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偽クノイチ異界譚  作者: 蒼枝
偽クノイチ、異界の日常
29/34

異界のドラッグストア(4)

出張に出ていた為、行進速度が遅くなってしまいました。

申し訳ありません。


そして、やっと熊戦に入れました……あいつ等も再び出演。

 私はローリナを熊狩りに同行することに決めたが、やはり少し不安もある。

 なので、少しでも彼女の防御力を上げておこうと、かねてから用意して置いたローリナ用のメイド服を着せる事にした。


 『月光のメイド服GB』

  メーカー:SINO

  レベル制限 レベル14以上

  種族制限 普通人のみ

  クラス制限 『高位調教師グラン・ビーストテイマー』のみ

  防御力 68

  術防御 62

  身体付与 STR+1 SPD+1 

  技能『重層結界』使用可


 『ホワイトブリム・ノワールGB』

  メーカー:SINO

  レベル制限 レベル14以上

  種族制限 普通人のみ

  クラス制限 『高位調教師グラン・ビーストテイマー』のみ

  防御力 31

  術防御 50

  身体付与 MID+1 

  技能『耐魔結界』使用可


 レベル制限とクラス制限と細かいステータス以外、ほぼネイルの物と一緒である。


「可愛い~ネイル姉とおそろいだ♪」


 本人にも好評な様で何より。


 ローリナの装備を整えると、私達は早速登山道から入山し、頂上を目指す事になった。

 熊系魔獣は基本的に頂上へ向かうほど強力な個体の縄張りとなっているとの事だからだ。

 クァクダ山はなだらかな傾斜が長く続く為、高さはそれほどでも無いが頂上に着くまでには普通に登って2時間ほどかかる。

 地球の登山とは違い、所持品欄に必要な物は入れておけば良いので、リュックに大量の荷物を担いで登る必要は無いのはありがたい。

 おまけに全員が布系防具である。

 登山道の整備された山道を私達は軽い足取りで進んでいった。


          ※


 入山から約1時間……私達は5合目付近まで登ってきていた。


「ん? 登山道が途切れているね」


 今までかろうじて整備されていた登山道が唐突に途切れている事に疑問を洩らすと、ネイルがそれに答えてくれる。


「獣肉や木材や鉱石を調達する為ならこのあたりまでで十分ですから」

「これから上はわざわざ費用と手間をかけて登山道を整備する必要が無い……出来ない領域って事か」

「そうですね、これから上はBランクの魔獣が出始める領域という事だと思います」

「……それにしては、もうここで結構な気配がしているけどねぇ」

「そうですね……獣臭がします」

「「え?」」


 私とネイルの言葉に驚くヴァト君とローリナ。

 右前方からやってくるそれ(・・)に『気配察知』が反応していた。

 数は……二頭か。

『万象看破』で確認してみると、やはり熊系魔獣のようだ。


 殺人熊キリングベアー レベル22 オス 魔獣系 敵対行動:敵対

 殺人熊キリングベアー レベル25 オス 魔獣系 敵対行動:敵対


「第1熊さん発見」


私のその言葉にすぐさま反応し戦闘態勢を取る三人。


「レベルが高い方……あ、左の方は私がやるから、三人で右の方を相手できる?」

「問題ありません」

「へへ、新スキル、試してやるぜ」

「カール君も大丈夫だって!」

「かー」

「……よし、そろそろ来るよ!」


 私のその言葉と共に、茂みをかけ分けてのっそりと姿を現したのは紅い縞毛の二頭の熊。

 その巨体はグリズリー並の約3メートルクラスだが、前腕の爪は一本一本がナイフ並みの長さで鋭くとがっている。


「よし、まずは俺からいくぜ!『カトラリー一斉射出(ボックスオープン)!』」

「て、いきなり切り札!?」


 男の子だね……貰ったオモチャを使ってみたくて仕方ないって感じ。

 ヴァト君の腰ベルトの後ろに取り付けられたカトラリーケースが、発動のキーワードに反応してフタがスライドし、その中に綺麗に並べられていた銀のカトラリーセットが一瞬紅く光る。

 と、次の瞬間、弾かれたようにそれらは一斉に宙に躍り出る!


「いけぇ! ファンネル!!」


 素直だなー……ちゃんと言ってくれてる。


 デザートフォーク5本

 ディナーナイフ3本

 バターナイフ3本


 計11本の銀の凶器がヴァト君の魔力をまとって縦横無尽に空間を疾走し――一気に右の殺人熊キリングベアーに襲いかかった。


「グォォォォォォォゥ!?」


 殺人熊キリングベアーの体表にまるでサボテンの棘のように突き刺さる銀器。

 その異様な切れ味は殺人熊キリングベアーの強靱な筋肉を突き破り奥深く食い込んでいる。


「どぉだぁ!!」


 拳を握り勝利の雄叫びを上げるヴァト君。

 だが――殺人熊キリングベアーは全身に突き立った凶器を物ともせず、脅威と見なしたヴァト君に右手の爪を振り下ろす。


「なっ!?やべぇ!」


 ガギン!!ギャリリリリリリ!

 思わず硬直し目をつぶってしまうヴァト君。

 辺りに響いた金属質な音に目を開けると、殺人熊キリングベアーの爪はネイルの闇薙やみなぎの包丁に受け止められていた。


「ヴァト、この前の依頼で、こいつ等のタフさは思い知ったでしょう?油断禁物」

「ごめん、ネイル姉、助かった」


 ギャリン!

 と耳障りな音を立てて爪をはじき返し、殺人熊キリングベアーと距離を取るネイルとヴァト君。


「ヴァト君-? カトラリーセットは抜いた方が相手の出血を誘えてダメージになるよ?」

「あ、そうか……『回収』」


 私の指摘にヴァト君が回収のキーワードを唱え、殺人熊キリングベアーの全身に突き立っていたナイフ類の自動帰還が発動、一瞬にして殺人熊キリングベアーの全身から消え失せ、カトラリーケースに転移してくる。

 途端に殺人熊キリングベアーの全身から血が吹き出す。


「ギ、グォォォ……」

「わぷっ」


 それが至近距離にいたネイルにシャワーのように降り注ぎ、慌てて離れるネイル。


「止めぇ! 行けっ! カール君っ!!」


 胸に抱えていたカールヴィントを殺人熊キリングベアーに向かって投げつけるローリナ。

 え、いいの? 爪の一撃で潰れちゃわない?


「かーーーーーーーっ!!」


 そんな私の心配をよそにローリナの胸を飛び出したカールヴィントは抱え込み2回転半ひねりを決めながら殺人熊キリングベアーの左側頭部にローリングソバットを決める。


「グハッ!?」


 弾けたように頭を揺らされ、ふらつく殺人熊キリングベアー


「かーーーーーー……かっ! かかっ! かーーーー!!」


 それを好機と見たのか、続いてカールヴィントは空中に浮いたまま正拳、裏拳、かかと落としと次々とコンボを決めていく。

 強っ!? カーバンクル強っ!

 ……あのぬいぐるみのような体型で、どうやって技を繰り出しているんだろう……

 疑問に思った私はカーバンクル(カールヴィント)に向けて『万象看破』を使ってみた。


 魔獣 レベル45 性別不明 種族カーバンクル 敵対行動友好 固体名カールヴィント


 ……カーバンクル、高いよ!? レベル!?

 そりゃ熊程度相手にならないわ……

 むしろ私を除けばパーティ最強っぽい。


「ガァ!?ガ、グァァァァァァァ!!」


 私がカールヴィントのレベルに感心している間にも、カールヴィントの熊へのコンボは続いており……殺人熊キリングベアーの咆哮がやがて悲鳴に変わる。

 そして、とうとうたった一匹のカーバンクル(カールヴィント)に背を向けて殺人熊キリングベアーは逃げ出した。


「……逃がしません」


 しかしすでにそこには殺人熊キリングベアーの死角に回り込んでいたネイルが。


「『部分獣化』……右腕(ライトアーム)


 ネイルの右手が真っ白い毛に覆われ、鋼のような筋肉に鎧われ、手指には長いネイルが生える。

 私も初めて見るが、これがネイルの固有スキル『部分獣化』なのだろう。


『聖撃』(ホーリーインパクト)


 ひたっ……と優しくネイルの手のひらが殺人熊キリングベアーに添えられると、一瞬にしてネイルの全身の筋肉が連動してその力を余す事無く掌底に注ぎ込む。


 ゴヴァッ!

 大きく殺人熊キリングベアーの腹部が陥没し、一際大きい雄叫びが上がる。


 ワンインチパンチとか発勁とかの類の技をイメージしてもらえれば良いが、『聖撃』(ホーリーインパクト)はそれに加え、聖属性の魔力を撃ち込んでそれ以外の属性の魔力を散らすという効果がある。

 魔力を糧としている魔獣の類には殊の外(ことのほか)効果的な技らしい。

 

「ゴアァァァァァァ!!」


 ドオオッ……と重い音を発して大地に倒れる殺人熊キリングベアー。 


 ぱちぱちぱち。


「おみごと。殺人熊(Bランク魔獣)、私抜きで倒したって聞いたけど、流石ね」

「いえ、まだまだです……シノ様から頂いた戦闘用メイド服も汚してしまいましたし……」

  

 そう言って悲しそうにエプロン部分の熊の血を見つめるネイル。

  

「ん、まあ、大丈夫だよ。屋敷に帰ったら清涼丹を溶かした水で洗濯すれば」

    

 洗剤代わりにもなる清涼丹。すすいだだけで汚れ落ちるし本当に便利です。

 毒消しからお洗濯まで。

 良いキャッチフレーズだ。メモしとこう。

  

「は、そういえばシノ様の方の殺人熊キリングベアーは!」

「え? ああ、そうね……うん、倒してた」

「……倒してた?」


 私はいつの間にかもう一頭の殺人熊キリングベアー『反撃』(カウンター)のみで倒して、それを椅子代わりにネイル達の戦いを観戦していたらしい。


「いや、その……新たに『流水』(回避・反撃率上昇)『神卸・久遠』(常時身体能力1.5倍)を覚えたのでね? 試しにセットしてみたんだけど……なんか知らない間に勝手に倒しちゃってたみたい」

「……パネェ。シノさんパネェよ」

「シノ様凄いね~ね、カール君?」

「かー」

「……ありがとうございます、シノ様」

「な、何?ネイル、ありがとうって」

「いえ……私達を信じてもう一頭の殺人熊キリングベアーを任せて下さって……ご自分で手を下された方がよほど簡単だったでしょうに」

「そ、そうか、俺たちのレベルアップの為に……シノさん……」

「あ、あはは……そ、そうね……」


 言えない。ただ単に熱闘を観戦してただけとは……


「そ、それより熊胆を探そうか」

「そうですね、それが本来の目的でした」


 早速、殺人熊キリングベアーの解体にかかる。

 まず高級食材になる手首を切り離し、次に討伐部位である毛皮を丁寧に剥いでいく。

 次に腹を割いて熊胆を切り離し取り出す。


「うーん、予想より品質が悪いな」


 目的である熊胆が思っていたほど良くない。

 一応『万象看破』で確認してみても


 アイテム名:質の悪い熊胆 強壮効果のある熊の肝。HP回復100

 

 と「質の悪い」熊胆、と表示される始末。

 これではとてもでは無いが、薬の材料として使うには不安すぎる。


「仕方ない、もう1ランク上――鬼熊(オーガベアー)を狙うか」


 最後に残った肉自体もディバイン・クック程では無いが強壮効果のある肉として高く売れるらしいので、丸ごと所持品欄に放り込もうとした時。

 ころん、と殺人熊キリングベアーの巨体から魔石が転がり落ちた。


「おや、ラッキー。Bランク魔獣の魔石だわ」


 このクラスになればネイル達の装備の核にも十分使える。

 売ってもそれなりのお値段だ。


「シノ様……こっちの殺人熊キリングベアーからも魔石が……」


 戸惑うようなネイルの声。


「普通、ダンジョン外でこんなに魔石が出るなんて事無いのに……」

「……それは……もしかして」


 たぶん、カーバンクルがパーティに入っているから、なんだろうな。

 地球の伝説でもカーバンクルを手に入れた物には幸運と富がもたらされるって伝説があったはずだし。

 やっぱり私の予想通り、宝石の形で無くてもカーバンクルの幸運効果は発揮されるらしい。

 この調子でいけば熊胆も質の良いのが見つかるはずだ。


――コズールSIDE――


 俺たちは姉御の『風神の加護』(行進速度加速)によって奴らよりも先行し、6合目付近に到達していた。

 ここに来るまでにちょいと仕掛けを施してきたので、ここからその成否を確認していたのだが……


「……なんて奴らだい、殺人熊キリングベアー二頭を雑魚扱いかね……せっかく魔物の餌を奴らの通りそうな所に蒔いて置いたってのに」


 遠眼鏡を使って奴らの様子を見ていた姉御から呆れたようなつぶやきが漏れる。

 それも当然だ。まさか罠として設置した物が奴らにとっては獲物を呼び寄せただけに過ぎないとは。


「むしろ、獲物としてしか認識してないですな……マジョーア姉御」

「何とかしな!コズール!」

「ふ、任せて下さいよ、今週のビックリドッキリアイテム~『繰魂の吉備団子(そうこんのきびだんご)』~」

「コズやん、そのダンゴ美味そうでんな、一つあっしにも……」

「ま、まてまてヤーバン、これがいくらすると思っている……」


 必死でヤーバンの手からダンゴを隠す。

 まったく食い意地の張ったヤツだ。


「ふうん?そのダンゴがなんだって言うんだい?」

「ふふふ、このダンゴは魔獣系の魔物に直接食わせると一定時間ソイツを操れるという物でさぁ。こいつで……殺人熊キリングベアーでダメなら鬼熊を操ってですな……」

「ほう、しかし鬼熊といやあAランクの魔獣じゃないか? そんな魔獣に効くのかい?」

「マジョーア姉御、熊系の魔獣は総じて知能や精神耐性が低いんですぜ? この特製ダンゴならばっちり効きますって」

「コズール!流石さすがだね、流石ながれいしだね、天才だね!」

「よっ!天才コズやん!」

「ふっふっふ、もっと言ってもっと言って。何しろ天才ですから!」


 なんか同じようなやりとりをさっきもやったような気がするが……


「で、誰がそれを鬼熊に食わせるんだい?」


 はた、とマジョーア姉御の一言で場が止まる。


「そ、それはやっぱり一番丈夫そうなヤーバンが」

「あ、あ、それはないで、ここはやっぱりリーダーの姉御が」

「何を言っているんだい、発案者の責任でコズールだろう」


 喧々囂々、収拾の付かない状態になってしまった。


「仕方ないね、私が行くよ!」


 これをどう納めるか……と考えていると、意外な事にマジョーアの姉御が名乗りを上げた。


「いや、それならあっしが」


 それに続いてヤーバンも。


「じゃあ、俺が……」


 まあ、一回位は言っておかないと後で気まずいしな。


「「どうぞどうぞ」」


 しかし、俺が言った途端、あっさり譲ってくる二人。

 し、しまった、その手を先に使うべきだったか……


「い、行きますよ、いきゃいいんでしょ……と、そんなに後ろから肩を叩かなくても行きますって」


 仕方なく承諾した俺の肩をとんとんと叩く『誰か』


「……コズール、あたし等は二人ともこっちに居るだろう」

「……ですよねー……ところで何でそんなに二人とも離れていくんですか」

「コズやーん、達者でなぁ」

「……しっかり食わせるんだよ?」

「……なんか生臭い息が首筋にかかるんですけど」

   

 そうっと後ろを振り向くと。

 そこにはクァクダ山の生態系の頂点――鬼熊オーガベアーがよだれを垂らして俺の肩に手を置いていた。



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