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偽クノイチ異界譚  作者: 蒼枝
偽クノイチ、ファンタジー世界へ
18/34

お仕置きは百合の香り

そろそろ仕事も元のペースに戻ったので投稿にも多少間隔が空くかと思います。

土日や祝日には書き進めたいなぁ。


今回のお話は、あらあらさんの感想、リクエストを元に多少変えてストーリーに絡めさせていただきました。

ありがとうございます。

「で、な、結局最後の祭壇のトラップは地下二階の隠し部屋で見つけた……この指輪……これがキーだったんだ」


 私達は通称 『お庭のダンジョン ダンジョンオブガーデン』と正式に呼ばれることになった迷宮からサザンに戻っていた。

 帰ってきてからまず一番に実行したのはヴァト君へのお仕置き。これはこれから彼を雇う者としてきっちりしておかねば彼のためにもならない(笑)


 つづいて『お庭のダンジョン ダンジョンオブガーデン』から持ち帰った街の模型やらを魔法使いギルドに持ち込み、鑑定を依頼。

 その後一週間してやっと鑑定結果が出て、ダンさんが代表して預けていた物を受け取りに行ってくれたのだ。


 で、それらの報告や報酬の受け渡し、戦果の仕分けの為にここ、街の大衆酒場『幸運の豆(フォーチュンビーンズ)』亭にあの四人が集まってきて……ただいまダンさんがあのダンジョンの最後の仕掛けを説明している所な訳です。


「この指輪をはめて、あの祭壇から模型を持ち出す分にはトラップは発動しない……この指輪がダンジョンの主であるという証だった訳だ……という事で、これは姐さんが管理すれば、今後ダンジョンの入り口を開くも塞ぐも自在って訳だ」


 私はダンさんから模型と駒と指輪のセットを渡され、それをテーブルの上に置いた。


「しかしダンジョン作って街を征服?……非常識な上に微妙にスケールが小さいわね」

「グレーターデーモンとタイマン張る女に常識を言われるとは思わなかったろうよ。ドーワナも」

「……握手しただけでMP全回復とかしてましたしね」


 ダンさん……ディーンさん、貴方もデスカ。


「お二方とも。シノ様は『非常識』ではなくて『規格外』なのです」


 うう、味方はネイルだけだよ……って『非常識』が『規格外』になっても微妙だな。


「まあ、とにかく。依頼はこの上ない結果で果たしていただきました。最奥までの探索、脅威の排除に加え、ダンジョン機能の掌握……達成評価はSと判断します」

「まあ、脅威の排除ってのは……ほとんど依頼人の姐さんのお陰だがなぁ」

「ええ、修行不足を痛感いたしました……聖騎士として恥じ入るばかりです」

「そんなことありませんよ。ダンさんがいなければ隠し扉も隠し階段も見つけられなかったでしょうし、ディーンさんの聖騎士技能のお陰で全員が五体満足で帰れたんです。ネイルのグレーターデーモンへの背後からの一撃が無ければヤツの隙を見いだすのに苦労したでしょう」

「……まあ、そこまで評価してくれるならグレーターデーモンとりあった甲斐があるってもんだ」

「ですので、追加報酬を含めまして一人金貨10枚、お納め下さい」


 ヒュゥ

 ダンさんの口から思わず、と言ったていで口笛が漏れた。


「そんな……シノさん、いいんですか?」

「かまいません、あの模型型のダンジョン転送制御装置らは追加分の金貨2枚より価値があると思いますよ」

「……では、ありがたく」


 これで残金は約金貨70枚。


「さて、報酬の話はこれで良いとして……後はダンジョン内での戦果の仕分けでしょうか」


「ダンジョンで見つかった物を正確に言うと……銀貨が20枚、ヒールポーション(小)×1本、ヒールポーション(中)×5本、 魔石(小)×6個、魔石(中)×2個、スキルスクロール×9本、そしてグレーターデーモンの魔石(特大)1個だ……報酬を奮発して貰ったんだ、分けるのはあんたに任せるよ」


 私がいらない、と言ったお金やポーションまで律儀に報告するダンさん。

 意外とそこら辺きっちりしているみたいだ。

 仲間とお金でぎくしゃくしてたら、いざという時に命に関わる……と言うことなのかな。


「それじゃあ……グレーターデーモンの魔石とスキルスクロールを7本もらえるかな」

「7本?そりゃかまわねぇが……全部でなくていいのかい?」

「ええ、魔石は大物を貰ったんだしね、これでも貰いすぎだと思うわ……だからね、良かったらそっちのスクロール2本にスキル入れるけど……どうする?」

「……あ? いや、気持ちは嬉しいけどよ、スクロールはマスターレベル(レベル50)に達した者しかスキルをスクロール化出来ないんだ」

「うん、だから言っているんだけど……」

「……え?…………………姐さん、もしかして…………レベル50、なのか?」

「……まあ、少なくともそのスキルスクロールを使えるレベルではあるわよ?」


 二人とも絶句している。

 嘘ではない。LV85……いや、今回のグレーターデーモン戦で86になったけども。


「まあ、そう言われりゃあ納得か……だが、正直スキルを込めてくれるのはありがてぇ……何でもいいのかい?」

「うーん、戦闘系に限ってくれる? 生産系は……いろいろとこの世界の経済を壊しそうだから」


 まあ、私の生産レベルが高すぎるのが主原因だから、スキル自体渡してもそうそうすぐに問題は出ないだろうけど。


「この世界……? よく分からんが……戦闘スキルだな? どんなスキルを持っているんだ?」

「そうねぇ……」


 口で言っても分かりにくいだろうと、私はギルドカードを起動し、スキルのページに切り替えた。


「はい、どうぞ。あ、でもスキルのページ以外見てはダメよ?」

「あ、ああ、了解だ」


 レベル50だというのは決定なのに、どうしてメインのステータスページを見られるのを嫌がるのか……という疑問が表情から窺えたけど、これだけはそうそう簡単には見せられない。


「いや、しかしさすがマスターレベルだな……スキルの所有数が半端じゃねぇ……」

「ほう、そんなにですか?」


 ダンさんがスキルを確認しているのを横からのぞき込むディーンさん。


「お、次のページまで続いているのか…………………………………………って、おい、何ページ続くんだ」

「何というか……圧巻ですね……この中から選べと言われても」


 うーん、それはそうか。

 戦オンは古参のオンラインRPGだから、幾度もバージョンアップしてその度にスキルが増えていったんだよねぇ。


「ああ、一日かけても決まらねぇなこりゃ……姐さん、あんたがなんかお薦めのを選んでくれねぇか?」

「んー……ならダンさんは『命奪斬』はどう?与えたダメージの20%の体力ヒットポイントを相手から奪い取って回復するスキル。消費MPもそこそこだしクロスボウでも使えるわ」

「おお!そりゃいいな……回復の手が足りない時に生存確率が跳ね上がるぜ」


 ニカッという擬音がぴったりな笑みを浮かべるダンさん。気に入ったみたいだ。


「ディーンさんは……『治癒功』。戦闘前に唱えておけば約10分、少しずつ体力が回復していくわ。人を庇ったり癒したりで戦闘中は自分のことまで手が回らない時もあるかと思って」

「……シノさん……そこまで私のことを考えて下さるとは!」


 ……嬉しいのは分かったけど、泣くほどのことは無いと思うの。


「ん、異論が無いようなら早速」


 私はテーブルにスクロールを2本取り出して並べる。


「……そういえばどうやって込めるの? スキル」


 間抜けなことにそれを確認してなかった。


「ああ、そうだったな……魔法使いギルドの話じゃ、スクロールを握ってスキルの詳細を思い浮かべながら魔力を込めれば良いらしい」

「了解」


 意外と普通だったな。口にくわえて印でも結ぶのがクノイチとしてはデフォなんだけど。

 テーブルの上のスクロールを1本取って『命奪斬』のイメージを込めつつ魔力を流す……あ……真っ白だったスクロールが段々薄く青みがかった色になって……これで完成かな?

 もう1本の方も同じようにして『治癒功』を込める……こちらはライトグリーンに染まった。


「これでたぶん出来たと思うけど……早速使ってみる?」

「おう、やってみるか」

「私もせっかくですので」


 二人が思い切りよくスクロールを開くと、それぞれスカイブルーとライトグリーンの光が立ち上りダンさん達に吸い込まれていく。


「お、おお?……うん、成功みたいだ……使えるようになってる」

「こっちもです……」


 自分のギルドカードを確認して笑い合うダンさん達二人。

 二人とも無事スキルを習得できたようだ。


「いや……うん、なんだ……姐さん、あんたと一緒に仕事が出来て良かったよ。特にこのスキルは何より勝る報酬だ……冒険者にとっちゃな」

「ええ、またいつでも声をかけて下さい。いつでもお手伝いしますよ……マイレディ」

「ええ、お願いするわ。またご縁があれば良いわね…」


 最後はなんか湿っぽくなっちゃった。そもそも打ち上げも兼ねて街で噂の大衆酒場『幸運の豆(フォーチュンビーンズ)』亭に来たのだから、ぱーーっとやらなきゃ。


「よし、堅い話はこれ位にして……本題の依頼完遂のお祝いしましょうか!」


 ぱんっと両手を打ち鳴らして場の空気を変える。


「ああ、いいな。思いっきり飲みたい気分だ」

「では、注文を……あ、そこの赤い髪の店員さん、注文をお願いします」


 私が声をかけたのは13~14歳位の赤い髪が肩まであるちょっときつめの目をした美人さんだ。

 オレンジ色の少し変わったミニスカメイド服のような物を来ている。 


「お、見たこと無い娘だな……新入りかい、嬢ちゃん」


 途端に垂れ下がるダンさんの目尻。

 嫌らしい目じゃ無く、妹か娘を見るような慈愛のこもった……目だと良いな。

 その目に何か感じたのか、明らかに挙動不審な態度の赤髪のウェイトレスさん。


「は、はあ……あの、なにか」

「いや、何かじゃなくて注文をね……しっかりしないとお給金減らされちゃうよヴァト君」

「そうですよ、無駄遣いと約束を破った件と、何よりシノ様を危険にさらしたお仕置きなんですから……しっかりと稼いで下さいね」


 氷点下のネイルの視線に怯えるヴァト君……そうなのだ、この美少女は、私のスキル変装ディスガイズで見事に男の娘と化したヴァト君なのだった。

 変装ディスガイズを他者に強制する場合、術者との精神力判定で負けると十日は自力で解除できないのだ。

 で、私の基礎精神力はヴァト君の1.8倍……結果は言わずもがなである。


「……て、おい、彼女、あのときのガキか!?」

「これはまたずいぶんと可愛ら……ああ、いえ、似合ってますよ」

「ふっふっふ……そうでしょうそうでしょう、私の自信作ですよ。特にこの制服は苦労しました」


 おっきな胸をより強調するようエプロンスカートは胸のすぐ下までしか無く、エプロンは可愛いフリル付きのオレンジの物だ。

 ……まあ、いわゆるアンナミラーズ風の服を作って着せてあげたのだ。

 しかも変装ディスガイズは名前こそ「変装」だが実際はMPも消費する魔法に近く、「変身」と言った方が良い技能だ。

 大本の容姿こそ、ほぼいじってないが体型は女の子っぽくなり、胸だって本物(?)である。


 この服を着せたヴァト君を『幸運の豆(フォーチュンビーンズ)』亭にアルバイトの面接に連れて行ったところ一発採用、1日目からお客の間に大きな衝撃が流れ2,3日も経つ頃にはヴァト君目当ての来客で昼間から客が溢れる始末。

 無理も無い、貴族のように上等な布地のメイド風の服、(しかもミニスカ、おっぱい強調仕様)を着た美少女が接待してくれるのだ。


 アルバイト初日こそ乱暴な口調、態度だったヴァト君だが、それも花のような美少女の外見ではギャップ萌に変換され、セクハラを受けまくる結果になり……

 それに懲りてなるべく地を出さないように努めれば……今度は、良いところのお嬢さんが色っぽい服で接客してくれる……そんな妄想を抱かれてアルバイトの終了時間に合わせて花束を持ったむさい大男達に出待ちをされる始末。


 今までそういう概念の無かったファリーアスの男達に、『萌え』文化を花開かせたヴァト君であった。


「し、シノさんそろそろ勘弁してよ」

「そうねー……今日で一週間だし、誰にもまだばれてないようだしね……約束通り変装ディスガイズは解除してあげる」

「……でももったいないですね、こんなに人気なのに……その微妙にエッチな服も似合ってますよ」

「いや……本気で勘弁してネイル姉……男としてのアイデンティティーが崩壊寸前なんで」

「ほう……それはお風呂で思わず自分のおっぱいをまじまじと見てしまって、鼻血を吹き出しかけた事とか……ですか?」

「わぁぁぁーーーーー!!!わぁーーーーーっ!!わぁーーー!!!!」


 ネイルの言葉を思わず大声を上げて阻止するヴァト君。

 ……というか、そんな美味しいイベントがあったのか。なぜその時に私を呼ばない。


「まあ、とりあえず今は注文を取ってよ。解除は今日の夜、宿の部屋でね?」

「頼むよ、シノさん……いやほんとマジで反省してるから」

「ふふ、今日のアルバイトを無事に終えたらね。じゃあまずはエールをジョッキで三つとオランのジュース一つ、クック鳥の唐揚げと肉野菜炒めと……」


 軽口を叩きながらヴァト君と談笑する私達を、周りの男性客達は嫉妬の視線で見つめている。

 

「おいおい、あいつらなんだ?俺たちのヴァトリーちゃんにあんなに気安く!」

「ヴァトリーちゃんもいつもの氷の微笑アイススマイルが何となく柔らかいぞ」

「……あの黒ずくめの美女の方は……シンプルだが上等の服だぜ?もしかしたら没落した元貴族のヴァトリーちゃんの貴族仲間か!?」


 なんだか彼らの中ではそういう設定になっているらしい。

 私達とヴァト君がどんな関係なのか妄想をたくましくしているようだった。


「……すると何か、


  『ほほほほ……私の愛を素直に受けていればいくらでも援助差し上げていましたのに……

  こんな所で給仕などしなくてすみましたのよ?』

  『いけません、○○さま、女性同士の……なんて、神様がお許しになりませんわ』

  『何を仰るの?私の愛は真実よ?神様だってお許しになるわ』

  『ああ……○○さま……』


みたいな展開かっ!!」


「百合!百合萌!!」

「おにゃのこ同士キターーーー!!」

「ここは暖かく二人を見守るということで」

「「「「「異議無し」」」」」


 うん、もうちょっと小声にしないと全部丸聞こえだよ。おっちゃん達。


「…………本当にお願いします、そろそろいろんな意味で限界です」


 憔悴した顔で訴えるヴァト君。

 ヴァト君にもしっかり聞こえていたみたいでした。


         ※


 その後、ヴァト君が着ていたアンミラ風給仕服は「アンナ・ミラーズ伯爵夫人がデザインした飲食業に働く婦人のための仕事着」として紹介され、サザンの街に一大ムーブメントを巻き起こしたのであった。




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