商会を立ち上げました。
1/5現在、「小説を読む」モバイル版で小説ランキング〔日刊〕5位ファンタジー部門〔日刊〕4位…お気に入り1000オーバー…
一瞬何があったのか信じられませんでした。皆様のおかげです。
今回はちょっと短めです。
さて、ネイルを名実ともにメイドにして数日。
このままでも一年近くはこの宿で遊び暮らすことが出来る位の所持金はありますが…
堅実な日本人としては生涯宿屋暮らしというのは精神的に良くありません。
ということで初心に返って土地を買う為にお金儲けの策を練ろうと思います。
「ネイル」
「はい、何でしょうシノ様」
私はただいま大浴場備え付けのサウナで俯せになっております。
そんでもってバスタオル一枚のネイルからマッサージして貰っています。
はあ…極楽。
後でネイルにもしてあげるねって言ったら、「とんでもありません!」と拒否されました。残念。
「う、そこ…あのね、ここ数日休養…してたけど」
「はい」
「当初の目的…土地を買う為にそろそろ準備しようと思うの」
「ということは…?」
「うん、ギルドの仕事を再開するのと同時に…商売でもやってみようと思って」
「それは良いですね…で、何のお仕事を?」
「…ん、あ、いい…とりあえずは行商かな…行商って始めるのにどこかに許可がいるの?」
「いえ、身分証明…ギルドカードで結構ですが、持っていれば問題ありません。街の中に店舗を開くとなると商工ギルドの加入が義務づけられますが」
「ふむ、なら問題ないかな…じゃあ、お風呂上がったらポルテさんの所へ行こうか」
「…?…また何か作るので?」
「うん、ネイルの「それ」、ほど凝ったのじゃないけどね」
「…私はシノ様のメイド兼、従者兼、護衛ですから、どんな時であろうと武器を離す訳には参りません」
ネイルの首からは鞘に入った「それ」が銀のチェーンに吊られて揺れていた。
私がネイルの集中レベルアップの為に作った『闇薙の包丁・紫乃壱式』である。
…どうもこれがネイルの新しい固有スキル『家事道具習熟』と相性が良く、従来比15%アップ位の性能向上を見せている。
それに加えて「主から送られた主の手作り」、ということで、ベットからお風呂まで持ち込もうとする執着ぶりである。
素材採集依頼の時に手に入れた報酬で銀のチェーンを買ってきて、鞘に取り付け、まるでペンダントのように首から包丁を提げて持ち歩いているのだ。
…さすがにお風呂に常時持ち込むと痛むので、鞘に『状態保護』の符を貼り付けてあげる事になった。
…えーと、なんだ…なんかこういうのって…そう、クリスマスプレゼントを貰った翌日の小学生みたい。
「ありがとう、ネイル、もういいわ…気持ちよかった…」
「いえ、いつでもご用命ください」
「うん、またお願いするね…ネイル」
「はい」
「ん…ちゅ」
私の呼びかけに振り向いたネイルの頬を押さえて、唇のそばにくちづける。
「…ししし、シノ様っ!!」
「あはは、ご褒美ということでっ」
私は真っ赤になっているネイルをサウナに置いて、浴室から上がった。
さて、着替えたらポルテの所へ行こうか。
「という訳で、砂鉄か鉄鉱石を都合して欲しいの。後はコークスか炭も」
「…いきなりなんでぇ」
朝風呂の後ポルテの武具店にネイルと押しかけた私はいきなり商談を切り出した。
「ちょっとね、仕事先で包丁の行商でもやろうかと思って」
「ふん…まあ、いいか、武器じゃなく包丁だってんなら競合しねぇ…だが、原価じゃ俺の儲けがねぇぞ」
「とりあえず金貨一枚分売ってくれる?仕入れ値の1.1倍で買うわ」
「おい、いいのか?あんたがギルドに加入して直接仕入れればすむんだぜ?」
「ちょっとね、商売になるか試してみたい事があるの。そのためのテストケースだから、わざわざ商工ギルドに入るのもね」
「まあ、いいがな。炉も使うんだろ?サービスだ、追加料金無しで半日貸してやる」
「ありがと♪助かるわ」
商談が成立するとポルテは助手も使って倉庫から金貨0.9枚相当の炭と鉄のブロックを炉の近くに積み上げてくれた。
「まあ、どんな商売するのか知らねぇが、がんばんな。俺たちは半日、店頭にいるからよ…終わったら声をかけてくんな」
そういうとポルテ達はさっさと行ってしまった。仕入れの助言をしてくれるあたり、顔に似合わず人が良いらしい。
「さて、半日でこれだけの量…スキルで作るとはいえ…間に合うかな~」
私は炉の火を確かめると、所持品欄から半透明な砂を大量に取り出した。
これらは『採掘』スキルで街の近くの河砂から採取した物だ。
珪砂…いわゆる石英とか水晶と呼ばれる鉱物の砂状の物である。
で、いくらただ同然で砂状の物であっても、基本的には水晶と同質の物である。そして『戦オン』では水晶は宝石扱いされている。
つまり、効果は微量であろうとも魔力を付加する触媒たり得るということで…
「超廉価版魔法武器の製造、いってみようか~」
『鬼神の鎚』を握りしめて、私は自分に気合いを入れた…
「んっぷぁ!できたぁ~」
「お疲れ様でした、シノ様」
私はネイルの差し出してくれた竹筒を受け取り、水で喉を潤した。
「うん、素材の割になかなかのが出来たんじゃないかな~」
私は目の前に積まれた包丁の山を見つめる。
『雷鳴の包丁・紫乃番外』
レベル制限 無し
種族、クラス制限 無し
攻撃力 25
水系魔獣に対する特効 1.2倍
雷撃系追加ダメージ(極小)あり
「何というか…さすがはシノ様、というか…」
「うん?」
「普通、マジックウェポン制作者は何日もかけて寝食を削り武器に魔力を付与すると聞きます…それを小型武器とはいえ50本を半日で付与なさるとは…」
若干あきれたニュアンスのネイル。
「あはは、でも、ほら、『闇薙の包丁』に比べたら一体成形で手抜きもいいところだし、素の攻撃力だって25…ショートソードレベルだし、雷撃追加ダメージは圧電体が珪砂のせいで極小だし」
「そもそも、包丁の素の攻撃力がショートソードレベルあるのも十分異常です」
「そうかー、じゃあ売れるかな」
「値段と売り方によっては間違いなく」
「そっか~じゃあ、大きな街に行って行商してこようか…近くにここ以上に大きな街ってある?」
「そうですね、北に徒歩で3日ほど行くと王都アイリーザがありますね」
「ふむ、じゃあ明日にでも王都行きの護衛依頼とか無いか探してみようか…」
等とつらつら考えながら包丁を所持品欄にしまっていく。
ちょうど良い依頼があればいいな。
※???SIDE
なんなんだあれは。
それを見た時、一瞬意味が分からなかった。
俺は冒険者ギルドに所属しているDクラスの戦士だ。
今回の仕事は王都へ行く荷馬車隊の護衛で…滅多に魔物なんかでない街道だから楽勝だと思ったんだ。
キャラバンの規模が大きいから同じく護衛に雇われた者達も10数人いたしな。
まあ、その中になぜか「メイドの服装をした獣人の小娘」や、「全身黒ずくめのべっぴんさん」がいたのは不安だったが…
異常は2日目の夕方に起こった。
キャンプ地を決めて陣を敷こうとしたその時ー
Cクラス魔獣の『ジュエルリザード』が街道近くの森からいきなり飛び出してきやがったんだ。
それも3匹…
俺は正直、「ああ、これで死ぬのかな」と思ったさ。
奴らはクラスこそCだが、その額の宝石で体に耐物理結界を張り巡らせているせいで、魔法か魔法の武器じゃないとろくにダメージも与えられねぇ。
おまけに牙には毒がある。
魔法使いのいないこのキャラバンじゃ逃げるしかねぇ。
で、その時間を稼ぐのが護衛の役目だからな…
俺たちは覚悟を決めて『ジュエルリザード』に攻撃を開始した。
少しでも奴らの注意を引かなければ…
だが予想通りこっちの武器はほとんど効きやしねぇ。
なのにこっちの傷は少しずつ増えていく…ジリ貧だった。
そんな時だ。
彼女らが飛び出してきたんだ。
護衛隊にいた黒ずくめの美女と獣人のメイド少女。
その二人は雷光輝く魔法の武器を持ってあっという間に『ジュエルリザード』を切り裂いていった。
まるで紙を裂くようだったよ。
俺たちは目を疑ったもんさ。
その二人の技量に。
その二人の美貌に。
そしてー
その魔法の武器が包丁だった事にー
※???SIDE END
「大丈夫でしたか?」
私は先頭で剣を振るっていた男性に笑顔で声をかけた。
彼らが時間を稼いでくれたおかげで最後尾の私達が間に合ったのだ。
おまけにこれ以上無いシチュエーション。
普通の武器が効きにくい敵、包丁の雷光が目立つ夕方…
商品のプレゼンには絶好だった。
笑顔くらいサービスしますよ。
「あ、ああ…助かったよ」
「いえいえ、同じパーティじゃないですか…結構、傷、ありますね…ネイル!」
「はい、シノ様」
「こちらのおじさまの傷、直してあげて」
「はい」
「すまんね…そっちの子は治療術師なのかい?先ほどは見事な剣捌きを見せてくれたが」
「いえ、わたしは『ルミナスメイド』です…『治療』」
淡い光が男性の全身を包み傷を癒していく。
ネイルが『ルミナスメイド』となって習得したスキル『治療』は、傷薬を消費して回復魔法を発動する特殊なスキルだ。
その回復量は傷薬の約3倍…単体対象ながらもその回復量は『キュアライトウーンズ』を上回る。
「しかし、その…」
なにやら男性が聞きたい事があるようなそぶりをしている。何が聞きたいのか何となく想像がつくが。
「その、包丁?はもしかして…」
「ああ、これですか?これは我が「神楽商会」の新製品…『雷鳴の包丁』です!」
「…やっぱり包丁なのか」
「ただの包丁ではありません。当社独自の技術によりマジック・ウェポンでありながら驚きの低価格を実現!しかもーネイル!」
私は合図とともにネイルに向かって足下の小石を放る。
「はっ!」
気合い一閃ー
小石はネイルが持つ包丁によって、なめらかな断面を見せて4つに断たれて落ちた。
「このように基本能力も手を抜いておりません。しかも常に雷撃をまとっている為、『水系魔獣に対する特効 1.2倍』が付加されております」
「「「「おおおぉぉぉぉぉぉぉおぉ!!」」」」
他の護衛や商人達も興味をそそられたのか人垣が出来ている。
「小型武器だからこそサブウェポンとして持ち歩くのに邪魔にならず、普段は普通の包丁としてもお使いになれ、まさに一石二鳥。不意のアンデットや魔法生物にも十分対応出来ます!」
「「「「う゛ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおぉぉん!!」」」」
もう、その熱狂度はジャパ○ットタ○タレベル。
「でも、そんなに高性能だとお高いんでしょう?」
ネイルの絶妙の合いの手。
「それが、今回は…開業記念特別価格…銀貨50枚の所を銀貨10枚で販売いたします!ただし先着50名様に限らせて頂きま…わぅっ!?」
お約束の台詞は最後まで言えなかった。
冒険者達だけではなく護衛対象の商人まで一斉に「売ってくれ」と殺到してきたからだ。
結局ー王都で売るはずの『雷鳴の包丁』50本は護衛2日目で完売した。
金貨にして5枚の売り上げで、材料費除いても金貨4枚…40000クラムのぼろ儲けになった。
ジャパ○ットすげえ。
後で相場をよく調査した所、マジック・ウェポンの価値は思ってたよりずっと高かった…銀貨10枚というのは相場の10分の1以下だったらしい。
…そりゃ売れるわ。
シノさんは戦オン内での取引の延長で値段を決めてしまったようです。
次の更新は未定ですが遅くとも七日には更新したいです。