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偽クノイチ異界譚  作者: 蒼枝
偽クノイチ、異界の日常
31/34

エピローグ

偽クノイチ異界譚としての本編最終話となります。

いつもとはちょっと書き方が違いますので読み辛いかもしれませんがご勘弁下さい。


サザン遺跡にて発掘された聖遺物――神楽記より抜粋。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 1年目(ファリーアス歴502年)9月28日


 この世界に来てやっと落ち着いてきたように思う。

 『神楽薬剤店』ドラッグストア・カグラも軌道に乗ったし、人手が出来たお陰で和紙も作れるようになった。

 ちょっと遅いが、これからは日々の事をこの和紙を綴った日記に記そう。


 PS・ああ、書き忘れるところだった。熊退治のお陰でどうやら私はギルドのAランクになったようだ。

 ネイルはB、ヴァト、ローリナもCにランクアップ。めでたい。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 1年目(ファリーアス歴502年)10月11日

 

 薬を扱う商人の代表、とやらが10数人店舗に押しかけてきた。

 どうやら私の店での価格設定が気にくわないらしい。

 だが、こちらも原材料から算出し給料を払ってなお十分採算の取れるラインに設定している。

 つまり今まで薬を扱う商人が値段設定を過剰に高くしすぎていたのだ。

 まあ、こちらはメイディンの緑の指グリーン・フィンガーズがある分、原材料費については大分押さえることが出来るのだが、それにしたって高い。

 村落にて個人営業している薬師などはむしろ私の薬より安く販売している位だから、(品質はともかく)輸送費や手間賃などが過剰なのだろう。

 ……そう言い返すと、「こっちは水薬でそっちは錠剤、同じ価格帯にしても携帯性の面でこちらが負けるに決まっている、だからレシピを渡せ」と言ってきた。


 そう言ってくると思った。が、それはある意味こちらの狙い通りである。


 もともと、私とて彼らの生活を脅かすつもりはない。

 価格帯をこちらと同レベルにするなら、という条件である程度レシピを公開した。

 水薬から錠剤になれば1回の輸送で大量に運べ、手間賃や輸送費や人件費を大幅に抑えることが出来る。

 彼らはむしろ喜んでその条件を飲んだのだ。


 実は私が条件付きでレシピを公開したのには訳がある。

 低レベルの薬を高級品では無く日常品として流通させる為だ。

 私から垂れ流されるマナのせいで、これからどんどん魔獣も人も強くなっていく……回復薬にはそれに合わせた新しい価格帯が必要なのだと思ったのだ。


 今のままの価格では冒険者や騎士達の消費に間に合わなくなっていく恐れがある……という事だ。

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 5年目(ファリーアス歴506年)1月10日

 

 今年から薬屋だけでなく、魔道具、マジックウェポンなどの総合店へと転身。

『神楽薬剤店』ドラッグストア・カグラから『神楽屋』へと店名を変更。


 ミンスター衣料店と提携してメイド用戦闘服セット(月光のメイド服、ホワイトブリムノワール劣化版)や、執事用戦闘服セット(龍炎の執事服、守護者の籠手劣化版)を売り出したら高所得者層に大人気となった。

 どうやらドレスコードのある場所での護衛、というものに頭を悩ませていた貴族方が多かったようだ。


 もはや製造は私一人では追いつかない。

 薬剤部門は完全にメイディンに任せる事にする。

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 5年目(ファリーアス歴506年)5月25日


 突然、感覚で理解した。

 たった今、世界が変わった(・・・・・・・)

 私の放出したマナ量が一定値を超えたらしい。

 今まで世界の存在そのものを薄くのばして、上限50というレベルキャップを儲けて何とか存続してきたこの世界。

 アイリーザ~サザン周辺限定ではあるが、レベルキャップが50を突破……おそらく100まであがったようだ。

 ……しかし、これは……私が居る場所を中心としてレベルキャップが外れていくのだとしたら、私の存在そのものが紛争の火種となりはしないのか……

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 8年目(ファリーアス歴509年)3月1日

 

 アイリーザと他国の関係がきな臭くなっている。

 最近アイリーザやサザンにレベル50を突破する騎士や冒険者が続出している為だ。

 かく言う私もメインのクノイチはレベル109に。薬師、鍛冶師、陰陽師も軒並み90オーバーになっている。

 ……どうやら私のレベルアップは現在のレベルキャップ(100)に左右されないようだ


 ネイルはレベル61、ヴァト君達もレベル50を突破した。

 実は神楽屋が軌道に乗っている今、冒険に出る必要は全くないのだが、レベルキャップ開放の恩恵を受けるのは魔獣達も同じ事で……

 高レベル魔獣の討伐をギルドや王家に泣き付かれてやっているのだ。

 結果、ますますレベルが上がる私達。

 どこまでレベルが上がるのか……とうとうギルドランクもSを貰うはめに。

 ……面倒くさいからいらないって言ったのに。

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 10年目(ファリーアス歴511年)1月1日

 

 多国間紛争を事前に防ぐ為他国とのマナバランスを取る必要がある。

 と言う事は頻繁に私が数カ国に渡って住み家を変えなければならないと言う事なのだが。

 ここで名案が浮かぶ。


 私には4キャラあるじゃ無いかと。


 クノイチのシノの拠点はサザンの武家屋敷だが、他のキャラクターの拠点(屋敷)をそれぞれ他の大陸に設けてやればいい。

 この世界は4大陸あるので、ちょうど一人1大陸受け持てる。

 これなら『千里の翼』(拠点帰還魔道具)をキャラクターを変えて使う事で、疑似大陸間テレポートが可能になる。


 問題は神楽屋だが……幸いストリーには商才があったようで、彼に任せれば問題は無いだろう。

 売れ筋の商品もスキルスクロールを使って製造ラインを確保し、私抜きで作れるようにしてある。

 サザンの屋敷管理はヴァト君達3人に任せれば良いし、ネイル一人を連れて拠点確保の旅に出る事にした。

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 12年目(ファリーアス歴513年)12月3日


 なんとか4大陸――アイリーザ、グリーン・ロード、イグニス、ラダオル、の、すべてに武家屋敷を置く事が出来た。

 この2年は世界を放浪していたお陰で、アイリーザ地方の突出したレベルアップは形を潜めている。

 その代わり世界全体に少しずつマナが満ちて行っている。

 他国のレベルキャップ開放ももうすぐだろう。

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 30年目(ファリーアス歴521年)2月9日


 私がこの世界に飛ばされて早30年になる。

 という事は私、51歳!?

 ぎゃー!やだぁぁぁぁっ!!

 心はいつも乙女ですよ!

 というか、こっちの世界に来てから男の人とは付き合ったことが無いので実際乙女ですけどっ!

 不老チートのお陰で身体能力も外見も21歳のままなのは正直言ってありがたいですが、そろそろ子供が欲しいなぁ、とか思う今日この頃。

 久々にあったヴァト君なんかナイスミドルになってました。

 あれ、でもネイルはほとんど年を取ってないですね……

 もしかして定期的な私のハグが老化を遅らせているのでしょうかね。

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 34年目(ファリーアス歴525年)9月12日


    

 レベルキャップは順調に開放され、現在は上限200まで上がっているようだ。

 そのせいか先月、自称魔王、と言うヤツがクァクダ山に城を建てて世界に宣戦布告。

 侵略を開始した。


 最も一番近い町であるサザンには我が神楽商会、神楽屋の強者達がいるし、さっくり魔王軍を撃退。

 街への被害は微々たる物だった。

 ボスの魔王(レベル130)は私が単独で乗り込んでお仕置き(くびちょんぱ)させて頂きましたしね。


 なにしろ、現在私のレベルは220。

 ネイルも180まで上がっているので、正直ネイル単独でも魔王討伐は行けた気がする。


 この功績でとうとう私のギルドランクはEX、最高位になってしまった。

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 34年目(ファリーアス歴525年)9月22日


 魔王討伐から10日後、アイリーザのフェン女王に式典に招かれ、魔王討伐のお礼と、ギルド最高位昇格のお祝いを受ける。

 元が日本の小市民なのでこういうロイヤルな雰囲気は肩が凝ってしょうが無いのですよ。

 緊張でせっかくのご馳走も味がよく分からなかったし。

 更に式典後、近衛のフェリシア様には王室指南役にと誘われたけれども、めんどくさいからと断った。

 実際、一国に縛られるとまたマナのバランスを崩しちゃうしね。

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 100年目(ファリーアス歴601年)1月1日


 レベルキャップは300を突破。

 世界自体が落ち着いてきたのか、レベルキャップが上がる速度が遅くなっているようだ。

 ちなみに私のレベルは350を超えた。

 世界各地で高レベル魔獣を討伐して回っていたせいか、なんか神聖視され始めている。

 まあ、いまだ21歳の姿のままだしねぇ……

 面倒くさい事態になりそうな予感がひしひしとするので、今後の活動は正体を隠して行こうと思う。


 ちなみに神楽商会・神楽屋は順調に発展を続け、他国にも店舗をチェーン展開しているようだ。

 もう、私自体はほとんど関わっていないから、ヴァト君やストリー君達の弟子や子供達ががんばっているのだろう。

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 120年目(ファリーアス歴621年)3月3日


 やはりというか面倒な事態に。

 私の神殿(・・・・)が建設されているらしい。

 しかも『カグラ教』って……だーっ!!

 人の名前を勝手に使うなぁぁぁっ!

 『戦いの神』兼『物作りの神』兼『魔導の神』兼『医療の神』兼『商業の神』……って……

 神様扱いまでチート級!?


 もう迂闊に正体を明かせないよ……

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 245年目(ファリーアス歴746年)4月10日


 ……ネイルが死んだ。

 戦いで、では無い。

 昔のまま若く愛らしいまま逝ったが、寿命、なのだろう。

 本来獣人は普通人族よりも寿命が短く、病気をしないでも70年程度が平均と言われている。

 それから考えればネイルの享年258歳というのは破格ではあったのだろう。

 彼女に私は無理矢理にマナを与え続け、寿命を引き延ばしていたのだ。

 私の最後の固有スキル『マナ開放』……それは個人が受け入れられるマナの容量を開放し、寿命を引き延ばすスキルだったのだ。

 自然の摂理をねじ曲げるこのスキル、私は使うべきではなかったのかもしれない。

 だけど……それでも……ずっと一緒に居て欲しかった。

 居て欲しかった……よ。

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 449年目(ファリーアス歴950年)2月15日


 新興宗教、というか、度々私の名を名乗って新しい教団を立ち上げる者達が居るようだ。


 最近では世界のレベルキャップも400まで開放されているせいで、こういう奴らのレベルもバカに出来ないほど高い。

 と言ってもせいぜいがレベル200前後だが。

 あまりいい気はしないので、誘拐、洗脳などしていた悪質な教団を中心にいくつか潰していく。

 この戦いで私のレベルは490にまで上がった。

 どうやら彼らはかなり悪どいことをしていたらしく、「本当のカグラ神様が降臨して偽物を討伐して下さった」と一時期騒然となった。


 ……街中に顔をさらしたのは久々だったから、ばれないと思ってたんだけどな……

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 999年目(ファリーアス歴1500年)8月1日


 とうとう来年は1000年目。

 この世界のレベルキャップも来年早々位には1000になるだろう。

 この世界のシステムもずいぶんと変わった。

 それはそうだ。いままではマナをいわゆるエコモードで運用している世界だったのが、この999年でほぼマナ濃度が20倍までになっている。

 特に魔力を消費する魔法などのシステムは日々変化している様だ。


 また、この間、本当に久しぶりに『ファリーアス世界の管理者』からメールが届いた。

 それによると世界の修復はほぼ完了し、来年には元の世界に戻れるらしい。

 そのためのアイテム、『界渡りの宝玉』を貰ったので、ペンダントに加工して身につけることに。

 これに今の私の1年分のマナを込めておけば、時間と空間を超えて……つまり、私が消えたあの時間の日本へと転移が行えるらしい。


 ……いまさら、日本に戻ってどうこうしようという気も薄いのだが、両親のお墓位はお参りしたい。

 ネイルの形見となってしまった闇薙の包丁も持って行こうと思う。

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 1000年目(ファリーアス歴1501年)8月10日


 今年に入って早々、無事世界のレベルキャップは1000に達した。

 『世界の管理者』からの祝福メールも届いたので間違いない。

 私のレベルも1000で流石に打ち止めのようだ。


 そして、今日。

 『界渡りの宝玉』がさっきから光を発している。

 これは時間、空間の転移に必要なマナが溜まったと言う事だろうか?

 ならばもういくらもしないうちに私の体はて……

  ・

  ・

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「ここで絶筆か」

「教授!凄い発見ですよ、これは!!」

「カグラ神様は元々人間……しかも異世界の人間だった、か……教会側になんと言われるやら」


 私は教会側からやっと勝ち取った遺跡の発掘許可を持って、サザンのカグラ神様が降臨したと言われている遺跡を発掘していた。

 ……だが、正直これほどの物が見つかるとは思ってもみなかったのだ。

 この一級品の資料は保護の魔法がかけてあるのか、1000年を経てもほぼ劣化が無い。

 ……だからこそこのまま世界に発表すれば大騒ぎになることは目に見えていた。


「……これは発表はしない。学者ギルドで厳重に保管しよう」

「そんな、教授!もったいないですよ!」

「……おまえも内容を読んだだろう。カグラ神様は無駄に世界に混乱を起こすことを望んでいない」

「……それはそうですが……せっかく教授のことを「無駄飯食い」「変人」なんて言っている世間に見返してやれる機会なのに」

「いいんだよ、それでな……ていうか、助手のくせに遠慮が無いな……だれが無駄飯食いだ?」

「あ、いや……その」

「そこら辺を誰から聞いたのか詳しく話して貰おうか、ヴァトリー・ティーチャ女史?」

「にゃあああ!勘弁して下さいっ!ロドリー・メイディン教授ぅぅ!」







 ファリーアス歴1511年。

 シノがファリーアスからその存在を消してから10年。

 港町サザンは今日も平和であった。



 俺の名は神楽十蔵(21)


 ……なんか母親が時代劇マニアのせいでこんな名前を付けられたりしたが、それ以外は普通の大学生……のはずだ。


 普通じゃ無いのは母さんであって俺じゃ無いんだ。

 俺は母さんのように助走も無しで2階に飛び上がったり、素手で立木を切り倒したり、がらくたを組み合わせて永久機関を作ったりは出来ないんだ!

 ……なのになんで俺はここに居るんだろう。

 え、異世界? あんなの母さんの子守歌代わりの作り話だろ?

――――――――――――――――――――――――――――――――

次回、【劣化賢者の幻想譚】『マッチ一本火事のもと』にご期待下さい。


……なんてのが今ちょっと考えている次作であったりします。

いつになるかはちょっと断言できませんが…… 

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