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真・こことは違うどこかの日常  作者: カブト
過去(高校二年生編)
16/199

第一話 『宿難家の朝』 その6

「ダイ兄さん、ちょっといいかな?」


「なんだ? 連夜」


 キッチンから南に位置するリビングにあるソファで新聞を広げている兄に声をかけた連夜は、ボストンバッグらしきものを二つ両肩に担いでぱたぱたと兄の側に近づいて行く。大治郎は連夜が担いで来た物を流し見しそうになったが、何かに気がついて怪訝な表情になる。しかし、そんな兄に気づいているのかいないのか、表面上は何事もなかったかのように兄の側までやってきた連夜は、兄が座るソファの前にある小さなテーブルの上に二つのうちの一つを下ろし、もう一つは兄の足元に下ろす。

 大治郎は連夜が持ってきた片方のボストンバッグを見て、どこかで見たようなと首をひねってみせるが、やはり連夜はそれに気がついた様子もなく、テーブルの上に置いたほうのバッグに手を伸ばすと一気にそのジッパーを開いて中に入っているものを大治郎に見せる。


「これ、渡しておくね」


「む、これは」


「畑で採れた薬草をお父さんに手伝ってもらって調合しておいたの。兄さんに説明は必要ないかもしれないけど、一応バッグの中身の説明しておくね」


 そういって連夜はボストンバッグの中から手のひらに乗るくらいの小さな薬瓶を次々と取り出し、リビングのテーブルの上に大治郎に見えるように並べながらその薬瓶の内容を説明していく。

 それらは全て、連夜自身が自ら調合した『飲み薬』の数々だった。『飲み薬』は危険な傭兵稼業では絶対欠かすことのできない大切な命綱。『異界』の力が全盛であった五百年前と違い、今は瞬時に己の傷を回復したり、病気を治したりする便利な魔法を使うことはできない。もし、そんなものを下手に使用しようものなら、危険極まりない『害獣』を呼びよせることになってしまうからだ。だからこそ、それらを呼び寄せることなく傷ついた体を回復させることができる『飲み薬』は欠かすことができない。魔法と比べればその効果は格段に落ちてしまうが、なによりも安全に自分自身を回復させることができる。

 『飲み薬』は大きくわけて全部で三種類存在している。

 傷を回復させることを目的に調合された『回復薬』。病気や麻痺、あるいは毒を解毒することを目的として調合された『治療薬』。疲労を取り除き精神力を回復させることを目的に調合された『快方薬』。

 細かくいえば現在この世界には実に千差万別様々な『飲み薬』が存在しいるが、どの『飲み薬』も間違いなく前述にある三種類のいずれかに属している。各薬品会社が自分達のブランド名をつけているだけで、実際の内容は大して変わらなかたりするのだが。

 今回連夜が用意したものは、市販で売られている物とは大きく違う。父親と連夜が独自に栽培している特殊な霊草や薬草を使用して作成され、市販のものよりも格段に優れた効能を誇る『飲み薬』ばかりである。ただの『回復薬』一つとっても、普通に傷を治すだけの市販のものとは違い、軽傷であれば傷跡まで完璧に消してみせる効能を持っている。『回復薬』だけではない、『治療薬』だってそうだ。市販のものではカバーしきれない、かなりマイナーな種類の毒や病気にまで効果を持っているのだ。そんな連夜特製の『飲み薬』であるが、中でも特に際立って優れている薬が二つある。 


「中身が白色に光ってる薬、これが『神秘薬(アメージングアクア)』。黒色に光っているこっちのが『特効薬(バイオセイバー)』。瓶が似ているから間違えないでね」


神秘薬(アメージングアクア)』と『特効薬(バイオセイバー)


 『神秘薬(アメージングアクア)』は死にいたる重傷であったとしても瞬時にその傷を治すことを可能とする現在世界に存在している『回復薬』系の中でも間違いなく最高の効能を誇る『飲み薬』。さすがにちぎれた腕や足を元通りにしたりはできないし、重傷者がこの薬を飲むことができなければどうすることもできないのではあるが、それでも素晴らしい薬であることは間違いなかった。

  そして、『特効薬(バイオセイバー)』は既存の病気や麻痺の毒の治療だけではなく重度の疫病や、石化でも瞬時に治すことができるという文字通の特効薬。勿論全部が全部治せるわけではないが、それでもこれ一本で、身体に異常をきたす症状のほとんどを治療できる。特にこの薬のすごいところは他の薬と違い飲まなくてもいいというところである。身体のどの部分でもいいからかけることができれば、瞬時に効果を発揮するのだ。 

 これだけ素晴らしい効能を誇る薬である。当たり前であるが他の薬の効能などほとんどこの二つだけでカバーできてしまう。であれば、この二つだけを大量に持って行けばいいじゃないかという話なのだが、そうはいかない大きな理由があるのである。


「ごめんね、兄さん。今回これ二本ずつしか作れなかったんだ。本当はもっと作りたいのだけど、材料が圧倒的に不足していてね。『神秘薬』を作る為に絶対に必要な『イドウィンのリンゴ』は物凄く栽培が難しくて、お父さんと僕とがんばって挑戦してみたんだけどほとんど枯れちゃってさ。『特効薬』を作るために必要な『神酒』は・・最近ほら、アルカディアとの交易が『害獣』のせいで断絶してるじゃない。『神酒』ってあそこの特産品だから、手に入らなくて・・なんとか一本分だけ確保したんだけど。二本ずつじゃあ、全然足りないよね、本当にごめんね」


 心の底から申し訳ないという表情で半泣きになりながら大治郎に頭を下げる連夜。そんな出来すぎた弟に、大治郎は無言で首を横に振る。


「連夜、十分だ。十分すぎるほどだ。いつも苦労かけてすまんな、ありがとう」


 いつも傷だらけで帰ってくる自分を心配して、恐らく寝る間もおしんで作ってくれたに違いない。そう思うと不覚にも目頭が熱くなってしまって、これ以上何も言えなくなってしまう大治郎だった。そんな大治郎の心境を知ってか知らずか、出した薬瓶を再び丁寧にボストンバッグになおし、連夜は大治郎が座るソファの横にそっと置く。


「僕、これくらいしかできないけど・・なるべく気をつけていってきてね」


「連夜」


 本当に真剣に自分のことを心配してくれる家族がいるというものが、どれだけ大事で大切かということをあらためて噛みしめながら自分の真横に置かれたボストンバッグを万感の思いで見つめる大治郎。最愛の弟の真心があまりにも嬉しく、不覚にも涙がこぼれそうになる。感謝の言葉を口しようとしても、溢れ出る思いが多すぎて逆にそれは言葉にならず、また抱きしめようとして動けば涙が堪え切れなくなるのでそれもできず、ただただ大治郎は連夜の小さな体を見つめ続ける。

 しかし、やはり感謝の言葉を何一つ言わないまま終わるなどあってはならない。大治郎は目頭を押さえて無理矢理涙をひっこめると、目の前にいる最愛の弟に感謝の言葉を告げようと口を開きかけた。と、そのとき。

 絶妙なタイミングで先に連夜が先に大治郎に声をかける。


「ところで兄さん、ちょっと聞きたいことがあるんだけどいいかな?」


「む。あ、ああ、いいともいいともなんでも聞いてくれ」


 機先を制されてしまった大治郎であったが、咳払いをしてすぐに気を取り直すと目の前に座る弟に鷹揚に頷いて見せる。大治郎の許可を確認した連夜は、大治郎の足元に置いていたもう一つのボストンバッグを重そうに持ちあげてテーブルの上にどすんと置く。こころなしか、弟の笑顔が引きつっているような、どこか怒っているような気がするのは気のせいであろうか? 

 急激な弟の変化は、今持ってきた目の前の大きなボストンバッグが原因になっていると察し、そのボストンバッグがなんだったのか思いだそうとする。幸いにも、ほどなくしてそのボストンバッグの正体に気がつくことができた。それは、大治郎が大学時代に使っていたバッグであった。大学の剣術部に所属していた大治郎は、部で使う武具を運ぶためにこの大きなバッグを使用していたわけだが、傭兵旅団に所属してからは使っておらず確か今はベッドの下に片づけておいたはずであるが。


「ダイ兄さんに聞きたいのは、これについてなんだけど・・これはいったいなんなのかな?」


 顔はあくまでもにこやかで、その口調も非常に柔らかであるが、その背後から発せられているオーラは尋常ではないプレッシャーを大治郎に与えてくる。今まで数々の恐ろしい『害獣』を相手にしてきた歴戦の戦士である大治郎であるが、目の前の小さな弟から放たれるこのプレッシャーは、どの『害獣』からも感じたことのない凄まじい恐怖を否応なく大治郎に刻み込んでくる。いったいこれは何事かとだらだらと冷や汗を流しながらも、とりあえず弟の問いかけに答えなくてはと、強張りそうになる口を懸命に動かして答える。


「い、いや、何と言われても大学時代に使っていたボストンバッグだが、それが何か?」


「あのね兄さん。一応僕は目が見えないわけじゃないから、これがボストンバッグだっていうのはわかるよ。そうじゃなくて、このバッグの中身はなんなのかってことを聞いているの」


「な、中身? い、いや、中身は入っていないはずだが・・」


「ふ~~ん。じゃあ、いまここで開けてみてもいいの?」


 物凄く白い目で見つめてくる弟の姿にたじろぐ大治郎。その気配から非常に嫌な予感が体中を駆け巡ったが、どうしてもその中身に思い至らず頷きかける。しかし、ふとあることに気がついて頷くのをやめ、慌てて目の前の連夜に逆に問いかける。


「ま、待て、連夜。おまえ、そのバッグをどこから持ってきた?」


「勿論、兄さんの部屋からに決まっているでしょ」


「お、お、俺の部屋? 俺の部屋だと!? 俺の部屋に入ったのか、おまえ!?」


 大治郎の問いかけにあっさりと頷く連夜。そんな連夜の答えを聞いて、大治郎は顔面を真っ青にしながら絶叫しながら、さらに問いかける。すると連夜はまたもやあっさりと頷きを返すのだった。


「入ったよ。兄さん昨日帰って来ていたくせに洗濯物全然出してないんだもん。あやうく兄さんのものだけ洗濯しないまま学校に行くところだったよ」


「せ、せ、洗濯物? あ、ああ、洗濯物を取りに入っただけな」


「勿論、ベッドのシーツとかも洗濯に出しておいたけど」


「べべべべべべべ、ベッドのシーツ!?」


 連夜の答えが自分の予想と若干違っていたからなのか、大治郎は少しほっとした表情を浮かべたが、続いて発せられた連夜の言葉にまたもや顔色を青ざめさせて絶叫する。


「な、な、な、ななななっ!?」


「だって、物凄い汚れていたから洗わないと汚いじゃない。兄さん、昨日はお風呂にも入らずベッドで寝たんだね。お願いだからちゃんとお風呂に入ってから布団に入ってね。なんだかすっごいカピカピになっていたし。でもおかしいんだよね、一応、いつ兄さんが帰ってきてもいいように一週間に一度はシーツを洗濯していたんだけどなあ」


「れ、れ、れ、れれれれ、連夜、連夜くん、いや、連夜様」


「なに? 連夜『様』って、どうしたのさ、兄さん?」


 身体を硬直させ、ゴーレムのようなぎこちない動作で語りかけてくる兄に、あからさまに不審そうな視線を向ける連夜。しかし、今の大治郎にはそんな連夜の視線には構っているような余裕は全くなく、全身から大量の汗をどばどば流しつつ声を詰まらせて目の前の弟に聞きたくないけど聞かざるを得ない質問をぶつける。


「べ、べ、ベッドで何か目撃されませんでしたか?」


「何かって何を? 別にベッドの上には何もなかったけど」


「い、いや、その・・何も見なかったのならいいんだ。ふ~~、そうか、何もなかったか」


 連夜の言葉を聞いて、太い安堵の息を吐きだしながら、顔から出ている大量の汗を拭う大治郎。青ざめた表情に若干生気が戻ってきたように見えたが、しかし。


「ベッドの上には何もなかったんだけど、下にはこれがあったからさ。話を元に戻すけど、ダイ兄さん、これはいったいなに?」


 再び白い目で兄を見つめる連夜。一瞬気を抜きかけた大治郎の背中に再び猛烈な嫌な予感が走り抜ける。 


「な、な、なにと言われても、中身は何も入ってはいないは・・ず・・」


 困惑した表情でそう呟きかけた大治郎であったが、目の前のボストンバッグの大きさを見てある可能性に気がつく。目の前のボストンバッグの大きさが、小柄な女性くらいであれば、足を折りたためば入れそうな大きさだなと。

 その考えに思い至ったとき、大治郎の顔から血の気がざ~~っという音をたててひいていき、青から白へと変化する。

 しばし、無言で見つめあう連夜と大治郎。しかし、それは対等の状態で対峙しているわけではない、明らかに蛇に睨まれた蛙、もしくは、旦那の浮気を見破った奥さんと夫の構図であった。どちらがどちらであるかは言うまでもない。

 すると、キッチンで朝食を取っていたメンバー達が二人の様子に気がついて、何事かとリビングにやってくる。ミネルヴァやスカサハはもちろんのこと、さくらをはじめとする猫メイド達、それに仁とドナの両親に父親専属メイドのかえでにいちょう、他の場所で働いていた成人メイド達までもがどやどやと騒ぎながら集結してくる。

 その様子を横目で見ていた大治郎は、いまや卒倒寸前になっていた。


「何よ、何よ、どうしちゃったのよ、ダイったら。顔が真っ白よ? 大丈夫? いったい連夜と何があったのよ」


「な、なんでもない。なんでもないから、おまえらみんなもどれもどれ!!」


「まあ、ミネルヴァ姉様が珍しく心配してくださてっているというのに、その言種はあんまりじゃありませんか、ダイ兄様」


「そうだ、そうだ、もっと言ってやってよスカサハ。って、自覚しているけど、一応珍しくってつけないで、お願いだから」


「いいから、散れ!! 頼むから散ってくれ!!」


「あらあら、ダイちゃんたら反抗期なのかしら? もうとっくに終わっていたと思ったけど。ねえ、旦那様」


「懐かしいですねえ。そういえばそういうこともありましたねえ」


「ああああ、パパ上もママ上も、キッチンで遠慮なくらぶらぶしておいてください。お願いだからこっちに来ないでください!!」


 周囲に群がってくる野次馬達をなんとか追い払おうとする大治郎であったが、全く効果はなく、むしろその騒ぎにつられて屋敷中の面々がどんどんリビングへと集まってきてしまう。

そして、家中の面々があらかたリビングに集結し終えた頃、完全に優位に立っているほうがゆっくりと動きだした。まるでカエルを呑みこもうとする蛇のように


「とりあえず、開けるね、兄さん」


 小さくほっそりした手をテーブルの上に置いたボストンバッグのジッパーへと伸ばし、それを開けようとする連夜。そんな連夜に手を伸ばし大治郎はその動きをやめさせようとする。


「ま、ま、まままま、待て待て待て、連夜、頼む、待ってくれ!!」


「待てません。み~ちゃん、スカサハ、さくら、それにメイドのみなさん。ダイ兄さんを押さえつけておいてくれるかな?」


『ヤルッツェ ブラッキン!!』

 

「ちょっと待て、おまえら!! 放せ、放さんかあああっ!!」


 連夜の言葉に、いったいどこのロボット軍団だといわんばかりに整列して答えて見せた面々は、一斉に大治郎に飛びかかっていく。大治郎は襲いかかってきた襲撃者達を撃退しようとしたがあまりにも多勢に無勢。あっというまに取り押さえられてミネルヴァ、スカサハ、さくら、そして大量の猫達の下敷きになって床へと沈められてしまった。

 その様子を面白くもなさそうに確認した連夜は、す~~っと手を動かしてボストンバッグのジッパーを開ける。そして、バッグの口を大きく開いて、全員によく見えるようにと一歩さがり、その後、周囲に集まっていた野次馬達はバッグの中を我先にと覗きこんだのであるが、その中を見た面々は一斉に顔を真っ赤にして両手で口を蔽い隠す。

 全員、バッグの中身があまりにも突拍子もないものであったため、大いに驚いていたが、中でも目を限界まで見開いて驚き悲鳴にも似た絶叫をあげたのはさくらであった。


「し、し、しおん姉さま!?」


「え、えへへ、ば、ばれちゃった」


 バッグの中からバツが悪そうな顔と声で現れたのは、黒いブラジャーとパンティだけという艶めかしい半裸姿の半獣人族の女性。


『ののやま しおん』


 『東方猫型小人(ねこまりも)』族の族長の長女で、さくらの実姉。直立した猫という姿が特徴的な一族の中にあって、唯一他の獣人族同様に『人』のシルエットをした猫という姿をしている。それは彼女が母方の血である『東方化け猫』族の血を引いているからであり、いわゆる先祖返りした姿で生まれてきたからである。

 全身淡い紫色の獣毛に包まれているが、その獣毛の上からでもわかるなかなかのスタイルの持ち主。頭はもちろん猫のそれでアメジストのような瞳に、ぴんとたったひげ、肉食獣にしては小さめの口をしていて、スタイルだけでなく顔もなかなかの美形。身体的に劣る他の同族とは違い、非常に優秀な運動能力を持ち、一族の中で唯一ちゃんとした近接戦闘能力を有している。

 連夜達に救われてこちらに引越してきた当初は、妹のさくらと共にこの家のメイドとして働いていたのであるが、その戦闘能力を買われて大治郎のサポートを担当することになり、やがて、大治郎と共に傭兵になる道を選んだのであるが。


「お、お、御姉さまは、そんなところで何をしているのですかニャン!? っていうか、帰っていらしたのなら、帰っていらしていると仰ってくだされば・・」


「い、いやあの、そうしようかなとも思ったんだけど、その、そうできない理由があってというか、なんというか、その」


 妹の問いかけに対し、なんとも恥ずかしそうな表情で両手をつんつんとつつき合わせて顔を俯かせたしおんは、ちらちらと抑え込まれている大治郎のほうに視線を走らせながらごにょごにょと言い訳になっていない言い訳を口にする。すると、二人のやりとりを聞いていた面々は一斉に大治郎に視線を向ける。向けられた大治郎は慌ててあさっての方向に視線を向け、冷汗を大量に流しながらわざとらしく口笛を吹いてみたりなんかしているではないか。自分に都合の悪いことを誤魔化そうとしているのは誰が見ても明白であった。

 そんな兄の様子をなんとも言えない表情で見つめていた連夜は、片手で顔を覆って溜息をひとつ吐き出すと、あらかじめ持って来ていた白いガウンを後ろから近づいてしおんの身体に着せてやる。

 するとしおんは、最初自分にガウンを着せてくれた『人』物が誰であるかわからずきょとんとした表情を浮かべて見せていたが、それが連夜だとすぐにわかりなんともいえない罪悪感でいっぱいといった悲しそうな表情になる。


「ご、ごめんなさい若様、私は、あの、その、大治郎様と・・」


 何かを言わなくてはいければというような表情で言葉にならない想いを懸命に言葉にしようとするしおん。そんなしおんの口に、連夜はそっと自分の人差し指を持って行って黙らせると優しい顔で首を横に振ってみせる。


「とりあえず、込み入ったお話はまた夕方に改めて。そのときにしおんさんが話したい、話してもいいと思うことだけを話してくださればいいです。それよりも、しおんさん、おかえりなさい。できれば東方野伏(ニンジャ)風じゃなく普通に帰ってきてほしかったですけどね」


 そう言っていたずらっぽい笑顔を浮かべた連夜は、しおんの身体をぎゅっと抱きしめてぽんぽんとその背中を優しく叩く連夜。すると、しおんは連夜の肩に顔を埋め、ぼそぼそと小さい声で『ただいまかえりました』とだけ呟いて身体を小さく震わせるのだった。

 そんなしおんの様子をしばらく優しい表情で見つめて抱きしめていた連夜だったが、再び絶対零度の仮面を張り付けると抑え込まれている大治郎にその氷の視線を向ける。


「で? 兄さんは、いつになったら僕の質問に答えてくれるの?」


 聞いただけで凍りつきそうな声音で尋ねられた大治郎は、思わず小動物のように全身を震わせて再び全身から滝のように汗を流し始める。それは戦場での豪胆な彼からは考えられない姿で、それを知る屋敷の面々は意外そうな顔を隠そうともせずにまじまじと彼を見つめるのだった。


「い、い、いや、どういうことと言っても、しおんが勝手に俺について帰ってきたうえに自分の部屋に帰らず俺の部屋に押しかけてきたからで・・」


「そんなこと聞いていないでしょ?」


 必死になって言い訳しようとする大治郎であったが、その言いわけを途中でぴしゃりと遮って、連夜が物凄く怒った表情で兄を睨みつける。大して大きな声で叫んだわけではない連夜の怒声に大治郎は縮み上がって怯えた表情で弟を見返すが、弟の問いかけの意味がわかってないのか、そのまま固まってしまい無言になってしまうのだった。

 そんな兄の姿を見て完全に呆れた表情になってやれやれと首を横にふった連夜は、物わかりの悪い小さな子に言い聞かせるようにゆっくりと口を開くのだった。


「あのね、兄さん。僕が聞きたいのは、しおんさんが何故咄嗟にギリギリ入れるか入れないかの狭いボストンバッグに身を隠さなくてはならなかったかってことだよ。ここはしおんさんの家同然の場所だよ? 妹のさくらだっている、親友のかえでさんやいちょうさんもいる、他にも同族のみんながいるんだよ? それどころかしおんさんがメイドの時に使っていた部屋だってそのままにしてあるし、別に普通に堂々と玄関から帰ってきても何の問題もないんだよ? それが何故、兄さんの部屋で、しかも兄さんのベッド下にあった今は使ってなくて埃まみれのボストンバッグに身を隠さなくてはならなかったかってことだよ? さあ、これはいったいどういうことなんだろうね?」

 

 怒ったような責めるような口調で話す連夜の言葉を黙って聞いていた大治郎であるが、やはり全然意味が理解できていないのか、ぽか~んとアホのように口を開けて連夜を見返すだけでうんともすんとも答えようとしない。その兄の様子を見て『はあ~~』っとため息を吐きだした連夜は、ダメだこりゃという顔で兄から視線を外すと、兄に向けていた白い視線とは全く違う、いつもの優しさ溢れる目でしおんのほうに視線を向ける。そのあと困惑しているしおんのその手を取ってそっとその身体を立ちあがらせると、周囲にいるメイド達に視線を向け、何かを探すような様子でさくらのほうに視線を向けかけたが、すぐに視線を移動させて父親の後ろに控える双子のメイド達に声をかける。


「とりあえず、しおんさんはお風呂に入ってきてください。どれくらいボストンバッグに隠れていらっしゃったのかしりませんけど、せっかくの奇麗な毛並みがすっかり埃まみれです。さくら・・は学校があるから駄目だね。じゃあ、かえでさんと、いちょうさん。すいませんけど、ちょっとしおんさんに着替えとか用意してあげてもらえますか?」


「「承知いたしました」」

 

「さあさあ、久しぶりにうちに帰ってきたというのに『東方野伏(ニンジャ)』の真似ごとは大変だったでしょ。とりあえず、ゆっくりお風呂に入って、そのあと朝ごはんを食べてください」


「いや、あの、若様、私は・・」


「いいからいいから。とりあえず、ややこしいことは後回しにしましょう。いいですよね、お父さん、お母さん・・あ~、ついでにダイ兄さんも」


 最後のところで絶対零度の声音になっていたりしたが、連夜の言葉に両親は苦笑を浮かべて頷いてみせ、大治郎はなんともいえない苦渋に満ちた表情で頷きを返す。そんな連夜の気遣いに感激したしおんはくすんくすんと泣きだしてしまうのだった。そんなしおんを見て優しくほほ笑んだ連夜は、近づいてきたかえでといちょうにしおんを任し、バスルームへと連れて行かせる。

 ゆっくりと去っていくしおんの後ろ姿をしばらく優しい瞳で見つめていた連夜だったが、再び視線を兄のほうに向けたときには、またもや絶対零度の白い目に変わってしまっていた。


「兄さん。兄さんは僕よりもずっと大人だし、すでに独り立ちしているも同然だから、どんな恋愛をしようとも一向にかまわないと思う。『人』を愛することと言ってもいろいろな形があると思うからね。うちのお父さんやお母さんのように運命の『人』はお互いだけっていう『人』もいれば、複数の女性、あるいは男性と付き合ったり、伴侶にしたりっていう形もあるだろう。その形によって真実の愛があるとかないとかなんてことは言わないよ。婚約者のラヴレスさんとそのまま結婚しようとも、旅団秘書のセリーヌさんと大人の恋愛を続けようとも・・ましてや、自分の専属メイドと深い仲になっていたとしても、ああ、僕は何も言わないよ」


「!!」


『え、えええええええええっ!?』


 その場に居合わせて連夜の衝撃的な言葉の内容を理解した面々はみな一様に驚愕する。大治郎は今にも死にそうな土気色の表情となって絶句してしまうし、横で連夜の言葉を聞いていたこの家の面々はたまらず絶叫の声をあげるのだった。

 しかし、驚愕に目を見張っている『人』々をその鋭い視線ですぐに黙らせた連夜は、絶句している兄に視線をもどし言葉を続けていく。


「でもね、その専属メイドさんが『自分の主に恥をかかせてはいけない。自分との関係をいずれ正妻になられる婚約者の方に知られるわけにはいかない。自分は日陰の身分でいい』なんて思い悩んでこそこそと関係を続けなくてはならなくて、ましてや自分の知り合いにも知られないようにボストンバッグに隠れて東方野伏(ニンジャ)の真似事までしなくてはならない恋愛をさせてしまっているのだとしたら僕は絶対に許さないんだけど。仮にも僕の尊敬する兄さんがそんな恋愛をしているなんて・・ましてや、今僕に指摘されるまで全然気がつかなかったなんて、絶対にないよね?」


 まるで菩薩のような輝くばかりの笑顔を浮かべて兄 大治郎を見つめる連夜。しかし、その瞳は全く笑っていなかった。笑ってないどころかその視線を見ただけで軽く十回は殺されそうなほど物騒な光が放たれていた。

 いや、物騒な光を放っていたのは連夜だけではない。連夜の言葉を聞いていた周囲の女性陣から、とてつもなく巨大な殺意の波動が大治郎へと放たれ続ける。特に凄まじい光を放っているのはしおんの実の妹さくら、その親友のスカサハ、しおんと同級生のミネルヴァ、そして、それら全てのオーラよりも尚、大きな波動を放っていたのは・・


「ダイちゃ~ん。ちょっとお母さんとあっちでお話しましょうか」


「ま、まままま、ママ上!?」


 いつのまにかするすると音もなく近寄ってきた母親が大治郎の前に立ち、妖しい笑みを浮かべて眼下の息子を睨みつけるようにして見つめる。そこには底冷えのするような冷たい光が宿っていて、それをまともに見ることになった大治郎はたまらず悲鳴をあげる。


「ままままま、待ってください、ママ上!? ママ上にお話ししなくてはならないことは、な、な、何もございませんし、あの、その・・そ、そうだ!! ママ上は本日早朝会議があるのでしたよね? い、急いで出かける準備をしなくてはいけないのではないですか!?」


「あらあら、確かに今日は早朝会議がある日だったわね~。でも、心配しなくても全然大丈夫よ。いざというときに私の代行指揮権を詩織に与えているし、必要なことはみんな私の専属秘書の美咲が心得ているはずなの。うちのブレーンはみな優秀だから、私がいなくてもちゃんとやっていけるのよ~。それに家族の一大事だってときに、早朝会議になんかのんびり出ていられないもの~」


 必死になって逃れる術はないものかと思いついたことを口にしてみる大治郎であったが、それを聞いていた母親は怖いくらいに優しい笑顔を浮かべて大治郎が出した提案をあっさりと踏みつぶす。そして、大治郎を抑えつけているミネルヴァ達に、同性から見ても実に魅力的なウィンクを一つして合図を送って拘束を解かせる。大治郎は自分の身体から重石が消え、身体に自由が戻ってきたことを知ってほっとした表情でやれやれと身体を立ち上がらせようとするが、次の瞬間、何かが大治郎屈強で大柄な体に巻きついて再び身体を拘束。しかも今度は妹達や、猫メイド達にのしかかられていたとき以上に身体の自由が利かないほどがっちりと締め付けられてしまっているではないか。

 改めて自分の身体を拘束しているものに視線を向けた大治郎は、絶望の色を瞳に浮かび上がらせる。その視線の先に映るのはテラテラと美しくも妖しい銀色の光りを放つ鱗。その鱗が表面をびっしりと覆う丸太ほどの太さがあるロープのようなものは、大治郎の身体をぐるぐる巻きにして拘束している。眼を動かして自分を拘束しているロープの先はを辿っていった大治郎は、それが母親のスカートの中へと続いていることを確認して何とも言えない恐怖のうめき声をあげる。


「さあ、ダイちゃん、あっちでゆっくりお話しましょうね」


「う、うああああああ!! ま、ママ上お許しくだされ!!」


 上半身が『人』、下半身が『大蛇』という半人半蛇の姿になった母親にずりずりと引きずられて、大治郎はこの屋敷の最深部にある部屋へと連れていかれてしまった。子供達から通称『お母さんのお説教部屋』として知られている恐怖の部屋に。

 泣き叫び助けを求め続ける声が徐々に遠ざかって行くのを見送っていた一同は、それが聞こえなくなるとなんともいえない溜息を一斉に吐き出すのだった。


「やれやれ、自然界に住むライオンのオスはハーレムを構築するものですが、大治郎くんにもそういう習性があったとは」


 何とも言えない困り果てた表情で両腕を組み俯いてしまう父親。しかし、すぐに顔をあげて苦笑を浮かべてみせると子供達に視線を受けて口を開く。


「とりあえず僕も行ってきます。どうも、ドナさん感情的になっているみたいですから、冷静に話し合いができているか非常に怪しいですからねえ。それに全く味方がいないのは大治郎くんがかわいそうすぎますからね」


 やれやれといった風に肩をすくめてみせる父親。しかし、連夜以外の子供達はあまりいい顔をしない。


「お父さんはダイに甘すぎるよ。あいつ、一回徹底的にガツンとお母さんにやられたほうがいいと思う」


「残念ながら、私もミネルヴァお姉さまと同意見ですわ。ダイお兄様は女性をなんだと思っているのでしょう。馬鹿にしています!!」


 と、ぷりぷりと怒りをあらわにし、彼女達の周囲にいる猫メイド達も一斉にそうだそうだと頷きを返す。そんな自分の娘をはじめとする年若い女性達の反応に、父親はますます苦笑を深めていくのだった。


「まあ、とりあえず、今のところは連夜くんの推理だけで何一つ真実ははっきりしていないから。しおんくんや大治郎くん双方の話を全て聞いた上で判断しましょう。物事にはいろいろな見方がありますからね。一方向からだけみて物事を判断するのはあまりよくないことですから。さて、それじゃあ僕も奥の部屋に行ってきますね。お見送りできませんが、みなさん、くれぐれも気をつけて学校にいってらっしゃい。あと、学校に行かないみなさんは自分のお仕事に戻ってくださいね」


 穏やかでやんわりとした口調でそういって微笑みを浮かべた父親は、ぱんぱんと手を打って集まって来ていた成人メイド達を解散させ、その後妻と長男が消えた奥の部屋にのんびり歩いて行った。

 連夜達はしばらくの間、なんともいえない空気が流れるリビングで黙りこんでいたが、ふとあることに気がついたスカサハが連夜に声をかける。


「そういえばお兄様は、どうしてしおんさんがご帰宅されていたことにお気づきになられたのですか?」


 完全に不意打ちだった為、その質問に対し全然心の準備ができていなかった連夜は一瞬にして顔を紅潮させる。


「い、い、いや、それはその・・」


「そうですニャン。私達ですら気がつかなかったお姉さまのご帰宅がどうしてわかったのですかニャン!?」


 スカサハばかりではなく、さくらをはじめとする中学生猫メイド達も興味津津といった風に連夜に詰め寄ってくるが、質問をぶつけられた連夜はしばし、ぱくぱくと口を開け閉めするだけですぐに説明しようとはしなかったが、やがて、顔を真っ赤に染め俯きながらぼそぼそと答えだす。


「そ、その、昨日の夜中、猫の鳴き声が聞こえてきてね、耳を澄ますとどうもそれは兄さんの部屋かららしいってことはわかって、近所の野良猫が迷い込んできたのかな程度に思っていたんだけど。なんだか、その声が普通の鳴き声とは違う、なんだか物凄い艶めかしい感じのする声だったから気になっていたんだけど、そのときは眠くて眠くて。朝になってから調べようと思ってそのまま寝ちゃったんだ。で、洗濯物を取りにいくついでに兄さんの部屋に入って猫が迷い込んでいないかちょっと探してみたら・・」


「しおん姉様が入ったボストンバッグがあったわけですニャン」


「うん」


「だ、ダイ兄様ったら、よりによって連夜お兄様のお部屋のすぐ隣でなんていうことを!? は、破廉恥ですわ、助べえですわ、軽蔑しますわ!!」


『いや~ん』


 幸か不幸かそろそろお年頃で、既に大人の関係についての知識が身についてしまっていたスカサハや、さくらをはじめとする中学生猫メイド達は、連夜の説明で昨日の夜、大治郎の部屋でいったい何があったのかを察し一斉に顔を赤らめる。

 なんとも言えない表情で溜息を吐きだし、しばし苦笑というにはかなり苦すぎる笑みを浮かべて彼女達を見つめていた連夜であったが、ふと何気なく壁に掛けてある時計を見て顔色を変える。


「ま、まずい、もうこんな時間だ。みんな、急いで支度して。急がないと遅刻だよ!!」

  

「ひゃあっ、本当ですわ!! さくら!!」


 連夜の声にすぐにスカサハが反応し、横に立つさくらに視線を走らせる。すると、さくらはすぐにスカサハに頷きを返し、自分の後ろに整列している中学生猫メイド達に号令をかける。


「は、はい、姫様。みなさん、すぐに出発の準備をしますニャン!!」


『了解です!!』


「あ、みんな、お父さんとかえでさんといちょうさんが作ってくれたお弁当を忘れずに持ってね」


 さくらの指示のあと、一斉に学校に行く準備をするためにバタバタと動きだした中学生猫メイド達。そんな彼女達に連夜は声をかけておいて、自分自身もエプロンを外して学校に行く準備をはじめる。


「洗い物はいかがいたしましょうニャン!?」


「さっき、かえでさんといちょうさんがやってくださるって仰ってくれたからお任せしましょう。ところでみ~ちゃんは、用意しなくて大丈夫なの?」


 スカサハの準備を手伝いながら、自分も学校に行く準備をテキパキと進めているさくらが、リビングの中を簡単に片付けて目立つところだけささっと念動掃除機をかけている連夜に心配そうに声をかける。すると、連夜はさくらに優しく首を振ってみせて、自分達の準備を優先するように促す。そうして、あらかたリビングとキッチンが片付いたのを確認して、ソファに置いておいたカバンを持って出かけようとしたが、ふと、そのソファに座ってのんびりテレビを見ている姉の姿を見つけ、怪訝そうに声をかける。

 声をかけられた姉 ミネルヴァは、連夜のほうに余裕の笑みを浮かべて見せ、パタパタと片手をふる。


「今日の授業はお昼からで~す。なので、みなさん、いってらっしゃいませ。あ~、大学生は気楽でいいわ~」


 う~~んと両手を伸ばして、解放感いっぱいな姿を見せつけるミネルヴァをスカサハとさくらがなんとも言えない白い目で見つめるが、ミネルヴァは全然堪えた様子なく、わざと見せつけるようにソファに寝転がってまたもやテレビに視線を向ける。スカサハとさくらは、呆れ果てたように吐息を同時に吐き出すと、隣に立つ連夜に声をかける。


「お兄様、ぐ~たらな『人』はほっておいて、さっさと出かけましょう」


「ですね、もう出発しないと本当に遅刻してしまいますニャン。若様、さ、参りましょう」


 二人の妹達が焦ったように連夜に声をかけ、時計を見るように促す。しかし、連夜は何かが引っかかるのか首をかしげたまま考え込んでソファに寝転がる姉のほうを見つめている。そんな連夜の姿をちょっとの間見守っていたスカサハとさくらだったが、顔を見合せて頷きあうと同時に連夜の腕を両側から掴みその手を引っ張ってリビングから強引に連れ出していく。

 連夜は一瞬戸惑った表情を浮かべて二人を見たが、すぐに表情を和らげると、すぐに自分の足で歩きだしリビングから外へと歩きだす。しかし、何かを思い出したのか、一瞬立ち止まって振り返った連夜は、リビングのソファでのんびり寝そべっているミネルヴァに声をかける。


「そう言えばみ~ちゃん、朝一番で追試がある日があるっていってなかったっけ? 確か、今日だったような気がするけど違ったの?」


「つい・・し?」


 連夜の言葉にきょとんとして振り返ったミネルヴァであったが、連夜の放った言葉の意味が理解できるとそのふにゃけた顔が一瞬にして強張り青ざめる。


「わ、わ、わすれてたああああああああっ!!」


 絶叫してソファから飛び上がったミネルヴァは、連夜達の横を弾丸のように走りぬけ自分の部屋がある二階へと向かっていく。そんなミネルヴァの後ろ姿を見送った三人は顔を見合わせ、苦笑を浮かべあうと今度こそ玄関に向かって走り出すのだった。

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