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偽クノイチ異界譚  作者: 蒼枝
偽クノイチ、異界の日常
27/34

異界のドラッグストア(2)

遅くなりました。

でもまだ熊戦まで行きません(笑)


【設定資料】登場人物など


にイベントの発生した地図やらサザンの街のタウンマップやら追加したので、よろしければそちらもご覧下さい。

「さて、と。そうと決まれば……今回はちょっと遠いし、ネイルは馬車を調達してくれるかな? ローリナが『襲歩強化ギャロップブースト』を使えるなら馬車の方が便利だし、この際、馬ごと買っちゃいましょう」

「え!馬飼うの!? 行くーーーっ! 私一緒に買いに行く!! ネイル姉、早くいこっ!」


 私の言葉に真っ先に反応したのはローリナ。まあ、動物好きのローリナなら当然か。

 一刻も待てないという風にネイルの袖を引っ張っている。


「ロ、ローリナ、ちょっと待って……まだ、どんな馬車や馬が良いかシノ様の意向を聞かなくては」


どんな馬車か……馬車なんてどんな種類があるのか知らないぞ。


「ん……どんなって……そうね、余裕を持って……幌付きの7~8人程度乗れる馬車とそれを引ける馬、かな」

「……それだとキャラバンタイプでしょうか……馬は2~4頭立てにするか、もしくはモノコーンなら一頭でも引けますね」

「モノコーン? ユニコーンなら聞いた事あるけど」

「そうですね、見かけはほとんど一緒ですが……ユニコーンが幻獣なのに対して、モノコーンは魔獣なのです。人によく馴れ、戦闘力も高く、餌は馬と同じ飼い葉か雑草……と良い事ずくめですが、お値段が」

「……高いの?」

「軍馬三頭分……金貨六枚はしますね……馬車と合わせれば金貨九枚は……」

「かまわないわ、戦闘に強いというなら、普通の馬みたいにむやみと怯えないでしょう?」


 私は所持品欄から金貨を十枚取り出してネイルに渡す。

 これで所持金は約金貨115枚。


「これで買ってきてね? 足りなかったら後払いで」

「承りました」

「すっごい……金貨十枚なんて初めて見たよ……て、それどころじゃ無いっ!さっ、ネイル姉、馬……あ、モノコーンか、買いにいこっ!」

「ロ、ローリナそんな引っ張らないで……」

「はーやーくー……」


 ローリナに引っ張られ玄関の方へ行くネイル。


「さて、こっちはこっちで準備しようかな……ヴァト君ー?」

「な、なに?」

「ちょっと買い物行くよー道中の食料とかみんなの防具とかの素材買い足しときたいし」

「ああ、荷物持ちって事ね」

「そ。よろしくー」

「あいよ。執事だしな」


 という事でヴァト君を連れて商店街で買い出し。

 いくつかの付与用宝石と素材、キャンプ用品、食料などを買い込む。

 中でもミスリル銀のブレストアーマーを買えたのは良かった。

 魔法もかかってないし中古品らしいが、鋳潰して素材にする分には関係ない。

 これで所持金は約金貨104枚。

 ……なんか硬貨だと金銭感覚が麻痺してしまうな……今日だけで金貨21枚――日本円にして約2100万円使っている計算。

 イカンなー…一家の主として定期収入にも気をかけた方が良いだろうか。

 そうこう考えている内に屋敷へと帰還。

 買ってきた素材を使って、今回同行して貰うヴァト君の装備を強化することにする。


「ヴァト君、この前あげた銀のクナイ、出して」

「え、やっぱり惜しくなったとか!?」

「ちがーーうっ! この前言ったでしょリベンジするって……鋳溶かして作り直すから出してって事ー」

「な、なんだ」


 腰袋からクナイの一揃えを取り出すヴァト君。


「よし、それを持って屋敷の鍛冶場へ行こうか」


 ヴァト君を伴って鍛冶場へと移動。

 そこで鍛冶師にキャラクターチェンジして、ヴァト君からクナイを受け取る。


「で、まずは銀のクナイを鋳溶かして……」


 クナイを炉にぽい、と投げ入れる

 

「次に岩見銀と……ミスリルの出物があったわね」


 岩見銀というのは北斗妙見大菩薩(北極星)のお告げにより銀を発見したという伝説のある戦国時代から江戸時代にかけて最盛期を誇った銀山から取れる銀で……まあ、戦オン版魔法鉱石である。

 それに買ってきたミスリルのブレストアーマーの一部を鋳溶かして合金にする。

 それらとクナイが混ざり合って鋳溶けたモノを取り出し、鬼神の鎚で叩くとイメージした形へとその姿を変える。


「武器部分は前回と同じくそれ自体の貴金属性に対して付与……と。ん、武器部分はこれで良し……次はケース部分ね」


 実は武器部分は刃の形状以外そう今までと変わった訳では無い。

 多少攻撃力は上がっているが。

 前作と大きく変わったのは別の部分――得物を収納するケースだ。


「千年杉を加工して……蛇紋石サーペンティンをはめ込んで付与素材にして……黒漆を全体にコーティング、と……完成」


 出来たのは平たい木製のケースに入ったナイフ・フォークなどのセット。

 俗に言うカトラリーセットだ。


『銀のカトラリーセット・紫乃伍式』

   レベル制限 14以上

   種族制限 普通人種のみ

   性別制限 男性のみ

   クラス制限 『紅蓮の執事(クリムゾンバトラー)』のみ

   攻撃力 45

   魔法攻撃力 10

   身体付与 STR+1

   技能 『カトラリー一斉射出(ボックスオープン)

   特殊能力 自動帰還、軌道制御


「はい、ヴァト君」

「あ、ありがと……って、これ食器セット?」

「……の体裁を取った対多数中距離武器……というか兵器かな」

「へ、兵器!?」

「食器セットなのはヴァト君の『銀製品習熟』+『高級食器習熟』のスキル補正を生かす為」

「あ、ああ、それで……ネイル姉の包丁みたいなもんか」

「そういう事……で、『軌道制御』は投擲後の武器の軌道をある程度動かせる特殊能力よ。このせいでより精密な攻撃が出来るようになっているわ。そして技能『カトラリー一斉射出(ボックスオープン)』……これはMPを使用して技能を発動すると……カトラリーボックスの中のすべての刃物が一斉に射出され、所有者の意志に沿って縦横無尽に複数の敵を切り裂く――まさに兵器!」

「……ごくっ」

「だから……使いどころは間違えないでね? 馴れないうちに街中で使ったりすると大惨事よ?」

「わ、わかった」

「それから……スキル発動の時は「行けっ! ファンネル!!」って叫ぶのがセオリーよ?」

「そ、そうか、間違って危険なスキルを発動させない為のキーワードによるロックなんだな……? 分かった!」

「……ま、まあ……ね」


 ……うっかり元の世界のネタを言ってしまった……しかもスルーされるし。ま、いいか。


 続いては防具。武器だけだと片手落ちだしね。

 執事は多少の金属製防具も装備できるが……やはりフォーマルのスタイルを大切にしたいので、金属製防具は籠手だけにする事に。

 上着をシャツとベストにすれば邪魔にもならないだろう。

 フォーマルのスタイルとのバランスを考えて籠手は薄手の物にする。

 白虎の皮をなめしたものに薄く神鉄と岩見銀の合金を貼り付ける。

 物理攻撃を盾代わりに弾かせる為、金剛石で対物理属性を付与して完成。


 『守護者の籠手(ガーディアングローブ)

  メーカー:SINO

  レベル制限 14以上

  種族制限 普通人種のみ

  クラス制限 『紅蓮の執事(クリムゾンバトラー)』のみ

  防御力 60

  術防御 10

  身体付与 DEX+1 

  特殊能力 物理ダメージ20%軽減


「ん、こんなもんかな」


 後は体防具か。

 ネイルの時と同じように実物のズボンとベストをバラして型紙化した物はすでに用意してあるので、クノイチにキャラクターチェンジしつつ縫製作業室に移る。

 縫製作業室は板の間と畳敷きに分かれていて、板の間の方には機織はたおりり機が置いてある。

 この機織り機があると布製防具の出来上がりに上方補正がかかるのでわざわざここに場所を移したのだ。

 部屋に入って型紙代わりの服のパーツと材料を機織り機の前に並べる。


「んじゃ、『布防具作成』実行、と」


 ネイルの時と同じく上木綿、練絹ねりぎぬ綸子りんずをベースにベストの胸から腹部分とズボンの前面を神龍の鱗で補強していく。

 付与は紅玉ルビーでヴァト君のクラスに合わせて炎属性を強化。

 仕上げにループタイの留め具部分に神楽家の家紋(丸に交差した鷹の羽)を掘った白翡翠を飾る。


 『龍炎の執事服』

  メーカー:SINO

  レベル制限 14以上

  種族制限 普通人種のみ

  クラス制限 『紅蓮の執事(クリムゾンバトラー)』のみ

  防御力 85

  術防御 30

  身体付与 STR+1 

  特殊能力 炎属性強化+20%


「よし、完成、と……どしたのヴァト君?」


 完成した服と籠手をヴァト君に渡そうと振り向くと、呆けたようなヴァト君の顔。


「い、いや、その……本当にこんなの……貰って良いのかな?」

「……ヴァト君の為に作ったんだから貰ってくれなきゃ困るわよ?」

「そ、そりゃそうなんだろうけど……つまりさ、ネイル姉は……その、シノさんの恋び……お気に入りだから良い装備を揃えるのも分かるけど……俺はその、ただの使用人……」

「てぃっ」「おぐっ!!」


 レベル86クノイチのデコピンがヴァト君の額にヒット。

 額を押さえて突っ伏すヴァト君。

 つまり、あまりに高額な材料の数々に今更ながらに気が引けた……という事なのだろうけど。

 馬鹿な事言う子にはお仕置きです。


「ネイルは可愛いしお気に入りだけど、それ以前にみんな『神楽家』の一員なのよ? お気に入りとか使用人とか関係なく家族なの。了解? ヴァト君……ヴァト君?」


 反応の無いヴァト君……意識が飛んでいるらしい。

 ……ちょっと強すぎたかな。デコピン。

            

         ※

    

「ふっふーん~ふんふふふん~♪」


 ローリナが御者台にて手綱を握っているのは真っ白なモノコーン。

 運良く街の馬喰ばくろうから調教が終わったばかりの若いモノコーンを購入する事が出来たのだ……ローリナとしては鼻歌の一つも出ようというものだろう。

 立派な体格のモノコーンは本来二頭立ての幌馬車を楽々と一頭で引き、クァクダ山へ向かう街道を進んでいた。

 御者台にローリナ、馬車の中に私とネイルとヴァト君……計四人での道行きだ。

 今回、万が一の為に治療魔法、緑の恵み(プラント・ヒール)の使えるメイディンは屋敷に残してある。


「シノ様~リュミエールがもっと走りたいって!スピード上げてもいい?」

 

 リュミエールというのはローリナがモノコーンに付けた名前だが、古代語で『光』という意味だそうだ。

 この世界では日本語が共通言語でその他の言語は古代語って位置付けらしく、リュミエールも確かフランス語……だったと思う。

 

「それは願ったりだけど……大丈夫? ただでさえ二頭立て馬車を一頭で引いているのに」

「んー、なんかね? シノ様の周りはマナが濃くておなかが空かないし、元気も有り余っているって」

「動物と違って魔獣はマナを自らの力にする事が出来ますから……シノ様の周りは居心地が良いのでしょう」

「……なるほど」

 

 ネイルの説明に納得する。

 そうであれば遠慮する必要は無いか。

 出発が遅かった分、距離も稼ぎたいし。


「じゃあ、お願いしようか……ローリナ、お願い」

「はーいっ! リュミエール! 行くよーーーっ!!」


 途端に速度の増す馬車。

 体に受ける風が目に見えて強くなる。

 地球の基準で言えば原付バイクくらいの速度は出ているだろうか。

 たった一頭で二頭立て馬車を原付並の速度で牽引するモノコーン……さすがは魔獣、と言ったところか。

 ローリナのスキル『襲歩強化ギャロップブースト』も影響しているのだろうけど。

 これが地球のような舗装された道路とサスペンション付きの馬車なら良かったのだけど……そんな物はあるはずも無く。

 つまり……


「うっ! うごぉぉぉぉぉ!!! しっ!舌噛むぅぅ!!」

「し、シノ様ぁぁぁぁっ!」

「ちょっ……ちょっと……む、無理! かなっ!」


 青い顔をして必死に馬車の内装に捕まるヴァト君とネイルと私。


「イィィィィィィィッヤッフゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!!」

「ひひぃぃぃぃぃぃん!!!」


それとは対照的にテンションマックスのローリナとリュミエール。

『ローリナとリュミエールはSPEED STAR(スピードスター)の称号を手に入れた!』

 ……そんな声が脳裏に聞こえた気がした……


          ※


 ローリナの暴走運転に耐えた甲斐あって、日暮れ前にはクァクダ山の麓に着く事が出来た。

 ちょうど見通しの良い草原を見つけたので、とりあえずここで一泊して、翌日早朝から山中に入る事にする。


「っく……ろ、ローリナ、自重しる……えろ…えろろろろろ……」

「うううう……」


 ヴァト君は草むらにリバース中。

 ネイルは馬車の中から動けないでいる。

 かく言う私もさすがに酔った……リバース寸前である。


「ま、まずい……乗り物酔いも状態異常扱いかしら……」


 試しに所持品欄から清涼丹を取り出し口に含んでみる……すると、途端に楽になる体。


「……乗り物酔いにも効くのね……」


 その効果を確認し、ネイルとヴァト君にも飲ませる……すると二人ともあっさりと復活した。

 ……清涼丹便利だな。


「あ゛ーひどい目に遭った……」

「なんでローリナは何ともないのですか……?不公平です」

「あははー、ごめんね?つい調子に乗っちゃった」

「ひひん」

「あ、リュミエールもごめんだってー」

「まあ、お陰で大分時間短縮出来たし……それよりも野営の準備しましょうか。暗くなっちゃう前に」


 復活したネイルやヴァト君達をかして野営の準備を進める。

 結界石は馬車用の大型の物を設置。

 地面に大きめの石を積んで簡易的な竈を作り、所持品欄から取り出した鍋をかける。

 そこに水を張り、鶏ガラでダシを取る。

 さらにあらかじめ炊いて置いたごはんを所持品欄から鍋に移し、鶏肉や人参、現地で摘んだ野草などと一緒に煮込む。

 味付けは八丁味噌ベースの味噌味。

 隠し味に新潟の地酒、「越乃寒梅・金無垢」をどぼどぼと……贅沢ぅ。

 ……そういや、よく県外からのお客様への土産に買いに行かされたなあ……寒梅。

 金無垢クラスなんて本来なら気軽に料理酒に使える物じゃ無いんだけど、「戦オン」内アイテムだから腐るほど所持しているのだ。

 八丁味噌といい、寒梅といい、「戦オン」の名物システムを考えた人には拍手を送りたい。


「おお、今日はシノさんお手製のゾウスイだな! これ、好きなんだ」

「ふふん、ヴァト君、今日の雑炊はひと味違うよ? 隠し味に入れた酒は本来なら銅貨40枚相当の高級品なんだから!」

「銅貨40枚……シノ様、野営の食事になんて物を……」


 思わず額に手を当てるネイル……いや、私あんまりお酒飲まないし。料理酒としてしか消費しないのよ。


「んーーー♪ シノ様、美味しいよ!」

「ひひん、ひひひん♪」

「ふんふん……『一仕事終えた後の人参は格別だ』だって?」


 ローリナは心底幸せそうに雑炊をぱくつきつつ、リュミエールに人参を食べさせている。

 そうこうしつつ、草原の夜は更けていった……。

 

          ※


 月の位置からしておよそ午前零時ころ。

 馬車の中でネイル達三人は熟睡しており、私は一人たき火のそばで火の番をしていた。

 本来なら結界石の中には魔物、魔獣の類は入ってこないはずなのだが、野盗等人間はその限りではない。

 最低限の警戒は必要なのだ。

 更に私は覚えたばかりのスキル『万象看破』を『気配察知』と併用してセットしているので、結界内どころか半径数百メートルに渡って魔獣の気配を察知する事が出来る。

 あらゆる侵入者を許す事はないのだ。

 ……そのはずだったのだが。

 馬車に降り注いだ一条の月光。

 それが寝ていたローリナの側に小さな塊となってこごったのには気付かなかった……。



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