異界のドラッグストア(完)
いつもよりちょっと長めです。
殺人熊との戦闘から更に1時間。
急に出るようになった魔獣達を蹴散らしながら私達は頂上を目指して登っていた。
獣道さえない林の中を木々を避けるようにして登っていくのは中々骨が折れたが、この世界に来て身体能力が飛躍的に上がっているせいで体力的には辛くは無い。
それはこの世界の一般人に比べてレベルの高いネイル達も同じようで、最年少のローリナさえいまだにその足取りは軽やかだ。
「まったく……登山道が無くなったら急にこれだ……キリングベアー3匹、スケイルヴァイパー2匹、ホーンドウルフ4匹……いくら何でもエンカウント率が高くないかなぁ」
「えんかうんと……?」
聞き慣れない言葉に不思議そうに聞き返してくるネイル。
「あ、えーと、魔獣の出てくる頻度が急に上がったなぁって」
「ああ、登山道や街道には一定距離事に結界石が埋めてありますから……周囲のマナを吸収する事によって効果を発揮するタイプですので、効力は弱いですが、魔獣よけくらいにはなります」
「ああ、そうなんだ……まあ、目的は熊さんの肝だから出て来てくれるにこした事は無いんだけど」
「ええ、それにあと少しで頂上ですから、そろそろ鬼熊のテリトリーに入ると思います」
「ん、油断禁物ってことね」」
ネイルの言葉に『気配察知』に意識を向ける……うん、今のところクリアーだ。
魔獣どころか動物たちの気配すら無い。
……………………え?
「ネイル、なんかおかしい……気配が無さ過ぎる」。
クァクダ山は頂上に行くに従って木や草も少なくなって行き、頂上付近はほぼ岩山になっている。
だから生き物の気配も少なくなるのには合点がいくけど……いくら何でも生き物の気配がまったくしないって事があるだろうか。
「ふふん、流石に敏感だな、『創造者』」
この声は……!?
「その声……まさか!」
声の聞こえた方向――小高い大岩の上を見やると、まるで蜃気楼のように空間がゆがんで男女三人の姿が現れた。
「ふふふ、そうさ俺様達……」
「お笑い三人組っ!」
「そう、お笑い三人組……って誰がだ!!」
ノリが良いな。コイツ。
「俺たちは!」
「殲滅の魔女、マジョーア・ネゴー!」
「知謀の戦士、コズール・イーネス!」
「剛力無双、ヤーバン・コヴン!」
「三人揃って!サザンの悪夢とは俺たちの事だぁ!!」
マジョーアを中心に岩の上で決めポーズを取る三人。
……なんか誤解していたな。こいつ等お笑い要因だったんだ……
「あー……ヤザンがアコム……?」
思わず、某Ζガ○ダムの悪役が顔を隠して消費者金融に入っていく様を思い浮かべてしまう。
「サ・ザ・ン・の・悪・夢!! 今、絶対失礼な想像しただろう!?」
コズール、勘が良いな。
「あー、いや、ごめん」
「この……やっぱりか!」
「馬鹿にしてまっせ、こいつ等」
「くっ……とぼけた物言いもそこまでだよ!」
素直に謝ったのにマジョーア達は怒り心頭のようだった。
「コズール!やーーーーっておしまいっ!」
「マジョーアの姉御、任せて下さいよ」
ずい、と一人だけ前に出てくるコズール。
「え、一人だけ……?」
「ふふふ、俺をさっきまでのコズールと一緒にして貰っちゃ困るぜ……男子三日会わざれば刮目して見よってな」
「シノ様、なんか裏がある気がします……こいつが一人だけでまともに立ち会うとは思えません」
ネイルの忠告は正直私も同意だ。
レベル差はこちらが圧倒的だが油断はしない方がいい。
「なんだ、かかってこねぇのかい?意外とチキンだな?」
そんな見え見えの挑発に引っかかりは
「な、なんだとぉ!?」
ヴァトラ君は見事に引っかかっていました。
「おまえなんか俺だけで十分だっ! てぃ!」
銀のハリセンを振りかざし、コズールにつっこんでいくヴァト君。
だが、コズールにはまだまだヴァト君では及ばない。
真っ黒な刃を持つショートソードがヴァト君のハリセンをがっしりと受け止めていた。
「ち、引っかかったのは男のガキだけかよ」
「……なんだと?」
途端に赤黒く光り出すショートソード。
「ヴァト君っ!下がってっ!!」
「おせぇ!『大型魔獣使役』!」
ヴァト君がとっさに後ろに飛んだのと、ショートソードからあふれ出た赤黒い光が巨魁となってヴァト君をはね飛ばしたのとはほぼ同時だった。
「うあぁぁぁぁぁぁっ!!」
「ヴァト君!」
ドガン!!
撥ね飛ばされたヴァト君は盛大な音を立てて立木に叩き付けられていた。
「ぐぶっ……」
ヴァト君の口からこぼれ落ちる赤い血。
口の中を切っただけなら良いけど、内蔵をやられているとやばい。
「ネイル! ヴァト君の治療! ローリナはカーバンクルと一緒に二人を守ってて!」
私は二人と一匹にそう指示を出すと、ヴァト君を撥ね飛ばしたそれに向かって岩切と波切りの二刀の小太刀を構えた。
それは一見して殺人熊によく似てはいた。
ただし体格は二回りほど大きく、その爪はダガーどころかロングソード程もあった。
このサイズだとすでに恐竜と対峙しているかのような圧迫感がある。
「ふふふふ………ふはははははは!絶望に震えるがいい!これがっ!貴様等の探していた鬼熊っ!しかも群れのリーダー……言うなれば鬼熊・貴種よ!」
酔ったようにしゃべり続けるコズール。
どうやらコズールがこの鬼熊を操っているようだった。
「そんな……『高位調教師』でも無いのに大型魔獣を使役できるなんて?」
信じられない、という風に首を振るローリナ。
「……しかも、鬼熊の中でもリーダー格かよ……AランクどころかほとんどSって事じゃねぇか……」
ネイルの治療により何とか立ち上がるヴァト君。
「……おそらく、あのショートソードにスキルが込められているんでしょうね」
さっきから脈打つように赤黒く光を放つコズールのショートソード。
これ以上は無いほど怪しい。
「おお、正解だ。『繰魂の吉備団子』を食わせた魔獣はこの『獣王の短剣』で操る事が出来るのさ……だが、それが分かったところで、こうすりゃ、どうだ? おい、クマ公、頭を下げな」
コズールの指示に従い、首を下げる鬼熊……その首の後ろにコズールがまたがり、みっしりとした長い獣毛をしっかりと掴む。
そしてそのまま立ち上がる鬼熊・貴種。
「ひょ!?高ぇな、さすがに……だが、こうすりゃこの短剣にも届かねぇだろう」
コズール、そのどや顔むかつくぞ。
「コズール!流石だね、流石だね、天……」
「うるせぇ、黙れアバズレ」
「才だ……は?」
「うるせぇっつったんだよ」
「……コズール、あんた一体誰に向かってそんな口を利いてるんだい」
腰に手を当てて、頭上遙か彼方に見えるコズールにすごみを利かすマジョーア。
……なんか雲行きが怪しくなってきたな。
仲間割れ?
「コズやん、マジョーア様にそんな口の利き方したらいけんで-」
「苛つくからその適当な偽方言やめやがれ、筋肉バカ。
「な……コズやん、コズやんでも許せんで!!」
「はははははは!揺るさんからどうだって言うんだ! この 鬼熊・貴種はSクラス相当! それを自在に操る事が出来る『獣王の短剣』がある限り、まさしく俺が魔獣の王……獣王だぁぁ!!」
ああ、だめだこりゃ。
持ち馴れない力を小物が持ったせいで暴走するパターンですね。
「行け!化け物!なぎ払え!!」
コズールの指示に従い、鬼熊・貴種はその口を大きく開け――
その口腔に見える光の渦。
――マズイ。
「『積層結界』『結界全体化』!!」
ゴヴァッッ!!
鬼熊・貴種の口腔から放たれたのは光の息吹――レーザーブレスとでも言うべき物だった。
間一髪、私の結界はパーティ全体を包んでいたが、それ以外――周りの岩や大地はそのレーザーブレスにあっさり切り裂かれていた。
……その断面はガラス化している。岩石の融点を超える熱量だって事ですか。
「だぁぁぁぁっ!!」
「きゃあっ!」
「くっ……」
直接的なダメージは積層結界の2層分を引き替えに防いだが、結界越しに伝わる衝撃までは消しきれず、地面を転がる子供達。
むう、ネイル達をいぢめたツケは大きいぞ。
「……なあ、マジョーア、ヤーバン、『サザンの悪夢』のリーダーは誰だっけ?」
私達を無視してマジョーア達に問いかけるコズール。
「……コズール様ですわ(はぁと)」
「コズール様でんな(はぁと)」
額に汗を浮かべながら即答する二人。
うん、ヤーバン、君は(はぁと)は似合わないです。
と言うか勘弁して下さい。
「ははは、分かったならいい。今後は俺に忠誠を誓えよ?」
「てぃ」
「ははは……は?!」
ゾクンッ!
コズールが自分に酔っている間に私は『波切りの小太刀』で鬼熊・貴種の右脇腹を薙いでいた。
『波切りの小太刀』の特殊能力、『防御力低下』が発動し、思ったよりも深く肉を切り裂く。
「ギュオオオオオッ!?」
久々に受けた痛みだったのだろう、鬼熊・貴種の悲鳴に疑問符が付いているような気がする。
がくん、と前足を着く鬼熊・貴種。
当然首の後ろにまたがっていたコズールはたまったものじゃない。
「へ、へぶぅ!?……し、舌かんら……」
どうやら振り落とされるのは免れたみたいだが、痛そうに口元を押さえ顔をしかめている。
「Sクラスの魔獣を傷つけるらと!? し、信じらんねぇやつら……おい、クマ公仲間をよぶんら」
「グォォォォォォ!!」
鬼熊・貴種の咆哮が轟くと、ゆらり、目の前の空間がゆがみ、殺人熊が2体召喚される。
……ブレスといい召喚といい、多芸な熊さんだな。流石Sランク相当。
んー、でも流石に鬼熊・貴種とやり合っている最中に邪魔されると面倒かな。
「ヴァト君」
「な、なに?」
「これ、あげる」
所持品欄から取り出したのは北海道は小樽の銘酒、熊古露里。
戦オンではこれを飲むと一定時間獣系に対して攻撃力アップの効果があった。
だからたぶん……
「私が鬼熊を仕留める間、三人で何とかしのいで……そのお酒はあのスキルに使ってみて」
「わ、わかった……あのスキルだな」
「おおっと、コズールの……いやさ、コズール様の邪魔はさせないよ」
「そういうことでんな」
三人組の残り二人……マジョーアとヤーバンが武器を構えてしゃしゃり出てくる。
そういえばこいつ等もいたっけか。面倒な。
「かーー」
「あの二人はカール君が相手するって」
「おっけー、まかせた……じゃ、いこうか!」
そして、乱戦が始まった。
「まずは……俺が牽制する!」
ヴァト君が熊古露里を手に二頭の前に飛び出す。
「「グォォォ!」」
ガギン、ゴン!
二頭の熊から爪撃を叩き付けられるも、なんとか結界は持っている。
「うっ……く!食らえ!!」
結界越しの衝撃に耐えながら、ヴァト君は熊古露里の口を開ける。
「『酒精火炎』!!」
ヴァト君が持つ一升瓶から炎の筋が伸び、二頭の熊に巻き付く。
その炎はあっという間に巨大な火球となり、殺人熊達を飲み込む。
「「グギャォォォォォォ!」」
獣系の魔物は炎への耐性が低いものが多く、それは殺人熊も例外では無い。
さらに熊古露里により対獣系属性が強化され、ヴァト君の『酒精火炎』は彼らの体力をごっそりと奪う事になった。
それに会わせ飛び出すネイルとローリナ。
ネイルが右の、ローリナが左の殺人熊に肉薄する。
「『聖撃』!」
「『鞭術・二連撃』 !」
それが止めとなり地に伏す2頭の殺人熊。
「ふ、口ほどにも無いですね」
「悪い獣は成敗! です!」
一方、マジョーアとヤーバンは。
「ヤーバン! チャンスだよ! カーバンクルの方からこっちに来てくれるんだ、なんとしても……えい!」
「へい、姐さん、分かってますがな……しかしコイツがえらいすばしっこくて……このっ」
「か、かーーかかーーかかか!(ふ、当たらなければどうという事は無い!)」
素早いカーバンクルの動きにまったくついて行けず延々と鬼ごっこを繰り返していた。
「ヤーバン!左右から挟み撃ちにするよ!」
「了解でさ!」
「「それっ!」」
「かー!かかかっ!(甘い! 見える!)」
左右から挟み撃ちにしようとした二人は見事に空振り、カーバンクルの居たはずの場所で頭突きをし会う嵌めになった。
「い、いだっ!何してるんだいヤーバン!」
「あ、姐さんこそ……」
「……ところでカーバンクルは……」
「か、かかかかか!(ふ、食らうがいい)かかかかか、かかぁ!!(拡散メガ粒○砲、発射ぁ!!)」
カーバンクルの額の宝石から迸る白光。
それは狙い過たずマジョーアとヤーバンの間に着弾し、爆炎の魔法もかくやという爆発を引き起こす。
「なによそれぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
「こんなの聞いとらんがなぁぁぁぁ!!」
エコーを響かせて遙か彼方へ吹き飛ばされていく二人をカール君は妙に満足そうな表情で見送っていた。
「か、かかーーかー(あ、煙を骸骨にするのを忘れてた)」
そして残る決着は私のみ。
「な、なんで……なんであたらねえんだ!」
コズールを載せた鬼熊・貴種の攻撃は本来のステータス差と『流水』の効果で私にはまだ一発も当たっていない。
同じSクラスといえど、グレーターデーモンに比べると、なんというか相性が良いのだ。
こういう力押しタイプは忍者職にとっては鴨葱でしかない。
すでに鬼熊・貴種には私のカウンターがいくつか決まり、全身から血を流している状態だ。
……しかし流石Sクラス、体力だけはグレーターデーモン以上かもしれない。
「でも、これで止めかな……『千刃』! 」
私の体が高速で鬼熊・貴種の周りを移動し、斬撃を叩き込む。
その速度は残像を残すほど……いわゆる分身の術に類する技なのかもしれない。
頭部を2回、右腕を6回、左足を5回、背中を7回、胸部を3回、腹部を12回……実際に千回切る訳では無いが、数瞬の間にこれだけ斬撃を叩き込めばそれは残像も見えようというものだ。
「な、なんだよ、一体何が起こって……なんでSランク魔獣がこんな簡単にっ!!」
一瞬でぼろぼろになった鬼熊・貴種に呆然の態のコズール。
「で、これはおまけ」
最後に鬼熊・貴種の体を駆け上がり、コズールの延髄に峰打ち一発。
「きゅう」
ずずぅぅぅん!ぽてっ
重い音を立てて倒れる鬼熊・貴種とその背から転がり落ちるコズール。
「やー、これだけ立派な熊なら熊胆も良いのが取れるかな♪ そう思うとお笑い三人組にも感謝しないといけないかもね」
ちょっとしたトラックほどもある鬼熊・貴種の体を見ながら、私は、これを解体して肝を取り出すのは一苦労だな、と考えていた。
※
「たっだいま~おまたせっ!」
私達はあれから鬼熊・貴種を解体して熊胆を取り出すと、(ちなみにSランク魔石もカール君のお陰かドロップした)取る物もとりあえず急いで下山することにした。
麓まで降りてしまえば『千里の翼』……まあ、いわゆるキ○ラの翼が使えるからだ。
下りを1時間もかからず走破して、リュミエールと合流、すると早速『千里の翼』を使用、武家屋敷門前まで戻ってきた、と言う訳だ。
「シノ様っ!ネイル姉、ヴァト兄、ローリナ、お帰りなさい!」
普段あまり表情をあらわにしないメイディンが、屋敷から飛び出してきて、泣きそうな顔で抱きついてくる。
うーん、心配させちゃったか。
「大丈夫、みんな無事だよ……熊胆……薬の材料も極上のが取れたしね」
「ん、良かった……こっちも全部集まってる……こっち」
メイディンに手を引かれ、板張りの部屋の一室に行くと、そこには山のような植物系素材が。
「……メイディン、これ、貴女達が集めたの?こんなに沢山……」
「ん、桂皮はみんなで集めたけど、草や花は庭に植え替えてね、『緑の指』で……」
「そうか、栽培したのね! 凄いな『緑の指』!」
「ストリーの薬、これで足りる?」
「ええ、大丈夫、十分よ……早速作って持ってったげようね」
「……うん」
※
「す、すげぇ……本当に治りやがった……」
目を丸くして自由に動くようになった自分の足を見つめるストリー君。
「嘘はつかないよ、君たちが約束通り他の材料を集めてくれたからね」
「……集めたって言ったって……ほとんどはメイディンがお膳立てしてくれたし……俺は庭に植えられたのを摘んだだけだし……その、シノさん、この借りは必ず返すよ」
「ふふふ、ならしっかり返して貰おうかな? 実は手伝って欲しい事があって……」
「ああ、どんな事でも――大抵の物はかっぱらって――」
「まてまてまて、かっぱらわなくて良いからっ!」
むしろこれから考えている事に協力して貰うにはそんな事をして評判を落として貰っては困るのだ。
「手伝って欲しいというのは、実はね……」
私はストリー君の耳にそっと手を添えて、その計画を伝えた。
※
――一ヶ月後――
神楽邸の敷地の一角に立派な店舗が増築されていた。
間口は広く、入り口の上には大きな看板が掲げられている。
『神楽薬剤店』
その店内は今日も満員御礼状態……店外まで長い行列が続いている。
「『十金丹』ねぇ……おい、しかしこんなちっぽけな薬が本当に水薬並に効くのかよ?」
「ばか、知らねぇのか? 傷薬やポーションどころじゃないぜ? レベル5位までなら、瀕死でもこれ一発で満タンになる位だ」
「ほんとかよ!? その上、値段はポーション並、携行しやすい錠剤タイプで薬瓶が割れる心配もしなくて良い……とくれば、売れるのも当たり前か」
「おまけに『清涼丹』、これがまた凄い!大抵の状態異常はこれ一発で治るしな、洗濯に使えば衣類は新品同様、入浴に使えばお肌はつるつる……特に女の冒険者からはすげぇ評判で常に品薄状態だとよ」
「大抵のって……毒だけじゃ無く麻痺や病気もか!?」
「おお、おまけにちょいと値は張るが……『神罰』さえ治る薬も売っているらしいぜ?」
「……真剣か」
「マジだ……流石は」
「…… 創造者 の店って事か」
「おーい、兄ちゃん達、順番が来たぜ?買わないのかい」
「お、おお、買う買う!今行くぜ!」
噂話に夢中になっていた男達に声をかける若い店員……若いというか子供だが。
『神楽薬剤店』従業員として雇われたストリーであった。
店員の他にも敷地内に植えた各種薬草の世話や野草の採取……これだけ評判になれば仕事はいくらでもある。
結局私は、ヴァト君の顔見知りの子供達を全員雇う事にして、この店舗を開業したのだ。
商品は万金丹、千金丹、百金丹、十金丹の回復薬シリーズ他、加速丹などの一時的に身体能力を向上させるシリーズや状態異常回復の清涼丹など。
変わったところでは装備の色を一瞬にして変える魔法の染料も意外と売れている。
他にも色々とレシピはあるのだが、野草中心で材料が揃ってコストパフォーマンスの高い物……となると、このあたりだ。
また、部位欠損回復の再生丹や神仙清涼丹などは、今のところ材料持ち込みでのみ注文を受け付けている。
この世界での魔法薬の価値は結構高く、ある程度相場を合わせた為、高額(それでも従来品の7割程度)になってしまったが、それでもお客は引きも切らず、開業して10日も立たないうちに純益は金貨500枚を突破する勢いである。
まあ、商工ギルドには店舗出店の許可を取ってあるし、いくら稼いでもかまわないのだが……
この分じゃある程度在庫を作っておかないと、おちおち外に出る事も出来なさそうで……メイディン当たりにスキルスクロールでいくつか薬の作り方を伝授しようかと考えている今日この頃であった。
次辺りでいったん区切りかな。
まだまだ色々伏線回収は済んでないし、尻切れトンボになりそうですが……
閉話や外伝、続編も反響があれば考えています。