第六話 『そして、二人は巡り合う』 その7
ロム :作者にこのまえ聞いて知ったんだが、『龍乃宮 姫子』が中学時代に在籍していたっていう武闘集団があるだろ。『GTG』って名前だが、あれがなんの略か知っていたか?
瑞姫 :え? たしか、『Great The Great』の略じゃなかったかしら?
ミナホ:うんうん、そうやったと思う。
ロム :そうだと思うだろ?
はるか:違うんですか?
ロム :『〇ouda 〇akeshi 〇ian』の略らしい
ミナホ:!!
はるか:!!
瑞姫 :い、いやああああああっ!! 〇ャイアンはいやあああっ!! ちがうもんちがうもん、〇ャイアンじゃないもん、私はしず〇ちゃんだもん!!
はるか:ひ、姫様落ち着いてください!! 大暴れしないでくださいってば!!
ミナホ:こういうところが〇ャイアンなんやろうなあ
はるか:ちょっと、ミナホ、見てないであなたも姫様を止めてよ!!
ロム :とりあえず、謎の仮面戦士達が集結する本編、『そして、二人は巡り合う』 その7。スタートです。
ミナホ:あたしらがここに顔を出してる時点で全然謎になってない気がするんやけどなあ
はるか:二人とも、のんびりしゃべってないで、姫様を止めてってばあああっ!!
瑞姫 :絶対絶対わたしは〇ャイアンじゃないんだからああっ!! 作者のあほおおおおっ!!
強い。
間違いなく強い。
とはいえ、際立った強さというわけではない。
自分の動きについてきてはいるし、こちらの攻撃をある程度かわし反撃するだけの技量は持ち合わせている。
が、しかし、その動きはあまり洗練されたものではなく、どちらかといえば不器用。
こちらを圧倒するような威圧感もないし、突出して強いという印象はうけない。
生れながらの喧嘩屋であり、師範代クラスの武術家でもある姫子からしてみれば、目の前の相手はまだまだ隙だらけで、かなり余裕を残した状態で戦っていられる力量。
しかし、この強さは本物の強さである。
凄まじい暴力の化身である姫子であるからこそ余裕をもって対処できているが、並の不良、あるいは修行半ばの拳士がこの目の前の相手と戦っていたのであれば、間違いなく既に地面に這いつくばっていたことであろう。
渾身とまではいかないが、それなりに威力を秘めた姫子の拳や蹴りの一撃を緩やかに捌いたかと思うと、一転して今度は凄まじい反撃の一撃を加えてくる。
ここまでの使い手とは全く思ってなかった。
巷の噂では『祟鴉』という怪『人』は奇怪な策を弄する策士と言われている。
力技ではなく、相手の精神的弱点を攻める様な戦い方を得意としていると言われていて、彼の噂話のほとんどがそういった類のものばかり。
武術の技を駆使するなんて話を聞いたことは一つもない。
(今までずっとその爪と牙を隠してきたということなのか?)
一瞬、心の中で自問する。
ほんの一瞬、ほんのわずかな時間。
しかし、生意気にも相手はそんな髪の毛一筋ほどの隙を見逃さなかった。
一瞬の隙をついて、まだまだぎこちないがそれでもそれなりに威力の乗った反撃の一撃を繰り出してくる。
並の戦士であればそれだけで勝負がついていただろう。
だが、彼女はそんじょそこらの並の戦士ではない。
一瞬で判断をつけると、相手の攻撃に自分の攻撃を合せて弾き返す。
(くっくっく、面白い。実に面白いなあ)
牽制の一撃を放って後方に飛び退り、間合いを開けた彼女は、肉食獣の笑みを浮かべて相手を凝視する。
闇夜そのものを切り取って身に纏っているかのような漆黒の戦闘用コート。
コートの袖口から見えるのは炎そのもののような真紅の籠手。
そして、目深にかぶったフードの中には、『崇』の一文字が刻まれた仮面。
目の前に立つのは間違いなく彼女が探し求めていた相手。
生まれながらの『喧嘩屋』である『龍乃宮 姫子』は、久しぶりに現れた思いもよらぬ上質の獲物を確認し、舌なめずりをして、その笑みを深くする。
(しかし、噂というものは本当にあてにならないものだな。どこが策士だ。間違いない、この目の前に立っている奴からは私と同じ匂いがする。己の『武』に命を懸ける者の匂いが)
相手との間合いを少し離すようにして後ろへと下がった姫子は、自分の目の前で油断なく半身に構えこちらを凝視している黒装束の怪『人』を嬉しそうに見つめる。
すでに彼女達の頭の上に眩しい太陽はなく、あたりを照らし出すのは通りのあちこちに設置された念気街灯の頼りない光と、少しずつその数を増やし輝き始めた星の光のみ。
真の闇・・というほど暗黒が支配している空間ではない。
しかし、じわりとそこかしこからわきだして身体にまとわりついてくるような闇が支配する裏通りの中央で、二つの人影が対峙して立つ。
一つは闇の中にあってもまばゆく輝く生命力に溢れた凛とした美少女『龍乃宮 姫子』。
そして、もう一つは、周囲の闇そのものといった雰囲気を纏いし漆黒の怪『人』。
二つの影は物も言わずに同時に互いに向けて踏み込むと、激しい拳と蹴りの応酬を繰り返しては離れ、離れてはまた近づく。
まるで楽しげにダンスを踊るかのように、闇と影が支配する裏通りで激しくぶつかりあう。
彼女達が交戦状態に入ったのはつい先程のこと。
異母兄である剣児が率いるチームと別れ、自分達の元から逃げ出した『祟鴉』をかつての部下達と共に追い掛けてきた姫子。
当初、引連れてきた数人の仲間達と共にターゲットである『祟鴉』を見つけ出し、戦うつもりでいた。
しかし、『祟鴉』の第一発見者で、自分達に先んじて追跡を行っていた黒犬型獣人族の少年エシルリストと合流した姫子は、彼から詳しい報告を聞いて方針を変える。
(『GTG』随一の追跡者であるエシルリストの追跡を見事にかわす技量。噂以上のキレ者で策士であると見た。一旦逃げて見せたのもこちらを自分の有利なフィールドに誘い込むつもりだからだろうが。このままのこの人数でいけば奴の思惑通りになりかねんな)
そう考えた姫子は増援を呼ぶことを決意。
『GTG』の元団員や、『GTG』の傘下に下っていた不良グループのメンバー達で、この近辺にいる者達を片っぱしから念話で呼び寄せた。
呼び出しをかけた中には自分の異母妹瑞姫や、今日は彼女と共に生徒会の手伝いをしているはずの世話役はるかやミナホもいたのであるが、残念なことに彼女達は助っ人を拒否。
瑞姫はターゲットの人物に対して特別な思い入れがあるから断ってくるだろうとは思っていたが、まさか世話役二人からも断られるとは思っておらず、がっくりした姫子。
それでも気を取り直した姫子は一応自分の居場所だけは三人に伝え、気が向いたら救援に来てくれと言って念話をきった。
その後も、いろいろと昔馴染みに声をかけ続け、そうして姫子の元に集まった数は、なんと七十名以上にものぼった。
後から集まってきたメンツは、最初に姫子達と一緒にここに来ていた古株メンバーに比べればかなり質は劣るが、それでもこの数は十分に相手にとって脅威となるはずだった。
(瑞姫達が来てくれなかったのは少々痛かったなあ・・しかし、これなら見つけ次第数に任せて周囲を封鎖して、奴と直接対決できる環境を作り出すことができる。逃げ道さえ塞いでしまえばあとはどうにでもなるからな)
そうして改めて捜索を開始した姫子達であったが、捜索を再開して間もなく、件の怪『人』はすぐに見つかった。
いや、見つかったというよりも自ら姫子達の前に姿を現したのだった。
トレードマークとも言うべき黒装束のフード付き戦闘用コート、『崇』の一文字が書かれた仮面。
間違いなくそれはターゲットの怪『人』。
城砦都市『嶺斬泊』最大の歓楽街である『サードテンプル』北エリアの中でも、人通りがほとんどない最もさびれた場所。
そこにいくつも点在している廃ビルと廃ビルの間に広がる狭い路地の空間を通り抜けようとした姫子達一行。
そこに忽然と姿を現した黒ずくめの怪『人』は、挑発するように自らの人差し指を先頭に立つ姫子へと向けた。
『私を追い回すのはやめなさい。私にはあなた達に追いかけられるいわれも理由もない』
静かに。
どこまでも静かに、男とも女ともとれる不思議な声音で姫子達に呟く怪『人』。
その怪『人』の言葉を聞いた姫子はその顔を肉食獣のそれへと変化させる。
「別に理由なんかどうだっていいのだ。私はただただ戦いたいんだ。おまえのような強いやつとな」
『私は強くありません。そして、何よりも戦いたくありません。あなたのお申し出はひたすら迷惑でしかありません。どうかこのままその方達を引連れて帰っていただきたい』
姫子の返答に対し、静かに拒絶の言葉を紡ぐ怪『人』。
だが、姫子は首をゆっくりと横に振り、ニヤリと口の端を歪めて見せる。
「できんな」
『どうしてもですか?』
「どうしてもだ!!」
姫子の絶叫を合図に、側に控えていたエシルリスト達旧『GTG』メンバー達が怪『人』めがけて殺到していく。
姫子は、とりあえず件の怪『人』のお手並み拝見とばかりに両手を組んで仁王立ちすると、これから始まるであろう元部下達と怪『人』との戦いを見物にかかる。
しかし。
『ヴァル・・ヴァルヴァルヴァヴァルヴァルゥゥゥゥッ!!』
凄まじいばかりの獣の咆哮と共に、闇を切り裂いて何かが両者の間に飛び込んでくる。
「な、なんだ・・ぎゃあああっ!!」
「うわああっ!?」
「ひいいっ!!」
横合いから突如として現れた何かは、怪『人』に襲いかかろうとしていた旧『GTG』メンバー達を一瞬にして蹴散らす。
圧倒的なまでの破壊力。
姫子には到底及ばないものの、そのあたりの不良達相手なら全く相手にならないほどの実力を誇るはずのエシルリスト達。
しかし、乱入してきた人影は、そんな猛者揃いのはずのエシルリスト達の中に凄まじい勢いで突っ込むと、まとめて木の葉のように吹き飛ばしてしまったのだった。
「な、なに?」
一瞬何事が起こったのか理解できず、茫然とする姫子。
その姫子のほうに、乱入者はゆっくりと顔を向ける。
『申』
東方文字で大きく一文字そう書かれた覆面ですっぽりと頭全てを覆い隠し、どうみても百九十ゼンチメトルを越えている大柄で筋肉質な堂々たる体格に身にまとうのは、肩から先が千切れてしまっているぼろぼろの黒い戦闘用コート。
漆黒の怪『人』を守るようにして立つその謎の人影は、先程の怪『人』と同じようにその指先を姫子へと向ける。
『一つだけ言っておく。おまえは『強いやつと戦いたい』んじゃない。『一方的に暴力をふるいたい』だけだ。ただそれを指摘されるのが嫌だから、言い訳できなくなるのが嫌だから、自分が壊しても後ろ指をさされない相手を探しているだけだ。さも正々堂々という顔をしてな。反吐が出るぜ』
「な、な、なんだとおおっ!?」
激昂する姫子に対し、『申』と書かれた覆面をつけた巨漢は呆れたように肩をすくめながら首を二つほど横に振る。
そして、姫子とその一党に対し覆面の奥から侮蔑の視線を隠そうともせずにぶつけ続ける巨漢であったが、ふと、右腕を引っ張られていることに気がついて後ろを振り向く。
すると、そこには本当に申し訳なさそうに身体を縮めている黒装束の怪『人』の姿が。
『あ、あの、本当に申し訳ありません。もう、なんと言ってお詫びをすればいいか』
先程までの落ち着いた静かな声音と違い、今にも泣き出しそうな声で巨漢に頭を何度も下げ続ける怪『人』。
『い、いや、済まん。一番辛いのはあんただった。『反吐が出る』は流石に言い過ぎだったと思う。悪かった。悪かったから、そう頭を下げないでくれ』
『いえ、とんでもありません。こうなってしまった責任の大部分が私にあるのは間違いないことです。事もあろうにあの『人』のことを狙うなんて。そ、それからあの、大『真友』であるあなたを勝手に一方的に呼びつけて巻きこんでしまって本当にもう、なんとお詫びをすればいいのやら』
『いやいやいや、そんなことはない。あいつからあんたの身に起こった不幸な事故については聞いている。今目の前にいる『あれ』があんたにとってどういう存在かもちゃんとわかってる。だから、そう頭を下げないでくれないか。それにな、『K』からも言われていたんだ。もし、あんたから助けを求められることがあったらどうか助けてやってくれってな』
『お兄様が? ロスタ・・いえ、『申』くんはお兄様とお知り合いだったんですか?』
『まあ知り合いというよりも恩人だ。奴は『外区』で素材ハンターをやってるだろう? 俺はバイトで『外区』に出ることが多いんだが、そのときに結構助けてもらったりしているんだ。借りが結構たまってるというわけだな。あんたに今日、念話で急に呼び出されたときは流石にびっくりしたが、そういうわけで俺は別に気にしていないぜ。今日はその借りを返す絶好のチャンスだから、せいぜい頑張らせてもらう』
いまだに申し訳なさそうに身体を小さくしている怪『人』の肩を慰めるようにぽんぽんと軽く叩いた覆面の巨漢は、再びその瞳に闘志を宿らせて姫子達のほうへと振り向く。
『さてと、『戦いたい』んだったな? いいだろう、戦ってやる。ただし、一方的に蹂躙できるとは思わんことだ。最初に断っておくが、俺はかなり強いぞ』
両拳をバキバキと盛大に鳴らしながら一歩前へと進み出る覆面の巨漢。
その巨漢の挑発に対し、リーダーの姫子よりも先に、彼女の周囲に展開していた部下達が反応する。
「舐めやがって!!」
「たった一人で何ができる!!」
「ボロ雑巾にしてやるぜ!!」
口汚く叫びながら殺到してくる有象無象達を覆面の奥から睨みつけ、巨漢は彼らを迎え撃つべくゆっくりと構えを取る。
小さな津波のように押し寄せてくる不良の一団。
だが、今度は左右から飛び出してきたいくつかの人影が、不良達を吹き飛ばす。
『ロスタ・・いや、『申』はん、一人でかっこつけ過ぎやで!!』
『そうですそうです。私達だっているんですからね。そもそも護衛役は私達で』
『『雲』隊長も、『雨』参謀ものんびりしゃべってないで戦ってください!!』
『もう、目を放すとすぐに二人ともサボろうとするんだから』
『『ごめんなさい』』
不良達に左右から突撃を敢行したのは、全身を濃い蒼色の装束に身を包んだ一団。
みな鉄製と思われる長い棍を手にしており、見事な連携攻撃で不良達を次々と叩きのめしていく。
身体のラインや声から全員女性と思われるが、巨漢同様に覆面をしており、その正体は不明。
『雲』、『雨』、『霞』、『雫』などの文字が書かれた覆面でそれぞれ顔を隠し、全部で九人からなる武装集団は、最初に突撃してきた不良達を片づけてしまうと、今度は姫子の周囲に群がる不良達に目標を定め、突撃を開始する。
そんな彼女達の雄姿を頭をぽりぽりとかきながら見つめていた巨漢であったが、やがて、小さな溜息を吐きだして後ろを振り返る。
『俺、いらなかったかもしれん。あんたのところの護衛集団だけで十分いけそうだ。ってか、彼女達強いな』
『ええ、私の誇りです。でも、あの子達があの大人数相手に委縮せずに戦えるのは、ロス・・あわわ、『申』くんがいてくれるおかげだと思います』
『世辞がうまいな』
『そんなことないですよ』
『まあいい。とりあえず、俺達で周囲のバカどもは押さえておくから、あんたは真ん中にいる大バカ者に目が覚めるようなキツイのを一発食らわしてやれ』
『は、はい』
『じゃあ、またあとでな。いくぞ、有象無象ども!! ヴァルヴァルヴァヴァルヴァルゥゥゥゥッ!!』
再び侠気の咆哮をあげた巨漢は、凄まじいスピードで乱闘の中へと突っ込みその剛腕を思う存分振い始める。
総勢七十名近くからなる不良の大軍団と、覆面の武装集団の戦いが益々ヒートアップしその様相は混迷を深めていく。
怒号と悲鳴がひっきりなしに響き渡る狭い路地裏の戦場。
その喧噪の真っ只中で対峙する二つの人影。
「当初と大分思惑が違ってしまったが、まあいい。というか、一対一というのはどちらかといえば望むところだ」
『私は望まない。望んでなどいない。だけど、あなたはそれを望むんですね』
「そうだ。私は望む。より強き者との戦いを。私が全力を出すことができる愉しい戦いを」
姫子の言葉を聞いた黒装束の怪『人』は深く長い溜息を吐きだしながら、ぽつりと呟く。
『これが・・これが『龍乃宮 姫子』の本性、本心・・つまりは・・私の・・本心か』
深い悲しみに包まれたその言葉はしかし、周囲の喧騒に消されて目の前に立つ少女の耳には届かなかった。
姫子は目の前の相手が自分に対して何かを呟いたことがわかったが、大したことではないと判断すると、問い掛け直すのをやめて構えを取る。
「そろそろ始めてもいいかな、カラス」
『ダメだと言っても始めるんでしょ』
「わかってるではないか。いくぞ!!」