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偽クノイチ異界譚  作者: 蒼枝
偽クノイチ、ファンタジー世界へ
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お庭のダンジョン(2)

まだダンジョンに潜れません。

新しいメンバーが二人参加。

ヴァトラくんが変なフラグ立ててます。.

 私の所有する土地に謎のダンジョンの入り口があることが判明してからさらに十日。

 私は自分の土地の安全を確保するためダンジョンの探索を行う事にした。

 しかし、問題はこのダンジョンが全く未知の物であった事だ。

 ギルドに報告した所、その扱いを巡って紛糾したらしい。


 メリットとしては冒険者が大量に集まり、経済が活性する可能性がある事。

 デメリットとしてはあまりにもその入り口が街中にあり、これを開放した場合、住人の安全が確保できない事。

 結局、個人の土地の中にあると言う事で私の意向が重視され、私を含む数名の者達でどんな規模のダンジョンで危険度はどのくらいなのか探索する事になったのだ。

   

 ちなみにこれは依頼という形になり、依頼者は私、だ。

 というのも、ギルドはこれをランクCの依頼としてギルドで出そうとしたのだが、私がそれを承知しなかったのだ。

 いくら地上に彷徨さまよい出た魔獣がランクの低い物ばかりであったとしても、未知迷宮は出来うる限り最大の手段を講じるべきだと主張し、しまいには「私が依頼人となり報酬を出します」と言ってしまったのだ。

 …いや、ゲームではその時点で買える最強の武器防具を買ってからじゃないと先に進まないタイプなもので。

 それに加えて報酬に出せる資金が潤沢にあった事も理由だった。

 商工ギルドから『水蜘蛛・改』の販売が開始され、売れ行きも好調、私の手元には利益の7割、約金貨90枚が入ってきたのだ。

 その資金を使い『ランクB以上限定』の依頼としてギルドで募集を掛ける。



 『ランクB お庭のダンジョン探索 

  市内の元貴族の土地にダンジョンの入口が発見された。

  新しくここを購入して屋敷を建てたいと思っているが、その前にダンジョンの脅威を取り除きたい。

  依頼達成はダンジョンの最奥までの探索、もしくは脅威の排除

  探索だけであれば一人金貨5枚、脅威を排除できれば一人金貨8枚を報酬とする。

  当方にて探索員2名を確保しているので、追加要員としてランクB以上を2名募集する』


   

 これによって外部戦力を確保し、さらに従来戦力も強化することに。

 具体的にはネイルに新しい武器を用意してやる事にした。

 例によってポルテの店で鍛冶場を借りて作成に入る。

       

「…お玉、ですか?あのスープをすくう…」

「そのお玉です」


 物理攻撃の武器としては『闇薙の包丁・紫乃壱式』で十分だと思われるので、魔法が有効な敵を想定して魔法使用に特化した武器…ロッドを作ろうと思ったのだが…

 ネイルの固有スキル『家事道具習熟』がすばらしく使い勝手が良いので、どうせならとロッドも台所用品にしてはどうかと思ったのだ。

 幸い「戦オン」はネタ武器の作成も非常にバリエーションが多く、他にも『ハリセン』とか『隣の晩ご飯しゃもじ』とか作れるのだが。

      

「素材は…魔力と相性の良い『ヒヒイロカネ』と『白備長炭』で…火種を『カグツチの神火』を使って…」

     

 ネイルのレベルが上がった分、レベル制限が緩やかになるし、高級素材を使えるな。

        

「あああ、またそんな高そうな素材を…」

       

 先行投資には資金を惜しみませんよ。

 ましてやネイルの武器ですから手は抜きません。

   

「『小型武器作成』実行と」

    

 『鬼神の鎚』に魂を込めて、とろけた金属を叩き続けると…やがてお玉の形になって固まった。

 全長50センチはあろうかという少々大きめのお玉だが。

 再鍛錬は…2回か。まあ、メインは魔法だから攻撃力が多少低くても良いか。

 付与する魔法は…紅玉ルビーを触媒にして火炎球ファイアーボールにしようと決めていたので、事前に質の良いスタールビーを買ってある。

 所持品欄から直径2センチほどもあるスタールビーを取り出す。

      

「…シノ様、まさかそれ…」

「ん、今回の付与に使うよ?」

「…ちなみにおいくら…」

「んー…金貨3枚」

     

 あ、ネイルが貧血を起こした…

      

「ヴァトラ、ネイルに水を飲ませてあげて」

   

「しょうがねぇなぁ……ほら、ネイル姉、しっかりしなよ」

「うう、金貨3枚ぃぃ~」

     

 ヴァトラ達はとりあえず新居が出来るまで、私たちと同じ宿屋に部屋を一つ取って住まわせている。

 ここ数日ですっかりネイルともうち解けたようだ。

     

 ネイルはヴァトラに任せて最後の仕上げを…スタールビーを握りしめ、魔力を込める。

 やがてルビーは深紅の輝きを放ち始め…それを今度はお玉に注ぎ込む。

           

「完成! これには『紫乃弐式』のナンバリングを与えよう!」

     

 壱式と同じくその柄には燦然と輝く『紫乃』の文字。

 これに檜の柄をつけて、まだ腰が抜けた状態のネイルに渡す。

   

   

 『ファイヤーのおボール・紫乃弐式』

   レベル制限 20以上

   種族制限 猫系獣人のみ

   クラス制限 メイド系のみ

   攻撃力 25

   魔法攻撃力 82

   魔力消費 30%減

   身体付与 INT+1

   技能 『火炎球ファイアーボール』使用可

   特殊能力 火力調節

   

「こ、これ…またとんでもない効果が…?」

「んー、それほどでもない。魔力消費が30%減るっていうのと、ファイヤーボールが使えるって事くらいかな」

「十分規格外です…どんなお玉ですか」

「まあ、『家事道具習熟』と『魔道具効果上昇』を持っているネイルにはこの方が相性が良いと思ってね」

「シノ様…そこまでわたくしごときの事を…」

     

 涙目になって感激しているネイル。可愛いなぁ、もう。からかいたくなっちゃう。

   

「うふん。お礼なら今夜ベッドでね…」

    

 ネイルの額をかき上げて、ちゅ、と軽いキスを落とす。

    

「しししし、シノ様っ…こ、子供達が見ていますからっ…」

    

 後ろで見ていたヴァトラ、メイディン、ローリナを気にするネイル。

     

「…ベッドでお礼って…今言った方がいいじゃんなぁ?」

        

 キョトンとして何を話しているのか理解していないヴァト君。

      

「メイディン、ヴァト兄…本気で言ってる?」

「ヴァト兄は本気よ…ローリナ」

       

 どうやらそっち方面では少女達の方が大人のようだ…二人とももうちょっとヴァト君に優しくしてあげて(泣)

 さて、武器はこれで良いとして…ネイルに『治療』『光術初級』『道具効果上昇』『魔道具効果上昇』の四つともセットするとなるとスロットが一個足りない。

     

「ネイル、これも装備してみて」

      

 自分の腰から外して渡したのは『守護の印籠』

 スキルスロットを+2する効果がある薬入アクセサリーれだ。

      

「これは…?」

「守護の印籠と言ってね、スロットを増やす事が出来るアクセサリーの一種」

「…そんな物があったんですか…あ、でもこれをいただくとシノ様が」

「大丈夫、『クノイチ』の私はまた別に持っているからね。同じのを」

「は、はい…ありがとうございます」

      

 キャラクターごとに一つしかもらえないイベントアイテムだが、私は4キャラ分、4個を所持していた。

 残り3つを使い回せば一つをネイルに渡した所であまり支障はない。

 ともかく、これでネイルのスキルスロットは+2となり、実質5スロット使えるようになる。

     

「そうだね…スロット一つ余るけど、あとは…」

「奴隷時代に覚えた防御力上昇のスキル、『ストーン・スキン』がよろしいかと思います」

「ん、そうだね、セットしてみて」

「はい」

 

 【ストーン・スキン】【治療】【光術初級】【道具効果上昇】【魔道具効果上昇】

 

「すごい…本当に5つセットできました…」

「これでネイルについては完璧かな」

 

 うん、今のところベストな装備だ。

 

「すげぇなあ…貴族の土地を買おうってだけはあるよな…金持ちなんだな、シノさん……ところでさ、」

「ヴァトラさん、あなたが本当にシノ様に仕えるというのなら、シノさん、ではなくてシノ様、もしくは御当主様、ですよ?」

「う…分かったよネイル姉……し、し、シノ様……って、なんか気恥ずかしいよっ!」

「ふふ、今はまだいいさ。ヴァト君の仕事もまだ決めていないしね…で、なに?」

「俺にも…何か武器貸してくんないかな?ダンジョン潜るんだろ?手伝うからさ」

  

 ものすっごく目を輝かせてこちらを見つめるヴァト君。

 

「うーん、今回はダメ。どこまで深いダンジョンなのか分からないし、そんな状況で君を守りながら行くのは危険すぎるわ…その内、ギルドに登録して、あなたの強さを客観的に測れるようになったらレベルアップに付き合ったげるから…今回は我慢してね」

「えぇ~?ずりぃなぁ、ネイル姉ばっかり」

「ヴァト兄、遊び気分だと危ないと思う」

「一方的にお世話になっている身だという事を自覚した方が良い」

「う……最近つっこみ厳しいなお前達」

 

 妹分二人からの鋭い指摘にたじたじのヴァト君。

 

「あはは、まぁそういう訳だから今回はこれで我慢してね?」

 

 ヴァト君の頭を胸に抱いて、いい子いい子してあげる。

 

「おおお…これが…伝説のぱふぱ……じゃなくてっ!ちょっ……!こどっ、子供じゃねぇんだからやめてくれよっ!!」

「ヴァト兄、真っ赤になって鼻血出しながら言っても説得力無い」

「しかたない、あれだけは私たちじゃ無理だし…ヴァト兄、意外とムッツリ……」

 

 自分の胸と私の胸を見比べて、ため息をつくメイディンとローリナ。

 いや、羨ましげに見られるほどおっきくは無いですけどね……

 

「ちっちがうぞお前達っこれは不可抗力というかっ…」

「ヴァト兄のえっちー」

「えっちー」

「やかましいっ!てめぇらっ!用事が済んだらとっとと帰れ!」

        

 …みんなまとめてポルテさんに怒られました。

                       

          ※

        

 さらに2日後、私はギルドから呼び出しを受けていた。

 どうやら私が出した依頼の受け手が決まったらしい。

 お昼過ぎに顔合わせという事で、私とネイルがギルドまで出向く事に。


          ※


 ギルドに付くと受付嬢のミシェラさんが声を掛けてくる。

「シノさん!来てますよ依頼を受けてくれた方」

「ありがとう、どちら?」

「食堂で待ってるそうなので案内しますね」

 

 食堂にミシェラさんと連れだっておもむくと、男性二人がエールを飲みながら私たちを待っていた。

 

「ダンさん、ディーンさん、依頼主をお連れしましたよ~」

 

 ミシェラさんの呼びかけに席を立って近づいてくる二人の男性。

     

「こちらがご依頼人のシノ・カグラ様、そしてこちらが今回の依頼を受けた冒険者…」

「ダン・シーカー、レベル25、ギルドランクBの探索者サーチャーだ」

「ディーン・パウラ。レベル22…ギルドのBランク、聖騎士、です…」

   

 黒髪のダンディなおじさまが探索者サーチャーのダンさん。

 蜂蜜色の金髪のイケメン青年が聖騎士のディーンさん。

  

 シーフ役とタンク役って所かな。

 となるとパーティの役割は…


 アタッカーのクノイチ

 回復、攻撃、魔法攻撃のバランスが良いネイル。

 ダンジョン内の仕掛けに詳しそうなダンさん。

 おそらくは回復とタンクを兼ねる事が出来るディーンさん。


 うん、バランスも良い。なかなか良いメンバーだ。

   

「よろしく、助かるわ…私が依頼人のシノ・カグラ。こちらが私の…」

「シノ様のメイドをいたしております、ネイルと申します」

「よ、よろしく……シノさん…あのっ!」

 

 急に大声になるディーン……どうした?


「はい?」

「シノさんはご自分の土地にダンジョンの入り口が出来てしまったとか…お困りでしよう!!大丈夫です!きっと私が…魔窟に巣くう魔獣共を一匹残らず駆逐し!あなたに安寧を捧げて見せます……」

 

 がしっと私の手を両手でつかんで手の甲に口付けるディーンさん。

 うわ、この人残念なイケメンか?

   

「……すまねぇな、依頼人さんよ…まあ、一種の病気だ。腕は確かだから我慢してくれ」


 あ、こっちのダンさんはまともっぽい。

 

「…で、俺らと組む二人ってのはどいつなんで?」

「あ、私たち二人です」

「…あん?」

「だから、私とネイルが…」

「…あー…冗談?」

「だからー」

「シノ様、ここはお任せを」

   

 私の代わりに前に出るネイル。

 

「……どうぞ、私のギルドカードです…全部表示状態にしてありますので、ご覧下さい」

 

 カードをダンさんに差し出すネイル。

 

「ふー…カードが何だってん…だ?」

「どうしたんだ、ダン?」

 

 脇からカードをのぞき込むディーン。

 

「ちょっとまて…レベル20でMP1105って魔術師の倍以上じゃねぇか!ありえねぇだろ!?」

「なっ…!?」

 

 驚愕の表情の二人。そこにさらにネイルが追い打ちを掛ける。

 

「ページをめくって貰って…スキル欄も見て貰って良いですよ」

「スキル欄…?……!…ま、まてよ…なんでスキルスロットが五個・・あるんだ!?」

「レベル20なのに五個?おかしいだろ!?」

「…言っておきますが、我が主…シノ様はもっと規格外です。あなた方が足手まといになる事はあっても、その逆はありません」

「言い過ぎよ、ネイル…ごめんなさいね、お二人にはとても期待しています。私たちはそもそもダンジョンを本格的に探索するのは初めてなので…屋外の戦闘とは勝手が違うでしょうし」

 

 黙ってしまった二人……うーん、萎縮されてやっぱりやめます、とか言われると困るんだけどな。

 

「……そういえば聞いた事がある」

「何か心当たりでもあるのか?ダン」

「最近やたら強い二人組の女商人が、あちこちで魔物を狩りまくっているって……聞いた事無いか」

「…あ、海竜を倒したって噂もあったな……確かカグラ…屋…ん?カグラ?」

    

 自己紹介した時の私の名前に気が付いたらしい。

 しかし、結構噂になってたのか…目立ちたくないんだけどな。

   

「……ないしょ、ですよ」

   

 私はそっと人差し指を口元に立てた。

 


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