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偽クノイチ異界譚  作者: 蒼枝
偽クノイチ、ファンタジー世界へ
15/34

お庭のダンジョン(3)

やっとダンジョン突入。

ディーンさんがいい人になってしまった…

「じゃあね、ヴァト君……どの位かかるか分からないから、とりあえずこれだけ預けておくわ」

 

 ダンジョン出発の前日、宿で…私はそう言いながらヴァト君の手に金貨を5枚握らせた。

 食費を基準に換算すれば日本円で約500万円相当だ…もし、私たちに何かあってもしばらくは悪事に手を染めなくてもやっていけるはず。

  

「シノさっ…!! 何だよ金貨って!金銭感覚どうなってんだ!?」

 

 無造作に自分の手の中に置かれた金貨に目を剥き、声を上げるヴァト君。

 ……不良少年に金銭感覚の有無を疑われました。

 

 「もちろん、全部使えっていうのではないわよ?これは私たちに何かあった時のための保険。戻ってきたら余分は返して貰うわ、もちろん」

「それにしたって多すぎだっつーの……」

 

 急に下を向いて黙ってしまうヴァト君…どうしたんだろう。

 

「なぁ…そんなに今回の調査ってやばいのか?」

「なぁに、心配してくれてたの?」

「ちっ、ちげぇよ!あんたが死んじまったら、また住む所無くなるからっ!」

 

 ヴァト君、普通そういう事は当人には言わないものだよ?…可愛いやつめ。

 私にはショタの気は無いはずなんだが…ちょっとなんかきた。

  

「大丈夫だよ~おねーさんは強いから。ちゃんと戻ってくるからいい子で待っててね?」

 

 ヴァト君の頭を胸にかき抱いて頭なでなで。

  

 「だぁ!またそれかよ!こ、子供扱いすんなって!」

 

 む、早くも免疫が付いたか?今回は鼻血が出ていない。

 

「あ、ヴァト兄ばっかりずるい」「ずーるーいー」

「うむ、ローリナもメイディンもどんと来なさい」

 

 腕の中から逃げ出したヴァト君の代わりに二人を招く。

 

「わーいぱふぱふー♪」

「うん、ふかふか。せめてこの位は欲しいの……」

 

 ローリナは私の胸に顔を埋め、ぐりぐり。

 メイディンはふにふにと私の片方の…その、おっぱいを触っている。

 うーん、なぜだろう、ヴァト君にするより気恥ずかしいのは。

 

「同性だし、好きに触ってくれて良いんだが、後3~4年もすれば君たちも自前のがおっきくなるぞ?」

 

「じゃあ、あと4年はぱふぱふし放題!?」

 

 なぜそうなる。

 なかなか離れようとしない二人をネイルが引きはがす。

 

「二人とも、はしたないですよ?それにシノ様…!」

「は、はい」

 

 はしゃぎすぎたかな…怒っちゃった?

  

「……後で私も…して欲しいです」

 

 顔を赤らめてそっと耳打ちするネイル。

 いかん…やはりネイルは別格だった…萌え溶ける…

  

          ※

        

 ダンさん、ディーンさん、ネイル、私、の四人は例の土地の魔法陣ーダンジョンの入り口まで来ていた。

 ヴァト君ら3人がお見送りに来てくれている。

 

「今までの例からしてこの土地の外へは魔獣達は出ないとは思うけど…念の為にこれも渡しておくわ」

 

 ヴァト君に渡したのは一枚の召喚符。

 

「これは…?」

「これはね、私の呼ぶ『忍犬・銀牙』を一時的に召喚し従わせる事が出来る符よ」

「忍…犬?」

 

 ちなみに「銀牙」は例の熊犬マンガが由来だ。

 

「うーん、戦闘訓練を受けた賢い犬、位に思ってて」

「犬、かあ……どのくらい強いの?」

「ええと、ホーンドウルフよりちょびっと強いかな」

「うそ!?Cランク相当ってこと!?」

 

 私のレベルの約3分の1……LV28の忍犬が召喚されるから、実際はもっと強い。

 Bランクの戦士並の戦闘力はあるんじゃないだろうか。

 

「『銀牙』と名前を呼ぶか、符の持ち主に危険が迫れば召喚されるわ…丸一日経つか、召喚を解除するか、戦闘で敗れるまで効果は続くからね」

「……わかった」

 

 これで後顧の憂いは無い。

 ……このとき私はそう思っていた。

    

          ※


 ――地上一階――

     

「……すげぇな……本当に街の中から続いてたんだな」

「失礼だぞ、ダン。シノさんが嘘など付く理由が無いだろう」

  

 あの後、私たち四人は早速魔法陣を使ってダンジョンに潜っていた。

 ここが地上に比べてどのくらいの階層なのか分からないが、とりあえず便宜上、一階、と呼ぼう。

 この階層は私たちが出現した魔法陣のある付近こそ石造りになっており、人の手が入っているが、それ以外は天然の洞窟のようだ。

 壁は岩肌となっていて、通路の幅は、前衛が余裕を持って剣を振るなら一人が精々だろう。

 ダンジョンの内部は真っ暗という訳ではなく、わずかにコケのような物が発光していたが、視界の確保の為ネイルに『コンティニュアルライト』を掛けて貰った。

 

「気にしてませんよ?ギルドでも聞きましたが、街中から直接転移するタイプのダンジョンは珍しいそうで」

「シノさん…なんと心の広い…ええ、そうですね。双方向に自由に行き来できる魔法陣がダンジョンと直接つながっている、というのは危険すぎます。普通ならまずやらない事ですから。それに…」

「しかしここは…ほぼ天然の洞窟…しかも狭いな。隊列はどうする」

  

 蘊蓄うんちくをたれるディーンさんを無視して隊列の相談をするダンさん。

 

「もちろん唯一、バックラー金属鎧ブレストプレートをつけた私が先頭だろう」

「……まあ、妥当だな。おディーンの長剣はそもそも前衛じゃなきゃ意味がねぇしな…俺はクロスボウとダガーが獲物なんだが、姐さん達の戦闘スタイルはどんなんだい?姐さんのクラスはクノイチって言ったっけか、聞いた事がないクラスだが」

「そうね、私もどちらかというと前衛なんだけど、中距離も出来なくはないわ…ネイルはオールラウンドね」

「ふむ、じゃあディーン、俺、獣人の嬢ちゃんの順で、最後尾の後方の守りを任せていいかい」

「分かったわ」

 

 幅2メートルほどの通路を隊列を組んで進む私達。

 10分ほど進むと道がY字に分かれている。

 右手の方がわずかに上っているようだ。

 

「とりあえず右手に行って登ってみようぜ…ここが自然の洞窟だとしたら登っていけば外につながっているかもしれない」

「そうね、ダンジョンの所在地が分かればそれも重要な情報だしね」

 

 私がダンさんの言葉に同意すると他のメンバーも否は無いようだったので右手方向へ進む。

 すると、今度は5分も行かないうちに洞窟に明かりが差し込んできた。

  

「これは……」

「外、ですね……まさか本当に外に続いているとは」


 拍子抜けしたようなディーンさん。


「外は…森、だな…子鬼ゴブリン巨大蛞蝓ラージスラッグ翼刃蝙蝠ブレードバットあたりはここから迷い込んだか」

「外がどのあたりか分かる?ダンさん」

「流石になぁ…植生からして隣国までには行ってないみたいだが」

「…凄いね、これだけでそこまで分かるんだ」

「とりあえずさっきの分かれ道を反対に進んでみるか?」

「そうね」

 

 振り返り、ダンジョンの入り口を見たダンさんが何かに気付いたように急に足を止めて地面を調べだした。

  

「……なるほどなぁ…魔物除けの陣が反対方向に書かれてやがる…一度この洞窟に入った低レベルな魔獣はなかなか出れない仕組みか」

「魔物除けの陣?」

「ああ、結界石と違って弱い魔物や魔獣にしか効果がないが、効果は半永久的だ…それなりの魔術師にしか敷けないはずだがな」

「……ダンさんを雇って良かったわ。ダンジョンだけじゃないのね、詳しいのは」

「まぁ、伊達に探索者サーチャーを名乗ってねぇさ」

 

 あれ、ディーンさんが泣きそうな目でこっちを見てるけど、どうしたんだろう。

 

「ディーンさん」

「…なんだい、ネイル君」

「…ウチの主はいろいろな意味で手強いですよ」

「こ、これからだよ僕の真価は!」

  

 何か分からないけど気合いが入っているな、ディーンさん。

  

「さて、戻ってもう一方の道に行きましょう」

 

 私たちは再び洞窟の中へと足を踏み入れた。

 ネイルにお願いしてコンティニュアルライトをかけ直す。

 しばらく歩いてY字路まで戻ってきた。

 ここを今度は反対側へと進む……しばらく歩くとキーキーと耳障りな声が聞こえてきた。

 

「気を付けな……ゴブリンの鳴き声だ」

「ゴブリン程度何ほどのものか!」

「声がでけぇよディーン、数がいたり上位種がいれば……負けるとは思わんが面倒だ」

「ふ、ならば私一人で蹴散らしてくれよう!シノさん、見ていて下さいっ!」

「えっ?あっ……」

 

 ディーンさん、行っちゃった……

 

「あの馬鹿…悪いな姐さん、普段はもう少しまともなんだが…いいとこ見せたいんだろう」


 仕方なく残りの3人もディーンさんに早足で続く……すると、教室の倍くらいある広い部屋に出た。

 

「いくぞっ! 必殺のぉぉぉぉぉ!! イヴィル・ブレイカァァァァァッッ!!」

 

 そこではディーンさんが20数匹のゴブリンを相手に大立ち回りを演じていた。

 流石さすがBランク、全くゴブリンを寄せ付けない強さだが……

 

「ネイル、あそこ、石筍せきじゅんの影…魔力の気配がする。吹っ飛ばして」

「はい、シノ様」

  

 ネイルが取り出したのは今回の新兵器、ファイヤーのおボール

 

「あ?おい、こんな時に何をふざけて…」

火炎球ファイヤーボール

 

 ネイルが唱えたキーワードによってファイヤーのおボールはネイルから必要な魔力をくみ上げ、火炎球の形に構築し魔法杖おたまの先からそれを撃ち出す。

 その威力は『魔道具効果上昇』によって1.2倍に増幅、『家事道具習熟』によって15%プラス、お玉の装備効果によってINT+1されており、それら複数のブースト効果によっておよそ1.4倍にまで上昇している。

 つまりー

 

 どっごぉぉぉぉぉっんっ!!

 

 ディーンさんの背後から魔法を放とうとしていたゴブリンメイジは、その周辺のゴブリン数匹と共に爆炎へと消えた。

 

「……嬢ちゃんは本職の魔術師じゃないんだよな?」

「ええ、私のクラスは『ルミナスメイド』です」

「それにしちゃあ、本職も真っ青な威力だと思うんだが」

「シノ様が私の特性に合わせて作って下さった魔法杖おたまですから」

「……創造者ザ・クリエイターの二つ名は伊達じゃない訳か」

「ちょ…ダンさんっ!何、その恥ずかしい名前っ!」

「いや、姐さんの名前は最近有名だぜ?短期間に大量のマジックナイフを作り上げたり、全く新しい魔導具を作ったり…その筋の者達からは創造者ザ・クリエイターって呼ばれてるって聞いたな」

「中2病的二つ名は成人式過ぎた女子には精神的ダメージがきついの……」

 

 私が思わぬ精神的ダメージに落ち込んでいるとディーンさんが戻ってきた。

 

「シノさんっ!見ていただけましたか!僕の勇姿を!!」

「あほぅ」

 

 がこん!

 

「いっ…痛いな、何をするんだダン?」

「げんこつ一発で済んで幸運と思え…依頼人の姐さんがゴブリンメイジを見つけてくれて、嬢ちゃんがファイヤーボールでぶっ飛ばしてくれたんだ…お前、後ろから魔法で狙われているのに気付いてなかったろ?」

「うっ…」

「いつも通りでいいんだよ…偵察も作戦も無しで突っ走りやがって…俺たちの仕事の第一は『安全』だ」

「……悪かった」

 

 何か知らないけど、ディーンさんは張り切りすぎて暴走したらしい。

 ダンさんに諭されて反省しているみたいだからもう大丈夫だろう。

 …ん?これは…宝箱?

  

「宝箱…たぶんゴブリン達の集落だったのね…開けちゃうわよ?」

 

 『宝箱罠調査』…発見。ポイズンニードルか。解除…開けますよっと。

 

「宝箱?だめだ姐さん!俺に任せー…て、あれ?罠、無かったのか?」

「いえ、毒針があったけど解除したわ」

「姐さん、宝箱の罠まで解除できるのか…」

「んー…というより宝箱の解除しか?」

 

 シークレットドアの発見とかダンジョン内のトラップとかには無力だ。

 「戦オン」には無い要素だったからね。

 

 宝箱の中身は……銀貨が20枚ばかりとヒールポーション(小)か。

 

「たいした物無いなぁ…良かったらみんなどうぞ」

「…いいのか?…そういえばダンジョンで見つけた物の分配を相談してなかったか…依頼者が仲間だとは思わなかったからな…」

「うーん、基本、お金とかポーションの類はそちらが持ってっていいわ。その代わり宝石とかマジックアイテムが出たら相談して分けましょ」

「…いいのか?俺たちはそれ以外にも報酬がもらえるんだが」

「かまわないわよ」

「すまねぇな、助かる」

「いえいえ…さて、一通り戦果を回収したら行きましょうか…地下へ」

 

 ゴブリンの住処のすぐ奥に地下へ潜る階段が見えていたのだ。

 私たちはそこに足を踏み入れた。

   

          ※

          

 ――地下一階――

 

 地下に降りると、そこは明らかに人の手が入った空間だった。

 滑らかに削られた石壁、一定の広さに整えられた通路。


「急に広くなったわね…それに通路が人工物のよう」

「ああ、こっからが本番って事なんだろう」


  よし、気合いを入れ直すか。 


「隊列を組み直した方が良いかな?ここなら二人前衛が並べるでしょうし」

「…だな、姐さんディーンと一緒に前衛をいいか?」

「ええ」

「何を言うんだダン!シノさんを矢面に出すなんて!」

「あら、私が隣じゃお嫌?」

「いっ!いぇっ!!そうではなく……」

「じゃ、決まり、ね?」

 

 という事で、ここから先は前衛が私とディーンさん、中衛がダンさん、後詰めがネイル、と言う形になって進む事になった。

 地下の広さは地上部分とは比べ物にならないほど広く、かつ、入り組んでいた。

 階段を下りてからすでに30分ほど私たちは歩いていたが、階段も敵にも会ってはいなかった。

 緊張が途切れかけたその時…真っ先に異変に気が付いたのはネイルだった。

 

「シノ様……この先、何か、います」

「ん、了解」

「うん?俺には特に音も聞こえないが…何で分かった」

「ダン様、私たち獣人は人族より嗅覚が鋭いのです…何か生臭い匂いがします」

 

 果たして。通路の先にはネイル言う所の生臭い匂いの元がいた。

 

「こりゃあ…厄介なやつだな。人喰長虫マンイーターワームだ…強さはせいぜいCクラスだが、再生能力を持っている。一気に仕留めないと回復していくぞ」

 

 私たちの視線の先には3匹の巨大な…胴の回りが人の頭ほどもあるミミズが蠢いていた。

  

「うぇ……精神的にきついわね…さっさと終わらせましょ」

「おうっ!」

 

 私とディーンさんが飛び出し人喰長虫マンイーターワームに斬りつける。

 私は技能を使うまでもなく、左右の二刀を一閃し、それぞれ一匹ずつワームの頭を切り落とした。

 もう一匹はディーンさんの『強撃』の一撃とネイルの『闇薙やみなぎの包丁』による『光弾』で止めを刺された。

 

「お見事、さすがね……どうかした?」

 

 私はなぜか呆気にとられたような表情でこちらを見ていたディーンさんに声を掛けた。

 

「いや…ネイル君から聞いてはいたが…予想以上に鮮やかな手並みだったので」

「ディーン様、私は言ったはずですが。『我が主はもっと規格外です』と」

「そうだな、いや、すまない…シノさんの腕は多分僕より…数段上だろう」

 

 自分と仲間と敵の力量を客観的に見る事が出来るのは大切な事だ。

 その点、ディーンさんはやはり優れた冒険者なのだろう。

 自分より年若い女の力量を素直に認める事が出来るのだから。

 

「さあ、討伐部位を取るんでしょ?グズグズしていると時間が……あれ?」

 

 人喰長虫マンイーターワームがすぅっ…と消えていく。

 

「ああ、ダンジョンに埋め込まれた召喚機能で呼ばれた魔獣や魔物は、死ぬと元の場所や世界に戻るんだ」

 

 ダンさんが説明してくれる。

 

「ゴブリンは外からダンジョンに入ってきて住み着いたから消えなかったのね」

「そう言う事…その代わり魔石は落としやすいな。『魔力で縛られていたのが解放されるから、余った魔力が凝って魔石になる』、って説があるが」

 「なるほど…これかな?」

 

 以前拾ったデス・マンティスほど大きくはないけど似たような物が落ちている。

 

「おい、言った先からか…幸先良いな」

「いいよ、どうぞ?」

「いいのか?」

「この位の物はあんまり使わないし」

「じゃ、ま、ありがたく」

 

 私たちが地下2階への階段を見つけたのはそのすぐ奥での事だった。

 

 

お庭のダンジョン編、長くなってしまいました。

もう少しおつきあい願います。

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