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偽クノイチ異界譚  作者: 蒼枝
偽クノイチ、異界の日常
20/34

カグラ一家の日常~初めてのギルド編

とうとうクラス決定。

 二メートル近い巨体の豚顔の魔物……豚鬼オークの群れが街道を塞いでいた。

 その数、実に二十数匹。

 そのすべての視線がオーク達の前方10メートルほどにいる荷駄を操る少女に注がれていた。


 彼らは同族だけで無く人間や獣人、エルフなどの雌をさらい繁殖をする。

 純粋に種族維持の為だけならば同族の雌だけで事足りるのだが、他種族をなぶることに快楽を覚えるのだ。

 その結果、彼らに攫われた他種族の雌は多数のオークに延々と嬲られ続け、一月という短期間でオークを出産する事になる。


 ハーフオークではない。

 オークが片親だと必ずオークが生まれるのだ。

 オークは赤子の時から巨大で、その結果攫われた女性達のおよそ99%がその急激かつ異常な出産に耐えきれず命を落とす。


 そんな彼らがワラしか積んでいないような荷駄を襲うからには、目的は少女の方であることは明白であった。


「ぐっぐっぐっ……ひさぢぶりのオンなだぁ……でめえら、にがずナよ?」


 群れの先頭にいた緑青(りょくしょう)を浮かせた青銅の大剣を肩に担いだ一際大きいオークがそう口を開く。

 いつの間にか少女の後方にもオーク達が回り込んでいた。

 少女の右側は切り立った崖になっており、残された逃げ道は左側――腰までもある草が生い茂る草原しか無い。

 それを確認すると、少女は躊躇いもせず荷駄を捨てて草原へと脱兎のごとく駆けだした。


「ばがめ!ソっぢは行き止まりだ!追いだてルぞ!」


 青銅の大剣のオークを先頭に少女を追いかけるオーク達。

 彼らの前方では赤い髪の少女が必死で草原を逃げている。


(どうしてこんなことにっ……)


 赤髪の少女はこうなるに至った今朝の出来事を思い出していた。


         ※


 時間は少しさかのぼる。


 サザンの街、商店街の北に最近出来た屋敷がある。

 木造建築であるにもかかわらず、静謐かつ高級感溢れる上品な佇まいはここ最近の街の噂に登っていた。

 何しろ、いつ建ったのかその建築の過程に誰も気づかなかったのだ。

 ……てゆうか、私が建てたんだけれども。

 言わずと知れた私達の新しい住まい、武家屋敷カグラ邸である。(別名ネイルとの愛の巣)


「約束したじゃん、ギルド行ってもいいだろ?俺も強くなりたいんだ……」


 屋敷の一室、八畳畳敷きで縁側付きの居間。

 そこで笹団子を茶菓子にお茶にしていた私に、真剣な顔で訴えてくるヴァト君。


「俺、世間知らずだった……大人を騙して、かっぱらって、群れてリーダーを気取って……いい気になってた……でも俺は所詮子供で、いざという時何の力も無かった……」


 よっぽどグレーターデーモンとの一戦が薬になったのか、ヴァト君はヴァト君なりにいろいろ考えているようだ。


「最低限、いざという時に家族を守れる位の力をつけたいんだ」

「シノ様、私達も……ギルドに入りたい」

「……働かざる者、食うべからず」


 いつの間にか来ていたローリナとメイディンもお願い攻撃に加わる。

 やめて!君たちの「お願い」は攻撃力が高いから!


「んー……君達は屋敷の維持という仕事があるんだけど。決してタダ飯食わせている訳じゃ無いよ?」

「もちろんそれもちゃんとする!お願い……します」

「「お願いします」」


 目の前に綺麗に並んだ三人が一斉に土下座。

 ……いや、確かに故郷の文化の一つとして教えたけども。土下座。


「しょうが無いなぁ……一応登録して、ステータスが冒険者向きじゃ無かったら諦めるんだよ?」


 一般人のステータスは8~12が平均で、冒険者となるにはどれか一つ以上の能力が13以上無ければ厳しいとされている。

 なのでステータス次第では冒険者登録を断られることもあるのだ。(身分証としてのギルドカードは発行してくれる)


「ああ!ありがとうシノさん!」

「「ありがとう」」


 しばらくは自堕落な生活を満喫しようと思っていたのにな……特にネイルと昼間っからアレとか、温泉作ってアレとか、新しい衣装を着せてアレとか。


「ネイルー?ちょっとみんなでギルド行こうと思うんだけど?」


 私が奥の炊事場に声をかけると、割烹着に前掛けエプロンとスリッパという格好でぱたぱたとネイルが小走りに出てきた。

 朝食の後片付けをしてくれていたのだ。


「はい、シノ様、お供いたします」


ちょこんと廊下に正座して三つ指をつくネイル。


「ぐはっ……」


 結論。三人の土下座お願い攻撃よりもネイルたん余裕で最強でした。


          ※


 冒険者ギルドへ入ると室内にいた冒険者達が急に騒がしくなった。


(お、おい、あいつだぜ。創造者ザ・クリエーター

(今度は1日で屋敷を作ったって……)

(いや、それはいくら何でもデマだろう)

(じゃああの化け物屋敷が今どうなっているのかおまえ見てこいよ)

(これも噂だがな、海竜やグレーターデーモンも倒したって……)

(だから何でそんなヤツがまだBランクなんだよ)


 遠巻きに噂をしているのはまだ良い方で、中には強引にパーティに誘ってくる者達もいた。


「なあ、あんただろ? 創造者ザ・クリエーターってのは。あんたが連れているようなガキ、役に立たないだろう? うちのパーティは高ランクばかりだぜ? 仲間に入らないか……ぃう゛!!」


 最後のおかしな声は、私の肩を抱いた銀髪のイケメンレンジャーの喉元にネイルが闇薙の包丁を突きつけた為だ。


「我が主をナンパするのなら最低限マスターレベル(レベル50)になってから来なさい」


「い、いつの間に……?」


 そこそこ戦闘に自信があったのであろうイケメンレンジャーは、年端もいかない獣人メイドに後れを取ったことが信じられないようだった。


「あはは~と言うことだからごめんね? ネイルもよ? ギルドでそんな物騒な物出さないの」

「……失礼いたしました、シノ様」


 ぽん、とイケメンレンジャー君の肩を叩くとギルドの登録窓口に向かう。


「こんにちは~」


 この世界に来て初日に話しただけの登録窓口のお姉さんに声をかける。


「はい、お久しぶりですね、シノさん。ご活躍は耳にしていますよ? 本日は何を?」

「ご無沙汰してます。今日はこの3人の登録をお願いしたいんだけど」


 振り返ってヴァト君達3人を紹介する。


「……なるほど、承りました。後進の指導にも力を入れているとは、さすがでございます」


 ……そんな大層なことでも無いんだけれども。


「それではこの用紙に名前とお年、性別、希望クラスを書いて下さい…出身地欄は任意です」

「ああ、分かった……でも初めに選べるクラスって何があるの?」


 記入しようとしてはた、と手を止めるヴァト君。


「はい、初級クラスとしましては戦士、魔術師、治療術師、盗賊、武闘家、レンジャーの基本六クラスがございますが、能力値やその他の条件によってはその他、多くのクラスになる事が出来ます……ただ、上級職や最上級職と呼ばれる剣士や聖騎士、探索者、クノイチ、忍者、高位剣士等は今のところ転職でしかなれませんし英雄、勇者等のギルドと王家の特別承認が必要な職もあります」

「……シノさんってクノイチだったよね?やっぱり転職で上級職になったんだ?」


 私が否、と答えるよりも先に窓口のお姉さんが説明してくれる。


「いえ、シノ様は始祖、つまりクノイチ職の元祖ですので、登録時からクノイチでした……そのスキルやクラス補正の優秀さから現在はクノイチは最上級職の一つとして登録されております」

「へぇ……さすがシノさんというか……天然最上級職ってことか……」

「基本六職以外をご希望でしたら、こちらの判定版に手を置いていただくと何になれるか分かりますよ」


 と窓口のお姉さんが出してきたのは、以前スキルを登録した感応石に似た……虹色の輝きを放つ板。


「分かった……こう、かな?」


 それに順にヴァト君達三人が手を乗せていく。


「はい、結構です………………………………………え゛?」

「ど、どうしたの?何か悪いことでも?」


 思わずヴァト君達の後ろから口を出してしまう。


「……いえ、失礼しました、シノ様……その、三人様ともレアクラスの適正があったものですから……」

「……珍しいの?」

「そうですね、六職以外は普通は一般職適正……メイドとか農民とか書史とか、位しか出ないのですが。登録時にレアクラスになれる確率は百人に一人くらいでしょうか……それが三人様ともとなると……さすがシノ様のお連れ様でございます」


 あー……あれか。もしかしてネイルの時と同じ……あれのせいか。


「すげぇ!!で、何になれるの?俺」


 興奮して受け付けのお姉さんに詰め寄るヴァト君。

 お姉さん引いちゃっているよ、少し落ち着いて……


「は、はい……こちらの方は六職以外ですとこそ泥(スニーク・シーフ)、兵士、軽戦士、バトラー、それにレアクラスのクリムゾンバトラーに適正がございます」

紅蓮の闘士(クリムゾンバトラー)!?すげえ!かっこいい!それにする!!」

「そ、そうですか……クラスの説明などは……」

「ああ、いいよ、紅蓮クリムゾン闘士バトラーだろ?聞いただけで強そうじゃん」

「わ、分かりました。それでは次の方……そちらの栗色の髪のお嬢様ですが」


 受け付けのお姉さんが今度はローリナに向かって話しかける。


「そうですね、六職以外ですとメイド、軽戦士、軽業師、調教師ビーストテイマー、レアクラスの高位調教師グラン・ビーストテイマーになれますね……これはふつうの調教師と違い、動物だけでなく、魔獣すら自らの使い魔として使役できるクラスですね」

高位調教師グラン・ビーストテイマー……動物達と一緒に戦えるの?……なら、それ一択です!」


 うん、まぁそうだと思った。


「では、最後にこちらの金髪のお嬢様ですが……基本職以外ですと……メイド、ドルイド僧、農民、園丁、そしてレアクラスの園丁の巫女メディウム・オブ・ガーデナー……これは植物を操ったり、話をしたり、植物の癒やしの力で回復したりと幅広い能力を持った魔術師や治療術師よりの魔法職です」

「……お花とお話しできるの?」

「はい、取得スキル次第で」

「……じゃ、それ」


 一見テンション低そうだけど、メイディンの頬がわずかに紅潮してかすかに笑みを浮かべているから、嬉しいのは嬉しいらしい。


「はい、それでは記入用紙に希望クラスを書いて頂いて……シノ様の時と違って能力や技能の焼き付けをしないといけませんから、このままクラスチェンジの間へ行って下さいね」

「あ、ネイルが転職した時の?」

「はい、そちらになります」

「了解。じゃあ行こうか、みんな」


 記入用紙に希望クラスその他を書いて全員が提出したのを見届けて、私はヴァト君達を転職の間へと案内することにした。


          ※


「や、おじいちゃん久しぶり~」


 部屋の奥にいた灰色のローブに眼鏡をかけた老人に声をかける。

 ……そういえば名前知らないな。まあいいか。


「おお、お嬢ちゃん達か、久しぶりじゃの」

「今日はうちの子達を登録してもらおうと思ってね」

「……さっき受付からレアクラスの焼き付け依頼が三件まとめて来たが……お嬢ちゃん達だったのか……獣人のお嬢ちゃんといい、とことんレアクラスに好かれておるの」

「あ、あはは……」

「まあ、よかろ。さて、誰から行くかな?」

「俺!俺からお願いします!!」


 真っ先に手を上げるヴァト君。


「うむ、ではそっちの魔法陣の真ん中に立ってな、動くでないぞ」

「はい!お願いします!!」


 ワクテカ状態のヴァト君。


「では、いくぞ……!」


 その声と同時に魔法陣を光芒が満たし――

 そして……


         ※


 そして三人とも無事クラスを登録出来たのだが。


「これでメー君ともっと仲良しになれるかな♪」


 上機嫌のローリナ。ちなみにメー君とは屋敷で飼っている山羊の名前だ。


「ふふ……レベル1から植物会話スピークウィズプラントが……嬉しい」


 両手を胸の前で組んでうっとり顔のメイディン。

 二人の娘達に比べ、一人ヴァト君だけは放心状態であった。


「な……なんで、だ」


 ギルドカードを何度も見直すヴァト君。


「バトラーって言ったら闘士(バトラー)だろ!? 普通! 何でレアクラスが執事バトラーなんだーーーーっ!!」


 そう、ヴァトラ君のレアクラスは紅蓮の闘士(クリムゾンバトラー)ではなく紅蓮の執事(クリムゾンバトラー)だったのだ(笑)

 

「まあまあ、レアクラスには違いないよ?」

「うう……下手な慰めは刃に似ている……」

「しょうが無いな……レベルアップでもそのうち付き合ったげるから気を取り直して」

「う゛う゛……じの゛ざぁぁぁぁぁんっ!」


 ……ヴァト君の明日はどっちだ。





 

続き物なので、なるべく早く次話を投下したいですが…どうなるか。

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