「て……手品かなんか……?」


 呆然とするロケ隊一行。

 よく見ると、トラックの直前……トラックの影(・・・・・・)に突き立つように、短めの刃物のような物が刺さっている……持ち手部分がリング状になっているそれはいわゆる……その、忍者が使っていたような……クナイ、と呼ばれる物に酷似していた。

 ……アスファルトに突き立つクナイってどんなのだ?


「だ……だりぇだぁぁぁぁっ!!! おれのじゃぁまをするなぁぁぁぁっ!!」


 トラックが急停止したせいでフロントガラスに頭部を打ち付けたのか、額から血を流しながら男が吠える。


『呼ばれて名乗るもおこがましいが』


 その男の声に応えるように辺りに響く女性の声。

 ……この声は……まさか。


『理に沿わぬ、情をまとわぬ、理不尽な』


 声と共に遙か頭上から降ってくる漆黒の人影……女性?


『非道が通る世の中を、せめて一太刀この手にて、断ち切りましょう闇の華』


 ……このフレーズは『必殺介錯人 ~くノ一闇華伝~』の前口上……だよな?

 必殺シリーズの中で唯一女性……くノ一が主人公のヤツだ。

 ……で、非常識にも空から降ってきたその女性は、まさしくフィクションの中の『くノ一闇華』そのものの格好をしていた。

 唯一の違いは、某赤い影の人が着けているようなマスクをしているところだろうか。


「お……おまえもぉぉぉぉぉぉてきかぁぁぁぁっ!!」


 ぶぉぉぉぉぉぉん!!! と轟音を立てて唸るトラックのエンジン。

 今度はその女性ごと轢こうというのか。


「……無駄よ。『影縛り・極』は無生物さえその場に縛り付ける……1時間はそのままね。でもそれも可愛そうだから……『千刃』! 」


 ゆらり、と、その女性の体が蜃気楼のようにゆらいだと思うと、1人、2人、と女性の姿がコピーされたかのように増えていく。


「……御堂さん、俺、あのコスプレ女性が分身しているように見えるんですが」

「……そうか、眼科に行くことを進めるよ。オレも行くけどな」


 その女性()は、あっという間に10数人にまで増え、大型トラックを取り囲み……小太刀らしき武器を逆手に構えたかと思うと一斉にトラックに向かって飛びかかった。

 そして、まるでグラインダーで金属を削る時のような音が辺りに響き……女性が再び一人に戻った時にはトラックは細切れにされて(・・・・・・・)アスファルトに積み重なっていた。

 ……何を言っているか自分でもわかんねぇが、目の前の光景をそのまま言い表すとそうなる。

 一辺が大きくても10センチ程度の大きさにトラック一台がみじん切りにされたのだ。

 もうすでにただのゴミの山と化しておりトラックの名残すら無い。

 そのゴミの山にトラックドライバーは呆然として座り込んでいた。


「『万象看破』……ふうん、どうやら薬物の影響下にあるみたいね。でもそれは自業自得だし、それなりのお仕置きを受けて貰おうかな……」


 その男の様子を見て、なにやらブツブツとつぶやいている女性。

 ……とにかく得体が知れないが、彼女が俺たちを助けてくれたことには違いないみたいだから、礼を言うべきだろう。

 俺は意を決してロケバスを降り、その女性に近付いて声を掛けた。


「ああ、君……その、助かった。ありがとう……」

「え? ああ、気にしないで……ちょっと待っててね『キャラクターチェンジ:陰陽師』」

「あ゛?」


 俺の目の前で一瞬で姿が変わる女性。

 くノ一姿から同じ和装ではあるものの、紫を基調とした狩衣かりぎぬに替わる。

 なぜか髪もストレートロングになっているし、早着替え芸人も真っ青だ。

 唯一変わらないのは赤い仮面だけ。


「『強制(ギアス)』"薬物使用禁止"……まあ風邪薬とかの類も使えなくなるけど、お仕置きだから仕方ないよね♪……で、『催眠』と……こっちはこれでいいかな」


 女性が何かつぶやく毎に魔法陣? と言うのだろうか、丸と幾何学模様を組み合わせた様な光がトラックドライバーの上で輝き、あっさりガラクタの上でそのまま昏倒してしまった……死んでないよな?


「さて、『キャラクターチェンジ:薬師』……お待たせ」


 どうやら『キャラクターチェンジ』ってのが早着替えの合図らしい。

 男を昏倒させた女性は、今度は草色ベースの山伏っぽい服を纏った姿になった。

 こうして対峙してみるとよく分かる。

 仮面で顔を隠しているが、やはり彼女は……似ている。


「怪我とかしていない? 治療しちゃうからバスに入れてね」

「あ、ああ、ありがとう。こっちだ」


 いくら助けてくれたとはいえ、こんな見るからに怪しげな人物を車内に案内するのはどうかとは思うが、なぜか俺はこの女性を無条件に信用していた。

 その女性を促し、車内に戻るとロケ隊一同が呆然とした顔でこっちを見ている。

 まあ、車内から事の成り行きを見ていたんだろうから当然だな。


「みっ……御堂さん、その女性は一体……」

「ぱっ……ぱぱ? その人一体ナニぃ!?」

「ふむ、ナニと言われても……この仮面の通り、正体は内緒なので。……そうね、仮面の忍者「紫影」とでも覚えていて」


 一同の問いにそう答える女性……紫影。

 紫の影。紫乃影……紫乃……ラーメン村での事といい、ここまで来ると偶然じゃ無いよな……


「んー……まあ、ゆかり、色々と聞きたいことはあるだろうけど……まずはお礼が先じゃないかな?」

「ん……んぅ……パパ、でも……」


 ゆかりの目にはおびえの色が濃い。

 そりゃあ目の前であんな人外対戦見せられたらなぁ。


「気にしなくていい。むしろこの状況で大声出してヒステリーを起こさないだけ立派よ……頑張ったね」


 紫影が紫をそっと抱きしめる。

 そしてその長い指がゆっくりと紫の背中や頭を撫でる。


 それだけであれほど怯えていた紫があっという間に落ち着き、むしろおずおずと紫影の背中に両手を回す。


「ふ、ふぇ……ふぇぇぇぇぇぇ……ぐしゅ……」

「大丈夫よ、今、怪我も治しちゃうから……『再生』……ちゅっ」

「ふ、ふぇ!?」


 紫影が仮面を外して紫の頬に口付ける。

 角度のせいで俺の位置からは紫影の顔が見えないのが惜しまれる。


「あ、あれ……? 傷が……頬の傷が消えたよ!?」

「ふふ、……猫耳カチューシャが可愛かったから、サービス♪(本当はキス無しでも治るけど)……後は皆さんの怪我も『自動回復』『技能全体化』……っと」


 ……ここまで来るともはや何を驚いて良いのか分からないな。

 一行の出血を伴う傷から打撲まで、怪我をした部分が光り輝いたかと思うと、フィルムの逆回りを見るかのように怪我が治っていく。


「後は……ロケバスもおまけに直しとくね。『キャラクターチェンジ:鍛冶師』」


 今度は半纏にさらしを巻いた職人風の姿になる紫影。


「対象ロケバス、『完全修理』……っと、はい、お終い。『キャラクターチェンジ:クノイチ』」


 紫影は再び最初のクノイチの格好に戻る。


「みっ、御堂さん!バスがっ! その……」

ディレクター、直った……てんだろ?」

「いえ、その……直っただけじゃ無くて……新品に戻ってます……前からあった傷や汚れまで綺麗さっぱり……」

「うーん、予想の斜め上を行くな……まあ、とにかく……世話になった。実際、あのままじゃ何人かは死んでたと思うしなぁ……」

「気にしなくていいよ。助けたのは気まぐれ……というか、ゆかりちゃんの猫耳姿が可愛かったからだから(キッパリ)」

「そ、そうなのか……」


 てことはなんだ? ある意味、娘のお陰で助かったのか。まあ、原因もだけど。


「それと紫ちゃん?」

「はっ、はいっ」

「女の子は少しくらい生意気でも許されるわ……でも、それは相手を敬愛する下地があってこそよ? 理由も無くまわりを蔑んではだめ」

「は、はい……ごめんなさい、お姉様……」


 紫影にたしなめられてしゅんとなる紫。

 ん? ということはSAでの一件も見ていたのか……ってお姉様ってなんだ紫!?


「ん、良い子……また機会があったら会いましょうね」

「はっ……はいっ! あの、待ってますから! またお会いしてくださいね? お姉様!」


 ……ああ……なんか娘が百合百合な感じに……目がハート型になってるし。


「ああ、それと……今は対侵入結界張っているから警察とか他の車も入って来てないけど、私が居なくなったら結界も消えるから、今の内に消えた方が良いわよ? 状況説明できないでしょ?」


 ……道理で車が来ないと思ったら……


「だな……ここは三十六計だ……幸い、バスの傷も無くなったし、とんずらするぞ!(ディレクター)

「はっはいっ!」


 エンジンをかけ直すとロケバスは以前にも増して快調なエンジン音を上げた。


「んじゃ、その……世話になった」

「ん。気を付けてね……ああ、それとあの子(・・・)も元気よ」

「そうか、そりゃ何よりだ」

「ん、じゃあね♪」


 それだけ言い残して車内からあっさり消える紫影。

 ……もう今更何があっても驚かねぇよ…………………

 …………………ってあの子?


「あ゛ーーーーーーーーーっ!!」

「なっ……なによパパっ吃驚するじゃ」

「やっぱりあの人は……紫乃ちゃんか!? 何で20年も年取ってないんだ!?」

「ちょ……落ち着いてよ、誰よ紫乃ちゃんって……お姉様のこと?」

「おっ……お姉様っていうか……ある意味お前の母親だったかもしれない人っていうか……」

「……????」

「しまった……連絡先も聞いてねぇ!! 俺としたことが!」

「パパでもお姉様に手を出したら許さないから! お姉様は私のなのーーっ!!」


 高速道路を走るバスの中で、俺とゆかりはいまいちかみ合わない会話を続けていた……。


 


やはりシノさんはネコミミスキーで百合百合でした。


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