第十六話 『女王様の恋人』 その5
風に揺られ、季節外れの蓑虫が一匹。
もう真夏は間近に迫り、場所によってはちらほらと蝉の声さえ聞こえるというのに、若葉が生い茂る大木の太い枝からたった一匹ぶら下がりぶらぶらと揺り続ける蓑虫。
「いや、好きで揺れているわけじゃないんだけどね」
大きな校舎と校舎の間から奴隷門に向かって続く狭い空間が一本の風の通り道となり、決して小さとはいえない突風を時折生み出している。
その風に煽られて、結構な勢いでいったり来たりを繰り返す蓑虫。
正体は勿論、最愛の恋人に簀巻きにされて吊るされた宿難 連夜その人である。
「まあでも、これはこれで楽しいっちゃ楽しいんだけど」
「楽しいの? 蓑虫ごっこが?」
いつの間にやってきていたのか、三本の尻尾を持つ大きな狐が大木の下から連夜を見上げて問いかける。
「蓑虫の真似ごとはまあ、とりあえず置いておくとして。それよりもほら、聞こえないかな?」
その身を風に任せて振り子のように揺れ続ける連夜は、そのまま目を閉じて耳を澄ます。すると、彼の真下に佇む大狐もまたそれに倣う。
二人の間を駆け抜けていく突風。
荒々しくも力強いその風は一匹の蓑虫の体を揺らし、大狐の毛並みを乱し、木々をざわめかせ、校舎の窓を軋ませる。
柔らかくはない、穏やかではない、冷たくもなければ、熱くもない。そして、全く優しさのない風。
人が百人いれば、九十人以上の者が間違いなく不快になるであろう『病み傷んだ風』。
だが、そこでそれを感じ続けている二人は少数派のほうであった。
「懐かしい匂いがするわね」
万感の想いとともに狐が言葉を吐き出す。
無理をしているのでも、恰好をつけているわけでもない。ほとんどの者が受け入れ難いはずのそれを、彼女は穏やかな表情でごく自然に受け止め続けている。
そして、それは彼女の頭上にいる蓑虫姿の連夜も同じ。
「僕らと同じ、いや、あるいはそれ以上にひどい想いをした者達の想いがここにはたくさん眠っているからね。普段は冷たい土の下に埋まっているそれが、たまに吹く突風に乗って浮かび上がるんだ」
「そう。そうなのね。だからこれだけ懐かしくて、悲しいのね。いつか眠れる日がくればいいのだけれど」
「どうだろうね。様々な苦悶と苦渋の果てに生を奪われた彼らは、もう二度と肉体的苦痛を味わうことはない。でもだからといって彼らが永遠の安息の中にあるかというと、僕には甚だ疑問だね。死の瞬間、彼らはきっと考えたと思う。遺していかなくてはいけない、親のことを、娘や息子のことを、祖父や祖母、友人達、恋人、上司、部下、数々の知り合いのことを。彼らが無事であるように、それとも自分達と同じ想いをしないように、あるいは遺して行く者達への謝罪や自分達を陥れた者達への呪いや恨み。どんな想いであったとしても、安心して土に還ることができたものはほぼ存在していないと思う。なにかしらの想い共に彼らは今もここにいる。本当の意味で彼らが安心して土に還り眠ることできるその日まで、彼らはここに居続ける。虐げた者達がそれを忘れても、虐げられた者達は絶対に忘れない。忘れない限り、それはそこに存在し続ける」
感情がほとんど混じらない淡々とした口調で言葉を紡ぎ続ける連夜の姿を、下からじっと見つめ続けていた大狐であったが、やがて、再びその目を静かに閉じる。
そして、しばし吹き続ける風の音に耳をすませた。
そのあと
唐突に狐は歌を歌い始めるのだった。
それは古い古い昔の歌。遥か昔に忘れ去られたある一族に伝わる鎮魂歌。
様々な境遇の者達が、様々な理由で死んでいく。その死の瞬間に彼らは故郷の幻を見て涙する。善人も悪党も、老いも若きも関係なく、彼らは遠く離れた故郷に想いを馳せながら死んでいく。
ただただ帰りたい。懐かしい我が家があり、懐かしい人々が住み暮らす、懐かしき故郷に帰りたいと願いながら死んでいく。
帰りたいと思いながらも、帰ることかなわず倒れていく人々。
そんな死者達の悲しい想いを鎮めるように、遺された人々は懸命に彼らに呼び掛けるのだ。
忘れないから、絶対に忘れないから、ずっとみんなここにいるからと。
その歌を、狐は素晴らしい歌声で歌い続ける。
ときに高く、ときに低く。ときに激しく、ときに静かに。
長いというほど長い時間ではない。だが、短いとも言えぬ時間がすぎた後、唐突に歌は終わりを告げる。
そして、それと同時にあれほど強く吹いていた風が急速にその力を失くす。
まるで、風そのものが歌ってくれた狐に感謝しているかのように、後には心地よい初夏の風。
「こんなの一時的なものだ。根本的なことが解決しない限り、彼らの嘆きは終わらない」
ずっと黙って狐の歌を聴き続けていた連夜であったが、すぐに不機嫌そうな表情になって真下にいる大狐を睨みつけ悪態をつく。そんな連夜に、狐はなんとも言えない寂しそうな笑顔を作って見せる。
「自己満足だってことはわかってるよ。でも、ちょっとね」
「ちょっと?」
「そう、ちょっと」
「ふ~ん」
一旦二人は言葉を切ると、もう一度目を閉じて流れゆく風に意識を集中する。先程までの荒々しさは全くない。あるのは若干の寂しさと、穏やかな優しさ。
しばらくの間、そんな緩やかな風の流れを楽しんでいた二人であったが、ふとあることを思いだした狐が目をあけて頭上を見上げる。
「と、ところでさ、あちし、歌うまくなったっしょ?」
「まぁまぁね」
「ま、『まぁまぁ』って、あちし、一応プロなんだけど」
「だから、『一応』でしょ?」
「む、むむむむぅ」
素っ気ない連夜の言いように、盛大に顔をしかめる狐。非難の籠った視線を頭上へと放つが、蓑虫はそんな狐をあざ笑うようにことさらその体をいったりきたりとぶらぶらさせる。
そんな蓑虫の姿を悔しそうな表情で睨みつけていた狐だったが、唐突に何かをいいことを思いついたのか、いたずらっ子のような表情になる。
そして、その場でくるっと後方一回転。その姿は、『狐』から『人』へ。
「こっちを向きなさい、『連夜くん』!」
「は? 突然何を言ってって、はぁっ!? な、なにぃぃぃぃっ!?」
呼びかけられて何気なく顔を下へと向けた連夜は、下にいるものの姿に仰天する。
そこには先程までの大狐の姿はなく、代わりにいるのは目も覚めるような一人の金髪美女。
タートルネックの黒いサマーセーターに、真っ赤なミニスカートと黒タイツ。
大きめの白衣を羽織るように身につけているが、それでもはっきりわかる細くしなやかな体のラインには贅肉らしきものは一切見受けられない。
すらっと長い脚線美の果てには黒光りするハイヒール。
美しい顔には細い銀縁フレームの眼鏡。
肩をはるかに超えて伸びる金色のロングヘアーに、頭から突き出た二つの狐耳。
小さく形のいいお尻からは三本の狐の尻尾。
どこかで見たようなというレベルではない。いつも眼にしているある人物とほとんど瓜二つのその姿に、あいた口がふさがらない連夜。
勝ち誇ったような表情でこちらを見上げている美女の姿を、しばし呆然と見つめていたが、やがて、苦々しい表情を浮かべると猛然と食ってかかる。
「お~い、なにそれ、どういうこと? 僕に喧嘩売ってる?」
「喧嘩売ってるのはあなたでしょ、『連夜くん』。何が『一応』よ。この北方都市最大最強最高のスーパーアイドルにしてスーパー美女の私に対してあまりにも失礼じゃないの?」
「はぁ? アイドルはわかるけど、美女はどうなのさ? ってか、『連夜くん』っていうな!!」
「美女でしょうが。この美貌、そして、不要な贅肉が一切ない細く均整のとれた素晴らしい肉体をごらんなさい。これを美女と言わずしてなんといおう」
白衣を翻し、これ見よがしにモデル以上の素晴らしいスレンダーボディを見せつける金髪美女。しかし、それを見つめる蓑虫の視線は冷ややかで。
「いや、全然、素晴らしいと思えないんだけど」
「どこが!?」
「どこがって全部だよ。不要な贅肉は一切ないかもしれないけど、必要な脂肪も一切ないじゃん」
「ひ、必要な脂肪ってどこのことよ!?」
「そうだなぁ、遠まわしにいうなら胸とかお尻とか太ももとか、あと、胸とか胸とかおっぱいとか胸とか」
「ほとんど胸に集中してるじゃない、このおっぱい星人!! いい、よく聞きなさい。おっぱいなんて必要ないってことがエロイ人にはわからないのよ!」
「まあ確かに、人によっては不要な人もいるとは思うよ。人の数だけその魅力は様々だからね。だけど・・」
狐耳の美女の猛抗議に、連夜は一度は頷きを返してはみたが、すぐにその首を横に振る。
「その姿では胸は絶対必要だから。不可欠だから。ってかないと困るから」
「にゃ、にゃんですとぉっ!?」
「あとお尻も小さすぎるし、太ももも細すぎる。ボリュームが全然ない。確かに線が細いのはわかるけど、いくらなんでも細すぎるよ。ガリガリじゃん。なんか小骨が刺さりそうだよ」
「ちょっとまて~い! 小骨って、あちしは焼き魚か!? 北方諸都市に住む男性達ことごとくから女神のごとく敬い慕われるこのあちしに向かって、この蓑虫が、よくもほざいてくれたなぁっ!! もう許さん!!」
そう言って怒りの形相を浮かべた狐美女は蓑虫が吊るされている大木に向かって走りだしたかと思うと、そのままその幹に足をかけて垂直に上っていく。
「ちょいちょいちょい、なにやってるのさ、君!?」
「うはは、泣け喚け怯えるがいい、そして、恐怖するのだ、宿難 連夜!!」
「待て待て待て!! ちょっと待てって、うわわ、うわわわわ、ちょっ、んきゃあああああっ!!」
「ははは、はははははは、まわれまわれまわれまわれ!! 回り続けろ、空中ブランコも真っ青だ、あはははははは」
「うぎゃああああ、やめにょおおおおおっ!!」
連夜が吊るされている太い枝の上にあっという間に駆け上がった狐美女は、そこに引っ掻かっているロープをむんずとつかみ上げると、華奢な体の一体どこにそんな力があるのか、そのまま連夜の体をぶんぶんと横向きに回し始める。それもメリーゴーラウンドのようなゆっくりした動きではない。遊園地のジェットコースターでも出ないような物凄いスピードで、容赦なく回し続けるのだ。
ただでさえ他種族に比べて圧倒的に身体能力が低い人間族の連夜。一応同族の中では間違いなく上位に位置する能力を持ってはいるが所詮底辺に位置する種族の中での話。
回され始めた時には結構盛大に悲鳴をあげていたのだが、すぐにぐったりして声も出せなくなってしまった。
「ど、どうよ、思い知ったかしら。おほほほ、お~ほほほほ、げ、げほげほ。ひ、久々に力仕事すると堪える。ぐ、ぐほげぼ」
「あ、あほでしょ、君。絶対あほだ。間違いない。う~、は、吐きそう、おええ」
思う存分連夜に空中散歩を味あわせて留飲を下げたのか、ようやく彼を下におろした狐美女だったが、回しすぎて自分も気持わるくなったらしく、ぐったりする連夜の横で自分もぐったり。
そんな狐美女を呆れ果てたと言わんばかりの表情で見つめる連夜。
もっと、いろいろ言ってやろうと思ったが、流石の連夜も回され続けたことがかなり堪えてすぐには回復せず、それ以上何も言えずにひたすら地面の上を転がりまわる。
そんな風に芝生の上を転がりつつおバカ二人はしばらく己の体の回復に努めていたが、やがて、先に回復した連夜があることに気がついて横を転がる狐に声をかける。
「ところで君さ、なんでここにいるのさ?」
「え? そ、それは・・・」
問いかけられた誰かさんそっくりな金髪美女は頬を赤く染めながら恥ずかしそうに身をよじり、それを見た連夜は嫌な予感に体を強張らせる。
容赦なく回されたことで緩んだ荒縄から急いで抜け出して、急いで話題を変えようと口を開きかける連夜だったが、それよりも早く美女の口からとんでもない言葉が飛び出すのだった。
「れ『連夜くん』に会いたくなって・・きちゃった」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・けっ(ぺっ)」
「ちょっ!? 唾吐きよった!?」
しばしの間見つめあっていた両者であったが、やがて、物凄い嫌そうな顔になった連夜はおもむろに舌うちとともに近くにある溝に向けて唾を吐きだした。
「こ、こんな美女に『会いに来ちゃった』って言われて何が不満なのよ!? どういうこと?」
「全部だよ、全部! 何が『会いに来ちゃった』だよ!? 気色悪い。君に会いに来られても迷惑なだけなんだけど。ってか、いい加減『連夜くん』っていうのやめろ!」
「ひ、ひどい! ちっちゃいころからずっと一緒にいて家族以上というか、本当のお姉さん以上というか、もはや一心同体という意味では夫婦同然という関係のあちしに対して、本当にひどすぎる!」
「君は相変わらず本当にあほだね。そもそも本当のお姉さん以上って、君、自分が美咲姉さん以上だとでも思ってるわけ? 身の程知らずな。謝れ、いますぐ美咲姉さんに謝りやがれ!!」
「そ、そんなことないもん。すでにあちしは姉さんを超えているもん。オーバーシスターだもん」
「オーバーシスターの意味が全然わからん。ってか、いったい君のどこが姉さんを超えてるわけ? 料理作らせれば激マズ料理しか作れないし、洗濯やらせりゃ洗濯機壊すし、掃除させればむしろ部屋の中ちらかすし、いいところ全然ないじゃん。全滅じゃん」
「う、うわあああああん! 最近は頑張ってるもん!! 料理は激マズじゃなくて普通にマズイレベルだし、洗濯機だって動かせないけど壊したりしてないし、掃除だって片づけないだけでちらかしてはいないもん!」
「全部ダメじゃん!! それ、完全にダメなレベルのままだからね! ってか、『片づけないけどちらかしてはいない』って、結局ちらかってるんじゃん!!」
「てへぺろ」
「うっわ、すっげぇ殴りてぇ。力いっぱい殴ってやりてぇ。でも、何よりもムカツクのは、君さっきさらっととんでもないこと口にしたよね。一心同体がどうとか夫婦同然とか」
「ええ、言いましたよ。言ってやりましたとも。それが何か? 何か問題でも?」
何かを懸命に堪えながらぶるぶる体を震わせる連夜に対し、狐美女は妙に上から目線のドヤ顔。
しばらくそんな感じで対峙していた二人であったが、蓆から脱出した連夜は、ため息一つ大きく吐き出した後、つかつか狐美女に近寄り力いっぱいその頬をつねり上げる。
「あ・る・に・き・まっとろうが!!」
「イタイイタイイタイ!! ほっぺつねらにゃ~~!!」
「しぇからしかっ! 誰と誰が夫婦だって?」
「わたしと『連夜くん』・・・イタタタタタッ、わかったわかった、ごめんごめん、謝るからマジで抓るのなしっ!」
ある人物から伝授された古の拷問技術を駆使して断行されるほっぺつねり攻撃に本気で耐えきれなくなった狐美女が、涙目で土下座するのを見てようやく留飲を下げた連夜はその手を放す。
「まったく。君にってやつは、人が一番ネタにしてほしくないことをわざわざ選んでイジリにかかるんだから」
「だ、だからって長年生死を共にして生きてきたあちしに対して、本気の拷問技術をふるう連夜もたいがいだとおもう」
真っ赤に膨れ上がったほっぺをさすりながら恨めしそうに連夜を見つめる狐美女。だが、連夜はおまえが悪いと言わんばかりの表情で彼女を睨みつけ謝る気配はゼロ。
お互いなんとも言えない表情でしばしの間にらみ合いを続けていたが、やがて、自分達がやってることがいい加減不毛であることに気がついてか、両者同時にがっくりと肩を落とす。
「も、もういいよ。なんかもう疲れた。ところでいったいどこから聞きつけたのさ? 君にはまだ紹介していなかったはずなのに」
「なんのこと?」
苛立ったように聞いてくる連夜の問いかけに、首をかしげて見せる狐美女。
またからかっているのかと思い、苦々しげな表情をさらに深いものにして睨みつける連夜であったが、どうも、本気でわかってないらしいとわかり更に大きなため息をひとつ。
「その姿のことだよ。ってか、その姿もともかく、この大学に通ってることとかいったいどうやって調べたの?」
「ああ、そのこと。別に調べたわけじゃないわよ。これよこれ」
連夜が聞きたがっていることがようやくわかった狐美女。自分の手の平に拳を軽くおとしてぽんと軽快な音をさせると、白衣の内ポケットから一通の封筒を取り出した。そして、ぽかんとしている連夜にすっと差し出す。
わけもわからずとりあえず受け取った連夜は、しばらくぽかんとそれをみつめる。少女マンガに登場するかわいらしい動物のキャラクターが模様のような感じでいくつも描かれているが、他にとりたてて特別なところは見受けられない。裏面には差出人の名前も記載されておらず、やっぱりわけがわからず説明を求めて狐美女に視線を向ける。
「あちしのデビュー当初からの熱狂的なファンの女の子でね、会員番号は4番。もう五年以上の付き合いなんだけどさ、なんか最初からすごく親近感があって、アイドルとファンというより友達みたいな感覚で文通に近いやり取りしていたんだけどね。ま、いいからとりあえず中身みてよ」
「え? ちょっ、そんな大事なもの僕が勝手に読んでいいの?」
「いいよいいよ。そんなのいいから、早く読んでみて」
狐美女に促され、連夜は封筒をあけて中身を取り出す。中には一枚の便せんと写真。連夜はそれを広げ、そして、その中身を見た。便せんに書かれた内容はたった一行だけ。
『彼氏できました』
非常に嫌な予感がする連夜。
だが、ここまで来た以上最後まで確認するしか道はない。
連夜は、思いきって写真を裏返し中身を確認し、そして。
思い切り前のめりに地面に倒れ込んで死んだ。
そんな連夜の姿を見た狐美女は訳知り顔でしきりにうんうんと頷きを繰り返す。
「あちしのほうがびっくりしたわよ。いつもの調子で読もうと思ったらこれでしょ? むしろ、事務所の誰かのいたずらかと思ったわよ、まぁちゃんとかこういういたずら好きそうだから。合成写真とか作ったのかなぁって。そしたら、まぁちゃんは違うっていうし、かっぺもマネージャーの吉崎さんも違うっていうし。それどころかみんな写真見てリアルにフリーズしちゃうから、むしろ本物だって実感しちゃったのよねぇ」
「あああああ、なんで、みんなに見せちゃうんだよ! できるだけ業界関係者には秘密にしておきたかったのに!」
「わたしに怒らないでよ。写真を送ってきた彼女に言ってよ。連夜の彼女なんでしょ?」
「うううう、玉藻さん、なんで、よりによってこいつに報告しちゃうんですかぁ!?」
手にした写真をぐしゃりと握りつぶしながらばんばんと地面を殴りつける連夜。
そんな連夜の様子を目にした狐美女は、慌てて近寄って写真を取り上げると、写真を丁寧に延ばして元にもどそうとする。
「も、もうやめてよ。あちしの写真に何するの!?」
「渡せ! 焼却処分するからこっちに渡せ!」
「や~よ。こんなレア写真二度と手に入らないかもしれないのに」
そういって取り戻した写真を見つめる狐美女。
そこには、狐美女と非常によく似た一人の金髪女性の姿。
そして、その彼女と熱いキスを交わす連夜の姿が映っていたのだった。