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真・こことは違うどこかの日常  作者: カブト
過去(高校二年生編)
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序章

 ここではないどこかの『世界』。


 かつて『世界』にあふれていた天魔、鬼獣、聖霊、魔物、そして、人間といったあらゆる『人』々は、『世界』に元々あらざる様々な力を他の『異界』から取り出す術を発見し、『世界』の理が壊れることも厭わず、自らの気の向くまま欲望のままに使い続けた。

 何千年もの間『人』々は、それらの力を垂れ流し、やがて『世界』そのものを自由に変貌させられるほどの力を持つ者まで現れた。

 そういう者達は、自らを『神』あるいは『魔王』と称し、あたかも『世界』そのものの創造主ですらあるかの如く『世界』のありようを自分の都合のいいように変化させる。最早『世界』は元の姿を知る者達からは想像できないほど荒れ果て、『人』々以外の生き物にとっては地獄と言っても過言ではなかった。

 だが、まさに頂点へと達しようとしていたそういう『人』々の傲慢も、ついに『世界』そのものの怒りが爆発するとともに終焉を迎える。

 最初に出現したのは、雲を突くような直立型のトカゲのような姿をした『竜』だった。

 この世界に存在する、頭部に角と立派なひげ、蛇のように胴の長い『龍』と呼ばれる種族でもなければ、大きな四足のトカゲに角と背中に蝙蝠の翼つけたような姿の『ドラゴン』と呼ばれる種族でもない。翼もなければ角もなく、真っ黒い岩のような肌に、背中にはいくつもの背びれにも見える角のようなものがズラリとならんだ異様な姿。

 はじめてその『竜』と対峙したのは、当時、西域を支配していた聖魔族達であったといわれる。

 当時の聖魔族達は、異界の力の一つである『魔力』を子供ですら自由に使いこなせるほど進化した種族となっており、ましてや世界に覇を成すほどの奇跡の力を持つ十一傑の一人『魔王』を頂点にした一大種族。得体のしれない図体がでかいだけのトカゲの化け物など、敵ではない。

 誰もがそう思った。だが・・

 聖魔族達の大部分はその図体がでかいだけのトカゲに食われた。

 聖魔族だけではない。歴代魔王の中でも五本の指に入るといわれるほどの実力を誇っていた当代の『魔王』も食われた。

 そして、図体がでかいだけと言われたトカゲは全くの無傷であったという。


『まさか・・』


『そんなはずはない・・』


『何かの間違いだ・・』


 その事実を誰も信じようとはしなかった。

 だが、目を背けようとした『人』々はやがて、己の目でもって事実を知ることになる。

 『竜』は世界各地を転々とし、片っぱしから異界の力を操る者達を食らっていった。当り前のことではあるが、このとき『竜』に襲われた『人』々はただ黙って食われたわけではない。狙われた『人』々は、勿論、『神』や『魔王』達も持てる力の全てを使って対抗した。

 山を動かし、海を裂き、天を轟かせ、時には時空さえも歪め、あらゆる奇跡の力を『竜』にぶつけたといわれる。

 だが、そのことごとくはすべて『無』かったことにされた。

 『竜』に向けて直接的、あるいは間接的にかけられた『異界』の力による奇跡は、発動しても『竜』に到達する前に『無』かったことにされるか、あるいは例え発動して結果が出たとしても、まるで時計が逆回転するかのように発動する前の状態に強制的にもどされて『無』かったことにされてしまった。   

 『人』々は事ここに至ってようやく事の重大さに気づき、そして、この現象の意味を知る。

 『世界』が『異界』の力を全面的に否定しているのだと。そして、『竜』はこの『世界』の代弁者であると同時に、『異界』の力を使う『人』々への断罪者であると。得意絶頂の高みから、一気に奈落の底へと突き落とされた『人』々の悪夢は終わらない。

 『竜』の出現から数年後、『竜』の存在する意味を知り、その存在の移動先から逃げようと世界のあちこちへ飛んで身を隠そうとした『人』々にさらなる絶望が襲いかかる。世界のあちこちに、『竜』と同じような特性を持った生物が出現しはじめていた。すなわち、あらゆる『異界』の奇跡の力を否定する力を持つ生き物が。その姿は実に様々で、『竜』に匹敵する巨大な姿を持つ者もいれば、人間ほどの大きさのものまで。トカゲのような姿から、鳥のような姿のもの、あるいは、ミミズや、昆虫のようなものまで、実に様々。

 共通することはただ一つ。

 『竜』と同じく、『異界』の力を持つ者、あるいは持つ物を狩り食らうということ。

 いつしか『人』々は『竜』を含めた彼らのことを絶望と畏怖をこめてこう呼ぶようになっていた。


 『害獣』と


 何千年にもわたり隆盛を誇っていた『人』々は、彼らの出現によって、たった十数年で絶滅寸前まで追い込まれた。

 だが、『人』々は滅びなかった。偶然なのか、それとも『世界』そのものの情けだったのか、『害獣』から逃げ回っていた『人』々の中に、『害獣』が侵入してこない場所があることに気づいた者がいた。『異界』の力が流れ込みにくい、あるいは全く流れ込まない場所であったがゆえに、当時の『人』々から開拓されることもなく放置されていた『辺境区』と呼ばれる場所が世界のあちこちに存在しているが、そこには『害獣』の姿が全くなかった。生き残った人々はそこに次々と逃げ込んで、堅固な城壁によって囲まれた(勿論『異界』の力ではなく自らの力で作った城壁)城砦都市を作り、その中の安全地帯に隠れるように住むようになった。

 それが五百年近くも前の話。

 それから時が経ち、『人』々の文明がこれまでとは全く違う方向へと進歩していって、今に至る。

 相変わらず『害獣』達は世界中の至る所を闊歩しており、城砦都市から一歩踏み出した外の世界が危険であることには変わりはないが、それでも、偉大な先人達のおかげで、ある程度『人』々は世界を再び自らの足で歩けるようになり、細々とながらも他の城砦都市との繋がりを築き徐々に人口を増やしつつある。


 今年高校二年生になる人間族の少年 宿難(すくな) 連夜(れんや)は、そんな今の世界に生まれてしまった。

 この世界最大の大陸である『阿』大陸の北方、南方諸都市との大事な中継都市として名を馳せる城砦都市『嶺斬泊』。

 二百年以上も前に『王』や『貴族』と呼ばれる力ある『害獣』達はすでに都市周辺から立ち去り、いまだ残っている『害獣』達もある一定の地域からは出てこないことが確認されていて、他の地域に比べれば比較的安全な場所にこの都市は存在している。

 だが、分厚く高い堅固な城壁の一歩外、内部に住む『人』々から『外区』と呼ばれている地域は、完全に安全な場所とは決して言い難い場所であることに間違いはない。『人』類最大の天敵である『害獣』は勿論、元々住んでいた友好的とはとてもいえない危険な原住生物達、あるいは、『害獣』の出現以降、狂った生態系の果てに生まれてきたと思われる未知の野生動物達が今このときも都市を覆う壁一枚向こうで跳梁跋扈しているのだ。幸いにも城砦都市を守る守護兵達は優秀であったし、『外区』をうろついているそういった危険生物達の活動範囲から外れているのか、彼らが都市に直接攻撃を仕掛けてきたりということは、今だ一度としてないが、この都市の内部に住む者全ては、多かれ少なかれ何かしらの危機感を抱きながら日々生活をしている。

 いつ何があっても対処できるように、牙を持つ者はその牙で牙持たぬ同朋達を守るためにそれを磨き続け、牙持たぬ者は、牙持つ者達の力となって支えるために自分達にできることを、自分達にしかできない技術を磨き続けている。

 勿論、連夜とてその例外ではない。

 彼自身は全種族中最弱である『人間』族に生まれてしまったため、直接戦う為の技術はほとんど会得してはいなかったが、それ以外に役立つあらゆる知識技術技能を日々精進して会得しようと努めている。

 彼は彼なりに、自分が生き残る術、あるいは道を探りながら懸命に生きているのだ。

 が・・

 だからといって連夜自身が『害獣』との激闘の日々を送るわけではない。

 『害獣』と戦う『ハンター』でもなければ、城壁に張りついて日々都市を守っている守備兵でもない。まだただの一介の高校生である。一応、将来を考え『外区』との関わりを念頭に置いてはいるが、彼が戦わなくてはならないものは今のところほとんどこの都市内部に存在していた。

 彼が戦わなくてはならない最大の敵、それは『日常生活』という。

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