カグラ一家の日常~初めての野戦編
初めての○○編、ラストです。
「そうと決まれば」
まずは装備を充実させねば。
実は屋敷システムには鍛冶場や機織り機もオプションで用意されており、もちろんこれらも今回屋敷を建てるに当たって設置してあります。
つまり、一々ポルテさんの所まで行かなくても武具が作れるようになったのですよ。
「まずは武器かな」
土地だけは腐るほどある我が家。
手つかずの林野部分を含めれば、ハードオフ・エコスタジアム(座席駐車場込み)位はあります。
……や、甲子園球場とか東京ドームとか行ったこと無いので、比喩に使えないのですよ。
県内マイナー球場で申し訳ない。
まあ、とっっっっっても広い、と。そゆことです。
それでも子供達と協力して4分の1ほどは平地にしたので「武家屋敷・高級」を建ててもまだまだスペースは有り余っており、そこに日本庭園や花壇や家畜小屋と一緒に鍛冶場を設置したという訳です。
という事で、早速鍛冶師にキャラクターチェンジした私は鍛冶場に籠もると、まずはローリナの武器から作り始める事に。
材料は『東尋坊の白蛇』のドロップアイテム『白蛇の革』。
これは戦オン時代の物なのでこちらではドロップしない。
向こうではありふれた素材ですが、こちらではある意味レア素材……ですね。
もうすでに鞣された状態の物なのでこれを三本寄り合わせる。
その中心3分の1に鉄心を入れ、柄とつなぐ……
これをさらに鬼神の鎚で2~3回叩く。
革製品なのに叩くのはどうだろう、とも思うが、そうしないと完成しない……そういうスキルなのでしょうがないのだ。
これに先ほど買ってきたトパーズで付与をして完成だ。
真っ白でエナメルのような光沢が美しい乗馬鞭となった。
『白鱗の乗馬鞭・紫乃参式』
レベル制限 無し
種族制限 普通人種のみ
性別制限 女性のみ
クラス制限 高位調教師のみ
攻撃力 60
魔法攻撃力 0
身体付与 DEX+1
技能 『威圧』
特殊能力 『命中率+20%』『行動阻害LV2』
「はい、ローリナ、これ」
後ろで見ていた四人の内、ローリナに出来たばかりの鞭をぽん、と渡す。
「シノ様、これは……」
「うん、さっき言ってた魔獣素材武器。『白鱗の乗馬鞭・紫乃参式』って所かな……単体攻撃武器としてはネイルの包丁に劣るけど、技能『威圧』と特殊能力『行動阻害』が付いてる」
「シノ様っ!ありがとー♪」
ちゅっ
……おっと右の頬にお礼のキスをしてくるとはなかなかやるな。
ローリナのその行動に、ぴくん、とわずかに反応するネイル。
ジェラシーですか?可愛いやつめ!
と、閑話休題。
次はメイディンかな。
材料は桜の枝。幸い、私の屋敷の敷地内に山桜が植えられている。
季節では無いので花は付いてないが、これをひと枝使わせてもらう。
これに桜貝と桃色珊瑚を合わせ、さらに鬼神の鎚で2~3回叩く。
木工品なのに叩くのは……以下略。まあ、そういうスキルなので。
出来たのは季節でも無いのに宝石の花を満開に散らす桜の枝。
これに買ってきた翡翠で付与をして完成。
『永春の杖・紫乃四式』
レベル制限 無し
種族制限 普通人種のみ
性別制限 女性のみ
クラス制限 園丁の巫女のみ
攻撃力 10
魔法攻撃力 60
身体付与 INT+1
技能 『桜花乱舞』
特殊能力 植物魔法成功率+10%
「はい、これはメイディン用……広域攻撃『桜花乱舞』のスキルが入っているから気をつけてね」
その形からおそらく自分用だと予測していたのか、私が渡そうとして振り向いた時にはすでにメイディンは両手を広げて待っていた。
「ありがとう……シノ様」
今度は左の頬にちゅっ。
……ネイルがブツブツと「……こ、子供のする事だから……」とつぶやきながら拳を握りしめている。
さて、武器製造のラストはヴァト君。
『銀製品習熟』に絡めて銀の大剣を作ろうと思ったんだけど、レベル制限のせいで作っても装備できない。
下手に高価な素材だとこういう所が融通効かない。
本当は『銀製品習熟』に加えて『高級食器習熟』も持っているヴァト君には、銀のディナーナイフ辺りをを武器化して作ってやりたかったのだが……残念ながらレシピを持っていない。
後でポルテさん辺りに作り方を教えてもらえば応用も利くと思うんだけど。
「ぎりぎりショートソードかナイフあたりかな……あ!」
そういえば初めて会った時なかなか良いコントロールで石つぶてを投げてきたっけ。
「なら、これかな……」
銀の地金だけだと柔らかすぎるので炉で銅との合金にしてしまう。
出てきた金属塊を柔らかい内に少しずつとりわけ、鬼神の鎚で「持ち手に輪っかの付いた肉厚で短めのナイフ」に成形していく……
それを合計十本。
今回は素材そのものが貴金属だから宝石による付与じゃなく、武器そのものに付与をかける。
「完成……銀のクナイ・紫乃伍式(仮)……言ってみればスローイングナイフかな。ヴァト君用だよ」
『銀のクナイ・紫乃伍式(仮)』
レベル制限 無し
種族制限 普通人種のみ
性別制限 男性のみ
クラス制限 『紅蓮の執事』のみ
攻撃力 35
魔法攻撃力 0
身体付与 STR+1
技能 無し
特殊能力 自動帰還
出来た十本セットのクナイをヴァト君に渡す。
「サンキュー!……って(仮)ってなに?」
「うーん、銀って貴金属としての価値が高くて、どうしても装備レベルが上がっちゃうの。それを押さえようとすると付与もいまいちでね……」
「そうなんだ……ちなみにどんな効果が?」
「今の時点では敵に投げつけても自動的に手元に戻ってくる『自動帰還』の特殊能力が付いている位かな……攻撃力としては……クロスボウレベル?」
「……スローイングナイフがクロスボウレベルのダメージを叩きだして、いくら投げても無くならねぇって……」
「ヴァト君のレベルが上がったらリベンジさせてよ。だからとりあえずナンバリングは(仮)」
「すげぇな……これだけの武器でまだ納得いかねぇって」
「あとはまあ……近接武器があれば良いんだけど……あ!」
良いのがあった……イベントで手に入れた武器と盾。
これならイベントの報酬アイテムだからレベル制限無いし、銀製だし、そこそこ強いし。
私は早速それを所持品欄から取り出す。
「はい、これヴァト君」
「え……これ……?」
「投擲武器だけじゃ心許ないでしょ? だからとりあえず盾と近接武器はこれを使って」
「え? これ、武器?」
「武器。素の攻撃力だけなら大剣並よ」
「え?これ?えぇぇぇ!?」
私はそれをなかば無理矢理ヴァト君に装備させる。
「あー、あと体防具は今日はとりあえず私のお古で我慢してね?三人とも」
以前ネイルに装備させた『絹の袖無し忍服』は低レベル者にプレゼントする為によく作ってたもので、生命力付与の物がいくつか在庫にあったので、それを三着取りだし三人に渡す。
「それを装備したら……ギルドに取って返し、君たちの初依頼を受注しようと思います」
「「「ええ!?」」」
珍しく三人の声がそろった……そんなに意外だったかな。
「これから? もうお昼だけど」
一際情けない声のヴァト君の指摘に、計画をちょっとだけ修正。
「ふむ、腹が減っては戦は出来ぬ、か。……そうね。じゃあネイルは、ギルドに行って依頼受けてきてくれる?たしか街道に出現するオークの群れの退治があったはずだから」
「かしこまりました、シノ様」
「その間にお昼食べて、装備を付けて作戦を練りましょうか」
「え……ちよっとまって……オークってDランクの魔物じゃ……しかも群れ?」
メイディンの指摘に顔色が青ざめるヴァト君。
「D? 俺たちFだろ? もうちょっと……その」
「なーに言ってんのよー?グレーターデーモンに喧嘩売ったくせに」
「う、いや、それはチョーシにのってたというか……あ、そうかシノさんが手伝ってくれるとか」
「んー、最低限はね。結界くらいはかけたげるけど、基本あなたたちだけで倒さないと経験値も少なくなるし」
「えぇ?いやいや無理無理……」
「無理じゃありませーん。ネイルの時より優しい位よ?あの時はレベル1からいきなりCランク魔獣相手だったし」
「……ネイル姉もやられたんだ……」
「そ。ということで諦めてね♪」
「シノ様ってスパルタだったんだね……」
「というか、敵の脅威を自分基準で考えている……の、かも」
ローリナ、メイディン、失礼な。
まあ、本当に死にそうだったらサポートするし。手脚位だったら直せるからがんばれ。うん。
※
「だから嫌だったんだ!!」
風に赤い長髪をなびかせつつ、オークから逃げる少女が、少女にしてはハスキーな声を上げた。
その上半身は白い長目のケープ。下衣はクリーム色の綿ズボン、
そのケープで覆われていてよく分からないが、体格は細身だ。
少女を追うのはブタ鼻の二足歩行の魔物――オークの群れだ。
オークは生殖と快楽の為に往々にして他種族の女性を拉致する。
その先に待つ末路は推して知るべしだ。
そのような魔物の群れに追いかけられている少女の恐怖は如何ばかりか……
その少女が背の高い草をかき分けつつ進むと、唐突に草の海は途切れ、切り立った崖が目の前にそびえ立っていた。
「グガガっ!だガら行き止まりだってノによ」
「……良いんだよ、行き止まりで」
今まで必死に逃げていた少女が、オークの群れに振り返ると伝法な口調で啖呵を切る。
「豚ヤロウ相手に!こんな真似は虫酸が走るが……ローリナ達にやらせる訳にもいかねぇからな…… オモチャにされて殺された女達の恨み、俺が代わって晴らしてやるぜ!……変装解除!」
その言葉と共に少女の姿は細身の少年へと成り代わる。
少年が跳ね上げたケープの下には銀盆の小盾と――巨大な白銀のハリセン。
一瞬、呆然として動きが止まるオーク達。
だが、その一瞬が過ぎるとオーク達は自分らが騙されたことに気が付き、一気に殺気立つ。
「……は!? ガキが、騙しやがったな……舐めだマネをぉ……」
「しがも何だ? その扇子もどきで戦うってか!? おちょりくやがっでぇぇぇぇぇぇっ!!」
最前列にいて一番少年に近かったオークが棍棒で彼に殴りかかる。
「それを言うならっ!おちょくりだぁぁっ!!」
少年――ヴァトラの巨大ハリセンが瞬間白光を放ち、オークを迎え撃った。
「う゛ぉごむっ!?」
カウンターでハリセンを食らったオークが吹き飛ぶ。
白銀のハリセンの特殊能力――『ボケに対してツッ込んだ場合、威力1.5倍』が発動したのであった。
※
「よし、今よみんな!」
ヴァト君の周りの草むらにあらかじめ潜んでいた女性陣四人が立ち上がり、一気に行動に出る。
ヴァト君が予定通りの位置までオーク達を誘導してくれ、おまけに開始早々一体沈めるという金星を決めてくれた……最高のタイミングだ。
「……いく……雑草の悪戯!」
まずはメイディンの植物魔法が発動し、オーク達の足下に草の輪っかが作られる。
この輪っかは同パーティ内の仲間には無害だが、敵対意志を持つ者のみを選別してその足下を引っかける。
……はっきり言って子供の悪戯レベルだが、『永春の杖』の成功率アップのお陰か、格上の魔物にもかかわらず群れの三分の一ほどが引っかかり、転んでしまう。
「次は私ねっ!えーーっと、が、がぉぉぉっ!!」
意気込んだローリナが『白鱗の乗馬鞭』の『威圧』を使おうとするが発動しない。
如何せん迫力不足のようだ。
なのでちょっとしたコツを伝授することに。
「ローリナ、ごにょごにょ……」
「ええっ?そんな事……恥ずかしい……」
「ほら、急がないとヴァト君達がピンチになっちゃうよ?」
「は、はいっ!」
顔を赤らめて深呼吸するローリナ……
そして覚悟を決めたのか、オークの群れを睨み付け、鞭を鳴らしながら一喝する。
「この汚らわしいエロ豚ども!鞭打たれたくなかったら動くんじゃ無いよ!!」
「ひぃぃぃぃぃ!!(恐怖)」
「う゛ぁぁぁぁっ!(混乱)」
「ぶひぶひ……(萎縮)」
「む、むしろ……ぶひぃぃぃん……(魅了)」
「女王様っ!(魅了)」
「ロリ女王至高!(魅了)」
「し、シノ様ぁぁぁぁぁっ!変態いるぅぅぅぅぅぅっ!!」
「う、ううん……さすがオーク……そっち方面の人材も豊富ねっ!」
結果的に状態異常「魅了」を含めれば、オークの群れを半数以上無力化に成功したので、結果オーライである。
「ナイスだ!後は任せろ!」
ヴァト君の銀のクナイが次々と空を飛びオークの急所をえぐり、メイディンがスキル『桜花乱舞』を発動させると永春の杖から鋭いエッジを持った宝石の花びらが舞い、複数のオーク達を切り刻む。
もちろん、ヴァト君達もオークから何発か反撃を受けているけども、今のところ私の『結界全体化』+『多重結界』と防具の生命力付与のお陰でかすり傷程度で済んでいるようだ。
やがてオークの残りが3匹を切った辺りからローリナも直接攻撃に参加し始める。
白鱗の乗馬鞭は『命中率+20%』『行動阻害LV2』が付いている為、近接武器としてもなかなかだ。
「後!一体!!」
ヴァト君の合図で最後に残った一際大きいオークに三人の攻撃が集中した。
「種子連弾!!」
メイディンの植物魔法が発動し、空中にクルミのような堅い木の実が複数出現、オークに向かって撃ち込まれる。
「だだだだいだだっ!」
「小動物使役……カラスさん、つっついちゃって!」
どこからともなくカラスが数十羽飛来。ローリナの指示に従ってオークに向かって集団でつつき回す。
「なんでカラズがっぐわっ!」
「なんでやねんっ!」
すぱーーーーーーーんっ!!!
そして止めはヴァト君のツッ込み攻撃。
相手がボケて無いので1.5倍ブーストはかかってないが……癖になったらしい。
そしてそれを最後に……最後のオークは大地にその身を横たえた。
「勝ったぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「うん、勝ったね!」
「作戦がち……ヴァト兄の女装が可愛かったから」
「メイディン……思い出させないで……」
勝利の余韻を一撃で吹き飛ばされたヴァト君であった。
「うんうん、みんながんばったね……特に最後のソイツ、只のオークじゃ無くて上位豚鬼じゃない?」
「「「えっ!」」」
「ええ、確かにハイ・オークですね……Cランクの魔物ですよ」
いつの間にかハイ・オークの亡骸を調べていたネイルが答える
……ネイルも今回は一緒に付いてきて草むらに潜んでいたのだが、結局出番が無かったのだ。
まあ、私も変装と結界位しか手伝ってないけども。
「そっかー、レベル1でCランクも倒したんなら、そこそこレベル上がったんじゃない?」
「そ、そうか!」
早速カードを確認するヴァト君達。
「おおー!」
「凄い!レベル4になりました!」
「あ……一気にこんな上がるなんて……」
三人とも本当に嬉しそうだ。
じゃあ、もうちょっとあげてあげるかな。日が暮れるまでには時間もあるし。
「おー、凄いね~じゃあレベルアップしたから次はCランク依頼いけるね?」
「「「え?」」」
「ネイルに後2件依頼取ってきてもらっているから、今日中にレベル10めざしましょうか(にっこり)」
「え、あの、ちょっとまって……ね、ネイル姉、助け……」
脂汗の流れるヴァト君。変なの。ローリナ達も顔色悪いよ?
「シノ様の家族になったからには諦めて下さい」
「えぇぇぇ!?」
「ねっネイル!基本に返ってホーンドウルフ狩りがいいかなっ?」
「お供します、シノ様」
「ちょ……ちょっとせめて心の準備をさせてぇぇぇ!」
「ヴァト兄……なんか私、色々悟っちゃった……」
「ん……世の中良いことだけじゃ無い……禍福はあざなえる縄のごとし……」
……よく分からないけど、ローリナ達は納得したようだし……さあ、張り切っていこうか!
その後、ヴァト君達の懇願によって難度を多少下げた依頼を2日に分けて複数こなし……
翌日には無事、目標以上のレベル12という、成長を見せたのでした。