表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
真・こことは違うどこかの日常  作者: カブト
過去(高校二年生編)
13/199

第一話 『宿難家の朝』 その3

 再びキッチンにもどってくると、そこにはまた別の人物の姿が。


「ダイ兄さん、おはよう」


「うむ、連夜お早う」


 キッチンのダイニングテーブルに座って旭新聞を読んでいた人物は、連夜の姿を見つけると新聞を折りたたみ、重厚な仕草で朝の挨拶をしてくる。

 椅子に座ってる状態でもわかる長身に筋肉質で見るからに頑健な肉体、不言実行、泰然自若をモットーとする、まだ若いのにいやに老成した野武士のような人物。特徴的なのはその首から上で、本来人の顔がある場所には、大型肉食獣である獅子の顔が乗っかっていた。危険な仕事をするもの特有の鋭く意志の強い眼差しに、口からのぞくのは獰猛な牙、そして長い金褐色の髪は後ろでポニーテールにまとめられ、額には黒い鉢がねがまかれている。

 彼こそ連夜の七つ年上の兄、宿難家の長男。


宿難(すくな) 大治郎(だいじろう) 宣似(のぶため)


 去年大学を卒業し、『害獣』ハンターというとてつもなく危険な仕事についた彼は、一年のほとんどを『外区』と呼ばれる都市の外で過ごす。そのため連夜も最近は滅多に会えないでいたのだが、久しぶりに昨日の夜のうちに帰ってきていたらしい。事情を知らない人間が見れば、彼こそがこの家の主と間違えてしまいそうなほど貫禄があり、落ち着いた雰囲気を醸し出している。


「『おはよう』よりも、まずは『おかえりなさい』だよね、ダイ兄さん」


「どちらでも構わんさ。だが、そうだな、『ただいま』、連夜」


 かすかにほほ笑みながらゆっくりと頷きを返す獅子頭の兄の姿に、心からの笑顔を浮かべて返す連夜。失礼にならない程度に兄の身体全体にすばやく視線を走らせ、少し安堵の息を吐きだす。


「今日も怪我らしい怪我していないね。よかった」


「ああ、おまえがいつも『回復薬』一式を用意してくれているからな。あれだけ全部使い切るような相手とはなかなかやらないさ」


「でも、兄さんが所属する『暁の旅団』が出張るくらいの相手だから、弱くはないよね」


「まあ、そこそこはな」


「そこそこね・・今回も大変だったみたいだね」


「・・」


 ビールの中ジョッキほどもありそうな兄専用の湯呑に兄の大好きな梅こぶ茶を注ぎ、兄の前にそっと差し出す連夜。大治郎は連夜の問いかけに対し『是』とも『否』とも言わぬまま、その湯呑を手にしてゆっくりと口に持って行く。


『暁の旅団』


 城砦都市『嶺斬泊』にあまた存在する『害獣』狩りの傭兵旅団の中で、間違いなく五指に入る屈指の超戦闘集団。剣聖と名高いドワーフ族の剣士 『坪井(つぼい) 主水(もんど)』に率いられたこの傭兵旅団は数々の輝かしい戦歴を持ち、その武名は近隣諸都市に鳴り響いている。その為、自然と他の傭兵達では手に余る危険極まりない仕事が数多く集まってきてしまう。

 勿論、普通の仕事も数多く舞い込んでは来ているはずなのだが・・


「この『嶺斬泊』が無視できない、あるいは無視しては通れない相手を斬る・・のが坪井さんの方針だったよね?」


「うむ。連夜はよく知っていると思うが、普通の『害獣』はどのクラスのものであろうとも自分のテリトリーから出てくることはない。つまり『人』がそこに踏み込みさえしなければ『害獣』が襲いかかってくることはないのだ。極端な話、例え目の前に立っていたとしても、自分の立っている場所がその『害獣』のテリトリーから一歩でも外れていれば襲いかかられることはないということだ。だがな、『人』が生きていくためには奴らのテリトリーを少しずつでも削ぎ落としていかねばならぬ。『人』が増えればそれだけ住む場所が必要となる、住む場所だけではない、日々の生活を営むための場所だって必要だ。遅かれ早かれ今のこの城砦都市の城壁内部だけではスペースが足りなくなってくる。いずれは生活圏を広げていかねばならんのだ。ならば、やれる者がやれることを今やらなければならぬ」


 なんとも言えない表情で一気に梅こぶ茶を飲み干した大治郎は、大きく太い溜息を吐きだしながらトンとテーブルの上に湯呑を置く。連夜はその湯呑に黙って梅こぶ茶のお代わりを注ぎながら、困ったようなかすかな笑顔を浮かべて大治郎の横顔を見つめる。


「だけど、身体は大事にしてね、兄さん。兄さんが強いことはよく知っているけど、もしものことだってありえるんだから。死体で帰ってきたりしたら承知しないからね」


「わかってる。可愛い弟にそんな無様な姿を見せたりはせん。散るときは塵一つ残さずこの世から消えてやるさ」


「そういうこと言ってるんじゃないのに、兄さんはもう。とりあえず、ごはんを入れるね」


「うむ。頼む・・って、ちょっと待て連夜!!」


 兄の言葉を聞いた連夜は片手で顔を覆い、大きく深い溜息を一つ吐き出す。しかし、すぐにしょうがないなあという表情を浮かべると、兄の朝食の用意をするために流しに向かっていった。そんな弟の後ろ姿を何とも言えない優しい表情で見送りかけた大治郎だったが、何かに気がついて鋭い声をあげ、それを聞いた連夜は何事かと振り返る。 


「な~に、兄さん・・って、なにやってるの?」


 呆れたような連夜の視線の先には、両手を大きく広げた兄の姿が。


「え、何って・・おかえりなさいの抱擁は?」


「・・ご飯いれるね・・」


「ちょ、待つのだ連夜!! 兄弟のふれあいは!? ずっとしてくれていたじゃないか!! 久しぶりに我が家に帰ってきた兄に対してその仕打ちはあんまりだ!!」


「何言ってるのさ、それって僕が小学生のころの話でしょ・・僕ももう高校生なんだけど・・」


「いや、関係ないではないか!! それともあれか? 反抗期か? それとも、もう兄はいらんということか!?」


 すごい悲しそうな目でこちらを見る兄の姿を、しばらく眺めていた連夜だったが、溜息をひとつつくとあきらめたように兄の分厚くて広い胸に抱きついた。


「はいはい、もう・・これでいいの?」


「連夜ぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 やたらと感激した声をあげて、大治郎は自分よりも小さな連夜を抱きしめた。滅多に家に帰らなくなってきた兄は、危険極まりない日々を送り続けている反動か、帰還するたびにそのブラコンぶりを悪化させていた。


「ほんとに大治郎くんは連夜くんのことが大好きなんですねえ・・」


 家族に持たせる弁当作りに集中していたために、兄弟の会話に参加していなかった父親であったが、自分の背後が賑やかであることに気がついて、振り返ってにこにこと兄弟の触れ合いをみつめる。


「パパ上、連夜は我が命、我が人生そのものなのです!」


「うんうん、そうですか、そうですか」


「ちょっと、ダイ兄さん、苦しい・・」


「れんやぁぁぁぁぁぁぁぁ、かわいいぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」


 尚もヒートアップする大治郎に、さすがに苦しくなってきたのか、連夜がばたばたと身をよじって逃げようとする。しかし、スキンシップに相当飢えていたのか大治郎は連夜をがっちりホールドしたまま放そうとしない。


「ダイ兄さん、そろそろ放してって・・」


「れんやぁぁぁぁぁぁぁぁっぁ、すぅぅきぃぃだぁぁぁぁぁぁぁ!」」


「あさっぱらから、やかましいわぁぁぁぁぁこの筋肉だるまぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 キッチンに走りこんできた何者かが、左手に持った『真・ナニワハリセンカリバー』・・と書かれた大きなハリセンを大治郎の後頭部に一閃する。

 スパーーーーーーーンと、めちゃくちゃナイスな快音を響かせて着地したその人影の後ろを、頭を抱えた大治郎の巨体がごろごろと転がっていく。


「あいたたたたたたたたた」


「あいたたたぢゃないわよ!! 連夜を殺す気なの、ダイ!?」


 激痛から立ち直れずにいまだ転がり続ける大治郎を睨みつけるのは、美しい金髪をショートカットにした、海のように碧い色をした碧眼の女性。やや細身ではあるが女性にしては長身で、モデルのようなスタイル、そして、額には大きな第三の美しい目が輝いていた。そんなわけで十人中十人が振り返るであろう美人であるが、美しいお姫様というよりは麗しい王子様というほうがしっくりくるようなところがあるのは、その漢前な性格のせいなのであろう。


「あ〜、助かった。ありがとう、み〜ちゃん。そして、おはよう」


「おはよう、連夜。無事でよかった」


 苦笑しながら礼を言う連夜に、外では見せない女性としてのというか、優しい姉としての表情を向ける彼女こそ宿難家の長姉。 


『ミネルヴァ・スクナー』


 連夜の三つ年上で、家からちょっと離れた都心近くにある都市立大学に通う大学二年生。


「大丈夫? 怪我とかしなかった?」


「うん、大丈夫、大丈夫」


「そう、それはよかった・・じゃあ、はい」


「はいって・・・なに、やってるのみ〜ちゃん・・」


 呆れたような連夜の視線の先には、両手を広げた姉の姿が。


「え、何って・・お早うのハグは?」


「・・・お味噌汁いれるね・・」


「ちょ、待って、連夜!! 姉弟の愛のスキンシップは!? 最近ずっとしてくれないじゃない!! それともなに、もう姉とは汚らしくてハグできないっていうことなの!?」


「もう・・それ、ダイ兄さんがさっき言ってたこととほとんど同じなんだけど・・」


「そんなの関係ないわよ!! ってか、こんなゴミの言うことは聞かなくていいのよ!! それともあれ? 反抗期なの? お姉ちゃんなんか大っきらいってやつ!?」


 すごい哀しそうな目でこちらを見る姉の姿を、あんたもあんたがゴミ呼ばわりしてる人とおんなじじゃんみたいな目で眺めていた連夜だったが、溜息ひとつつくと、あきらめたように姉の緩やかに膨らんだ胸に抱きついた。


「はいはい、もう・・これでいいの?」


「連夜・・ほんとかわいい・・」


 胸の中の小柄な弟をうっとりと見つめるミネルヴァ。しばらくよしよしと弟の頭を撫ぜていたミネルヴァだったが、何かに気がついたように連夜の身体をちょっと離し、その身体のあちこちをべたべたと触る。


「え、何? 何?」


「連夜、いつのまにかすっごい筋肉質な身体になってない? 抱きしめるまでわからなかったけど」


「そんなことないよ。まあ、多少は鍛えているけど、それほど大幅には変わってないと思う」


「そうかなあ。いや、やっぱり肉質が変わってると思う。触ってみた感じが若干違うもの。なんていうのかな、昔よりさらに筋肉が柔軟になってる感じがする。連夜って着痩せするけど実際は結構引き締まった体しているよね。お父さんと一緒にあちこち旅をして自然と鍛えられたからかもしてないけど、確かに昔からそこのところは変わらないかな。でも、今触ってみた感じでは、硬質なだけじゃなくて明らかに弾力が凄くよくなってる気がするもの。脂肪がついてぶよぶよになったわけじゃなくて、筋肉そのものが鞭みたいな感じになってる。私の言ってること間違ってる?」


 そう言ってミネルヴァは若干自分の身体を屈ませると、覗き込むようにして自分の顔を可愛い弟の顔に近づけじっとその目を見つめる。すると連夜はその問いかけに対し、はっきりとした返答をしないまま曖昧な笑顔を浮かべて見せるだけ。


「もうっ!! また、連夜は私に何か隠し事してるでしょ?」


「うんまあ、僕も年頃の健全な高校生男子ですので、麗しい姉君に言えない秘密の一つや二つあるのですよ」


「ダメッ!! 絶対にダメよ!! 連夜は私に隠し事しちゃ駄目なの!! 法律でちゃんと決まっているんだから!!」


「いや、決まってないから。そんな個人特定の法律なんてどこにもないから」


 連夜が自分の問いかけに答えてくれない様子を見ていたミネルヴァは、半分本気で涙目になりながら連夜の身体を抱きしめ、いやいやと身体全体を横に振って悲しみを表現する。そんな姉のなすがままになりながら、連夜は困ったような苦笑を浮かべて姉の顔を見つめる。


「いや、冗談だよ、み~ちゃん。将来お父さんの薬草菜園を手伝うことになると思うから、それに向けて基礎体力つくりしているだけ。他意はないよ」


「本当に?」


「ほんとほんと」


 えへへへへ~と可愛らしい笑顔を浮かべて見せる連夜の姿を、その三つの目で真偽を見抜くように見つめていたミネルヴァだったが、やがて深い溜息をひとつ吐き出すと表情を緩める。そして、自分よりも小さな連夜の身体をぎゅう~~っと抱きしめる。


「連夜、お願いだから危ない真似だけはしないでね」


「大丈夫だってば、み~ちゃん。だいたいさ、僕が行くところって、家、学校、スーパー、あとお父さんの畑くらいだよ? どこに危ない場所があるの? 考えすぎだよ」


「そう? わかった。ならいいけど」


「うんうん、わかってもらえてよかった」


 尚も問いただしたそうにしていたミネルヴァであったが、これ以上詮索しても連夜が何も語ろうとしないことを察すると、しぶしぶといった表情で頷いて見せる。そんなミネルヴァの姿を見た連夜はどこかほっとしたような表情を浮かべ、ふ~~っと大きく息を吐きだしながら肩の力を抜くのだった。


「そうやって、なんでも一人で抱え込んで一人で解決しちゃうんだから、連夜は。お姉ちゃんすっごい悲しい」


「そんなことないよ~。み~ちゃんのこと頼りにしているんだから」


「本当?」


「ほんとほんと。み~ちゃんて、勉強できるし、スポーツ万能だし、喧嘩だってめちゃくちゃ強いし、おまけにそこらへんのモデルや女優が束になってかかっても敵わないほどの超美人だもんね」


「でへへへ~、そんなこともあるけど~。もう、連夜は正直なんだから~」


 連夜に褒められたミネルヴァは、その表情を脹れっ面からあっというまに上機嫌へと変化させる。そして、先ほどとは違う意味で連夜を抱きしめたままいやんいやんと身体を横に揺らし続ける。姉の機嫌がなおったことにほっとする連夜だったが、流石に人形のように抱きしめられたままでいるわけにもいかないので、そろそろ朝食の用意をしようとその身体をミネルヴァから放そうとしたのだが、そのとき、連夜の視線の先にミネルヴァの瞳が映った。無視できない何かがその瞳に宿っていることを本能的に察知した連夜は、ミネルヴァの碧眼をまじまじと見つめてみる。するとそこにはなんとも言えない妖しげな光が。


「み、み~ちゃん、なに、その目?」


「かわいい・・かわいすぎる・・ってか、血がつながってさえいなければ・・」


「え、ちょ、み〜ちゃん? もしもし?」


「連夜・・」


「なに? ってか、顔近い! もう、すっごい近い!!」


「ちゅ〜していい?」


 ミネルヴァの言っている意味がわからず一瞬硬直する連夜。冗談で言っているのかなと思ってその瞳を見つめ返してみるが、妖しさ爆発の碧い瞳には完全完璧に『マジ』と映っていて、『冗談』の『じ』の字の欠片も見出すことができず、連夜の背筋を超高速で寒気が走る。


「へ、ちょ、ちょっとぉぉぉ、だめだめだめだめ!!」


 タコのように唇をすぼめて顔を近づけてくる姉を必死で押しのけようとする連夜だったが、女性とは思えぬ予想以上の力でホールドされてしまっており逃げるに逃げれない。無念、ここまでかと連夜が覚悟を決めた、そのとき、猛然とミネルヴァに迫る一つの影が。


「ちぇすとぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 ダメージからようやく回復した大治郎が、両手に正眼に構えた『エメラルドハリセンフロウジョン』・・と書かれた大きなハリセンをミネルヴァの横っ面に叩き込む。

 『バシーーーーン』と、もう聞くだけもすっごい痛くてたまらない打撃音を響かせてバシッとポーズを決める大治郎の後ろを、右頬を抑えたミネルヴァの細身がごろごろと転がっていく。


「いたたたたたたたたたたたた!!」


「いたたたたぢゃないわ!! ミネルヴァ 貴様、実の弟に懸想するとは何事か!! 恥を知れ、恥を!!」


 雪山の頂上から下界を見下ろすかのような厳しい眼差しで、床を転げまわる妹を睨みつける大治郎。そんな上の兄姉の様子を、呆れ果てたように見つめていた連夜は、大きく大きく深く深くため息をつくのだった。


「もう、ご飯入れるから、二人ともいい加減で席についてね・・」


「「は〜い」」


 お互い凄まじい憎悪の炎を瞳に宿し睨みあって対峙していた二人であったが、愛しい弟の声には素直に応じて、いそいそとキッチンテーブルの自分の席へと向かう。連夜は、そんな上二人の様子を溜息交じりに見つめたあと、棚から兄と姉のお椀を出してきてまず長ネギと豆腐の味噌汁を入れてわたし、ついで、茶碗にごはんをよそって二人の目の前に置くのだった。


「サンマは塩焼きにしてるけど一応ポン酢かけて大根おろしと一緒に食べてね」


「うむ・・いただきます」


「相変わらず、連夜は料理が上手いなあ・・血がつながってなければ絶対お婿さんにして大事にするのに・・」


「まだ言うか、この色情狂め・・いや、しかし、ほんとに旨い。連夜、いつもありがとうな」


「ううん、二人ともご飯おかわりしてね」


 もりもりと自分が作った朝食をたいらげていく二人の姿をうれしそうに見つめながら、連夜は横で弁当を作っている父親のほうに目線を向ける。すると、いつのまに来ていたのか、二人の猫メイドが父親の両側にぴったりとくっついて、その作業を手伝っている姿が見えた。


「かえでさんに、いちょうさん、おはようございます」


「「おはようございます、若様」」


 連夜の挨拶に応えて、作業を中断した赤と黄色の毛並みを持つ二匹の猫メイドは、優雅にスカートのすそを掴んで一礼し連夜に挨拶を返す。


『だいもんじ かえで』と『だいもんじ いちょう』


 東方猫型小人(ねこまりも)族の長老の双子の孫娘達で、長老直伝の霊草、薬草作りの腕を買われて父親仁の専属メイドとして働いている。おしゃべり好きなものが多いことで知られている東方猫型小人(ねこまりも)族であるにも関わらず、かえでといちょうは非常に物静かで、こちらから話しかけなければ口を開くことはあまりない。いつも黙々と父親の側でその手伝いをしていて、今日もひっそりと父親の影で作業を続けていたので、流石の連夜も気がつくのが遅れたのである。 

 霊草、薬草栽培の技術が非常に素晴らしいものを持っている二人であるが、そればかりではない。料理技術もなかなかのものなのだ。その証拠に連夜の目の前には、目にも鮮やかな色とりどりのサンドイッチとクラブサンドが。


「うわ、久しぶりにお父さんのミックスサンドに、かえでさん、いちょうさんのクラブサンドですか」


「うん、まあね、簡単なものでごめんね」


「いやいやいや、サンドイッチといってもお父さん達が作ると中身が豪華だもん。僕が作ると、レタスとかハムとかありきたりなんだもんなあ。かえでさん、いちょうさんもありがとう」


「「恐縮です」」


 連夜の言葉通り、小さなバスケットケースに詰められたサンドイッチの具は、タンドリーチキンやら、トンカツやら、アボガドやら、フルーツ各種やら、かなり華やかになっていた。


「これならスカサハも喜ぶなあ・・って、あれ、そういえばまだスカサハまだ起きてきてないよね・・」


 時間を見ると現在七時三十分。

 まだ余裕はあるが、そろそろ起こしにいかないといけないかもしれない。おかわりと、同時に空の茶碗を差し出してきて、俺が先だ、とか、ひっこめ肉だるまとか醜い争いをしている兄姉の相手を父親に任せて呼びに行こうかと連夜が体を動かしかけたそのとき、チェックのブレザーにスカート、赤い棒ネクタイの都立中学の制服を着た美少女がキッチンに入ってきた。


「おはようございます、連夜お兄様」


 流れるようなロングヘアーの銀髪、ルビーのように輝く赤い瞳、抜けるような白い肌。音楽のような涼やかな声と、お姫様のような奇麗な一礼で、連夜に朝の挨拶をしたその少女は、そのまま、連夜の体に飛び込んだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ