第十一話 『ミネルヴァ強襲(後編)』 その3
アポロ・オリンポス、アダム・イーストエデン、アレス・ロムリエス。
全員ミネルヴァ達と同じ城砦都市『嶺斬泊』屈指の名門、都市立『与厳大学』に在籍している学生達。
それぞれ学年こそ違うものの、それぞれがそれぞれの学年、学科、分野で名を馳せる俊英ばかりである。
アポロ・オリンポスは、特殊術器『銃』を使用する術、『攻術』の使い手。
特に『火』属性を使った攻撃術が得意で、その破壊力は都市内屈指といわれているほど
アダム・イーストエデンは、様々な防御能力を引き上げる術、『円術』の使い手。
小型盾を使った『操盾武踊術』という特殊な戦闘武術と合わせたその防御技術は、都市防御に当たっている警備部隊のプロからみても芸術的と称賛されるほど。
アレス・ロムリエスは、アダムと逆に攻撃力を引き上げる術、『空術』の使い手。
様々な武器を使いこなす彼は、そのときどきの状況に応じ、自分が使う武器の特性を変幻自在に変えて戦いを有利に進める能力を持つ。
成績優秀、生家は上級種族の名門に連なる者ばかり、卒業後は、『害獣』ハンターだろうが、中央庁の役員だろうが、各分野の一流企業だろうが、引く手あまたなのは間違いなく、どこにいってもすぐに採用されてしまうだろう。
ともかく超絶的に優秀なスーパーエリート達、他人の下につくことなど考えられない、常に『人』の上に立つために生まれてきたような者達ばかりであるが・・
そんな彼らはみな、ミネルヴァの『愛人』達なのであった。
勿論、中学生同士の初々しいおままごとのような関係ではない。
ミネルヴァと彼らはがっつり大人の関係であった。
そう、みんなミネルヴァと肉体関係を結んでいるのだ。
連夜に対して抱いている感情とはまた別の感情で結ばれた者達。
生涯を通してずっと側にいてほしい。
ミネルヴァが心から、自分からほしい、そう思うのは連夜ただ一人。
だが、ミネルヴァは向こうから差し出される手を拒む人物ではなかった。
いずれ自分の元から通り過ぎて行くことはわかっている。
今、このときだけの『客人』に過ぎないのはわかってはいたが、自分に向けられる好意を無下にすることはできなかった。
自分にとって『特別』な一番にはなりえない。
そう断じた上で、それでも尚も自分を求めてきた者達。
それが彼らであった。
「複雑怪奇なリーダーの恋愛観をどうこういうつもりはないし、誰と恋愛しようと勝手だけどさ」
「彼らとだけはいい加減関係を絶ったほうがいいと思いますわ」
片や苦々しい表情、片や何かを案じている表情と二人の顔に浮かんでいる表情はそれぞれ違っていたが、その目・・二人の目に映っている光は全く共通。
激しい憎悪と敵意、そして隠しきれない軽蔑の色。
中学時代からの親しい友人達が、何故そこまで自分が選んだ大切な人達に激しい敵意を向けるのかがわからず、ミネルヴァは困惑の色を隠せぬままに問い返す。
「関係を絶てって、なんでそんなこと言うの? だ、だいたい、あんた達だって、連夜っていう婚約者がいるにも関わらず、いろいろと好き勝手にやってるじゃない!! 自分達のことは棚にあげておいて、私にだけそんなこと言うわけ? それにそもそも、あんた達が言ってることだって本当に真実なのかどうか怪しいわよ。あいつらが捨てたっていうけど、男女の関係なんて当人同士にしかわからないこといっぱいあるし、そうなのかどうかは本当のところはわからないでしょ? それともあんた達いちいち確認したわけ?」
若干ヒステリック気味にまくしたてるミネルヴァ。
そんなミネルヴァの姿を見つめていた二人は、憐みの色を隠そうともせずにがっくりと肩を落とすと、再び大きな溜息を吐きだして同時に片手をひらひらと振って見せた。
「好き勝手ねぇ。確かにそう見えるかもしれないというか、そういう風に見えるようにしているんだけど」
「リビュエー、しゃべりすぎよ」
「ああ、もう、めんどくさい。いいや。どうせ、リーダーが聞く耳持たないだろうってことは、あらかじめ言い含められていたし」
「あの方の予想通り、このまま続けても延々と平行線を辿るだけでしょうね」
「はあっ? なにそれ? さっきから何意味不明なこと言ってるの? 誰かに何か言われていたわけ?」
「こっちの話しですわ」
「そうそう、どうせ、近いうちに嫌でもリーダーはそれを思い知ることになるだろうし、そのときたっぷり後悔すればいいと思う」
「なんで!? なんで、私が後悔するの!?」
ある一定の方向においては全く頭脳が働かない自分達のリーダーの姿に、二人の視線の色は憐みから限りなく白くなっていく。
ミネルヴァのほうは、自分が完全に呆れ果てられていること、そして、相当に重要な何かを自分が見過ごしていることには流石に気がついていたのだが、それが何のかわからずますます困惑の色を深めていく。
しかし、結局、目の前の二人はそれ以上この話題を続けるつもりはなかった。
彼女達、そして、彼女達が仕える主が、聞きたかった情報。
何故『祟鴉』を付け狙うのか?
その真の理由についての情報は、もう十分しゃべってもらったからだ。
全てを語ったわけでは勿論ない。
しかし、彼女達でも十分推測し、真実に辿りつけるだけの情報と確証は得た。
なので、聞きたかったもう一つの話題について水を向ける。
「それよりもリーダー、二つの敵のうち一つが犯罪者っていうのはわかりましたけれど、もう一つはなんなのですの?」
「いや、あのね、私のほうはまださっきのアポロ達の話しについて終わったつもりはないんだけど」
「あたしたちの中ではもう終わってる。そりゃリーダーが蒸し返したいならそうしてもいいけど、そうなるとあたしらもまだ言ってないことしゃべっちゃうよ?」
「リーダーが知らない、そして、知りたくないであろうことをしゃべっちゃうかもしれませんね。その覚悟はおありですか?」
往生際悪く尚も二人に突っかかろうとするミネルヴァであったが、二人の視線から感じる妙な威圧感、そして、その言葉から感じる壮絶に嫌な予感に思わず視線を反らす。
「べ、別に私は何言われても動じることはないけど、二人がどうしても話を先に進めてほしいっていうならそうしてあげてもよくってよ」
「「ヘタレ」」
「うっさいわね!! 話してほしいのほしくないの、どっちよ!!」
「はいはい、もういいですから、飲んで飲んで」
「いい加減私達も疲れてきたから、とっととしゃべってくださいな。そして、私達を解放してください。そろそろ帰って寝ないと美容に悪いんですのよ、ほら、飲んで飲んで」
「あ~、コンチクショー、なんなんのよなんなのよ、いったい、あんた達何しにここに来てるわけ!? いったい何が目的なのよ!? さっきから私にだけ意味が通じないようなわけのわからないことばっかり口にしてさぁ!? これひょっとして新手のいじめか何か?」
「黙っていじめられてくれるような可愛げがリーダーのどこにあるんですの?」
「眼には眼を、歯には歯を、いじめには鉄拳制裁、容赦ない血の粛清がモットーのリーダーに『いじめ』を仕掛けるくらいなら、正面からぶち当たったほうがマシです。はいはい、とりあえず飲んでください。今、素面に戻られると私達としてはひっじょ~に困るんですよ。はいはい、イッキイッキ」
「ああ、飲むわよ、飲んでやるわよ。くっそ~、なんなのよもうっ!!」
お互いヤケ酒になりつつあると自覚しつつも(クレオとリビュエーはほとんど飲んでないが)、ミネルヴァの持つワイングラスに代わる代わるどんどん酒を注ぐクレオとリビュエー、そして、注がれるままにどんどん杯を重ねていくミネルヴァ。
先程の話のことが気にならないわけではなかったが、結局ミネルヴァは続きを話すことを断念し、二人に請われるままに元の話の続きを話し始める。
「で、リーダーの二つ目の敵ってなんなんですの?」
「『女』」
「は?」
「だから『女』よ。あの子に近づく『女』全てが私の敵」
ミネルヴァの発した言葉の意味がわからず、一瞬ミネルヴァのもつワイングラスに酒を注ぐ動きを止めて、言葉を発した人物をきょとんと見返すクレオとリビュエー。
酒を飲ませ過ぎたかという思いが脳裏をよぎったが、目の前のミネルヴァの眼を見てそうではないと悟る。
酒に淀んで濁ってはいる。
しかし、鈍い光の奥底には、冗談とは全く反対の光が宿っているのが見えた。
本気の本気。
ミネルヴァは紛れもなく本気でその言葉を口にしていた。
「私以外の『女』達。子供とか大人とか関係ない、先生とか生徒とか、先輩とか後輩とか、友達とか顔見知りとか何もかも関係ないわ。あの子に近づこうとする『女』が全て私の敵」
「いやいやいや、ちょ、ちょっと待ってリーダー。いくらなんでもそれって定義が広すぎるでしょ?」
「『近く』にいるっていう条件がついたとしても、普通に生活しているだけでどれだけの人数を敵としてみなすことになるか。まさか、片っ端からなんてことありませんわよね?」
「そんなことあるわけないでしょ。普通に近くにいるだけなら別に何もしやしないわよ。私が言いたいのはあの子の心の側に近づこうとする『女』達のことよ。私はね、あの子の心に近づこうとする『女』達を絶対に許さなかったわ。許すわけにはいかないのよ。あの子の心の側にいていいのは私だけ、あの子の心を所有していいのは私だけなのだから。なのに、あの子に近づこうとする『女』達のなんと多いことか。上っ面だけ、興味本位だけで近づくならまだいい。だけど、ほとんどの『女』達がそれなりに覚悟を決めて、あの子の側に寄ってくるのはどういうわけ!? しかもどいつもこいつも自分や家族の命を助けてもらったとか、生きるべき道を教えてくれたとか、一緒に生きたいと思ったからとか、やたら大仰な理由を掲げてくるし!?」
「あ~、そうね確かにそうかもねぇ~」
「ボス・・あわわ、連夜くんって、見えないところでいろいろな『人』を助けていますからねぇ。そのときの恩を忘れられず、そのままそれが愛に・・」
「はっきり言って、鬱陶しいのよ、迷惑なのよ、どこかよそでやりなさいよ!! そんなのは私だけでいいのよ!!」
「いや、それはいくらなんでも」
「うんうん。誰にでも人に『恋』する権利はあるし、『愛』する資格はありますわ。ましてや相手は連夜くんでしょ?」
「そうだよそうだよ。特定の相手をすでに自分の心の中に住ませている者ならともかく、そうでない状態で危ないところを颯爽と助けられたりしたらさぁ、絶対コロッといっちゃうよ? 連夜くんのこと好きになっても無理ないと思うけどなぁ」
「しゃら~~っぷ!! そんなのいちいち構っていられるかってのよ。恋は戦争よ!? やるかやられるかよ!? 一瞬でも油断したら終わりなの。いい『女』は死んだ『女』だけ、生きて動いている『女』は全て敵と思え!!」
「ちょ、リーダー、その気構えはわかったけど」
「まさか・・まさかとは思いますけどリーダー、その連夜くんに近づこうとした女の子達はどうなっ・・」
「だ~い」
「「え?」」
「だ~い。だ~い、やぽ~(弱者は死ね)」
「「の、のぉ~~~っ!!」」
リーダーの口から吐き出された不吉な言葉に思わず顔面を蒼白にするクレオとリビュエー。
「うそっ!? うそですよね、リーダー!?」
「え、ま、まさか、本気でコロ・・」
「肉体的には殺していないわよ」
「「肉体的にはって、じゃあ、精神的には!?」」
「・・ちっ」
「「いったい何したのっ、リーダー!?」」
「あいつらが連夜に不用意に近づこうとするから悪いのよ。普通に通り過ぎてくれさえすれば、あんなことには」
「「あんなことっていったいなんなの!? ちょ、リーダー、暗黒面が深すぎて私達じゃ受け止めきれないんだけど!!」」
「ビビッているんじゃないわよ。大丈夫、安心しなさい。心配しなくても大事になるようなことは何一つないから」
「「ああ、そうなんだ」」
「証拠隠滅も、アリバイ工作も万全だから」
「「って、全然、安心じゃねぇええええええええっ!!」」
持っていたワインボトルを思わず取り落とし、本気でうろたえ始めるクレオとリビュエー。
冗談っぽい口調、おどけた表情。
しかし、そんなものに二人は誤魔化されなかった。
その言葉の中に、絶対に無視できない強烈な何かを感じた二人は、ミネルヴァが過去に行ったという所業が決して冗談で済まされる軽いものではないということを敏感に察知したのだ。
言葉を濁し、内容ははっきりと口にはしてはいないが、連夜の心に近づいた者達に相当厳しい攻撃を加えたに違いない。
そして、それら全てを完璧に排除したに違いないのだ。
「リーダー、内容は聞きたくないし、今更ほじくったって何の解決にもならないと思うけどさ、やりすぎたって思ったことないの?」
「ないわ。ないし、自分がしたことに後悔は一切してない。あの子を好きになる、男として愛するってことがそもそも禁忌を犯していることに他ならないのよ? それこそ今更だわ。すでに大きな大きな罪を犯す覚悟を決めているのに、一つや二つ罪状が増えたからなんなの? 誰に邪魔されようと、自分の想いを貫くって決めたのよ。陥れた相手に憎まれるくらい大したことじゃない。それよりも、一番大事な人をこの手に抱きしめられないほうがよっぽど辛い。そのためなら私はいくらでも・・『鬼』になれる」
酒臭い息をおっさんのように『ぶはぁ~』と盛大に吐き出しながら、据わり切った眼で二人を睨みつけるミネルヴァ。
しかし、睨みつけられたクレオとリビュエーは気を悪くする風もなく、むしろどこか妙に納得した表情になってミネルヴァを静かに見つめ返す。
「その気持ちはちょっとわかるかな」
「そうね、できることなら。それもまた一つの勇気なのかもしれない。一つの真理なのかもしれませんわね」
ミネルヴァの告白に二人の脳裏に一人の少年の姿が浮かび上がる。
黒髪黒目の少年。
自分たちよりも年下の少年。
彼女達の心の中心近くに住み、彼女達が心から愛する存在。
ミネルヴァと同じく、様々な男達の間をゆらゆらと揺らめき漂う恋多きクレオとリビュエー。
勿論、そのとき出会った、あるいは縁を持ったいろいろな男達と関係も持っている。
決してミネルヴァを正面きって説教できる立場ではない二人。
しかしそんな彼女達にも、決して忘れない、忘れられない、諦めない、諦めきれない大事な『人』がいる。
彼女達の心の奥底にじっと居座り続ける二つの大きな存在のうちの一つ。
幼き頃彼女を助けてくれた最強のヒーローでもある彼のことを思い返すと、ミネルヴァの思いは決して人ごとではない。
ただ。
たまたまミネルヴァには、愛する者との間にその行いを躊躇するだけの複雑な事情がなかった。
たまたま自分達には、愛する者との間にその行いを躊躇するだけの複雑な事情があった。
それだけの違い。
だが、そのたったそれだけの違いが大きい、非常に大きいのだ。
クレオとリビュエーは苦い苦い笑みを浮かべて顔を見合わせたあと、テーブルの上の新しいワインボトルを掴んで同時にそれをイッキ飲みした。
「あれ? 何、二人とも黙り込んじゃって。どうしたの?」
「うっさいうっさい。自分はいつでも会える距離にいるくせに、なんでそう自分勝手なの、リーダーは!?」
「そうですわ。私達なんか、滅多に会えないのを我慢してるし、いろいろあっておいそれと自分の気持ちも伝えられずにいるっていうのに、何その我儘ぶりは!? ちょっとくらい他の子にチャンスをあげてもいいじゃありませんか!? なのに全部邪魔して追い払うなんて、やることがあまりにもエゲツナイですわ!!」
「エゲツナイ上等よ!! 手段を選んでなんかいられないし、恋愛に関するモラルなんてとっくの昔に捨ててやったわ」
「まあ、そう仰るだろうなとは思っていましたけど、リーダー。一つだけ気になっていることが、いえ、どうしてもわからないことがあるんです」
「何?」
「連夜くんの婚約者である私やリビュエーには何の妨害工作もしなかったのに、どうして連夜くんそのものと面識がない玉藻さんには徹底した情報封鎖なんて妨害工作を行ったんですの?」
これまでと変わらぬ口調での問いかけ。
別に問い詰めるとか、なじるとか、怒るとかいった風では全くない。
クレオの口調は普段通りで、全く責めているとかいうわけでもなかった。
なのに、その問いかけを耳にした瞬間、ミネルヴァの体は完全にフリーズした。
質問がクレオの口から出る寸前まで、ほとんどその手を休めることなくグラスを傾け続けていたというのにだ。
クレオ達のテーブルだけが不気味なほどの静寂に包まれる。
あまりにも急激な変化に心配したリビュエーは、グラスを片手に固まっているミネルヴァに声をかけようとしたのだが、目の前に座る彼女達のリーダーは、だらだらと冷や汗を滝のよ
うに流しながら、懸命に何か言葉を発しようとゴーレムのようにパクパク口を動かし続けていた。
「あ、あの、リーダー? もしもし?」
「な、ななななななんでそんなこと今更聞くわけ? 聞いてくれちゃうわけ?」
「いや、だって、どう考えてもおかしいでしょ? これでも私達は連夜くんの婚約者、普通に考えたら一番あの子の心を掴む可能性があり、リーダーにとって一番危険な相手であるのは我々のはず」
「だよね。でも、何故かリーダーが警戒し続けてきたのはたまちゃんなんだよね。敵であるはずの私達まで抱き込んで、絶対に連夜くんの存在をたまちゃんには知られないようにしていた。いったいぜんたいなんでなの? たまちゃんて、私達よりもリーダーと長い付き合いだし、一番信用している相手のはずなのに」
「確かに最初の頃は、私達もリーダーの案に賛成して情報封鎖に一役買いましたよ。なんせあの頃の玉藻さんは荒れに荒れていましたからね。中学の最初の頃、私達が初めて出会い親交を持つようになって間もない頃でしたか。経緯は知りませんが、玉藻さんが想いを寄せていた『人』がすでに死んでいたということを知った頃でしたよね」
「うんうん、荒れていたよねえ。ショックでしばらく不登校になっていたけどさ。ある日突然学校にやってきて、学校に巣くう不良どもを手当たり次第に攻撃し始めた。それはもう本当に手当たり次第。しかも情け容赦ない徹底した全殺し」
「いくら友達とはいえ、あの『狂戦士』を連夜くんに近づけるわけにはいかない。そう言われた私達は、連夜くんの存在を玉藻さんに知られないように、情報を封鎖することを承諾しました」
「でもさ、時間が経つにつれて、徐々にたまちゃんが『狂戦士』化する頻度もめっきり減っていって、高校を卒業する頃にはすっかり落ち着いた状態になっていた」
「ところがリーダーはそうなっても、絶対に連夜くんのことを知られないようにしようとしていましたわよね? 何故? 何故なんですの? いったい、玉藻さんと私達との差はなんだったんですか?」
再び静寂はテーブルを支配する。
重苦しい沈黙。
しかし、二人はこのまま有耶無耶にするつもりはサラサラなかった。
なぜなら本日最大のミッションは、この答えを聞き出すことだからだ。
彼女達の主、そして、当事者その『人』、そしてそして、自分達自身もこの答えをはっきりと知りたかった。
絶対に逃がさない、はぐらかせないという強い意志に満ちた四つの瞳。
流石のミネルヴァも、最早これまでと覚悟を決めたのか、しぶしぶといった口調でその答えを心の中から外へと吐き出し始める。
「どうしても知りたいの?」
「「どうしても知りたいです」」
「それこそ今更なんだけどなぁ」
「「いいから、早く」」
「はぁ・・あのね、まずあんた達を警戒しなかったのは、あんた達は、すでに連夜に『家族』として認知されているって知っていたからよ。つまりあんた達は、うちのお母さんやお父さん、ダイやスカサハやさくら達なんかと同じ、連夜にとっては大事な『家族』の一員。まあ、その『家族』の中でも連夜の中ではいろいろと区分けされているみたいで、どこに区分けされているのかまでは正確には知らないけどさ。でも少なくとも『伴侶』とか『恋人』とか、そして『婚約者』でもない」
「「・・うっ」」
ミネルヴァの言っていることは紛れもない事実である。
彼女達は間違いなく『連夜一家』の一員だ。
しかし、それは『婚約者』という表の名目ではない。
『近侍』、連夜が深く信頼する側近の一人としてだ。
それは連夜の両親や連夜本人しか知らぬこと、ミネルヴァをはじめとする他の家族達は表の『婚約者』としての自分達しか知らぬはずだが。
どうやら彼女達のリーダーは、出会った当初、すでにそういった関係ではないことを見破っていたらしい。
長年の付き合いで目の前の酔っ払いがただのお笑い芸人ではないことをよ~く知っていたはずだったが、改めて只者ではないことを認知して二人は心の中で大きく溜息をもらす。
「全くもう、鈍いのか鋭いのかリーダーっていまだにほんとよくわかんないよなぁ。で、私達のことはわかったけどたまちゃんのことは?」
「はあぁ・・玉藻のこと? あれはねぇ」
「「「あれは?」」」
「あれは『理想の女性』そのものだったからよ」
「「「えっ?」」」