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偽クノイチ異界譚  作者: 蒼枝
偽クノイチ、ファンタジー世界へ
13/34

お庭のダンジョン(1)

書いてみたかったダンジョン物です。

今回はその導入部分になります。

※なぜか行間を1行空けてもアップロードすると詰まってしまう…

原因分かる方教えてください…

縦書きモードで読むとちゃんと1行空いている…?訳分からん(泣)

※2 空き行に文字を打ち込んで消し、スペースを入力すると直りました。

   理由は不明…めんどくさい。

 さて、水上の交渉の翌日。

 私達はギルドに海竜とキラー・オルカの討伐証明部位の納品に来ていた。

                         

 あの後、付近の海水をまるごと雪女達と協力して凍らせ、バラバラになって海に沈んでいこうとしていた海竜の遺体を一つの巨大な氷の固まりにして所持品欄にしまい込んだのである。

 魔力がほぼ無限であるからこその荒技であった。

 むしろ回収よりも部位を傷つけず氷の中から取り出す事に苦労した…

                                    

 それらをギルドに提出した時には、例によってミシェラさんに「二人でAランク魔獣を討伐って…無茶はしないでくださいとあれほど…」と怒られた。

ちなみに今回納品した『海竜ドラゴン心臓ハート』やキラー・オルカの討伐証明部位の『オルカのヒレ』は全部で金貨7枚と相成った。

 さらにはギルドランクも私とネイルはそれぞれBランクとCランクにランクアップする事になった。

                                  

さらに半月後。

 私は『水蜘蛛・改』50組を制作して商工ギルドへの納品を終え、暇をもてあましていた。

 本当は2~3日で作れたのだが今後の事も考えて半月かかった事にしておいた。

 それでもこの世界の常識からすれば異常な制作速度らしいが…

                      

「そうだ、土地を見に行こうかな」

                           

 目を付けていた土地は商工ギルドから3割引で無事購入した。

 海竜の報酬もあったので即金で購入でき、名実ともに私の土地となったのだ。

 まだ廃屋が残っていたり、庭が荒れ果てたりしているが、それらをちょっとずつ片付けて屋敷を建てる下準備をしよう。

                     

         ※

                      

「これはまた…予想以上に荒れているねぇ」

                    

 ネイルとともに購入した土地を見に来た私は、その様子に目を見張った。

                  

 ちょっとした野球場ほどもある敷地の多くは藪に覆われ、がれきが散乱している。

 元は見事な噴水だったと思われる物は半壊して、濁った水の溜まった奇怪なオブジェのようになっている。   

 広い土地を覆う塀も所々崩れ落ち、出入りも簡単に出来そうだ。

 そして…これが元々は貴族の屋敷だったのだろう、白壁で覆われた2階建ての煉瓦作りの建物はその3分の1ほどが崩れ落ちていた。

                       

「これは…整地に時間がかかりそうですね」

                  

 ネイルも周りを見渡して半ば呆然とつぶやいた。

 さて、どうしようか、と周りを見渡すと…おかしな事に気が付いた。

 薮の一部が何かに踏み固められたようになっているのだ。

 最近、ここを出入りした者がいる…のかな?

 踏み固められた跡は、うっすらと屋敷に続いているように見える。

                    

「ふーん、見てみようか」

                     

 私達は廃屋となったはずの屋敷へ足を踏み入れた。

 屋敷の中は窓がツタや薮で覆われていた為思ったよりも暗い。

                

「ネイル、明かりお願い」

「はい、『ライト』」

                         

 私達の前方3メートル、高さ2メートル位の所にこぶし大の光の玉が出現する。 

 明るさは白色電球ほどもあって十分だ。

 このライト系の魔法は『戦オン』には元々存在しないので私は使う事が出来ない。

 ネイルが光属性の『ルミナスメイド』になったおかげで本当に助かる。

 ネイルは『ルミナスメイド』になってから、それまでの不遇なスキルを取り戻すかのように有益なスキルを多数覚えた。

 覚えた順にまとめると

                       

 『治療』傷薬を触媒にその約3倍の治療効果を与える。

 『光術初級』(ライト、コンティニュアルライト、ホーリーライト)

 『道具効果上昇』消費アイテムを使用した時、効果を1.5倍にする。

 『魔道具効果上昇』魔法の品物に込められた効果を1.2倍にする。

                   

 の4種類。

 特に『治療』と『道具効果上昇』の併用は、もはや中級回復魔法レベルである。  

 更に、ネイルはレベル20になってスキルスロットが3個になった為、

 【治療】【光術初級】【道具効果上昇】

の三つを常時セットしている。

              

「これは…使えませんね。今にも崩れそうです」

             

 明かりに照らされた屋敷の中を確認するネイル。

 玄関の壁には大きくひびが入り、所々崩れている。

                

「そうね…いったん撤去しないと」

               

 私がそうネイルに答えながら更に奥の部屋に入ろうとした時、

        

 ヒュッ

                

 という風を切る音がした。

 そのまま放っておけば、私の頭部に当たったであろうそれを、左手で柔らかく掴み取る。

 それは鶏卵大の石だった。

              

「ふうん…なかなか上手ね。良いコントロール」

        

 私は本当に感心してそう言ったのだが、どうやらこれを投げた相手は馬鹿にされたと感じたようだ。

                   

「ちっ…おまえら何もんだ!?ここは俺等の縄張りだぞ!」

                 

 そう言って廊下の角から出てきたのは13~14歳位の細身で赤毛の少年だった。

 その体躯は痩せている、というよりも、むしろ全体的に引き締まった印象だが…着ている物は一応服の形を成している、といったレベルだ。

                   

「何者だ、と言われてもね…一応、ここの土地と建物の持ち主かな」

「嘘付け…ここの持ち主だった貴族はもう何年も前に死んでいるはずだ」

「だからそこを買い取ったのよ…私がね」

             

 少年は私の言葉の真偽を探るようにこっちをじっと見ている。

                    

「こんな化け物屋敷、使い道がねぇだろう…悪い事言わねぇから出てった方が良いぜ」

「化け物屋敷?」

「なんだ、あんた知らねぇでここを買ったのか?ここの屋敷はな、町中だってのに翼刃蝙蝠ブレードバットやら巨大蛞蝓ラージスラッグやらが突然・・出てきては彷徨うろついているんだぜ?」

「ふーん」

「いや、ふーんて…Fランクのれっきとした魔獣だぞ!?」

「いや、でも…ねぇ、ネイル」

「はい、いまさら、ですね」

                   

 私とネイルはお互いの顔を見合わせる。

 私はもとより、今やネイルもそこらのCランク魔獣なら苦戦することなく倒してのける。

 ましてやFランク魔獣など子猫と変わらない。

                 

「強がりもいい加減しろよ!嘘じゃないぞ!なんでか、この敷地の外へは出て行かないみたいだから…街の奴らが知らないだけだ!」

             

 何か今おかしな事を聞いたような?

              

「外へは出て行かない?巨大蛞蝓ラージスラッグならともかく空を飛べる蝙蝠ブレードバットも?」

「あ、ああ…塀のあたりでいっつも引き返して来て…俺等だって数人がかりでそいつ等を倒しているんだ…でもいつの間にか、また現れる」

「ふう…ん…それで君は何でそんな危険な所に住んでいるの?」

「…住む所が無いからだよ…少なくとも雨風はしのげるし、近くの店先からかっぱらてもここに逃げ込めば大抵追って来ない」

「ふむ…犯罪に利用されるのは土地の所有者として不本意ね」

「…!衛兵に突き出すのか…?ここには大人達から見捨てられたガキらが他にも住んでんだ…それならこっちにも考えがあるぜ」

             

 少年は覚悟を決めたようにごくり、と喉を鳴らすと腰の後ろから古びた短剣を取り出した。

 それをふるえる両手で構える。

                    

「うわー…手入れしてるの?サビでぼろぼろじゃない」

「うるさいっ!さっさと出て行け!」

             

 さて、どうするか。『影縛り』でもしてお説教2時間コースかな?

 等と考えていたら…すでに目の前に少年の剣があった。

                    

「おっと…さすが実戦経験済み」

                    

 20センチほど右前方に回り込んでその刃をかわす。

 と、同時に左腰の『岩切の小太刀』を逆手で一閃。

 澄み切った金属音が辺りに響く。

                    

「な…何だよ!何で剣が…切れるんだ!?」

                   

 少年の足下には短剣の刀身がなめらかな切り口を見せて落ちていた。

 何でと言われても。『岩切の小太刀』には攻撃力低下ソードブレイカーとしての特殊能力があるので、としか。

 ちなみに右腰の『波切りの小太刀』には防御力低下アーマーブレイカー能力が付与されている。

 「戦オン」時代はほぼソロプレイが主だったので、主武装であるこの二本の小太刀には助けられた。 

                   

「あんた…どっかの貴族じゃないのか?」

「ん?極普通の平民だけどなんでさ」

                

 後ろから「シノ様はとても『普通の』とは言えないと…」とネイルのつぶやくのが聞こえるが無視。

                    

「だっ、だってよ!ここの土地屋敷の持ち主だって言うし、メイドなんか連れてるし!」

「んー…どちらかというと成り上がりの冒険者兼商人かな」

「そ、そうなのか…だったら頼む!俺じゃあんたには敵わねぇのは分かった…だが、どうかチビ達の」ドゴォンッ!!「「きゃあああああっ!」」

                    

 チビ達の…家を残してくれと言いたかったのか、その言葉は半ばで遮られた。

 屋敷の二階から聞こえてきた、物が壊れるような轟音と子供達の悲鳴で。

                   

「ローリナ!メイディン!」

                 

 少年が玄関脇の大階段を一足飛びに駆け上がっていく。

                

「わぉ。熱血ね…手伝うわよネイル」

「はい、シノ様」

                  

 私達も少年に続いて階上へと駆け上がる。

 二階の2つ目の部屋の扉が大きく開放されており、その中から少年の怒声が聞こえた。

                  

「ローリナ達を放しゃあがれ!!この糞ゴブリン!!」

              

 私達がその部屋に飛び込むと、少年が折れた剣を構えて小鬼ゴブリンを威嚇していた所だった。

 少年の視線の先には二人の少女に馬乗りになっている2匹の小鬼ゴブリン

 少女等はまだ10になったかならないかだろうか?

 ゴブリンは繁殖の為に他種の雌を攫う事があるというが…なぜ街中のこの屋敷にいるのか……

 こいつ等も翼刃蝙蝠ブレードバット巨大蛞蝓ラージスラッグと同じなのか?突然どこからか出てきたのか?

 部屋の中をよく見ると、テラスへと続く扉が壊され、そのすぐ外には大きな木が生えている。

 ここから入ってきたのだろう…少なくとも部屋の中に直接沸いて出た訳ではないようだ。

           

「このやろう…っ!!」

                     

 無謀にもゴブリン2匹に突進していく少年。

 だが、そのおかげでゴブリン達は少女の上から立ち上がっている。

              

「ネイル、二人を確保…保護して」

「はい、シノ様」

               

 ネイルが気配を消してゴブリンの背後に移動し少女等を保護する。

 どうやら服の様子から見るに最悪の所までは行かなかったらしい。

 よかった…。

                    

 それを見届けると、私は少年を二人がかりで殴りつけていたゴブリンの首筋に手刀をそれぞれ打ち込んだ。

 ぽーんと勢いよく宙を飛ぶゴブリンの首。

 ゴブリンは確かEランクの魔物。

 これ位のレベル差があれば会心クリティカル一撃ヒットは間違いなく出る。

             

「な…」

             

 呆然と私達を見る少年。

               

「あんたら、一体…何者なんだ?」

              

       ※

                 

 とりあえず少女達を落ち着かせる場所を作ろうと、適当な場所を陰陽師の『烈風弐』で切り開き『神風・壱』で枯れ枝や刈り取った草を吹き飛ばす。

 そしてさっぱりとした空き地になったそこに所持品欄から『東屋』を選択して『設置』。

 これも屋敷システムのアイテムの一つで、最低レベルの屋敷を買うとこれになる。

 私はこれを本宅と併せて日本庭園の中の休憩所のように使っていた。

 今回はとりあえず少女達を休ませる為に出したのだが。

             

「すげぇ!なんだ今の!?どうやったんだよ?てか、ねーさん魔法使えたのか?いつの間にか服まで変わってんな。武道家じゃないのかよ!?」

               

 少年がきらきらした瞳でこっちを見ております。

               

 「うーん、また後でね。今は二人を休ませましょうか」

               

 ネイルと二人で少年と同じように呆けていた少女達を東屋にいざなう。

 二人が室内に入ったのを確認して障子を閉める。

            

「あ、おい!俺は!?」

              

「少年、彼女たちの服の下の怪我を確認するからまだ待ってて…覗いちゃダメよ」

「のっ、覗かねぇよ!!」

         

 真っ赤になって障子から離れる少年

           

「あと、俺の名前はヴァトラだ」

「了解、少…ヴァトラ?」

「…なんだよ」

「彼女たちを守る為に武器も無いのに体を張ったのは…ちょっとかっこよかったぞ?」

                   

 うん、君は立派な男だ。ご褒美にスマイル0円をあげよう。

                    

「ばっ…馬鹿言ってないであいつら見てやってくれよ…」

                

 ありゃ、ますます真っ赤になっちゃった…

                 

「了解」

               

                

 結果から言うと、彼女らにはかすり傷位で大事はなかった。

 そのかすり傷も今、ネイルが『治療』を施しているのでそろそろ跡形もなくなっている頃だろう。

 その彼女らの治療の間、ヴァトラ等がよく魔獣やらを見るという庭の一角を確認しに来たのだが…なにやら魔法陣のような物が地面に。

 それも相当古い物のようで。 

      

「怪しいよね?」

    

 とりあえず魔法陣の上に乗ってみると…

 シュンッ

次の瞬間には、なにやら石造りの迷宮の中でした。

 さすがに私も事前情報もなく一人でダンジョンに挑むほど無謀ではないつもりなので、出口はないかと周りを確認すると、やっぱり足下にさっきの物と同じ魔法陣がある。

 察するに今までの魔物はここから偶然転移してきたのかも…

もう一回魔法陣に乗り直すと、

 シュンッ

と、さっきと同じような音がして元の場所に戻っていた。

             

「ふむ」

               

 これを根本的に何とかしないと今後も魔獣が出続けるな…どうするべきか。

 とりあえず東屋に全員を集めて話を聞く事にしよう。

               

「とりあえず自己紹介からかな…私はシノ・カグラ。ギルドの冒険者でランクBのクノイチよ」

「ネイル・サヴァン…シノ様の従者をしております。ギルドではランクCのルミナスメイドです」

「ヴァトラだ。こいつ等は…もぐんぐ…ローリナにメイディン…がつがつ…てゆーか、姐さんランクBかよ…そりゃ強い訳だ」

「ローリナです…あの、お姉さん、ありがとう」

「メイディンです…ありがとうございました」

                    

 薄茶ショートの女の子がローリナ、肩までの金髪の子がメイディンらしい。

                      

「うん、よろしくね…ところで二人とも遠慮しないで食べて?いっぱいあるから」

                       

 東屋の中央にちゃぶ台を出して、いつかのように日本各地の名産を山盛り出してある。

                   

「は、はい」

「頂きます」

                      

 さっきから女の子二人の目もちゃぶ台の上の名産…特に甘味…柿や温泉まんじゅうから離れない。

                     

「あ…これ、美味しい…」

「こっちも見た事無いけど甘いよ!?」

「ばぁか、甘いもんばっかじゃなく肉食え肉…」

                      

 ひたすら食べ続けるヴァトラから聞き出した所によると…ここに住んでいた貴族が生きていた頃からおかしな噂はあったらしい。

 近所の子供がいなくなるとか、魔獣の咆哮を聞いたとか…

 2年位前にその貴族も死に、子供の行方不明もぴたりと止まったため、近所の者はその貴族が子供を誘拐してなにやら怪しげな事をしていたのだろうと噂していた、との事。

                          

「んで、近所の奴らもここの敷地には滅多に入ってこないんで、俺等が根城にしてたんだ」

「なるほどねぇ」

「あの…私達、行く所が無いんです…追い出さないでください」

「お姉さんがここの持ち主になったというのなら…どうか、お願いです」

                        

 上目遣いにお願い攻撃をしてくるローリナ&メイディン。

 君たち、それは反則です。

                           

「ネイル、孤児院とかってこの街にはないの?」

「ある事はありますが…孤児院とは名ばかりの奴隷組織の末端です。以前私の周りにも孤児院から買われてきた者がおりました」

                     

 ふむ、国とか街によってきちんと運営されている訳じゃないのか。

                    

「姐さん、図々しいのは分かってる!だが…」

「ヴァトラ…私はね、ここに新しい屋敷を建てるつもりでここの土地を買ったの」

「あ、ああ」

「結構大きい屋敷の予定でね、まだ使用人は決まってないのよね」

「ね、姐さん?それじゃ」

「ご近所の食べ物をかすめ取るこそ泥は置いておけないけど…調理人とか庭師とか必要な人員は絶賛募集中よ?」

「…お、恩に着るよ、姐さ…シノさん」

                        

 目に見えて表情の明るくなる3人。

 こりゃ、ますますあの魔法陣を何とかしないとな。

 後でギルドに相談してみよう。

                    

「とりあえずは…お風呂と着替え、かな」

              

 抱き合って喜んでいる3人を見ながら私は「屋敷システムのアイテムに五右衛門風呂があったな…」とか考えていた。

                     

                        

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