第十六話 お~ぷにんぐ
「オーガンさん、ナッシュさん、ウォールさん、えらいことです、大変です、大事件ですよ〜!!」
そろそろ放課後になろうかという時刻。
御稜高校第三校舎の屋上に駆け込んできた豚頭人身のオーク族の少年は、自分と同じような風体の少年少女達の集まりの中、その中心に悠然と立っている三人の『人』影の前へ転げるようにしてやってきた。
三人の『人』影は自分達の元へと駆け寄ってきたオーク族の少年のほうにその視線を一斉に向ける。しかし、三人ともすぐに言葉を発しようとはせず、オーク族の少年が口を開くのをじっと待っていたが、オーク族の少年は三人が放つ異様な威圧感に圧倒されてすぐに声を出すことができない。
しばらくの間なんともいえない間抜けな静寂が屋上を支配する。しかし、その静寂に苛立った三人のうちの一人がガシガシと髪の毛をかきながらオーク族の少年に向けて口を開くのだった。
「ったくよう、全員だんまり決め込んだら話が進まないだろうがよ。おう、ギギ、いいから話を続けろって。何が大変なんだよ」
「す、すいません、ウォールさん。そ、それが大変なんですよお、一大事なんですよお!!」
ギギと呼ばれたオーク族の少年は、話を振ってもらったことに助かったという表情をありありと浮かばせながら話しを続けるように促した人物に視線を向ける。
そこにはすらっとした長身に、漆黒の毛並みの狼型獣人族の少女の姿があった。達筆な東方文字で『鎧袖一触』とでかでかとプリントされた赤いTシャツの上に白いカッターシャツを羽織り、下は学校指定のチェックのスカートではなく濃い紺色のスカートを着用。一見細身でなよっとしているように見えるが、その身体から放つ威圧感がただの少女ではないと感じさせる。
この不良集団の参謀にしてナンバースリーの一年生。彼女の名は『スレッド・ウォール』。トップスリーの中で最も人当たりがいいため、というか上の二人が極端に無口であるため仕方なくこの集団のまとめ役となっている。
スレッドは、小さな溜息をもらしながら近寄ってくるオーク族の少年の額を掴んで押しとどめると、呆れた表情を隠そうともせずに気だるげに口を開く。
「わかったわかった、わかったから、その一大事ってやつを早く話せって。あ、しかし、手短にしろよ、オーガンもナッシュも回りくどいのが嫌いなんだからよ、でないと・・・わかるだろ?」
「ひ、ひいっ、わ、わかってますよお」
「ほら、わかってんなら早く話せって、いったい何があったっていうんだ」
「そ、それが、今日の昼休み、ゲットー・ヴァルカスが率いていた元南中の連中がやられました」
「何?」
最初、あまり興味なさそうにギギと呼ばれたオーク族の少年の話を聞き始めたスレッドだったが、その話の内容に急にその目の力を強めると自分の背後に立つ二人の『人』影のほうに振り返る。
二人とも身の丈はゆうに二メトルを越える巨漢。
その巨漢達は揃ってスレッドとギギのほうへと視線を向ける。
一人は、自分の身体全部をすっぽりと覆ってしまうほど大きな学ランに身を包んでいるうえに、大きな鉄仮面をかぶっていてその全体の姿がほとんどわからない姿をしている。ただ、全く身体的特徴を表している部分がないのかというとそういうわけでもない。『人』型種族にしては珍しく、肩と脇の下あたりから合計四本も丸太のような腕が生えているのだ。この正体不明の『人』物はスレッドの親友にして不良集団のナンバーツー。中央多腕聖魔族という上級種族である『レミー・ナッシュ』。
もう一人は肩から先の袖がない昔の不良が使っていたようなボロボロの長ランに身を包み、衣服の上からでもはっきりわかるほど物凄い筋肉の持ち主。その頭部は角度によってはグレーにも見えるくすんだ白い下地の獣毛に、黒い模様が刻まれた虎のそれ、口からは禍々しい鋭い犬歯が覗き、目は強烈な光を放って輝いている。伝説の上級種族中の上級種族の一つに挙げられる白虎族であり、この屋上を占拠している不良達のリーダー格で、自らを『暫定リーダー』と称している『オメガ・オリエ・オーガン』。
何故オーガンが自分のことをそう呼んでいるかというと、実はこの集団には彼らの更に上にリーダーが二人存在しているからである。
その二人の人物は実力、カリスマともに申し分なく、小学校時代から彼らはつき従ってきた。
しかし、トップの一人は高校入学時に彼らのグループから脱退してしまい、一応同じ高校に在学してはいるものの、彼らとの付き合いがなくなってしまっている。
もう一人のトップは、やはり同じ高校に在学してはいるが、『害獣』ハンターを目指しているため、ほとんど高校にこないで、所属している傭兵団につき従って『外区』への遠征に出かける日々を送ってしまっている。
という理由でトップ二人が不在となってしまったため、彼らの腹心であったオーガンが暫定的にリーダーとなっているというわけであった。(スレッドとナッシュがオーガンに押しつけたという見方もあるが)
スレッドは、小学校時代からずっとつるんでいて深い信頼を寄せている背後の二人にニヤリとした不敵な笑みを浮かべて見せる。
「おいおい、聞いたか二人とも。ゲットー・ヴァルカスって言えば、俺達が締めようとしていた連中だぜ。やたら幅を利かせてすげえうぜえと思っていたけどよ。まさか先に他の連中にやられちまうとはな」
「・・・」
「・・・」
「ああ、わかったわかった。話を続けさせろっていうんだろ? おい、ギギ、勿論どうしてそうなったのかとかちゃんと調べてきているだろうな?」
皮肉交じりの笑顔を浮かべて自分よりもはるかに大きな友人達を見つめるスレッドであったが、巨漢達はそれに応えることなく無言でスレッドを見つめ返す。するとスレッドは気圧された様子もなく肩をひとつすくめてみせ、オーク族の少年のほうに振り返る。
「は、はいはい、調べてますです!!」
「よっしゃ、とりあえず、事の顛末を聞かせろや。いったいヴァルカス達はどこの奴らにやられたんだ? 二年の鮫島達か? それとも三年の鬼桜組か? まさか、チャン一派にいきなり喧嘩ふっかけたりはしないだろうし・・・ひょっとしてあれか、龍乃宮 剣児あたりに喧嘩を売って奴が率いている『剣風刃雷』にやられたのか? まあ、それはないか。あいつらプロだし、いくらヴァルカスが底なしのあほでも『害獣』と普通に戦ってるバリバリの現役傭兵に喧嘩を売ったりはしねぇだろうしな。で、結局どこのグループにやられたんだ?」
「いえ、それが、不良グループじゃありません」
「何? 不良グループじゃない? ってことはお上品な一般生徒にやられたってのか? はっ、こりゃ傑作だ。腕っ節だけが俺達の唯一の自慢だっていうのによ、それで負けちまったら俺達みたいなクズは本当のクズじゃねぇかよ。あははは。しかし、笑い事じゃねぇな。一般生徒であいつらを潰せるだけの実力者か。それこそ龍乃宮 剣児くらいしかおもいあたらねぇけど」
「・・・ヘッドは?」
「ヘッド? いやヘッドはないだろ。ヘッドは今足を洗って俺達の世界と縁をきっちまってるし、それにどうもあのトカゲ野郎、ヘッドのことが好きみたいなんだよな」
「・・・身の程知らず」
「だよな~。今のヘッドは学園のスーパーアイドルだしなあ。いや、待て、よく考えたらもう一人いるじゃねぇか。剣児やヘッドと同等の力を持っていて、トカゲ野郎程度の雑魚なら単騎で蹴散らすことができる実力者がよ!! アルトティーゲルの兄貴が帰ってきたのか!? おい、そうじゃないのか、おい!!」
ギギの言葉にしばし頭をひねって考え込んでいたスレッドであったが、何かに思い当たってぽんと片手の拳をもう片方の手のひらに叩きつけて、ギギのほうに視線を向ける。そして、妙に血走った目でギラリと睨みつけるのであったが、ギギはぶるぶると首を横に振ってみせる。
「いえ、そういう話は聞いてねぇです」
「そ、そうか、兄貴じゃなかったのか。はあ~~、兄貴いつになったら帰ってきてくれるのかなあ」
その言葉を聞いたスレッドはかわいそうなくらいがっくりと肩を落としてしまい、その様子を見ていた巨漢の一人オーガンが、大きな右腕をスレッドの肩に伸ばして慰めるようにぽんぽんと優しく叩く。スレッドはその大きな手に自分の手を重ねながら微笑みを浮かべて友人のほうに振り返る。
「俺は大丈夫だって。まあ、兄貴のことだからどうせ『外区』で傭兵になるための修行してるんだってわかってるけどさ。たまには学校に来て俺達に顔をみせてほしいよなあ」
拗ねたような顔でスレッドがそう呟くと、それを聞いていたナッシュとオーガンはうんうんと頷いて見せる。いや、ナッシュとオーガンばかりではない、周囲で話を聞いている不良達もどこか寂しそうな表情で頷いたり、相槌をうったりしていた。しばししんみりした空気がその場を流れたが、それに気がついたスレッドがぶんぶんと首を横にふって苦笑を浮かべて見せる。
「やめやめやめ、こういうしめっぽい雰囲気は苦手なんだってばさ。ギギ、話の腰を折っちまって悪かったな、いいから続けてくれ。えっとなんだったかな」
「へ、へい。ヴァルカスの奴らが誰に締められたかってことです」
「そうだ、それだよ。で、結局誰があいつらをやったっていうんだ? 集団っていうならこの学校最大勢力のチャン一派とか、二年の鮫島達とかが考えられるけどよ、個人となるとなあ。剣児でもない、ヘッドでもない、アルトティーゲルの兄貴でもないってなると、ほかに思い当たる奴が・・・いや、待てよ、そう言えば剣児と毎日タイマン張ってる奴が二年生にいたな。たしか朱雀族の奴だったとおもうが、それか?」
「そうです。確かにその中に朱雀族の奴もいたっていう話を聞いています」
「やっぱそうかあ。俺もあいつが実際に戦っているところを二回しかみたことねぇけど、あれはやばいわ。あれとまともにタイマン張って勝てるとしたらアルトティーゲルの兄貴くらいだろう。うちのオーガンならどうにかなるかもしれんが、俺やレミーにはちと荷が重い。あほだねぇ、あいつらもあんな大物に喧嘩売るなんてさ。あれ、ちょっと待てよ。おい、ギギ、おまえ今、『その中に』って言ったな? じゃあ、奴一人の仕業じゃないってのか? 確かあいつは誰ともつるまない一匹狼だったはずだぜ? なのに、誰かとつるんでいたっていうのか?」
「そうなんです、そうなんですよ!!」
スレッドが首を傾げて聞き返すと、ギギは得たりとばかりに身を乗り出してくる。その様子を鬱陶しそうに見つめたスレッドは、顔を近づけてくるその豚面を無造作に押し返しながら続きを話すように促す。
「わかったわかった。わかったから早く続きを話せってば」
「は、はい話しますです。それがですね、ヴァルカスに因縁をつけたっていうのは、二年生の連中らしいんですよ」
「連中?」
「「??」」
「はい、そうなんです。それがなんとも繋がりがみえない連中でして、さっき話に出てた陸 緋星。D組のはぐれ者ロスタム・オースティン。F組の万年サボり魔ヨルムンガルド姉弟。園芸部部長の鉄人イワンと副部長のドーンガーデン。他にも何人かが乱闘に参加していたっていう話しなんですが・・・すいません、そいつらの詳細については調べきれませんでした」
「ふ~ん。まぁ、主要な奴らのことさえわかれば雑魚のことはどうだっていいやな。それで、まとめているのは誰なんだ? 朱雀族のルーか? それともヨルムンガルド姉弟か?」
長い顎に毛むくじゃらの指をあてながら面白そうな表情を隠そうともしないウォールは、先を続けるようにオーク族の少年に促したのだが、少年は困惑した表情を浮かべてなかなか口を開こうとしない。
「どうした? 俺達に言えないことなのか?」
途端に険呑な雰囲気を放ち始めた三人のリーダーに慌てて首を横に振って見せるギギ。
「ち、違いますとんでもねぇことです!」
「じゃあ、なんだってんだ?」
「いえ、それがその、信じてもらえるかどうかわからないんですが」
「いいから言えよ」
「へ、へい。その、奴らを率いていたっていうのが、その二年生のシャルロッテ・ハースニールだっていうんです」
「「「はぁ?」」」
真・こことはちがうどこかの日常
過去(高校生編)
第十六話 『女王の恋人』
CAST
如月 玉藻
城砦都市『嶺斬泊』に住む、大学二年生。二十歳。
上級種族の一つである霊狐族の女性。金髪金眼で、素晴らしいナイスバディを誇るスーパー美女。
この物語のヒロインであると同時にヒーローでもある。
今回は彼女の大学でのお話。
「も、もう! ほんと連夜くんは年上をからかってばっかり!」
リン・シャーウッド
嵐の中学時代を一緒に駆け抜けた頼もしき連夜の二人の真友の一人。
もう一人の真友ロムに特別な思いを寄せるがゆえに隣の城砦都市『通転核』から追いかけてきた。
麒麟種の派生種の一つである白澤族。十七歳。
連夜の恋人である玉藻と邂逅を果たすことになる。
「金髪の巨乳美女にあっさり鞍替えするって、おまえどれだけ節操ないんだ、このボケがぁ!!」
宿難 連夜
言わずと知れた本編主人公。
都市立御稜高校に通う高校二年生。人間族。男性。十七歳。
周囲のほとんどが敵という環境の中にありながらもそれに負けることなく逞しく日々を生きる。
恋人の玉藻を溺愛している。
「いいんだ。見ているだけで僕は満足なんだ」
「え? は? そりゃいったいどういうこった? い、今、おまえシャルロッテ・ハースニールって言った?」
「へい、いいやした」
「それってあの『モフモフエンジェル』のシャルちゃんか?」
「はい、その『モフモフエンジェル』のシャルちゃんです」
「はあぁ? なんで? なんでその名前がここで出てくるわけ?」
子分の口から飛び出した人名はスレッドが予想だにしなかったもの。
どんな悪名高き人物の名前が飛び出すのかと待ち構えていたというのに、彼女の耳に入ってきたのはそれとは全く真逆の方向に位置する人名。
流石のスレッドも驚きを隠すことができず思わず困惑の絶叫を放ってしまう。
『シャルロッテ・ハースニール』
小型犬獣人族の二年生。
二足歩行のダックスフントそのものといった彼女は、見た目通りの脆弱極まりない体の持ち主。
最底辺に位置すると言われる『人間』族よりもさらに圧倒的に弱く、体育の成績はいつも赤点ギリギリ。身体能力を底上げするような特殊能力も一切持たない為、戦闘関連は全くダメ。ダメダメのダメ。
では頭はどうであろうか?
成績はどちらかといえば悪くはない。いや、むしろかなりいい。この同学年の生徒達を成績順に『上』『中』『下』でわけるなら、間違いなく彼女は『上』に分類される頭脳の持ち主。
だがしかし、トップクラスかといえばそうではない。合格点は余裕で越えてはいるものの、だからといって満点には程遠い。彼女の成績は毎回それくらいである。
ではいったい彼女は何を持ってこの学校で名を馳せているのか?
圧倒的な『かわいさ』である。
『人』型種族としては龍乃宮姉妹が、『獣』型種族としてはアルテミス・ヨルムンガルドがそれぞれの種族の絶対的『美しさ』を誇るアイドルとして君臨している。
だが、それは種族の形態によって大きく偏りがちであり、龍乃宮 姫子も、龍乃宮 瑞姫も、そしてアルテミス・ヨルムンガルドも、この学校の過半数を超える生徒達から支持を集めているというわけではない。
しかし、『シャルロッテ・ハースニール』は違う。
種族を問わず、男女も問わず、生徒、教師に関係なく、幅広い層から圧倒的支持を受けているこの学校最強のマスコットなのである。
そう、『アイドル』ではなく『マスコット』だ。
彼女を光輝かせているのは、この学校に在籍している多くの生徒達を魅了してやまない圧倒的『かわいさ』。
愛玩用の小型犬そのものといった彼女であるが、当然ながら手足は異様に短く、顔と胴体は長く、身長は小人族よりも低い。
だが、だからこそその姿はかわいい。めちゃくちゃかわいい。小さな体に小さな特注のブレザーにスカートという姿は見たものの心を一撃必殺するだけの恐るべき破壊力を持つ。
強面の不良達の中にも、彼女のそのかわいらしさにメロメロになっている者も存在しているくらい、彼女はかわいい。かくいう、スレッド達も彼女の大ファンだったりする。因縁つける振りをして彼女に絡み、モフモフするのは一週間に一度や二度のことではない。ちっちゃな体を持ち上げて抱きしめてかわいらしいほっぺにすりすりしている間、流石のスレッドもただの乙女になってしまうほど彼女が大好きである。
そもそも、ちっちゃくて、モフモフしてて、性格まで異様にかわいらしい彼女に夢中にならないものはほとんどいないだろう。
そんな彼女の名前がどうして不良同士の血生臭い抗争劇の中に飛び出してくるのか。
「お、俺も最初は信じられなくていろいろと話を聞いてまわったんですが、その、どうやら本当の話のようでして」
「ふ~む。ひょっとして生徒会か風紀委員会の差し金かな」
学校最強のマスコットである『シャルロッテ・ハースニール』は表裏を問わず実に幅広い交友関係を持っている。その中には現生徒会長や風紀委員会の副委員長なども含まれており、今回のことの黒幕は彼らではないかと思ったのだ。生徒会も風紀委員会もヴァルカス達のここ最近の暴走ぶりについて調査していたことをスレッドは知っていた。そして、近いうちにそれに対するなんらかの処置を断行しようとしていたことも。
だから、今回のことはシャルロッテを隠れ蓑にした粛清であろうと思ったのだ。生徒会や風紀委員会が大掛かりな粛清に走ろうとした場合、学校側に対し様々な手続きを行わなければならず、その過程でどうしても決行前に情報が漏れてしまう。相手だって馬鹿ではない。黙ってやられたりせず、身を隠したりあるいは証拠を隠滅したり、最悪の場合、他の不良グループと結託して力づくで対抗しようとするかもしれない。
そうなると非常に厄介なことになる。それを防ぐために、今回、生徒会や風紀委員会に関わらぬ者達だけで不意打ち作戦を決行したと思ったのだ。
しかし、そんなスレッドの呟きを耳にしたオーク族の少年はすぐに首を横にふってみせる。
「このことについては生徒会や風紀委員会も知らなかったみたいですよ」
「違うのか?」
「ええ。生徒会に入っている従兄と、風紀委員会に所属しているダチに探りを入れてみたんですけど、どちらもえらい騒ぎになってるらしいです。上だけが知っているパターンかなと思ってみたんですが、一番大騒ぎしているのが現
生徒会長と風紀委員長だっていうことなので、その線も薄いかと」
「う~~ん。となると、やっぱりシャルちゃんが首謀者ってことになるよなぁ」
再び両腕を組んで考え込むスレッド。
だが、何かがおかしい。いや、何かというよりも、どう考えても無理がある。確かにシャルロッテ・ハースニールという少女は非常に勝気な性格をしているが、だからといって不良と戦えるくらい気が強いというわけでもない。いつも必要以上に高飛車に振舞ったりするが、実際は優しくて気配り上手な普通の女の子なのだ。そんな女の子が突然荒くれ者達を率いて不良グループと抗争を始めるなんて、どう考えてもおかしすぎる。
「ヴァルカスの野郎が何かちょっかいをかけて、それがとてつもなく気に入らなかったとか」
「で、シャルちゃんの取り巻き達が憤慨して奴をたたきつぶしたってかい? まあ、それも考えられなくもないけどさ。でもよ、よく考えてみてみ。ヴァルカス一派はそんなに弱い勢力だったかい? 俺達でも二の足を踏んでいた相手なんだぜ? それがそんなあっさり叩き潰せるものかね?」
「そ、それは・・・」
スレッドの言葉に、オーク族の少年は思わず黙りこむ。
「何かおかしい。その『何』がなんなのかって言われたらわからないけどさ」
そう言って空を見上げたスレッドは、自分の中に膨れ上がるある種の予感を、気づかぬままに口から零した。
「嵐が来るかもな」