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偽クノイチ異界譚  作者: 蒼枝
偽クノイチ、ファンタジー世界へ
3/34

初戦闘

 「何、何なのアレは」

 「こんな街に近い森の中で…ただの蛇ならともかくスケイルヴァイパーってCランク魔獣じゃないのっ!」

 「お、お前ら助けろよ!高い金払ってんだから!」

 「やれるだけはやってみますがね…最悪荷を捨てて逃げる準備をして下さいよ?」

 「ばっ、馬鹿を言うな、七色朝顔40株だぞ!?いくらすると…」

 私が悲鳴の聞こえたあたりに着いた頃は…修羅場も佳境だった。

 二頭立ての馬車の陰に隠れているのは小太りの男…その彼を守るように三人の男女が武器を構えて立っている。

 それと対峙するのは二メートル以上はありそうな蛇?まるで鎧をつけたような外殻を持つ蛇が5~6匹。

 「あの~…お手伝いしましょうか?」

 「うぉ!?あんたどこから…ま、まあいい、報酬は出すから奴らを追い払ってくれ!」

 私がとりあえず一番近い所にいた小太りの男に声をかけると男は一も二もなくうなずいた。

 ふむ、報酬ね。覚えておきましょう。

 とりあえず『隠れ身』をまとって大蛇の後ろに移動してから『不意打ち』を発動。

 あ、武器装備してなかった。まあいいか。こいつら弱そうだし。

 大蛇の一匹に私の手刀がたたき込まれると同時にその首は「すぱーんっ」と小気味よい音を発して胴体から転げ落ちた。

 不意打ちだけじゃなく『会心の一撃』も発動したらしい。

 「なっ…」

 「どこから?てゆうか誰!?」

 「素手でって…なに?スケイルヴァイパーの首って素手で刈れるもんなの!?」

 隠れ身はすでに攻撃開始と同時に解除されている。でもたぶんこの程度の敵なら問題ないみたい。

 さっきから残りの四匹(一体は男の人がその巨体で押しとどめている)が私を敵と認識したのか一斉に攻撃を仕掛けているんだけどかすりもしないのだ。『回避術極意』の成果だろう。

 「あ、こっちは私がお相手しますので、そっちのおっきい男の人を手伝ってあげて下さい」

 「無茶よ!一人で四匹って…全然余裕そうね…わかったわ、誰だか知らないけどありがとう!キュアリー、ゴーバックの旦那を援護するよ!回復魔法の準備をして!」

 「わ、わかったクイン!」

 ふーん、ゴーバックにクインにキュアリーね。大剣を持った筋肉の塊みたいな大男の戦士がゴーバック、体にぴったりの革鎧にショートソードっぽいのを持った銀髪のグラマラスお姉様がクイン、若草色のマントに身を包んだ栗色の髪の少女がキュアリー…かな。

 などとつらつら考えながらも私の体は大蛇の攻撃を自動で回避し『反撃術極意』によって無意識にカウンターを叩き込みクリティカルヒットを量産していく。

 「うりゃあ!!!止めだ!『岩斬剣』!!!」

 「『ゲイルスラッシュ』!!」

 「かの者達に祝福を!『キュアライトウーンズ』!」

 私が最後の一匹の首をはねたのと同時くらいに向こうの三人も大蛇を始末したようだった。

 「ぜー、ぜー、ざ、ざまぁみやがれ」

 「はっ、はっ…Cクラスの中でもっ…こいつらは「堅い」「避ける」「麻痺毒付き」の三拍子そろった厄介なやつだからね」

 「おう、お前らの援護があって助かったぜ…って、そっちの敵はどうしたんだ?まさか…」

 「うん、さっき助けに来てくれた彼女が四匹とも一人であっさり…」

 「うわー、凄いね、ほとんど一撃だよ」

 「信じらんねぇ凄腕だな…すまねぇ、姐さん、助かったよ」

 彼らの心からの賞賛と感謝がくすぐったくも居心地悪い…私の力は偶然手に入れたチート能力のおかげなのであって、彼らみたいに命をかけて磨いた物ではないのだ。

 「おお、貴様ら良くやったぞ!さあ、護衛ども、ぐずぐずしないで街へ向かうぞ。今日中に納品しなければならん」

 どうやら小太りの男は商人で、戦っていた三人は雇われた護衛、ということなのかな。

 「ああ、ちいと待って下さいよ…こいつらの額の宝珠は討伐証明部位だ。これだけでも持って行かないとな…キュアリー、その間に御者の嬢ちゃんの傷を見てやれ」

 「うん」

 ん?彼らの他にも同行者がいたのか、とキュアリーについて行ってみると…馬車の反対側に小柄な少女が倒れていた。

 おお、ネコミミ尻尾付きだ。凶悪に可愛い…が、右腕がほとんど付け根から取れかけている。痛そう。

 「ふん、放っておけ!片腕をちぎられたんだ、傷を癒しても片腕じゃ御者はできん」

 「…あんたの所有奴隷だろ」

 「だからだ!あんな獣人の小娘、夜伽にも使えなければ娼館に売り払うこともできん…格安だからと護衛兼雑用に買い取ってみればあっという間に隻腕だ。大損だわ!」

 「…この…」

 「ゴーバック、やめときな…コスイネンの旦那、せめて街までは連れてって良いかい?こんな所に置き去りにしちゃあ、いくらなんでも悪評が立つよ」

 「む…仕方ないな」

 クインが商人…コスイネン(笑)の利を諭して説得する。ぐっじょぶだ!

 でも、なんとかできないかな…街についてもそのまま放置じゃ結局のたれ死にしそう。

 奴隷の中でも彼女はかなり値が安いらしいし、片腕ではできる仕事も多くは無かろう。

 んーもしかして、なんとかできるか?

 私は『戦オン』所持品欄を呼び出し、所持品を確認する。これらが実際に使えるんであれば…私は意を決してコスイネン(笑)に声をかけた。

 「あの」

 「ん、おお!先ほどの!見ておりましたぞ!いやぁ、お強い!助かりました…どうです、あの役立たず共のかわりに私の商会の専属護衛として雇われませんかな?」

 「あはは、ごめんなさい、ちょっとやることがあるので…それよりも」

 「うん?なんじゃ?」

 「報酬を下さると、先ほどおっしゃいましたね?」

 「うん?うーん、言った、かな?」

 とたんに苦々しげな顔になるコスイネン。

 「言・い・ま・し・た・よ・ね?」

 「あー、言った!言ったが今は荷を売りに行く最中で余計な金はないぞ!」

 往生際が悪いなこのデブ。

 「ご安心を。お金ではなく、彼女、譲っていただけません?」

 「彼女…て、あの獣人女か?そんなので良いのか」

 「ええ、ただ今後の所有権のことで揉めたくはありませんので、きっちりと正式な手続きによる譲渡をお願いしたいのですが。良いですか?」

 「あ…ああ、そんな事ならお安いことじゃが…ネイル!こっちへ来い!」

 キュアリーさんに治療して貰ってすでに出血は止まっているネコミミ少女、ネイルちゃん。

 その真っ白な肩までの髪が血に染まっている。見ていて痛々しい。

 「いいか、お前のような役立たずをこちらの方が貰って下さるそうだ。誠心誠意尽くすがいい」

 こくり、と頷くネイルちゃん。

 「では譲渡契約を…その獣人の首輪に触って下され」

 「?こう?」

 「結構。おお、そういえばあなた様のお名前をお聞きしていませんでしたな」

 「シノ・カグラよ」

 一瞬偽名を使おうとも思ったが、正式に手続きを踏んで貰い受けるのであれば偽名はまずいと思い直し本名を名乗る。

 「うむ、それでは譲渡手続きを始める」

 コスイネンもネイルちゃんの首輪に手を触れる。

 「契約神プロミスに申し上げる。セコビッチ商会コスイネン所有の奴隷ネイルをシノ・カグラ殿に無償にて譲渡する。シノ・カグラ殿及び奴隷ネイルはこれを了承するか?」

 その言葉と同時にネイルちゃんの首輪を中心にうっすらと光が広がる。何これ。

 「了承します」

 私がその光にぼけっとしているとネイルちゃんの声が聞こえた。

 なるほど、これが「正式な譲渡」なのね。

 と言うことは、私も答えなきゃいけないのだろう。二人に対して問いかけてたし。

 「りょ、了承するわ」

 「よろしい、これで譲渡手続きは完了した。ネイルは煮るなり焼くなり好きにしていいですぞ」

 「そんなんしないわよ。愛でるに決まっているじゃない」

 静かに収まっていく光を見ながら私はきっぱりと答える。

 「こんなっ…ふわっふわな尻尾なのよ!?耳なんかもふもふよ!?これを愛でないでどうするの!?」

 「いや…まあ、人それぞれですからな…」

 隻腕の獣人少女を愛でると言いきる私に引き気味のコスイネン。

 「シノ殿っていうのか…ありがとうな。その、いろいろと。俺はゴーバック。18レベルの『戦士』だ」

 くすんだ短めの金髪、大剣を背負った大男の戦士…ゴーバックが手を差し出し握手を求めながら自己紹介をする。

 いろいろ、には私がネイルを引き取ったことも入っているんだろう。厳つい顔に似合わずいい人だ。

 ん?18レベルって言ったな。この世界ってレベル制なの?魔法といいレベルといい、そのまんまRPGの世界だな。

 「わたしはクイン。『レンジャー』でレベルは15。感謝するわシノさん」

 体にぴったりの革鎧に銀髪のグラマラスお姉様クインもショートソードを納めてあいさつ。

 あーよく見ると凄い美人さんだ。この人。女の私でもお色気でくらくらくる。

 「お金はないけど、とりあえずこれは感謝の証し…ね?ちゅっ」

 クインさんは私を両腕の中に納めてハグすると、私の耳に軽くキスをした。

 うぎゃあぁぁぁ!田舎モンの私には刺激が強すぎるですよ!百合百合な道に走ったらどうしてくれますか!

 「うふふ。照れちゃってかーわいい」

 「あ、あの、ありがとうございました。私はキュアリー。レベル13の『治療術師』です」

 若草色のマントに身を包んだ栗色の髪の少女、キュアリーが私のそばに駆け寄ってきて上目遣いで尊敬のまなざしを向けてくる。

 クインさんが大輪の赤い薔薇ならキュアリーは清楚な白菊。方向性は違うけどめちゃくちゃ可愛い。

 ネイルも耳さえ無ければ人間の美少女と言っていい容姿だし、この世界のおなごは美形がデフォルトなのか?

 すると私の容姿は、この世界ではそこらの雑草レベルか?ちょっと落ち込む。

 「あ…ネイルです。『雑益奴隷』レベル1です。どうかよろしくお願いします…ご主人様」

 片腕を亡くしたのがショックなのか、感情のこもらない声で挨拶するネイル。

 ごめんね、もう少しまっててね。

 「神楽紫乃…こちらの読み方だとシノ・カグラかな。『クノイチ』よ。レベルは内緒」

 戦オンのレベルとこちらの世界のレベル制とが対応しているか解らないのでぼかして挨拶に答える。

 「うんうん、あんまり高レベルだと知られると依頼が殺到したり、いろいろ面倒なことも多いからな。そこら辺は気にしないさー。しかし、クノイチ…ね。聞いたことのないクラスだなぁ。クイン、解るか?」

 「んー、私も初めて聞いた。だが戦闘の様子からして、スピードと技量に重きを置いた『軽戦士』のさらに上位クラス…もしかしたら隠しクラスかもね」

 …なんかまた解らない言葉が出てきたな。クラスに上位クラス?職業って事?RPGの転職システムみたいなものかしらん。

 「う、うんそんな感じかな」

 適当に話を合わせておく…後でネイルにいろいろ聞こう。

 「ま、まあそれより…ネイルの治療をしちゃいましょうか」

 ちょっと強引だけど話をずらそう。

 「…ごめんなさい、私の技量ではこれ以上の治療は…」

 泣きそうになっているキュアリー。

 「あ、ちがうのっ!私、たまたま良い薬を持っていてね、効くかどうかは解らないけど試すだけ試してみようかなーって…」

 何で皆さんそんな驚いた顔をしてらっしゃいますか。特にコスイネン。

 「ど、奴隷にそんな高価な…部位欠損を直せるような魔法薬を使うと!?」

 「いや、まあ…効くかどうかは解りませんって。試しにですよ」

 いかんな、奴隷に薬って普通は使わないのか?

 私は所持品一覧から薬師のキャラで作ってストックしてあった丸薬をいくつか取り出す。

  清涼丹…各種状態異常の完全解除。

  万金丹…体力の完全回復。

  再生丹…部位欠損(一カ所)の回復。

 どれもお店で買うとかなり高価だが、クノイチの採集技能で材料を集め、薬師が生成…と手間以外元手はかかってない。

 あの自称世界の管理者は戦オンのデータをなるべく反映したと言っていた。なら、たぶん…

 「はい、これ飲んで」

 懐から出したふりをしてそれぞれ一錠ずつネイルの左手に受け取らせる。

 「あ、あのっ!こんな高そうなお薬っ!いただけません!」

 「…ネイルは私の奴隷でしょ?」

 「は、はい」

 「なら黙って飲む。私は自分の物には手入れを欠かさないタチなの」

 「は…はい」

 覚悟を決めたのかやっとネイルは三つの薬を飲み込んでくれた。

 するとみるみる劇的に効果が現れた。

 「あ、あ、あ、あ、あ、ああぁぁぁぁぁぁっ!!」

 ネイルの全身が光り輝き、体全体に散っていた青あざがまず消えていく。

 「あ、熱いですっ!ご主人様ぁぁぁぁぁっ!」

 だ、大丈夫かな。過剰反応過ぎるような気もする。抱きしめてあげれば少しは安心するかな。

 「大丈夫、ネイル、落ち着いて」

 両手の中に抱きしめて背中をぽんぽんと軽く叩いてやる。

 「あっああ…」

 光が収まりネイルも落ち着いた所で確認すると…

 ネイルの右腕はつるっつるの綺麗なお肌で再生していた。

 「…おいおい、すげぇな…!こんな劇的な効果を持つ薬なんて、それこそエリクサーレベルじゃねぇか」

 「…そうね、売れば一財産よ。それこそ雑益奴隷どころか一流の性奴隷だって買えるくらいのね」

 「うう、自信なくします…」

 護衛三人組の言葉にびっくり。こっちの世界ではそんな高価なのか。いよいよとなったら売りさばけば金銭面では何とかなりそうだけど…あんまり目立ちたくないし最後の手段にしとこう。

 「ネイル、大丈夫?どこかおかしい所はない?」

 「は、い、ご主人様…どこも…」

 呆然と自分の新しい腕を見つめるネイル。

 「ご主人様…変です。マナの動きが以前よりはっきり解ります…それに…私、魔力なんてほとんど無かったはずなのに、今は溢れるくらい感じるんです!」

 ありゃ、薬の副作用?と思ったその時…『ぴろりろりん』とメールの着信音。

 『あなたは世界のマナの出口なんだから、うかつに「好意を持って」ハグしちゃったりすると相手にマナ…魔力を分け与えちゃうわよ。気をつけてね』

 もう連絡しないって言ってたくせに…って、ネイルの異常は薬じゃなくて私のせいかっ!

 「ご主人様…」

 目が潤んで色っぽいんですけど。ネイルさん。

 「わたし、一生ご主人様に尽くします!たとえ奴隷契約が切れても、生涯この身はご主人様の物です…」

 そういうとネイルは私の足下にひざまづき、私の足の甲に口付けた。

 「そ、そんなことしなくていいの…でも、そうね、私はこの大陸には不案内だから、いろいろ力になってくれると嬉しいわ」

 そっとネイルの手を取って立たせてやる。

 「はいっ!ご主人様、私にできることなら何なりと!」

 正直ネイルの宣誓にちょっと萌えたのは秘密だ。

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