第八話 『二人の日常』 その3
霊峰『落陽紅』の麓には大陸屈指の大河『黄帝江』が流れている。
反対岸が霞んでよく見えないほどの大きな大きな文字通りの『大河』。
流れも非常にゆっくりと穏やかで、よくよく観察しないと北から南に流れているのがわからないくらい実にのんびりした速度の流れ。
そのため、初めて見た『人』の中にはこの河を海と間違える『人』もいるという。
そんな『黄帝江』の源流近く、広大な流れのど真ん中に、島のように突き出た形で存在する陸地の中に城砦都市『嶺斬泊』はある。
過去の先人達によって築きあげられた巨大な鉄壁は都市を円形に取り囲み、恐るべき『人』類の天敵である『害獣』から、『人』々の命とささやかな日常と平和を守り続けている。
だが、その一歩外に踏み出せば、そこは恐るべき『害獣』達が支配する場所。
『害獣』とは・・
かつて『人』々がこの世界に元々は存在しなかった『異界の力』と呼ばれる様々な力を利用し『世界』を思うがままに蹂躙したその所業に対し、怒り狂った『世界』が世に解き放った断罪の使徒。
『霊力』、『魔力』、『神通力』、『理力』、『呪力』、『精霊力』、数え上げればキリがないほどの膨大な種類の『異界の力』がこの世には溢れ、『世界』が崩壊の危機に攫われていた、まさにそのとき、彼らは姿を現した。
強力すぎるが故に、使われた『世界』も、そして使用している『人』々そのものも汚染し、滅亡へと導き続ける『異界の力』の発生源。
それを、彼らは問答無用に次々と滅ぼしていったのだ。
強力な魔道器具を、異界から召喚されし恐るべき力持つ怪物や異世界人を、そして、『異界の力』そのものを使用する、あるいは汚染された『人』々そのもの。
『異界の力』を発生させるあらゆるもの全てを。
『世界』そのものに存在を承認され、『最強』『無敵』であることを位置づけられた生物に敵うものなどいるはずもなく、『人』々はその容赦ない断罪の鎌によって命を刈り取り続けられる。
そして、それは今も続いているのだ。
なのに・・
「な〜〜〜んで、私ここにいるんだろ?」
薄い青色の長袖シャツに、動きやすいジーパンに白いスニーカー。
大河の川岸に軽く散歩にでも出かけるような軽装姿の霊狐族の一人の女性の姿がある。
つい最近年下の彼氏ができたばかりの花の大学二年生、如月 玉藻その人である。
まだ日は東の空を上りかけている途中。
午前中がはじまったばかりという時間。
平日なら大学に、そして、休日なら家でゴロゴロしている時間。
一応、今日は土曜日で大学は休み、と、いうことで普通なら後者の『家でゴロゴロしている』はずだったのだが。
現在彼女は『家でゴロゴロしている』わけではない。
大学に来ているわけでもなければ、ウインドゥショッピングや映画を見に繁華街に出てきているわけでもない。
いや、それどころか、現在彼女は普通なら考えられない場所へとやってきていた。
そう、一般人なら決して来ないような場所にだ。
元々、今日は彼女が心から愛する恋人、現役高校二年生、宿難 連夜とデートする日だった。
連夜は普段、彼女の家に頻繁に遊びに、というか、彼女の世話をしにやってきてくれる実によくできた彼氏。
その連夜とは一週間に三日以上は必ず会っていて、自他共に認めるほど熱愛中の二人だが、二人で外出ということは滅多にない。
と、いうのも、平日は玉藻は大学、連夜は高校が忙しく、休日は休日でお互い何かといろいろあって時間がなかなか合わないからである。
別に二人とも外出したくないわけではないのだが、どうにもまとまった時間がなかなか取れないでいた。
そんな中、ようやく二人共にまとまって時間を取れることがわかり、連夜が『お出掛けしませんか?』と、玉藻をデートに誘ってくれたのである。
勿論、彼女に断るなんていう選択肢が存在するわけはない。
行き先もろくすっぽ聞かないままに承諾の返事を返したのであるが。
「いや、確かに『いいよ。行こう行こう。連夜くんの連れてって行ってくれるところならどこだって行くわ!!』って、言ったわよ。言ったけど・・でもね」
そう呟いた彼女は、途方に暮れた表情で溜息を大きく吐き出すと、目の前を流れる悠久の大河『黄帝江』をぼんやりと眺め、そして、今更ながらに考える。
どうしてこうなったのかと。
「と、いうかさ、なんでここなの? ここって私の気のせいじゃなければ・・」
大河から視線を外して後ろを振り返り改めて周囲を見渡す。
彼女が立つ大河の川岸から先は全て、膝上まである雑草によって構成された濃い緑の絨毯が広がる。
その絨毯の途中途中には、思い出したように捻じ曲がりつつも空を目指して成長を続けている樹木の姿や、大昔に大河を転がってきたと思われる大きな石がぽつんぽつんと存在している。
ここにあるのは樹や石ばかりではない。
緑の絨毯の上には中型犬ほどもありそうな大きなウサギ達の姿あり、また樹木や石の上には六足四眼のクロネコ達の姿が多数見受けられる。
彼らは特に何をするということもなく、のんびりと平和そのものといた風情で草原や樹木、石の上にまるまって目を細めている。
妙にファンシーな風景。
ある一点が眼に入らなければ、どこかのファンタジーか童話の世界に迷い込んだような錯覚に陥りそうになるのだったが。
しかし。
そのある一点のせいで全てが台無しになっていた。
彼女が立つ場所から南側。
そこから遠くに城砦都市『嶺斬泊』の外壁が見えるわけだが、そのもっと手前。
草原の南端に、その問題の箇所が存在している。
そこには・・
鋼鉄で作られた棘だらけの鉄線で作られた如何にもなものものしい柵。
それが草原の南側と北側を両断するようにして一直線に走っている。
そして、一番問題なのは、その柵のいたるところに、これ見よがしに立てられている大きな立て札の群れ。
そこには・・
『ここより都市指定特別危険地域。絶対に入るな!! ここから先は『害獣』の密集地!! 先に進めば待つのは確実な『死』』
なんて書かれている。
と、いうか、ここに来る前に玉藻は書かれているのを目撃した。
ちなみに『目撃した』という過去形になっているのは、今ここからでは読めないからだ。
別にそれは玉藻の目が悪いからではない。
理由は簡単。
立て札が玉藻のいる側とは反対方向を向いて立てられているからだ。
何がいいたいかというとつまり。
「私、その特別危険地帯にもう入っちゃってるのよねぇ~~」
がっくりと肩を落としながらもう一度溜息を吐き出す玉藻。
「な~んでこうなっちゃったの? どこで何を間違えたのかしら、私」
連夜と二人きりになれることにウキウキして、注意力が力一杯散漫になっていたからか?
確かにそれはある。
実は玉藻、昨日から一睡もしていないのだ。
愛しい愛しい連夜との久しぶりのデートとあって、嬉しくて嬉しくて目がギンギンに冴えて眠れなかったのである。
おかげで、朝を迎えたその時には既にクライマックス状態だった玉藻。
連夜が迎えに来るや否や、彼の手を引っ掴んで外へと飛び出し、彼のナビゲートのままにそのまま都市の外側へ。
そして、彼のナビゲートを全く疑うこともなくズンズンと獣道を突き進み、気がついたときにはもう、危険地帯のど真ん中だったというわけである。
「私って奴は、連夜くんが絡むとどうしてこうなっちゃうんだろ?」
今日何度めになるかわからない溜息を再び吐き出した玉藻。
地面をぼんやりみつめながら、自分の軽率さを反省していると、六足四眼の黒猫がのたのたと玉藻に近づいてきた。
そして、前足を玉藻の右足の上に乗せて『にゃ~』と一声。
「なによぉ、私のこと笑いに来たの? もう、あなたも暇よねぇ」
黒猫のなんとも間抜けで平和な様子に思わず苦笑を浮かべた玉藻。
その場に屈み込んで黒猫の身体をひょいと抱き上げる。
嫌がって抵抗するかなと思いきや、黒猫は全く逆らう様子なく玉藻に身を任せ、拍子抜けするほど簡単に抱かれるのだった。
「あら~、野生育ちのくせに無警戒な子ねぇ。そんなことだと、怖い怖い狼とか熊とか、あと、狐とかに食べられちゃうわよぉ~」
玉藻の言葉がわかっているのかわかっていないのか。
玉藻に撫ぜられるままに、気持ち良さそうにその腕に抱かれ続ける黒猫。
そんな風に、しばらくの間玉藻は黒猫と遊び続けた。
そして、そのあとどれくらい時間がたっただろうか。
黒猫を撫ぜることに飽きて、また大河をぼんやりと見つめていると、玉藻の耳にある『人』の声が飛びこんできた。
それは玉藻が絶対に忘れることのない声。
それは玉藻がこれから先生きていく上で絶対に必要な声。
それは玉藻が絶対に失うわけにはいかない声。
その声のしたほうに玉藻が急いで視線を向けると、予想通り、そこには玉藻の一番大切な『人』の姿が。
「すいません、玉藻さん。お待たせしました」
黒髪黒目の人間族の少年。
その少年は、玉藻と違い東方文字で大きく『魂』と書かれた真っ赤なTシャツの上にGジャン、下はジーパンという至って軽装な姿。
玉藻は自分の名前を呼ぶ少年のほうに一瞬嬉しそうな表情を浮かべてみせたが、すぐに不機嫌そうに頬を膨らませた。
「連夜くん、遅い!!」
「ご、ごめんなさい。昨日の雨のせいで道がところどころ崩れていまして、修復するのに時間かかっちゃいました。本当に申し訳ないです」
心から申し訳ないという表情で何度も頭を下げて必死に謝り続ける恋人の姿を、しばらく拗ねた表情で見つめる玉藻。
実は、この目の前の年下の恋人、玉藻をこんな危険なところに一人置き去りにしてくれたのである。
と、いうのも昨日の夜ちょっとした激しい雷雨があり、その影響で細い獣道はところどころ水没。
なんとかここまでは無事に辿りついたものの、その先に続く道は見える範囲だけでも明らかにひどい有様。
何も調べないままにこのまま進むのは危険だと彼は判断した。
そして、
『ちょっと道の様子を調べてきます。場合によっては道を修復することになると思いますが、三十分以内には必ず戻ってきますのでここで待っててください』
と玉藻に告げると、彼は玉藻を見通しのよい川岸に残し、人の腰くらいまでもある背の高い雑草や鬱蒼と木々が生い茂る草むらの中へと消えていったのだった。
それから三十分弱が経過。
予告したとおり、彼はちゃんと玉藻の元に帰ってきてくれた。
彼のことを信じていたし理解してもいたが、やはりちゃんと約束を守ってくれる姿を見るといろいろな意味で安堵する。
安堵するのだが・・
やっぱり心のどこかで置き去りにされたことが引っかかる複雑な乙女心の玉藻。
勿論、彼が玉藻を見捨てることなんてないことは玉藻自身よくわかっている。
行き先についてろくすっぽ説明がないのも、何か事情があってのことというのもわかってる。
何も言わなくても、そして、言われなくてもその程度のことは通じあう程度には相手のことはわかってるつもりだ。
なによりも厳然たる事実として、玉藻はあることを知っている。
連夜という少年が、自分を命の危険のあるような場所には絶対に連れて行こうとしないということを。
仮に連れて行くことになったとしても、そのとき連夜は必ずこういうだろう。
『一緒に死んでください』
と。
そうなったとしても、当然玉藻はついていくつもりだが、今回そんなこと一言も口にしてはいなかった。
つまり、今回のデートの場所に危険は皆無だということだ。
その証拠に彼はちゃんと玉藻の元に帰ってきた。
置き去りにしたと大げさに言っているが、実際には彼が行って帰ってくるまで三十分もかかってはいない。
わかっている。
よくわかっているのだ。
彼が一生懸命できるだけ早く用事を片づけて玉藻の元に帰ってこようと努力していたことはよくわかっているのだ。
わかってはいるが、しかしである。
こんなところに置いてけぼりにされたらいくら玉藻でも怖いし寂しい。
と、いうか、主に寂しい。
三十分でも離れ離れは寂しい。
『怖い』はあまりなかったが、ともかく『寂しい』。
とりあえず置き去りにしたことを許すのは許すが、寂しかったぶんをなんとかしてほしかったので、玉藻は唇をわざとタコのように突き出して見せた。
これだけでも玉藻が何を要求しているのか、相手にはちゃんと伝わったはずである。
伝わっていなかったら、ぶん殴ってやろうと思ったが、幸い相手はちゃんとわかってくれた。
玉藻の唇に温かくもやわらかい感触がすぐに伝わってきたのだ。
玉藻は自分からも押しつけながら存分に寂しさを回復する。
そして、十分自分の心が温かくなったことを確認してから唇を相手から離した。
「もう、連夜くんったら。とりあえず今回はこれで許してあげるけど、ほんとに寂しかったんだからね!!」
「ほんとにごめんなさい。できるだけ急いで戻ってこようと思ったんですが、予想以上に道が悪くなってまして、排水したり、地面を乾かしたりしていたらギリギリまで時間かかっちゃいました」
「う~~、まぁ、悪気あってのことじゃないってわかっているから、もう謝らなくていいけど、それよりも、もっと私を大事にして!! ちゃんと構って!! いっつも言ってるけど、構ってくれなきゃ寂しくて死んじゃうんだからね!! 今度からこういう場合は私も連れて行って頂戴。どこにでも行くし、連夜くんの邪魔はしないし、絶対文句も言わないから」
う~~と犬のように唸りながら涙目で威嚇する玉藻。
その後、玉藻の身体を抱き寄せてよしよしと宥めてみたり、謝ってみたりを繰り返すこと三十分。
玉藻の形のいいお尻から飛び出している三つの大きな尻尾がパタパタと機嫌よく振られていることを横目で見て取った連夜は、ようやく玉藻様のお怒りが解けたことを確信してほっと安堵の溜息を吐き出す。
「お願いだから、二人でいるときはできるだけ一緒にいて離れないでね」
「了解でありますです」
「よろしい」
「さて、それじゃあ、玉藻さん、そろそろ行きましょうか?」
機嫌が完全に回復した玉藻に、連夜はそっと玉藻に片手を差し出す。
すると玉藻は嬉しそうに自分の手を伸ばしてその手を握り締める。
・・のだったが
「え? あれ、玉藻さん?」
玉藻の手を引いて、足を踏み出そうとする連夜。
しかし、自分の手を握る玉藻が妙に足を踏ん張っているので前に進めない。
恋人の不審な行動に対し、怪訝な表情を浮かべて連夜が振り返る。
「どうしたんですか、玉藻さん?」
「あのね連夜くん、ふと気がついたんだけど」
「はい、なんですか?」
形のよい眉を八の字にし、小首を傾げて連夜を見返した玉藻は、その視線を動かして連夜の後方にある草原へと向け直した。
「ん? 僕の背後がどうかしましたか?」
「ううん、連夜くんの後ろというよりも、この草原全体のことなんだけどさ」
「あ、はい。なんでしょう?」
「ここって『害獣』がいっぱいいる危険地帯なんだよね?」
「そうですよ」
冗談っぽい雰囲気でありながらどこか引きつり気味に連夜に問い掛ける玉藻。
そんな玉藻の問い掛けに、迷う素振りも考える仕草も見せず、妙にさわやかな笑顔で即答する連夜。
「あ、改めて聞くまでもないけど、『害獣』ってすっごい危険なんだよね」
「危険ですね」
「全『人』類最大の脅威なんだよね」
「脅威ですね」
「どんなに強い『害獣』ハンターでも、相手がいっぱいいたら勝てないんだよね? 食べられちゃうんだよね?」
「食べられちゃいますね」
「そっか~、やっぱり、『危険』で『脅威』で『食べられちゃう』んだ。な~んだ、そっかそっか・・って、ダメぢゃん!! ダメすぎるぢゃん!! 連夜くん、何涼しい笑顔でそんな恐ろしいことをあっさりきっぱり断言してくれちゃうわけ!? ってか、そんなのがいっぱいいるところに私達いたらダメでしょっ!!」
連夜の手を怒りに任せて『ていっ』と振り払った玉藻は、もう片方の腕に黒猫を抱いたまま、パニック寸前の様子でその場を右往左往。
一応逃げようという努力はしてみるものの、川岸の反対側に広がる草原の中に踏み込む勇気はないらしく、川砂利の上をどたどたするばかり。
「いや、全然大丈夫ですよ、玉藻さん。ともかく落ち着いてください」
「落ち着いていられるわけないでしょ!? それよりも連夜くん、今更だけどとりあえず教えて!? 『害獣』はどこに隠れているの!?」
「え? いや、隠れていませんよ」
「はっ!?」
「さっきからそこらじゅうにうじゃうじゃいるじゃないですか」
「えええええええっ!? どこ!? どこ!? どこにいるのおおおっ!?」
「どこにいるのって・・じゃあ、とりあえず、玉藻さんの一番近くにいる『害獣』を教えておきましょうか?」
「わ、私のすぐ近くにいるの!? 『危険』で『脅威』で私のことを『食べられちゃう』かもしれない『害獣』がすぐ側にいるの!? いったいどこに!?」
盛大に喚き散らしながら、どこにいるのかわからぬ『害獣』の脅威に怯え、完全にパニックに陥っている玉藻。
そんな玉藻に対し、極上のほほ笑みを浮かべて見せた連夜は、ゆっくりと玉藻のほうにその指を向ける。
その人差し指が指し示すところは。
「これが『害獣』です」
「にゃ~」
連夜の人差し指に『ぷにょ』と鼻先を押された黒猫が、くすぐったそうな顔で鳴き声をあげる。
「え?」
「だから~、これが『害獣』です」
「にゃ~にゃ~」
再び連夜の人差し指に『ぷにょぷにょ』と鼻先を押された黒猫が、くすぐったそうな顔で鳴き声をあげる。
「え? え?」
「ですから~、これが~、『害獣』なんですってば、玉藻さん」
「にゃ~、にゃ~、くしゅんっ!!」
黒猫の反応がおもしろかったのか、連夜は調子に乗ってさらに人差し指で黒猫の鼻先をこしょこしょとくすぐってやる。
すると、くすぐられ過ぎたせいなのか、黒猫は盛大に大きなくしゃみを一つして、大きく体を震わせる。
しかし黒猫もまた玉藻の腕の中が気に入ったのか、そのまま目を細めてまたもや玉藻の腕の中に小さな体を沈ませるのだった。
玉藻は、呆然と自分の腕の中の黒猫を見つめる。
そのあと、目の前の連夜に視線を移す。
でもまた、黒猫に視線を移す。
そして、また目の前の恋人に視線を・・
いったい何度その往復運動を行っただろうか。
妙に疲れ切った表情になった玉藻は、今度こそ連夜にその視線を固定して、のろのろと口を開く。
「こ、これが『害獣』なの?」
「はい」
「この猫ちゃん?」
「はい」
「マジで?」
「はい」
「・・」
「・・」
「う、うっそぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」
「にゃ~」