水上の交渉
遅くなりました。
何とか宣言した7日までには次話を投下する事が出来ました。
これも当方の稚拙な小説を読んでくださる方、感想を書いてくださる方、誤記、矛盾を指摘してくださる方、皆様のおかげです。
「ポルテさーん、またちょっと工房貸して欲しいんですが~」
私はすっかり顔なじみになったポルテの店を訪れた。
「…来やがったな姐さん」
包丁という名の魔剣の行商に味を占めた私は、あの後、もう一回、同様の商売を行っていた。
海岸で『採取』技能を実行した所、質は低いものの真珠が手に入ったのだ。
今度は数こそ30数個と少ないもののれっきとした宝石。
真珠の魔法的な親水性を利用して作った水刃の包丁は前回よりも出来が良かった。
また、前回販売価格が安すぎたとの反省も得て、一本銀貨50枚で販売したのだが、これもあっという間に30本を完売。
予想より需要があるようだった。
おかげで所持金は金貨20枚を超え、目標の金貨30枚まで後一歩、という所なのだが。
「悪いが姉さん、商工ギルドからのお達しでな、しばらく工房は貸せねぇ…なんかギルドに睨まれるような事やったのか?」
「…覚えがないけど」
「…ここ数日、えらく性能の良い魔法のナイフが格安で大量に出回っているらしくてな、価格の相場が荒れて大騒ぎらしい」
まずい。それなら思いっきり覚えがある。
「…雷をまとったり、水流を出したりするナイフ?」
「…やっぱり、おまえさんか…普通じゃない作り方していると思ったら魔法の包丁だったのかよ…」
「しかし、まだ2回しか売ってないのに、よく私だって商工ギルドも分かったねぇ」
「売ってたのが黒髪のべっぴんな冒険者で、包丁に紫乃って刻まれてりゃあ…そら分かるわな」
作者の銘を刻むのは日本の刃物の伝統だから仕方ありません。というか『戦オン』のシステム上そうなってます。
「で、な、商工ギルドから伝言だ。『この先商売を続けていくつもりなら、ギルドに加入するなり筋目を通せ』だとよ」
「…行商専門ならギルドに入らなくても良いと聞いたんだけど」
「規模の問題だなぁ…まさか行商で魔法武器を露天販売するヤツがいるとは思わなかったんだろうよ」
…なんかめんどくさい事になってきたなぁ。
でもまぁ、ここに土地を買う予定である以上、一回は顔を出しておいた方が良いかな。
「わかった、これから顔を出してくるよ」
私はいったん宿に戻り、部屋の掃除をしていたネイルをつれ商工ギルドへと向かった。
商工ギルドは商店街の入り口近くに建った煉瓦造りの建物だった。
私が商工ギルドの受付に用件を告げると私とネイルはすぐさま応接室へと案内された。
「…よく来たね、私が商工ギルドの長アザトーネだ」
部屋で待っていたのは中肉中背の…一見40代に見える男性だった。
「冒険者ギルド、クラス『クノイチ』シノ・カグラです。お見知りおきを…この子は私の従者でネイル、と」
「ああ、堅苦しい挨拶は抜きだ…まあ、座りたまえ」
示されたソファーにネイルと二人腰を下ろす。
「しかし信じられんな」
「何が、でしょう」
「貴女があのマジックウェポンを作ったという事がさ…「あれ」はマジックウェポンとしては珍しくないレベルの品だが、それでも大量生産出来るようなレベルの物でもない」
「…」
「正直、貴女が他国の魔術師ギルドの手先なのではないか、と危惧するメンバーもいるのだよ。多数の付与魔術師のバックアップを受けているはずだ、とね。どんなカラクリなのか聞かせてもらえるかね」
マジックウェポンの相場混乱だけで呼び出された訳じゃなさそうだ。
「他国のスパイならその国に大量のマジックウェポンなど流さないと思いますが」
「それを…証明できるかね?貴女自身が類い希な魔導師であることを」
正確には魔導師ではないんですが。
「具体的には何をしろと仰います?」
「そうだな、我々の目の前で魔法の品を作ってみてくれるかな?その作品の出来次第では周りも認めるだろうし、その品をオークションにかける事で損益をある程度補填出来れば、損害を被った者達も納得するだろう」
「そんな一方的な…今回シノ様はギルドの掟に反する事など何もしていないはずです!」
アザトーネを睨み付けて私の弁護をするネイル。可愛いやつめ。
でも、まあ、あまり土地の有力者と敵対したりしたくないし、いくつか条件を付けた上でお話を受けよう。
「…条件がいくつか…土地の売買はこちらで扱っていますか?」
「うむ」
「今回の件、納得出来る物を納品出来たら…土地の購入に関して便宜を図って欲しいのです。具体的には3割ほど引いて頂けたらな、と」
「どこか目を付けた所があるのかね?」
実はある。冒険者ギルドに近いので目を付けていたのだが、ちょっぴりお高いのだ。
「冒険者ギルドから北に500メートルほどの所に崩れたお屋敷がありますね」
「ああ、あるな。以前、没落した貴族が住んでいた所だ…土地は広いが屋敷はもう住めるような状態ではないぞ」
「土地だけで結構です。整地も新しい屋敷の手配もこちらでやりますから」
「よかろう」
「あとは…材料の手配はそちらで行ってくださるので?」
「良いだろう、何が必要だ?」
「質は最低限の小さな物で良いので、エメラルドが一つと、あとは…」
「あとは?」
「『ワラ』と『竹』と『木』です」
一瞬、何を言われたか理解出来ず、呆けた顔をしたアザトーネの表情にちょっぴり溜飲を下げた。
三日後の早朝、私とネイルの二人は、サザンの港から沖に300メートル程の所に浮かぶ、大型の商船の甲板にいた。
魔法の品を作る準備が出来た事を商工ギルドに伝え、「お披露目の場所として洋上が相応しいから」と、この船を用意してもらったのだ。
「ネイル、例の準備は?」
「はい、万事滞りなく」
私達の周りにはアザトーネの他、ギルドの幹部クラスらしい商人が10数人集まっている。
その視線は不審、疑心、嘲り、蔑み、様々だ。
その者達の中にはなんと、あのコスイネンもいた。
てっきり小物だと思っていたが。
その者達を代表してアザトーネが声をかけてくる。
「さて、シノ殿。わざわざそちらの指定通り洋上に船まで用意したのだ、納得の出来るマジック・ウェポンを作って見せてくれるのだろうね」
「いいえ?」
アザトーネの言葉を私はニッコリ笑って否定する。
途端に騒がしくなる周囲。
「だから言ったのだ只のペテン師だと…」
「いや、しかし新品、かつ同一の魔法の武器が大量に流通したのは紛れもなく…」
「くだらん茶番を…」
「私の損益は…」
「…どういう事かね、シノ殿?」
アザトーネのドスの効いた問いに、私は涼しい顔をして答える。
「とりあえず落ち着かれては?皆様、私は魔法の品を作れないとは言っていません…そちらの指定は『魔法の品』だったはず。武器だとは一言も指定されていません」
「む…確かにそうだが…」
「要は私の提供する品が、今回の騒動で被った損害より価値があればいいのでしょう?」
「…まあ、そうだが…武器以外でそれほどの高価値を持った魔法の品…となると…一体何を作る気だ?」
「まあ、論より証拠。早速始めましょうか。ネイル、準備お願い」
「はい、シノ様」
ネイルが衝立を私の周りに準備する。
「おい、これは何の真似だ?」
「これから作るのは私のオリジナル魔導具なので、作り方をお教えする訳にはいかないのですよ。どうせ衝立の中には私しか入りませんから問題ないでしょう?」
「…初めから他人の作った完成品を持ち込むという恐れもある」
「材料しか持ち込みませんよ。心配ならそちらの女性のギルドメンバーの方、身体検査してくださって結構ですよ」
私が一行の唯一の女性にそう声をかけると、意外な事に女性はそれを辞した。
「いえ、問題ないでしょう。私の『魔力感知』には余計な反応はありません…しかし、「オリジナル」ですか…魔導具の製造は今やレシピの模倣や改良位しか行われていない、失われた技術だというのに…それが本当なら、まごうことなき大魔術師ですね」
ふむ、やっぱりこの女の人、魔術師だったか。まあ、いかさま防止に一人位は混じっていると思ってたけど。
それにしてもハードルを上げるのはやめて欲しい。
「それでは用意してくださった材料を衝立の内側に置いてください」
「うむ…エメラルドは一センチほどの物を用意した。竹は東方から編み籠の材料として輸入されている物を。ワラは米のワラ、それに木は桐の木…だったか、指定通りの物だ」
「ありがとうございます、十分過ぎる質の物ですね…これなら良い物が作れます」
「…そう願いたいものだな」
私はその声を背中に聞かせ、衝立の向こうに入る。
ネイルはいかさま防止の為に衝立の外で待たされていた。
「では、始めます」
技能セットを『生産用』に変えて…と。
【器用度上昇】【業物確率上昇】【裁縫・上級】【所持限界重量上昇】【休息】
【神通力付与】【身体能力付与】【付与率上昇】【美的感覚・上級】【忍道具作成】
スキルから『忍道具作成』を実行。
板を切り楕円形の物を2つ、扇形の物を8つ作る。続いて竹を削り円形の枠を2つ作り、ワラを寄り合わせて作った縄で繋いでいく…
ほんの1分ほどでそれは形をなした。
歯のない下駄にいくつかの桐の板を円形に繋いだものーいわゆる『水蜘蛛』だ。
実際にこのサイズだと人の体を乗せて浮きなどしないのだけれど、これは『戦オン』内で地下水湖の迷宮攻略に使われていた物なので実用に耐える、はず。
とりあえずここまでが第1段階だ。
続いて技能画面を開き、固有スキル、『キャラクターチェンジ』を実行。
ウィンドウにキャラクター選択画面が現れる。
『陰陽師LV76』を選択、タッチすると…私の姿は「黒髪ロングのストレート、派手な紫色の狩衣」という姿に変わった。
狩衣なんて下半身の両サイドにスリットが大きく入っていて、どこが狩衣なのか、という状態だが…そういうアイテム名だからしょうがない。
すぐに技能セットを陰陽師の『生産用セット』に変える。
【器用度上昇】【業物確率上昇】【魔道具作成・上級】【式神付与】【式符作成】
【所持限界重量上昇】【休息】【神通力付与】【身体能力付与】【付与率上昇】
スキルを確認すると、私は唯一残っていた材料のエメラルドを使って『魔道具作成・上級』を実行、念の為に水蜘蛛の風の属性を強化し浮力を補強する。
仕上げに『式神付与』で水蜘蛛を付喪神化して命令を与え完成。
「完成しました」
完成した物を持って衝立から出てきた私に一同はあっけにとられている。
「なに…?もうか?それにその服はどうした?」
「目の前で作れと言ったのはそちらですよ?服は儀式に必要だったので着替えました」
「いや、そうだが…少なくとも数時間は覚悟していたのだがな…まだ10分もたっていないだろう」
「実際に出来ているんだから早い分には文句無いでしょ?」
「む…まあ、いい。要はその品の価値、だからな…で、それはなんなのだ?ただ板をロープで繋いだだけに見えるが」
まあ、ファンタジーなこの世界に『水蜘蛛』なんて無いよねぇ。
「説明しましょう…これは水上歩行機兼水難救助器具、『水蜘蛛・改』です」
「水上…歩行?」
「これを持って『着装』と唱えると」
しゅるしゅると縄を触手のように伸ばし、私の足に絡みつく『水蜘蛛・改』。
付与した付喪神の効果だ。
「このように勝手に装備してくれます」
「「「おおぉぉぉぉぉぉぉ!?」」」
「この短時間に本当に魔法の品を作ったのか!?」
「…勝手に動くとは、ゴーレムの一種か?」
「…お静かに。この魔道具の真価はこれからです」
そう周りの者達に言い残すと、私は一気に手すりを乗り越え船外へ躍り出た。
水面まで結構遠かったが、着水時、水しぶきはわずかに上がっただけだった。
私の体は見事に水上にしっかりと立っていたのだ。
「おい、本当に浮いているぞ…」
「魔導師がいなくても水上歩行出来るとは」
「…これは…港町であるサザンにとっては恐ろしく応用範囲が広いぞ…」
商人達の驚きの声が水上の私の所まで聞こえてくる。
私は更にとどめを刺すべく船上のネイルに指示を出した。
「ネイル!預けていた物をこっちに放って!」
「はい、シノ様」
ネイルが荷から取り出し私に放り投げたのは、もう一つの『水蜘蛛・改』
事前にもう一個作っておいたのだ。
「さて、今投げて貰ったのは『水蜘蛛・改』の試作品です。これを使って今度は『救助』の使用例をお見せしましょう…ネイル!」
「はい、今参ります、シノ様」
そういうとネイルは着ていたロングスカートのメイド服を脱ぎ去り、白一色のワンピースタイプの水着姿になる。
思わず視線が引きつけられる男性陣。
いくら普段、「魔獣の合いの子」と蔑んでいようが、ネイルが極めて美しい少女であることに代わりは無く…
その不躾な視線から逃れるようにネイルはあっさりと海中に飛び込んだ。
水面に派手な水しぶきが上がり…しばらくしてネイルは私から5~6メーターのところに浮き上がって来た。
猫系獣人だからだろうか、あまり泳ぎは得意ではないらしく必死に立ち泳ぎをしている。
「この魔道具自体が極めて軽く、水に浮きます。なので…船から人が転落などした場合」
私はそれをネイルの近くに向かって投げた。
ぽちゃんと音を立てて着水した『水蜘蛛・改』は、ゆらゆらと海面で揺れながら漂っている。
「このように、意識のある者にはその近くに投げてやるだけで良いのです」
ネイルは早速それをつかみ取り、一言『着装』と唱える。
するとやはりロープ部分がしゅるしゅると動いてネイルの足に自動で『水蜘蛛・改』が装備された。
とたん、ネイルの体の周りを巨大な気泡が包み込み、海上に押し上げる。
再びわき起こる商人達の歓声。
「この通り、安全かつ、確実に救助作業が行えます…もちろん賢明な皆様の事ですから、この道具の使用法は他にもいろいろ思い浮かぶでしょう…航海時の船体の修理や漁具の設置、流された荷の回収、水上の怪物に襲われた時の対応など…いかがですアザトーネ殿?」
「うむ…確かにこれは今までに無い『オリジナル』だ…その応用範囲はすさまじく広いだろう」
「では?」
「うむ、おぬしの言い分を認めよう。これ以降極端に相場を崩すなどしない限り、これ以上責を問おうとは思わん」
「お待ちください!!」
せっかく順調に行っていた交渉をぶち壊そうと声を出したのはやはりあのコスイネンだった。
「長、確かに優れた魔道具ですが、一個二個ではとうてい私の損失を埋める事など出来ませんぞ!救助用というなら、それなりの数を差し出して頂かなくては!」
「ふむ、君の損失はたかだか金貨1枚ほどだったと思ったがね?私の見立てでは、これ1組だけでも金貨20枚は値が付くだろう」
「ぐ、…し、しかし」
「見苦しいぞ、コスイネン。商人にも矜持というものがあろう」
「…お待ちください、アザトーネ殿」
私を庇ってコスイネンをやりこめていたアザトーネ氏の言葉をわざと遮る。
「む、何かなシノ殿」
「コスイネンさんのお話もごもっとも。救助用と銘打つなら、少なくともサザンの船に一つずつは行き渡る数が必要でしょう…ギルドからの発注に限り生産依頼をお受けしますよ」
暗に「お詫びの品は納め終えた、これ以上欲しいのなら金を出せ」と言っているのである。
「材料さえ、そちらが用意してくだされば、私の取り分は純益の50%でよろしいですよ?」
「ふむ、それは…商工ギルドには願ってもない話だな…月にいくつ位生産出来『どぉぉんっ!!!!』なんだっ!?」
私とアザトーネの交渉中に響き渡った音は同時に船も大きく揺らしていた。
船上の商人達がまるで木の葉のように甲板を転がっていく。
アザトーネだけはかろうじて船の縁にしがみつき周りを確認しているみたい。
「くそっ!一体何が…」
波はない。穏やかな風だ。
では、一体何がこれほど大型船を揺するのか…
私の位置からはその様子がしっかりと確認出来た。
船底に巨大な何かの影が蠢いている…おそらくこれが船底と接触したのだろう。
その元凶はゆっくり船底から離れ、船首より10メートル位の所で急速に浮上してその半身を顕わにした。
その長大な首、ドラゴンのような頭。水上に出ている部分だけでも7~8メートルはあるように見える。
その外見は凶悪顔のネッシーといえば近いか。
「海竜だと…何でこんな港近くにAクラスが」
アザトーネの顔色が一気に青ざめる。
まあ、このシードラゴンは真にドラゴンの眷属ではなく、亜種らしいが…それでもその能力は大型船の一隻位片手間で沈めておつりが来る程だという。
無理もない反応と言えるだろう。
さらには海竜だけではない、
いつの間に集まって来ていたのか…シャチ型の魔獣、「キラー・オルカ」も数頭、船の周りを回遊しだしている。
「にっ、逃げろ!港に戻せぇぇ!!」
コスイネンが声を限りに怒鳴り散らしているのが聞こえる。
「し、しかし、シノ殿達もまだ船上に回収していません!」
「かまわん!放っておけ!」
おいこらコスイネン。
「落ち着け、コスイネン、急に動けば餌か敵かと思って船を襲ってくるぞ!」
アザトーネがコスイネンを諭すが、コスイネンは聞こえていないのか半狂乱になって逃げろ逃げろと叫んでいる。
さて…もうちょっと見物してたかったけど、これ以上放っておくと収集付かなくなりそうだし、片付けますか。
「アザトーネ殿ー!あれはこっちで片付けますから、そちらは乗員を落ち着かせて転落したりしないよう気を付けてくださいね~」
私はそうアザトーネに叫びつつ、スキルセットを陰陽師の戦闘用に変える。
【自動結界】【呪力強化・極】【全体解呪】【結界全体化】【業炎・伍】【呪殺】
【多重結界】【式神召喚】【同時召喚】【散華】【精神統一・極】【星降】
「!?何を言っている、シノ殿!?あれは海竜だ!水上で人間が勝てるような魔獣ではない!」
私はその言葉を無視して、結界を張りながらネイルに指示を出す。
「ネイル、あなたはキラー・オルカをお願い。海竜の方は無視して良いわ。船に近づけさせないようにね…『多重結界』」
「はい、シノ様」
私とネイルの周りに耐物理結界が数枚形成される。それに加えてネイルの水着は海上戦闘用に作った白色水着で水系魔獣への防御力が高い…形が結果として白スク水に酷似してしまったのは必然というものです。
そして武器は例によって『闇薙の包丁・紫乃壱式』…
『水系魔獣に対する特効1.5倍』とネイルの『家事道具習熟』による補正、さらには『魔力消費による攻撃力上昇15%』もその豊富な魔力で使いたい放題だ。
キラー・オルカ程度なら相手にならないだろう。
実際、ネイルは海上を疾走し、すでにキラー・オルカを一頭屠っている。
うん、白スク水で戦うネイルも可愛い。作って正解だった。
ーと、そんな事を考えていたその時。
どがぉんっ!!
無視されて怒ったのか、重い音を立てて海竜の尻尾が私を直撃していた…結界が一枚削られ、平手で頬を叩かれたような衝撃が走る。
…痛いな。
「シノ様っ!」
「あー、大丈夫、今片付けるから」
うーん、従者に心配をかけてしまうとは悪いご主人様だな。反省。
という事で早速。
「『式神召喚』」
召喚符を取り出し『式神召喚』を実行。
と同時に、『同時召喚』も発動し、魔法陣が空中に2つ現れる…その中から現れたのは…白い着物に長い黒髪の女が二人。
「なんだありゃ…女が空を飛んでいるぞ!!」
「ハーピーか!?」
いいえ、『雪女』です。
私は『雪女』達に海竜を指し示めし指示を与えた。
「対象、海竜。全力で氷の息吹を」
((承った、我が主よ))
雪女達は海竜の両側に浮かび、すべてを凍てつかせる氷の息吹を吹きかける。
海竜はそれに危機を感じたのか、雪女達に対して対して水流の息吹で反撃を試みる。
しかし、時、すでに遅く、水流の息吹は雪女達に到達する前にビキビキと音を立てて凍り付いてしまった。
それだけに留まらず、氷の息吹は水竜周辺の海面までも凍てつかせ、海竜の動きを縛ってしまう。
うん、頃合いかな。
私は雪女達に指示し、海竜を中心とする三角形の頂点に私と雪女達の3人がそれぞれ位置するよう移動する。
「アザトーネ殿ー!!ちょっと大きいの使うから気を付けてね♪」
「な、なに!?ちょ…何をする気だ!?」
自分の理解の及ばない戦闘が繰り広げられていた事から呆けていたアザトーネが再び我に返る。
「六芒星結界展開…陣外への影響を最小に設定…」
私と雪女が作った巨大な三角形が六芒星に変化し白光を放ち海竜を閉じこめる。
「【星降】実行」
私がスキルを実行すると天上から伸びたレーザーのような光がいくつも海竜を指し示し…
次の瞬間、その光に導かれるように大型トラック大の隕石が十数個、結界内の海竜めがけて降り注いだ。
「「「「「どどどどどどどどどどどどどどどどどどとごごごごごごごごごごごごごごごごごごこおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉんんんん………」」」」」
いわゆるメテオスウォーム、エナジーフォールダウン、メテオインパクト、コロニー落とし、エトセトラの類である。
むろん、結界内にはすでに海竜の影も形も無い。オーバーキルしてしまったか。
「な…な、な、な…」
その惨状を見て、声も出ない商人一行。
「大丈夫ですか?『星卸』の余波は極力抑えたつもりだけど…特にコスイネン?」
「はっ!はひ!?」
「知り合いのあなたが無事で本当に良かったわ…『間違って』星の一つでもそっちに行かなかったかと思って♪」
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」
その後。
非常に協力的になった商人一行(特にコスイネン)との話し合いは順調に進み、
・私が一月以内に水蜘蛛・改を50セット納品する。
・その純益は3:7でギルドと私で分配する。
・販売価格は金貨5枚以内に抑える。
・水蜘蛛・改はギルドの独占販売とする。
・マジックウェポンの販売については大量販売しない限り認める。
・商工ギルドへの加入は特別会員扱いとして会員費、その他諸費用を免除する。
と、非常に有益な結果に終わった。
一刻も早く話し合いを終えてこの場から立ち去りたかった…というのは穿った見方かな。
船を港に帰し、解散した後、ネイルがそっと寄ってきて私に囁いた。
「こうなる事を計算して水蜘蛛に魔物の餌を仕込んだんですか?」
「さてね…まあ、こちらの戦闘力のデモンストレーションにはちょうど良かったよね」
まあ、Aクラス魔獣まで出てくるとは思わなかったけども。
交渉がうまくいっても決裂しても、今後の事を考えれば、舐められない為に一度こちらの実力を示しておく必要があった。
いざとなれば街ごと壊滅させるだけの戦闘力がある、ということを。
また、今回の戦闘でAクラス魔獣である海竜を倒した事によって、この世界に来て初めて私のレベルが上がった。
陰陽師の状態で倒したせいか、上がったのは陰陽師だけだったが…
思わずギルドカードを確認する。
氏名シノ・カグラ 性別女 年齢21歳
総合レベル77 ギルドランクC
クラス『陰陽師』レベル77
ステータス
HP1590
MP測定不能
STR 12
VIT 13
DEX 15
SPD 16
INT 18
MID 18
称号
世界の天秤
式王
固有スキル
キャラクターチェンジ
マナ解放
マナ譲渡
属性補正
炎+40%
氷+30%
風+10%
祝福
名も無き世界の管理者
さらにネイルに至っては、総合レベルが20になり、スキルスロットまで増えるという大幅なパワーアップを遂げた。
氏名ネイル・サヴァン 性別女 年齢14歳
総合レベル20 ギルドランクD
クラス メイン『ルミナスメイド』LV14
サブ『雑益奴隷』LV15
ステータス
HP 515
MP1105
STR 15
VIT 14
DEX 13
SPD 15
INT 13
MID 12
称号
マナの申し子
固有スキル
部分獣化
家事道具習熟
属性補正
闇+10%
光+20%
祝福
神楽紫乃
さて、海竜とキラーオルカのドロップアイテムも入手したし、帰って一休みしたら、納品アイテムの『水蜘蛛・改』を作る準備を始めるかな。
連休中にはもう1話くらい書きたいです。