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真・こことは違うどこかの日常  作者: カブト
過去(高校二年生編)
105/199

第十二話 『友者達』 その4

 御稜高校二年生の宿難(すくな) 連夜(れんや)は、身体的に全種族中最低クラスの『人間族』という最弱種族に生まれた。

 筋力でも耐久力でも持久力でも劣る。

 獣人化して超パワーを発揮することもできなければ、時間が止まって見えるほど物凄いスピードで走ることもできない。

 目や指先から光線は出せないし、動植物を操ることもできなければ、霧や風を起こすこともできない。

 『人』にあまり知られていない技術や知識を多少持ってはいるが、一流には程遠い。


「いや、連夜くんで多少だったら、大概の『人』はどうなるのよ。この都市どころかこの大陸に住む『人』のほとんど全員が素人ってことになるじゃない」


 しかし、そんなないないづくしのダメ少年連夜にも胸を張って自慢できるものがいくつかある。 


「そんなことないよぉ。連夜くんは全然ダメじゃないよ。私にとっては自慢できる最高の彼氏よ」


 連夜が胸を張って自慢できるものの一つ、それはたくさんの『友人』達である。

 彼らは連夜とは違い、各分野において非常に優秀な能力を備えたエキスパートばかり。


 ある者は危険な外区で活躍する乗用狼『大牙犬狼(ダイアウルフ)』を手足のように操る能力を。

 ある者はどんな過酷な環境にも適応して生き残るサバイバル術を。

 ある者は金剛石をも切り裂き、害獣の固い外皮をも砕く力を持って、あらゆる外敵から仲間を守る武力を。


 備えているのは『力』ばかりではない。


 どんな強敵を前にしても怯まない『勇気』。

 固定観念に縛られない柔軟な思考から生み出される『知恵』。

 そして、仲間との絆をなによりも大事にする『信義』の心。


 皆が皆、美しく輝く『宝石』のような仲間達。

 連夜にとって、どんな財宝や金銀にも代えることができない『宝物』。


 それが連夜の自慢の『友人』達であった。

  

「ねぇねぇ。連夜くん、『恋人』は? お友達が大事なのはよ~~~くわかったけど、『恋人』はどうなの? 大事じゃないの?」


「いや、大事に決まってるでしょ」


「え~~、でも、今の話を聞いているとなんだか『友人』の方々のほうが大事に聞こえるよぉ」


「何言ってるんですか。僕の『恋人』は僕の『命』であり『人生』そのものです」


「私、連夜くんの『命』なの? 『人生』なの?」


「そうですよ。『友人』達は僕にとって自慢だし誇りでもありますが、彼らには彼らの『道』があります。勿論、その道は僕の行く『道』と重なることが多く、それゆえに長く『友人』としていられるんですけどね。頼ったり頼られたり、励ましたり励まされたり、時には本気で怒ったり喧嘩したり。でも、それは繋がったり離れたりの繰り返しでいつも同じ『道』を進んでいるわけではありません。中には離れて行って二度会えない者だっている」


「うん、それはなんとなくわかるわ」


「でも、玉藻さんは違う。玉藻さんは僕と同じ道を一緒に進んで行く『人』、誰がなんと言おうと、例え玉藻さん自身がなんと言おうとも僕がそう勝手に決めた『人』。つまり僕が死んで動けなくなるそのときまで一緒に歩き続けてもらう『人』です。だから・・」


「だから?」


「玉藻さんには僕の『命』が果てるそのときまで無理にでも付き合ってもらいます。僕が死ぬそのときまで無理矢理にでも一緒に『人』の『生』を歩んでもらいます。だから玉藻さんは特別なんです。『友人』達とは全く別格なんです」


「特別で別格だなんてそんな~、うれしいなぁ。でも、そんな強調して言わなくてもぉ、ちゃんと一緒に歩いてあげる。っていうか、多分。連夜くんじゃなく私のほうが連夜くんを無理矢理引きずっていくわよ、きっと。だって、間違いなく私のほうが連夜くんのことを誰よりも強く必要としているもの」


「僕だって玉藻さんが必要です。というか、絶対僕のほうが強く必要としていますよ」


「え~、絶対あたしだって。そこは連夜くんでも譲れないわよ」


「いや、僕ですって」


「いえ、あたしだって」


「いやいや、やっぱり僕ですって」


「いえいえ、きっぱりあたしだって」


「いやいやいや、どう考えても僕ですって」


「いえいえいえ、いくら考えてもあたしだって」


「あ、あ~、ごほんごほん。ちょっといいかな、二人とも」


 青年というには軽く、少年というには重い声。

 それが自分達の耳に入ったことで、ようやく二人はこの部屋にいることが自分達だけではないことを思い出し、慌てていちゃつくことをやめる。

 そして、引きつった笑みを浮かべながら居住まいを正して座りなおすと、今の声の主たる目の前の人物に視線を向け直すのであった。

 

「ごめんごめん。決してロムのことを忘れていたんじゃないんだけどね」


 慌てて両手を勢いよく横に振りながら、焦って謝罪の言葉を口にする連夜。

 そんな連夜のほうに、何とも言えない疑いの眼差しを向けたこの部屋の主。

 彼はひとつ小さく息を吐きだしてみせたあと、ゆっくりと視線を正座している連夜の膝へと向ける。

 そこには連夜よりもはるかに大きい、尻尾の長さを含めれば優に体長二メトルは越えるであろう大狐の姿。

 勿論、ただ大きいだけの狐ではない。

 黄金に輝く体毛、大きな体に負けぬほど立派な三本の尻尾、すらりと伸びた前後肢。

 どれもこれも普通の獣人族の姿からは考えられない規格外の体のパーツであるが、中でも特に目を引くのはその純白の獣毛に包まれた顔だ。

 全身金色に輝く中で、唯一新雪のように抜けるような白さで塗りつぶされた顔。

 その顔には血のように赤いくまどり模様が走り、美しさと恐怖が同時に存在している。

 隠しようのない恐ろしくも強大で気高い闘気。


 何も知らない者が遠くからこの狐を見たならば、『馬車』を牽引するために調教された『乗騎獣』か、主を守るために育てられた戦闘用の『護衛獣』と思ったかも知れない。


 だが、この狐は。


 突然部屋の空気が変わる。

 それは連夜と話していた時の穏やかで温かな空気では決してない。

 この部屋にいるものの肌に直接鋭い刃があてられるような、そんな空気。

 それは連夜の対面に、あぐらをかいて座る一人の巨漢の少年から発せられる。

 そこには、今まで連夜に向けていた穏やかな表情とは全く違う、まるで不倶戴天の敵を見るかのような険しい表情、厳しい視線。


 最初それは連夜の膝の上に頭を乗せる狐へと向けられていた。


『かかってこい』


 そういわんばかりの挑発的なオーラ。

 

 しかし、狐の反応は薄い。

 先程とほとんど同じ。

 大きな闘気に身を包んではいるものの、それは巨漢に向かうことなくゆっくりと狐と、そして、狐のすぐ側にある連夜の周囲を漂い続けている。


 だが・・


 巨漢の矛先が狐から連夜に変わる。

 しかも今度は『かかってこい』などという悠長な気配ではない。

 明らかな殺気。

 隙あらば今すぐにでも『殴り殺す』と言わんばかりの、物騒極まりないオーラだ。

 

 すると、狐のオーラもまた急激な変化を見せた。

 連夜の膝から頭を持ち上げ、連夜と巨漢の視線の間に割って入り、巨漢の視線を真っ向から受け止める。

 まるで、巨漢の殺気を敢然と受けて立つといわんばかりに激しく輝く金色の瞳。


 しばし、睨みあう四つの視線。

 お互いを視線だけで打ち滅ぼすと言わんばかりに、激しくぶつかりあい、そして・・


 不意に勝負を仕掛けたほうが、視線の力を緩める。

 いや、緩めただけではない。

 どこか感極まったような、本当に心から嬉しそうな表情を浮かべ、そして、優しさと穏やかさに満ちた瞳で狐を見つめるのだった。

 

 突然、豹変した相手の態度に、心底びっくりして思わず目を白黒させる狐。


 そんな狐をしばらく優しい表情で見つめていた相手は、再び連夜のほうへと視線を向け直した。


「よかったな、連夜。本当にいい『人』みたいだな。おまえにぴったりの相手だ」


「本当にそう思う?」


「思うとも。ここにリンがいたら、俺と同じ感想を言うだろうよ。おまえが俺をほったらかして、夢中になるのも無理はない」


「そうなんだよね~。ついつい、玉藻さんが愛おしくて愛おしくてさぁ、他の『人』そっちのけで優先しちゃうんだよねぇ~。ごめんね、ロム」

  

 手放しの賛辞に思わずデレデレと顔を緩め、本当に嬉しそうに言葉を紡ぎ出す連夜。

 連夜の対面に座るこの家の主は、何度も深く頷いてみせた後、もう一度連夜の膝の上に頭を乗せたまま、おっかなびっくりの様子でこちらの様子を窺っている狐のほうに体を向ける。

 そして、あぐらから正座に足を組み直して居住まいをただし、ゆっくり深く頭を下げた。


「改めて自己紹介させていただきます。ロスタム・オースティンと申します。見ての通りの貧乏人ですが、連夜とは中学の頃から仲良くしてもらってます」


『ロスタム・オースティン』


 連夜には真に『友達』と言える『友達』が全部で十二人存在している。

 その中の一人、それがロスタム・オースティンことロムであった。

 ロムは、同性の連夜から見て、決して美男子ではないし、かといってかわいいわけでもなければ、不細工でもない。

 伸ばし放題伸ばした赤毛に、日焼けした褐色の肌。

 開いてるのか開いてないのかわからない細い眼に、弱冠大きい鼻。

 真一文字にむっつりと閉じられた口に、そして、人間種である連夜と違いとがった長い耳をしている。

 華奢な連夜と対照的に、がっちりとした体型で、百九十ゼンチメトル前後の身長に、みっちりと筋肉がついている。


 現在連夜の通っている御稜高校(おんりょうこうこう)で唯一中学校時代の連夜を知り、その時代から続く連夜の『真友』。

 かつて上級聖魔族の奴隷となるべく生み出された種族『バグベア』族の末裔で、人間種同様、根強い差別を今も受けている種族に属している。

 そのため、中学時代は連夜同様に、不良達や心ない一部の生徒達からよく絡まれ、数え切れないほどひどい目にあわされたり辛い思いをさせられたりしてきた。


 だが、だからといって彼はそんな己の境遇を悲観し、現実から目を背けるような真似はしなかった。


 連夜ともう一人の真友とともに真正面から敢然と戦い続ける道を選んだのだ。

 『茨の道』という言葉もまだ甘いと感じられるような過酷な道。


 中学時代の彼は毎日傷だらけで泥だらけで。

 体だけでなく心も同じくらいボロボロで、いつ折れて砕けてもおかしくない状態で。


 でも、彼の傍にはいつも友達がいた。


 前には進めない、いっそ楽になりたい、世の中に背を向けて汚いもの辛いものから逃げ出したい。


 そんな風にどうしようもなく心がへし折れそうなとき、いつもそこには友達がいた。

 余計なことを言わずとも、ただ傍にいてくれるだけで前に踏み出す勇気と力が湧いてくるそんな友達が彼にはいた。

 彼にとっても、連夜にとっても、そして、もう一人の真友にとっても。

 彼らにとって彼ら自身が堅い絆で結ばれた家族であり兄弟であった。


 だから、彼は、いや、彼らは嵐のような中学時代を駆け抜けることができた。


 彼とそしてもう一人の少年との間で作り上げてきた中学時代のそういった思い出は、連夜にとってかけがえのない宝石のようなもの。

 家族や幼馴染と築き上げてきたものとはまた違う大切な何か。


 実はそのことを玉藻は連夜から事前に聞かされていた。

 今日、会うことになる『友達』が連夜にとってそんな特別な存在の一人であることを。


 玉藻は今、その『友達』の家に、恋人連夜と共にやってきている。

 そもそもの発端は、昨日の夜のこと。

 連夜とその実姉で、玉藻の親友でもあるミネルヴァと一緒に、自宅で楽しく酒盛りをしていた玉藻。

 連夜との仲を何かと邪魔しようとするミネルヴァを、なんとか酔い潰すことに成功した玉藻は、それを尻目に連夜と思う存分いちゃいちゃしようとしていた。、

 しかし、まさに事に及ぼうとしたそんなとき、連夜の携帯念話に着信音が鳴り響く。

 掛けてきた念話の主は、連夜の中学時代から付き合いのある大事な真友の一人

 折り入って相談したいことがあり、明日の土曜日直接会って、話を聞いてもらえないかというのが念話の内容。

  

 『友達』を大事にする連夜であるから、普通なら二つ返事で引き受けるのであるが、土曜日というのがネックになってすぐに『うん』と返事を返せない。

 土曜、日曜は、連夜が『必ず恋人孝行をする』と決めている曜日なのだ。

 玉藻が強制して誓わせたわけではない。

 連夜が自主的にその誓いをたて、付き合いだしてから二ヶ月、一度もこの誓いを破ったことはない。

 勿論、玉藻にしてみればこの誓いを守ってくれることは、これ以上ない喜びだ。

 しかし、だからといって大事な『友達』を蔑ろにしてほしいわけではない。

 連夜が大事にしたい『友達』は、玉藻だって大事にしたいのである。

 でも、週末は連夜と一緒にいたい、平日会えない分、週末くらいは側にいたい。

 友達をほったらかしにはしてほしくない。

 だけど自分もかまってほしい。

 悩む連夜の横で、玉藻自身も悩んだ結果、ある妙案を思いついた。


『私も一緒についていく!!』


 と、いうことで、玉藻も一緒についてくることになったのであった。


 連夜から、特別扱いしている友達が何人かいることは既に聞いている。

 その中でも特によく出てくる名前が、今回会うことになっているバグベア族の少年ロムであった。


 そのためか、他の『友達』と違い詳しい生い立ちについても既に知っている。



 ロスタムは、両親を早くになくし祖父母に育てられて大きくなった。

 ロスタムを育てた祖父母は優しく穏やかな性格の人達で、彼のことを本当に可愛がって育てていたという。

 だが、彼が中学卒業間際に相次いでなくなり、現在彼は天涯孤独の身。

 頼る親戚もない。

 祖父母の遺産も葬式代と質素な墓を建てただけで消えた。

 そんな感じで一人途方に暮れていたロム。

 しかし、天は彼を見離しはしなかった。

 友の窮状に真っ先に反応したのは、他ならぬ連夜であった。

 彼は頼りになる両親にすぐにこのことを相談。

 両親は、可愛い息子の願いをすぐに聞き届けて、彼の後見人としてバックアップすることを約束する。

 こうして、施設に送りこまれることもなく、プータローになることも免れたロムは、中学卒業後、城砦都市『嶺斬泊』にもどることになった連夜達一家のすすめで、一緒に『嶺斬泊』に引越してきたのである。

 当初、連夜達と一緒に住むことを強く勧めた連夜の両親。

 だが、ロムはそこまで面倒はかけられないと、その申し出を断って一人暮らしをすることを選択する。


 城砦都市『嶺斬泊』の中心地に近い『アッパーリバーサイド』という工業地帯。

 そこにある格安のマンション(かなりオンボロ)の一室に居を構えた彼は、高校生活の合間を縫って、高額のバイトが多数ある『外区』での雑用任務で金を稼ぐ毎日を送っているという。

 自分の生活費や高校生活に必要な学費をきちんと自分の力で稼ぎ、また、後見人となった連夜の両親から当座の生活費として借りたお金も、ある程度まとまった金額で少しずつ返済しているらしい。

 

 連夜いわく、


 愛想は悪いが生真面目で義理堅い。

 面白みには欠けるが、信頼はできる。

 不器用で要領が悪くいつも貧乏くじばかり引くが、だからといってそれを理由に腐ったりはしない。

 むしろその苦境を面白いと笑ってはねのけるだけの胆力と実力を持っている。 


 そんな性格の持ち主だという。

 

 実に連夜と気の合いそうな性格だと思う。

 いや、むしろ気が合うというどころの話ではないだろう。

 差別と迫害の嵐の中を共に戦い潜り抜けてきたという二人。

 その結びつきは推して知るべしだ。


 そんな相手に会うと理解したとき、玉藻は連夜にわからないように、そっと溜息をついた

 正直、最初から歓迎されたりはしないだろうなと思っていた。

 と、いうのも、連夜が特別だという『友人』『知人』の類は、連夜に心酔しきっているものが多いからだ。

 そのことは、このまえのミネルヴァとの大騒動でいやというほど自覚することになった。


 玉藻自身と親交が深く個人的に親友でもあるリビュエーとクレオ。

 その彼女達が連夜に寄せる深い信頼と愛情を見ただけでもわかる。

 そして、彼女達がどれほど連夜を大事に想っているかも。

 なんせ、彼女達の一人リビュエーに至っては、玉藻が連夜の恋人になったと知るや、いきなり玉藻の覚悟を試すような行動にでたのである。

 それも一歩間違えれば、自分が大怪我をすると十分わかっていながらだ。

 

 恐らく彼女達だけが特別ではないはず。

 多分、この目の前に座るバグベア族の巨漢もそうに違いない。

 そんなにすぐには打ち解けることはないだろう。

 彼らの信頼を得るためには長い時間が必要だろうし、下手をすれば連夜を独占しようとする自分の姿に反発し、一生打ち解けることはないかもしれない。

 

 そう思ってそれなりの覚悟を決めてここにやってきたのだが。

 思いもかけぬ好意的な態度に、現在玉藻は完全に調子が狂ってしまっていた。

 先程の自分を試す視線。

 あのままでいてくれれば、大人しくはしているものの警戒心バリバリの態度剥き出しで最後までいれたのであるが、こうも丁寧に、しかも下手に出られてしまってはどうすればいいか判断に苦しんでしまう。

 

 とりあえず、返事を返さないのは流石に失礼と気付き慌てて返事を返す。


「あ、あの、あのあの、如月(きさらぎ) 玉藻(たまも)・・です?」


「いや、敬語は結構ですよ。そもそも俺のほうが年下ですし、如月さんは普通にしゃべってください」


「え、で、でもそういうわけにはいかないっていうか」


「いいんです。それよりも、これからも連夜のことをよろしくお願いいたします。俺達もできるだけこいつの側に張り付いて守るつもりではいますが、なんせ、こいつときたらちょっとでも目を離したら最後。いつのまにか大騒動のど真ん中にいるのですから」


「そ、そんなことないってば。変なこと言うのはやめてよ、ロム!! ほら、玉藻さんが本気で心配するじゃない。今ロムが言ったことは嘘ですからね、信じないでくださいね」


「と、言ってますが、本当にいつもギリギリの線を越えています。こいつ自身が望んでそうなっているわけじゃありません。ですが、どれだけ不良やチンピラから逃げても、どれだけ危険を避けようとしても、向こうがこいつを放っておかないんです。誰かが、こいつの側にいてやらなくてはいけないんです。勿論、俺も、他の連中もこいつから目を離さないようにします。ですが、それでも足りないと思うのです。見たところ如月さんは相当な武術の達人とお見受けいたしました。もし、如月さんがご迷惑でなければ、如月さんのお力を貸していただくというわけにはいかないでしょうか」


 閉じているのか開いているのかわからない細い目。

 しかし、その細い目から感じる視線からは友達のことを案じる真摯な想いが伝わってくる。

 そして、本当に玉藻のことを心から信頼して頭を下げてくれているのだということがよくわかってしまった。


 玉藻は慌てて連夜の膝から頭をあげて連夜の横に座り直す。


「ううん。ロムくんの想い、私、確かに受け取ったよ」


 力一杯心からの返事をロムへと返す。

 すると、そんな玉藻の気持ちが通じたのか、ロムは本当に嬉しそうな顔を浮かべて何度も頷きを玉藻へと返した。

 よく見ると目元にはうっすら涙も滲んでいる。


「ありがとうございます、如月さん。本当に連夜のこと、よろしくお願いいたします」


「う、うん、勿論、最初からそのつもりだったし。あ、も、もう! そんなに頭を下げないでってば!! れ、連夜くん、笑ってないで助けてよ、ちょっと!!」


 こういったシチュエーションを経験したことが皆無であるため、どう対応したらいいかわからずに心底困り果てた表情を浮かべた玉藻。

 自分の横に座る愛しい恋人にたまらず助けを求めるが、連夜は終始ニコニコしながら二人を見つめるばかり。

 そんな恋人の態度に若干腹が立った玉藻は、無言で連夜のほっぺに自分の肉球をぐりぐり押しつける。

 それでもしばらくは構うことなくニコニコと玉藻とロムを交互に見詰め続けていた連夜であったが、ふと気がついたときには玉藻の目にはうっすらと涙が。

 これには流石の連夜も自分のやりすぎに気がついて平謝り。

 そんなこんなでもうしばらく痴話喧嘩が続き、なんとか玉藻の機嫌を直すことに成功した連夜。

 目の前で笑いを堪えている巨漢に視線を向け直す。


「さてと、僕の自慢の恋人も紹介できたことだし、そろそろ本題に入ろうか」


「もういいのか? なんならもう少し待つが」


 ニヤリと意味深な笑みを浮かべてみせるロム。

 しかし、対する連夜の反応はロムの思惑とは大きく違っていて、正座する自分の膝に頭を乗せて目を瞑る狐の頭を、ゆっくりと撫ぜてやりながら余裕の表情でロムの攻撃を受け流して見せるのだった。


「いいって。終わってからまたいちゃいちゃするから」


「全く。そういうところは相変わらずかわいげがないよな。おまえは」


「そりゃあ僕だからね」


「違いない」


 一瞬ムスッとした表情を浮かべて呆れる口調になったロム。

 しかし、すぐに目の前に座る親友同様の悪党面で笑みを作って頷きあう。

 なんだかんだいっても、どこかで通じ合っている二人であった。


「で? 何があったの? 念話では詳しい話が聞けなかったんだけどさ。僕の力が必要なことってなんなのさ?」


「うむ、おまえに誤魔化しても仕方ないから単刀直入に聞くが。連夜。おまえ、子供用の『抗病薬』を作成する上で絶対不可欠の素材、『高香姫(プリンセス)の榴蓮(アン・ドリー)』がどこで手に入るか知らないか?」


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