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真・こことは違うどこかの日常  作者: カブト
過去(高校二年生編)
98/199

第十一話 『ミネルヴァ強襲(後編)』 その5

「大丈夫、やってしまえばこっちのものだから!!」


『あかんやん!!』


 とんでもなく晴れやかな表情でとんでもない発言をし、しかもサムズアップまでしてみせるミネルヴァ。

 それを見て聞いた、その場にいる全てのメンバーは、素晴らしいほどの同じタイミングでハモリツッコミを入れていた。


「大丈夫、きっと連夜はわかってくれるから」


「いやいやいや」


「おかしいから」


「絶対ありえないから!!」


「その日、私と連夜は一線を越えるのよ。私はいやがる連夜を無理矢理押し倒して」


「えっ、ちょ、いやがるのを無理矢理って」


「ひょっとしてもう断られるの想定済みなの!?」


「もう最初から断られるの前提で話していたの!?」」」」


「その際に腹に一撃食らわして、意識を刈り取る」


『刈り取っちゃダメでしょ!?』


「意識を失った連夜を大きめのゴルフバックに入れて、家族に知られないように密かに家の裏庭の物置小屋に移動させる」


「具体的すぎて怖いよっ!!」 


「めちゃめちゃ本気やん!!」


「そして、物置小屋を改造して作った地下室の愛の拷問・・いや、愛の巣に連れ込んで連夜の体から衣服を全部奪い取り、両手両足をベッドの四方に拘束」


「それ、なんてエロゲーなの!?」


「ってかいま、『拷問部屋』って言おうとしなかった!?」


「はぁはぁ、わ、私自身も勿論生まれたままの姿になって、連夜の、はぁはぁ、裸の体の上に覆いかぶさって、私は連夜の大事な






【現在、十八歳未満の方には公開できない内容が流れているため、自主規制させていただいております。通常公開まで今しばらくお待ちください】





にして舐めたりこすったりして愛を確認しあ・・」


『って、おまえが犯罪者じゃねぇかぁっ!!』


「ひでぶっ!!」


 どんどんエスカレートしていくミネルヴァの妄想に流石に付き合いきれなくなった三人。

 実に息のあったタイミングで宙を舞った三人は、いまだ妄想を垂れ流しにしているミネルヴァの喉元に容赦ないトリプルフライングクロスチョップの一撃を叩きつけた。

 自分の世界に夢中に入り込んでいて完全に油断していたミネルヴァは、さっきまで飲んでいた酒と胃液を盛大にまき散らして虹を作りながら上空へと舞い上がり、そのあときりもみ墜落。

 しばらく額と喉を抑えてごろごろとカーペットの上を転がっていたが、やがて回復したのかよろよろとよろめいながらも立ち上がるミネルヴァ。

 ぱっくり割れた額からは『ぴゅ~』なんて間抜けな音とともに血が飛び出していたが、意外と大丈夫そうな様子で周りを見渡し、そこにさっきまでいなかったはずの人物がいることに気がついて愕然とした表情を浮かべる。


「え、ちょ、待って? なんでたまちゃんがここにいるの?」


「なんでもくそもあるか、この大馬鹿変態鬼畜娘!! 途中まで結構真剣に聞いていたのに。ちょっと感動してうるっとしたりもしていたのに、『舐めたりこすったり、もんだり飲んだり吸わせたり』て何よ!? あんたいい加減にしなさいよ!! 今すぐ私の感動を返せ、そしてそのあと、豆腐の角に頭ぶつけて自決しなさい!!」


「いや、前半はともかく後半はあたし言ってないんだけど」


「ええい、黙れ黙れっ、最早、問答は無用!! 変態になってしまった親友に対して、私ができることはたった一つ。いますぐ地獄に送ってやることよ!!」


「ちょ、玉藻さん、落ち着いて!! スカートで大立ち回りは駄目よ」


「クレオ、リビュエー放して!! この馬鹿を今殺しておかないと、きっと後々とんでもない災いを及ぼすことになるのは間違いないわ!!」


「たまちゃんの気持ちはわかるけど、とりあえず、落ち着いて!! 『殺る』ときは私達も一緒に『殺る』から、今は辛抱して!! お願いだから堪えて!!」


 自分の周りで起こっているドタバタ劇を、まるで人ごとのように大口を開けてぽか~んとしたまま見つめ続けるミネルヴァ。

 自分の大蛇の体を巻きつけることで、暴れる玉藻をなんとか取り抑えつつあったリビュエーがいち早くそれに気がついた。


「どうしたのリーダー? 妙に放心してるけど」


「いや、私酔っぱらって幻覚みてるのかなって」


「はっ? どうして?」


「だって・・」


 一瞬言葉に詰まるミネルヴァ。

 しばし、自分の今の気持ちをどう伝えようかと逡巡しつつも、じろじろとある人物に好奇の視線をぶつけ続ける。

 上から下まで舐めるように、しかし、何か信じられないもの、あるいはありえないものでも見るかのように視線をぶつけ続ける。

 そんな視線の対象となっていた『人』物は、怒ることを忘れて居心地悪そうにミネルヴァを見返した。


「な、なによ、私になんか文句でもあるの?」


「い、いや、文句っていうか、あんた、ほんとに玉藻なの? 本物?」


「あたりまえでしょ!? 本物よ本物!! 『人』が布団の中で(連夜くんと一緒に)いい気持ちで寛いでいるときに(いろいろな意味で)あんた達がドアの前でガンガン大騒ぎして『人』のこと連れ出したんでしょうが!? 今更なに言ってるのよ!?」


「リーダー達を先に行かせたあと、たまちゃんが部屋から出てきたから一緒に連れてきたのさ。だから、本物に間違いないよ」 


「え~、ほんとに本物の玉藻なんだ、嘘みたい」


「何がですの?」


「だって、付き合いの長い私に対してですらほとんど単語でしか話さないような玉藻が、妙にべらべら長い文章でしゃべってるし、しかも、普段からいやがっておばさんくさい地味な恰好しかしない玉藻が妙に気合の入ったドレスまで着ちゃってるし、いったいぜんたいどうなっちゃてるの? やっぱ、これって夢なのかな? 私ひょっとしてすでに酔いつぶれている? ここってリアルな夢の世界?」


 まだ信じられないのか、痛む額を抑えたままきょろきょろと周囲を見渡すミネルヴァ。

 そう、ミネルヴァの言うとおり、玉藻はいつもの玉藻ではない。

 彼女の言うとおり玉藻は普通、めちゃくちゃ無口である。

 親しい友人達に囲まれているときでも、ほとんど自分からはしゃべろうとはせず、返事にいたってはほとんど『うん』か『いいえ』か『知らん』の三択。

 授業のときに先生から答えの説明を求められたときなどは流石に文章でしゃべりはするが、それ以外の場合は先程の三択か、単語をつなげただけの短い文章でしか会話をしない。

 それに服装についてもそうである。

 不良をぶっとばすことの多い玉藻は、上は動きやすいシャツ、下はジーンズやスポーツパンツで過ごすことが多い。

 特に下は絶対にズボン形状のものがほとんどだ。

 足技が主体の武術を会得しているため、スカートなんて履くことはまずありえない。

 中学、高校時代一応制服着用を義務付けされていたためスカートを着用していたが、下には必ずスパッツを着用していた。

 そんな玉藻が今日に限って、肩がむき出しになり体のラインが丸わかりのドレスを着用しているのだ。

 しかも下はロングのタイトスカート状で、全体的に妙に艶っぽい感じのドレスだ。

 小学校時代から玉藻を知るミネルヴァが、一度として見たことがない女を感じさせる衣装であった。

 その理由を事前に知らされていたクレオとリビュエーですら、最初は眼を疑ったものであるから、ミネルヴァにとっては更にショックは大きかったのであろう。


「いや、別にふ、普通にしゃべっているわよ。特に意識しているってわけじゃないし。か、恰好だって、特に気を使ったわけじゃなくて、ただ、その、あの、れん・・・くんのお師匠様がこのお店にいらっしゃるっていうから変な恰好じゃいけないなって思っただけで、他意はないっていうか」


 急に顔を赤らめてもじもじと体をゆすり始めた玉藻。

 そんな玉藻の姿を見て、更にミネルヴァの表情は怪訝なものに変化していく。


「やっぱ夢よ、夢!! こんなの玉藻じゃない!! なにこの『恋する乙女』状態の玉藻は!? いくら夢でもやりすぎだわ。見てるだけで気持ち悪い」


「にゃ、にゃんだとぉっ!?」


「うわ、やばい、見てるだけでほんとに吐きそうになる」


「よ~し、わかったいい度胸だ。胃液だけじゃなくて、臓物全部吐き出させてやるから覚悟しろ」


「たまちゃん、駄目だってば!! 酔っ払いのいってることだから、ね、ね!!」


「酔っ払いだからってねぇ、言っていいことと悪いことが・・リビュエー、放して、放しなさい!!」


「あ~、頭痛い」


 またもや大爆発を起こしそうになっている玉藻をリビュエーが慌てて止めにかかる。

 一方、挑発するようなことを口にしたミネルヴァは、ぱっくり割れた額から流れる血と回ってきたアルコールのせいで意識が朦朧とし始めているのか、ぺたんとその場に座り込んでしまった。

 

「血が止まらん。ちょっとお酒飲みすぎたかなあ」


「ちょっとじゃないよ、間違いなく飲みすぎだよ。全く、あれほどお酒控えてねって言ってるのに、僕の言うこと全然聞いてくれないんだね」


「ごめ~ん、連夜。悪気はないのよ~。でも、飲まないとやってられないときもあるのよ~」


「まあ、全く飲むなとは言わないけどさ。もっと体大事にしてよね」


「連夜~、やっぱり本気で私の心配してくれるのはあんただけよ~」


「ちょっ、コラッ、ミネルヴァ、どさくさ紛れになにやってるのよ!!」


 床の上に座り込むミネルヴァの側へと、救急箱を持ってやってきた連夜。

 呆れ切った表情を浮かべながらも、救急箱を開いて中から治療用具と薬を取り出して手際良くミネルヴァの額の傷を治療してやる。

 そんな連夜の温かい心遣いに感動したミネルヴァは、とろけきった表情で連夜の膝に自分の頭を乗せて甘えにかかり、それを見た玉藻はさらに怒りを募らせるのだったが。


「しかし、連夜まで登場するなんて、いよいよこれ夢よね。ヤバイなぁ、私欲求不満なのかな。アポロ達とは定期的に会って発散しているから、そうでもないはずなんだけどなぁ」


「いや、夢じゃないから。現実だから」


「え~、何いってるのさ。流石にここに連夜が出てくるわけないじゃん。ここってお酒の出るレストランだよ? 高校生出入り禁止なんだよ」


「いや、ここって僕にロマリア料理を教えてくれた師匠の店なんだけど。今日は店のお手伝いにきていたんだけどね」


「へ~、そうなんだ」


「うん、そうなんだ」


「・・」


「・・」


 いかにも信用してませんよ~、と言わんばかりのニヤケ顔でウェイター姿の連夜の話を聞いていたミネルヴァ。

 しかし、それでも何か思い当たる節があるのか、しきりに連夜の尻や、尻や、さらにお尻のあたりを撫ぜ繰りまわす。

 すると、だんだんミネルヴァの笑みが強張り始め、最終的には引き攣って笑みとは言えない奇妙な形にまで歪んでかたまった。


「えっと、なんか妙に連夜の体の感触がリアルなんだけど、どうしてなんだろ」


「いや、それは夢じゃなくて現実だからなんだけど」


「あ、そっか、やっぱ現実なんだ、これ」


「うん、そうそう、現実」


「そうじゃないかな~って思ったけど、やっぱこのお尻の感触は本物かあ」


「どうでもいいけど、どうしていっつも僕を触るときそういうやらしい触り方になるわけ? しかも、お尻の感触で僕が本物か夢か判断するってどういうこと?」


「だって、連夜のお尻は私のものぉぐえっ!!」


 上気した表情でとんでもないことを口にしようとしたミネルヴァだったが、腹に物凄い衝撃を受けて意味不明な叫びをあげてしまう。

 あまりの痛みに連夜の膝から転げ落ち、床の上を再びのたうちまわるミネルヴァ。


「な、な、なに、いったいなんなの!?」


「殺す、絶対殺す、ひゃくぱ~殺す、私のお尻を、私だけのお尻を、私しか触っちゃいけない不可侵領域をどぎたねぇ手で犯しやがって、てめぇなんざ親友じゃねぇ、蹴り殺してやらぁ!!」


「ぎゃああああっ!! さ、殺人鬼ぃぃっ!?」


「ぐっふっふ、何言ってるのミネルヴァ。これは夢なんでしょう? 夢だったら殺されても大丈夫じゃない。安心して私に殺されてちょうだい。ね、いい子だから」


「いやあああっ!! 今、完全にこれが現実だって自覚したわよ!! あんたのその眼。その眼は、いい気になっている不良や犯罪者達を踏みつぶすときのいつもの眼、玉藻を玉藻たらしめている眼!!」


「ううん、これは夢よ、夢。夢だから安心して私に身を任せて。これが終わったあと、間違いなくあなたはスッキリと眼が覚めるはず・・地獄で」


「きゃあああああっ、誰か助けてぇぇぇぇっ!!」

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