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真・こことは違うどこかの日常  作者: カブト
過去(高校二年生編)
101/199

第十二話 お~ぷにんぐ

 昨日もピンチだった、今日もピンチだ、そして、明日もピンチであろう。

 敵は二十人、味方は自分を含めたった三人。

 この地域一帯に覇を成す、一つ目巨人族(サイクロプス)のヘッドに率いられた不良の一団に取り囲まれていながら、彼は全く絶望していなかった。

 こんなことは日常茶飯事だ。

 城砦都市『通転核』の中心にある繁華街のゲームセンターで遊んでいたら、友達の白い髪の少年が見るからに不良そうな同じ中学生と思われる中級聖魔族の少年に絡まれた。

 話し合いで解決しようとする前に、白い髪の少年はいきなり先制パンチで相手の顔面を叩きつぶし、もう一人の友達であるバグベアの少年に頼んで白い髪の少年を抱えて逃げ出したのだが、いつのまにか追いかけてくる人数が半端ないことになっていて、どぶ川の横の河川敷まで逃げてきたらそのときにはもう二十人ほどになっていたというわけだ。

 それにしてもたった三人をそれだけの人数で追いまわさないと捕まえられないこいつらって・・

 まあいい、こいつらから見れば自分達は小さな取るに足らないネズミかもしれない。

 しかし、そのネズミがどのくらい恐ろしい猛毒を持っているか、見せてやろうじゃないか。


「おう、おまえら、こんだけなめたマネしといて無事に帰れるておもっとるんじゃないわいのう?」


 ぶっさいくな面をしたスキンヘッドに、古臭い黒の学ラン姿の一つ目巨人(サイクロプス)族の少年がなかなか面白いことを言う。

 おもむろにポケットに手を突っ込み、目にも止まらぬ早業でポケットから取り出した小さな珠を親指で弾いて飛ばし奴の口の中に投げ込む。


「な、う、」


「【勅令 破裂】」


「ぎゃふ!!」


 その言葉で一つ目巨人(サイクロプス)族の少年の口の中で珠が弾けて割れて中身が口の中にぶちまけられる。


「げ、げええええええええ・・」


 一つ目巨人(サイクロプス)族の少年の口の中でぶちまけられたそれは、とんでもない味と悪臭を解き放ち、巨人はたまらず嘔吐して地面を転げまわる。


「おい、連夜、いったい何を御馳走してやったんだ?」


 横にいる白い髪に眼鏡の小柄な少年が、皮肉たっぷりの笑みを浮かべながら聞いてくる。


「別に、ただ、うん○味のカレーパンを御馳走しただけ」


「ぷ、そいつは、いいや」


 肩をすくめて見せると、白髪の少年は噴き出して笑いだし、それに釣られて一緒にげらげら笑いだす。

 それを見ていた巨人は、殺意のこもった強烈な視線を二人に向け、嘔吐おさまらぬままに突進してくる。


「死ねや、ちびぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」


 巨大な拳が迫るが、焦る必要はない。

 余裕を持ってそれを見ていると、横合いから伸びてきたたくましい腕がその巨人の拳を軽々と受け止める。


「この二人に手を出すなら、まず俺を倒してからいけ」


 頼もしい言葉とともに巨人の腕を捻り挙げるのはもう一人の味方、バグベア族の少年。


「て、てっめええええ。」


 なんかまだうるさく吠えているので、素早く近づいてその目に黄色い液体をぶちまけてやる。


「ぎゃ、ぎゃああああああああああああっ!!」


 バグベア族の少年が手を離してやると、一つ目巨人(サイクロプス)族の少年は一つしかない目を押さえて地面を再び転げ回る。

 その様子を見ていたバグベア族の少年が振り返って呆れた表情で聞いてくる。


「おい、今度はなんだ?」


「いや、ただの徳用ねりからし」


「ぶはっ、からしか」


 黄色い家庭用のチューブを見せてやると、バグベア族の少年はたまらず噴き出し、横にいる白い髪の少年もついで笑いだし、最後には自分も一緒になってげらげら笑いだす。

 その様子を見ることはできなかったが、その嘲るような笑い声はしっかり聞こえていた一つ目巨人(サイクロプス)族の少年が、呆気に取られて動かないでいる自らの手下どもにむかって喚き散らすように指示する。


「て、てめえら、みてねえで、やっちまうんだよ!! 一人残らずぶっ殺せ!!」


 リーダーの声にはっとなった手下達が我に返り、一斉に自分達めがけて突っ込んでくる。


「あほか、誰がまともに相手にするもんか」


 そう一人呟いて、ポケットから取り出したいくつもの珠を地面に転がし、そして、力ある言葉を唱えて珠の中に封じられし力を発動させる。


「【勅令 溶解】」


 突如として、突っ込んできた手下達の足元の石畳が溶けて抜けおち、手下達の大半が下半身まで埋まってしまう。

 そこに、畳み掛けるように別の珠を投げ込み間髪入れずに発動させる。


「【勅令 硬化】」


 今度は軟化していた石畳が再び固い石へと戻り、手下達の下半身が埋まったままの状態で固まってしまう。


「な、なにいい」「う、うごけねえ」「おい、早く助けろ!!」


 完璧に埋められてしまった手下達が運良く落とし穴にはまらずにすんだ仲間達に助けを求めるが、そのときには疾風の如き速さで近づいた白い悪魔が目の前にいる。


「ば?か、モグラたたきよりもおまえらなんか簡単だっつ?の」


 埋まって動けないでいる手下達を情け容赦なく手にした角材で滅多打ちにしていく白い髪の少年。

 あまりにも凄絶で凄惨な一方的リンチの光景にたまらず仲間達を助けるべく、助かった連中が白い髪の少年に殺到していくが、そこに割って入るようにバグベア族の少年が飛び込んできて、次々と不良達を薙ぎ倒していく。

 まるで殴りかかってくる不良達の動きを読んでいるかのように、その攻撃のことごとくをかわし、逆に強烈な攻撃を食らわして不良達を悶絶させていく。



 三人のリーダーである中学生の少年宿難(すくな) 連夜(れんや)は、目の前で暴れまわる頼もしい二人の少年を見つめた。



 連夜は小学校を卒業してからすぐ、両親の都合により住みなれた城砦都市『嶺斬泊』を離れてこの城砦都市『通転核(つうてんかく)』に移り住み、新しい住居の近くにある芳元中学校よしもとちゅうがっこうに通い出したのであるが、そこで連夜は、上級生の不良達に絡まれている白い髪の少年に出会う。

 その少年は殴られても殴られてもかかっていき、最後力尽きるまで抵抗をやめようとしなかった。

 連夜はそれを最初から最後まで見ていて、不良達が去ったあと治療だけはしてやろうとその少年に近づいた。

 しかし、少年はこちらが呆気に取られるほど浅い傷しか受けておらず、治療するまでもなくむくりと起き上がってこちらをジロリと見つめると、『今日はたまたま調子が悪かっただけだ、いつもだったらあんな奴らに負けねえ』と捨て台詞を残して去って行った。

 連夜は連日この少年を見かけることになった。

 どうも少年は絡まれているわけではなく、自分から不良達に挑んでいってはぼこぼこにされているらしかった。

 連夜は珍しいことだが白い髪の少年に興味を持った。

 自分が迫害の対象である人間族であることを理由に、極力友達を作らなかった連夜であるが、この少年には強烈に惹かれるものを感じた。

 そこで、ある日思いきって話しかけてみると、最初は狂気に満ちたギラギラと光る目を見せてこちらを威嚇するような視線を向けて来ていたが、連夜に自分と同じような匂いを感じたのか、何度も話しかけているうちにその態度は急速に軟化していった。


 『早乙女 リン』


 そう名乗るその少年はある日、連夜にこうぽつりともらした。


『俺、妾の子供でさ、家に居場所がないんだよな。父親からも、義母親からも憎まれているからさ・・早く強くなって家を出て行きたいんだ、そして、そのときには父親も義母親もぶっ飛ばしてやる!!』


 そう言って自虐的に笑う彼の姿は、どこか自分に似ていてほっておくことはできなかった。

 しかし、相変わらず不良に喧嘩を売ることをやめないリンに巻き込まれる形で、連夜もその渦中に飛び込むことが多くなった。

 最初はそれをやめさせようと思った連夜だったが、ある時ふと思いついた。

 人間という身体的に劣勢な人種に生まれた自分が、生き残る道を模索するには絶好の機会かもしれないと。

 それから連夜はリンの喧嘩に片っぱしから付き合い、己が今までに会得してきた技術の全てを喧嘩という実戦の修行場で磨き続け、いつしか二人は勝つことはできずとも負けずにすませる程の強さを身につけていく。


 そんなときにもう一人の頼れる仲間、バグベア族の少年に出会う。


 彼は最初、上級生のパシリをやらされていた。

 それは彼が貧乏で、奴隷あがりの種族バグベア族であったことに原因がある。

 彼は上級生の不良の一人に金で雇われていたのだ。

 それも大して金額にもならないはした金でである。

 彼は上級生のいいなりになって彼らの代わりに喧嘩を引き受けていたが、あるとき、連夜達の噂を聞きつけた上級生達が、彼に連夜とリンを襲うように命じる。

 上級生と一緒に、二人を待ち伏せて罠にかけ、動けないようにしておいて二人を総勢十五人で滅多打ちにする。

 そんな卑怯な手段で捕まえた相手を嬲ろうとする上級生達に、身体的に弱い連夜をかばってひたすら殴られ続けるリンの姿を見ているうちに、彼の我慢は限界を超える。

 バグベア族に備わる超人的な能力、『月光眼(グラムサイト)』と、『凶戦士化(ベルセルク)』を駆使してあっという間に上級生達を蹴散らしてリンと連夜を救ってくれたのだった。

 だが、直接手を下さなかったとはいえ、二人を罠にはめた側の人間にはかわりないと、彼は二人に無防備な背を向ける。

 好きなだけ殴って落とし前をつけていいというのだ。

 連夜としては、この高潔な人物をそんな目に合わせるのは大反対であったが、隣の狂犬のような友人が恐らくそれを許しはしないだろうと思って止めようと思ったのだが、なんと、あろうことか、そのリンの方から、先に連夜に彼を許してやってくれと申し出てきたのだ。

 いったい全体何事だと思ったが、珍しくリンの瞳にいつものような狂気の光がない。

 どうやらリンはこの人物のことが相当気に入ったのだと見て連夜は安堵の溜息を吐きだした。

 連夜はこの高潔な性格の人物が気に入って一緒にこないかと誘いをかける。

 奴隷上りの種族なのにいいのかと問い掛ける彼に、連夜は自分は同じ迫害対象の人間族であることを話し、リンは家庭に居場所がなく孤独で友達が連夜しかいないことを告げ、頼むから友達になってくれよというリンの一言で彼は連夜達と一緒に行くことを承知するのだった。


 『ロスタム・オースティン』


 そう名乗ったバグベア族の少年は二人に言った。


『両親を早くになくしてな、貧乏な生活を続けていたせいで世の中というものをほとんど知らんのだ。そのせいでいろいろと迷惑をかけるかもしれんが、よろしく頼む』


 以来、彼は二人のボディガードのような存在として常に二人の後ろにいるようになった。

 余談であるが、連夜の両親の口利きで中学生でもできる割りのいいアルバイト先がみつかり、ロスタムは前ほど金に困ることはなくなった。

 こうして三人は常に行動を共にするようになり、数々の修羅場を共に乗り越えて固い絆で結ばれるようになった。

 まさか、そう遠くない未来に違う絆で結ばれてしまうものもいるのだが、このときはまだ当人達ですら自分達の関係がそうなってしまうことになろうとは思ってもいない。

 とにかく、そんな三人からしてみれば、この程度の連中など雑魚でしかない。

 二十対三という圧倒的な劣勢を、あっという間に跳ね返して見せた三人だったが、その三人のリーダーである連夜は非常に冷静だった。


「ロム、リン、もうそろそろ時間だ、逃げるよ」


「わかった」


「え~、まだ暴れたりねえよ」


 リーダーの言葉にバグベア族の少年は素直に頷くが、白い髪の少年は納得できないという表情でまだ角材を振り回し続けている。


「こういうときは引き際が肝心なのですよ、リンくん。何事もほどほどが一番いいの。それにさ、さっきから嫌な予感がしてならないんだよ」


「嫌な予感?」


「うん。当たってほしくはないんだけど、なんとなく、今日あたり、あの子達が現れそうな予感が・・」


 苦虫を噛み潰したような表情で呟く自分達のリーダーに、何故かロムとリンは顔を見合わせて苦笑を浮かべる。


「いいじゃん、別に。連夜のことが心配で心配でたまらないから、来ちゃうんだろ? 女の子らしくてかわいいじゃん」


「うむ。まぁ、おまえとあの子達との詳しい関係はよく知らないから、見当違いなのかもしれんが、そう邪険にしなくてもよかろう」


「いやいやいや、確かに動機はかわいらしいけどさぁ。やってることは全然かわいらしくないかいからね。むしろ、毎回えげつないからね」


 大切な仲間達に返事を返しながらも、連夜は油断なく周囲を見渡す。

 そして、逃走の為の布石として、次々と不良達の中に煙幕珠を放り込んでいつでも発動させられるようにしておいてから、もう一度巨漢の友達に視線を向け直す。


「とにかく、あの子達が・・中でも特に彼女が来ると非常にめんどくさいことになるから、とっとと撤退するよ。ロム、構わないからリンを連れて来て」


「わかった」


「え、ちょ、待てロム、お前連夜の言うことばっかり聞いているんじゃねえよ!!」


 長身のバグベア族の少年は、慣れた手つきで白い髪の少年をひょいと肩に担ぎ、白い髪の少年は離せ離せと暴れるが、どうもバグベア族の少年を傷つけたくないのか、手にした角材でどうにかしようという気はないらしい。

 白い髪の少年をバグベア族の少年が確保したことを確認したリーダーの少年は、二人に目で合図してこの場を離れようとする。


 しかし、まだ元気な手下達と、目を洗って復活した一つ目巨人(サイクロプス)の少年が三人の行く手を阻む。


「おんどりゃあ、どこに行く気じゃ!!」


「ちょ、ほんとにマジでどいてくれないかな。ほんとにやばいから、彼女が来ると大騒ぎになるよ」


 心底うんざりした表情で顔を抑えながら連夜は疲れたように言葉を吐きだしたが、その意味が全く理解できない一つ目巨人(サイクロプス)が吠えまくる。


「ざけんな、これだけのことしておいて、ただで逃がすわけないだろ!!」


「ほう、ただじゃなければどうしてくれるというんですの?」


「決まってるわ、ぼこぼこのぎったぎたに・・ん?」


 明らかに目の前の少年達ではなく、背後からかけられた言葉に一つ目巨人(サイクロプス)が振り向くと、そこには彼らと同年代と思われる一人の美少女の姿。

 黒曜石よりも美しい黒目に、冬の夜空をそのまま集めて作ったような流れるような黒髪。

 いまどき珍しいセーラー服姿であるが、その衣装は少女の美しさを損なうことは全くない。

 ともかく美しい。

 大人の色気こそまだ全然ないが、弾けるような若々しいエネルギーに満ち溢れて輝くその美しい姿に、その場にいる不良少年達は顔を赤らめてみな一様に固まってしまっている。

 ところが、ごく少数ではあるが、それとは対照的な態度の者達もいた。

 その少数派のメンバーの一人である連夜は、あっちゃ~っと片手で顔を覆い、溜息を吐きだす。


「ほら、ぐずぐずしているから来ちゃったじゃないか~」


 何とも言えない困った表情でそう呟いた後、顔をあげた連夜。

 すると、めざとく連夜の姿をみつけたらしいその少女が、物凄く嬉しそうな表情で手を振っているのが見えた。


「ほら、連夜、手を振ってるよ。恋人なんだろ? 手を振ってあげたら?」


「ちがうっつ~の!! 何度も言ってるけど、激しく違うから。確かに彼女は美人だけど、僕、もっと年上で、ちょっときつめで、ぶっきらぼうだけど優しくて、綺麗系で、尚且つ胸の大きい人が好きだから」


「うむ、巨乳万歳」


「あっ、ロムって巨乳が好きなのか」


「ん、なんだ、リン、なんか文句あるのか?」


「ううん、そうじゃなくて、ロムの好みの女性って知らなかったから、単純に驚いただけ」


「女性からしてみれば、ガリガリに痩せたモデル体型のほうが美人ということになるのかもしれんがな。男である俺からしたら、多少太っているように見えてもふっくらしているほうがいい。全体的に丸みを帯びているほうが女性的に見える」


「うんうん、だよね~」


「そっか。じゃあ、お尻とかもある程度大きいほうがいいわけ? 太もももお人形さんみたいなのじゃなくて大根みたいなほうがいいのかな」


「限度もあるが、モデル雑誌に載っているような女性は好みではないな。って、なぜ、メモをとっている? 俺の女性の好みなどどうでもよかろうに」


「いいのいいの。ロムは気にしなくて。スルーしておいて」


 物凄い意味深に考え込みながらロムの肩の上で真剣にメモを取るリン。

 そんなリンの姿を怪訝そうに見つめる連夜とロスタムだったが、肩をすくめて苦笑をもらすと、すぐに視線を目の前にいる不良達と、セーラー服姿の乱入者の方に向け直す。

 そこでは、一つ目巨人(サイクロプス)とセーラー服姿の美少女が激しく睨みあっていた。


「だ、誰だ、てめえ・・」


「ふふふ、私? 私ですか?」


 不良リーダーの問いかけに対し、不敵な笑みを浮かべて見せた美少女は、何故か、横目でちらちらと連夜のほうに視線を向ける。


(見てる? ねぇねぇ、連夜、見てる? 私のこと見てくれてる?)


 鬱陶しいくらいちらちら、ちらちら意味深に視線を向けてくる美少女。


「めんどくさっ!! もう、ほんとめんどくさっ!!」


「「そんなこというなよ~、かわいそうじゃん。相手してあげろよ」」


「いやだよ、めんどくさい!!」


 視線の内容がいやというほどよくわかっている連夜は、物凄いうんざりした表情で美少女を見つめ返したあと、ぷいっとその視線をおもむろに外してしまった。

 

「っ!?」


 そんな連夜のそっけない態度に物凄いショックを受けた表情になる美少女。

 次の瞬間、今までの余裕の表情は崩れ去り、今にも泣きそうな悲しげな表情に。

 その美しい黒い瞳にはみるみる涙がたまり始め、いまにも零れて落ちそう。


「お~い、答えるか、どっか行くか早く決めてくれない? なんか、見ているこっちがいたたまれなくなるんだが」


「うっさいですわね、この目玉ハゲ!! 今、私に話しかけないでくださる!?」


「な、なんだとおぉっ!?」


 美少女のあまりな言い種にたちまち激昂する不良リーダー。

 しかし、美少女はそれどころじゃない様子で、完全に不良リーダーのほうから視線を外すと、拗ねたように小石を蹴って見せたりしながら、またもやちらちらと連夜のほうに視線を向けたり顔を伏せたり。

 誰がどうみてもはっきりわかるほど明らかに、連夜に対して『かまってほしい』という合図をバンバン送りまくるのだった。

 もう、とことんまで無視してやろうかと思ったりもする連夜であったが、後で結局フォローしなくてはいけなくなるのが眼に見えていたので、ついに諦めて視線を美少女のほうに戻す。


「見てるから。ちゃんと見てるから」


 めんどくさい態度が表に出ないように我慢しながら、なんとか笑顔を作って言葉を紡ぎ出す連夜。

 だが、その言葉だけでは全然物足りなかったのか、相変わらず美少女を拗ねた様子で桜色の唇をかわいらしくとがらしながら上目づかいで連夜を見つめる。


「最後まで見ててくれる?」


「え、え~、最後まで!? いやだよ、途中で逃げるよ。最初だけは見てるけど、最後までは勘弁してよ!! 疲れるから巻き込まないでよ!!」


「ひどい!! かよわい女の子を放っておいて逃げるつもりなの!?」


「いや、かよわくないよね。中一のときは確かにそうだったけど、今は違うよね? 僕より全然強いよね? 【Z-Air(ゼッター) III(ドライ)】の使い方完全にマスターして、めっちゃ強くなってるよね?」


「そ、そんなことないわよ。私は、あの暴走事故であなたに助けられた時のままよ。私はちっとも強くなってないわ。でも、あなたが見ててくれたら、私、ちょっとだけ強くなれるから。だから、わたし」


 黒い瞳からぽろぽろと地面に落ちていくいくつもの何か。

 連夜はそういうものに非常に弱かった。

 例え心の中で『嘘泣きやん!! 絶対嘘泣きやん!!あざとすぎっ!! やり方が汚いっ!!』などと盛大に罵っていたとしても、結局、黙って騙されてあげてしまうのが連夜という少年なのである。


「もう、わかったよ、最後まで付き合うよ。見てます。見させていただきます」


「ほんと!? じゃ、じゃあ、がんばっちゃおうかなっ!!」


 連夜の言葉を聞いた美少女の瞳が一瞬にして乾き、曇っていた表情は満開の桜の花のようなあでやかな笑顔に。

 そんな美少女の変貌ぶりについていけないで呆然とする不良の皆さま。

 いつものことで、苦笑するしかないロムとリン。

 そして、またやってしまったと頭を抱える連夜。


「お待たせしましたわね、『通転核』に巣くう害虫の皆さま!! よくも私の大事な親友を傷つけてくれましたわね。絶対に許しませんわよ!!」


 先程までの気弱な様子はどこへやら。

 熱血全開モードの凛々しい表情になった美少女は、そのたおやかな指先をビシッと不良達へと突き付ける。 


「だ~か~ら~、なんなの!? おまえ、この辺のやつじゃないだろ!? いまだにセーラー服が制服の学校なんて、『通転核』にねぇぞ。いったどこの修学旅行生だよ」


「ふっふっふ。夜空の星が輝く影で、外道の笑いが響き渡る。都市から都市へ泣く人の涙背負って、外道の始末」


「だから、おまえ、誰?」


「え~い、もう、まだ途中なのに。ほんと空気読まない人ですわね。しょうがない、尺の関係で間ははしょります」


「尺ってなに!? え、これって、アニメかドラマの撮影なの!?」


「はい、そこ、キョロキョロしない!! こっち見て!! こほん・・私の名は、龍乃宮 姫・・じゃなくて、龍乃宮(りゅうのみや) 瑞姫(みずき)宿難(すくな) 連夜(れんや)の莫逆の友なり!!」


 裂帛の気合と共にそう叫んだ美少女『龍乃宮(りゅうのみや) 瑞姫(みずき)』は空高く跳躍。

 不良達が密集しているその場所に向けて、飛び蹴りの態勢のまま急降下していく。


「うおおおおおおおおっ!!」





 真・こことはちがうどこかの日常


 過去(高校生編)


 第十二話 『友者達』


 

  CAST


宿難(すくな) 連夜(れんや)


 城砦都市(じょうさいとし)嶺斬泊(りょうざんぱく)』に住む、高校二年生。

 十七歳の人間族の少年。

 この物語の主人公で、如月 玉藻の恋人。

 自分の命よりも恋人が大事という、玉藻至上主義者。

 今回は恋人玉藻共に、助けを求める真友ロムのもとへ

 

「さてと、僕の自慢の恋人も紹介できたことだし、そろそろ本題に入ろうか」



 如月(きさらぎ) 玉藻(たまも)


 城砦都市『嶺斬泊』に住む、大学二年生。二十歳。

 上級種族の一つである霊狐族の女性。金髪金眼で、素晴らしいナイスバディを誇るスーパー美女。

 この物語のヒロインであると同時にヒーローでもある。

 長い長い悠久の時の果て、ついに運命の人を見つけ出す。

 今回は運命の伴侶連夜と共に、連夜の真友ロムのもとへ


「れ、連夜くん、笑ってないで助けてよ、ちょっと!!」




 

 ロスタム・オースティン


 城砦都市(じょうさいとし)嶺斬泊(りょうざんぱく)』に住む、高校二年生。

 連夜の真友で、恋人玉藻とはまた違う強い絆で結ばれている。

 中学時代から連夜と共に荒々しい喧嘩道を駆け抜けてきた人物で、非常に義侠心に厚く頼れる人物。

 上級聖魔族の奴隷として生み出されたバグベア族の少年で、幼い頃に両親を亡くし、今は天涯孤独の身。

 連夜と彼の両親の援助を受けながら、一人暮らしをしている。


「本当に連夜のこと、よろしくお願いいたします」





 (ハン) 世良(セラ)


 ヘテ族(麒麟種の派生種族の一つ)の少女、高校二年生。

 ロムが在籍している二ーDのクラス委員長。

 世話好きな性格で、クラスから何かと爪弾きにされるロムをかばい、いろいろと便宜を図る。

 

「ほんっと、私ってなんでこう、余計なことばっかり言っちゃうんだろう?」



 

 ミネルヴァ・スクナー


 玉藻の幼馴染にして大親友。同じ大学に通う大学二年生。二十歳。

 玉藻に匹敵する美女であるが、玉藻に比べるとややスレンダーで、モデル体型。

 血の繋がった連夜の実姉でありながら、実弟連夜を愛してしまった困ったちゃん。


「ブラヴォ~!! 凄いよ、巧いよ、あめ~じんぐだよ!! 玉藻、最高!!」






「いやあああああっ、私は連夜と一緒にいるううううっ!! 帰らないぃぃぃぃっ!! はるかもミナホも放してぇぇぇぇっ!!」


「はいはい。我儘言ってないで帰りますよ」


「ほんまやで、もうええ加減にしてや、姫様。これで今年何回目の脱走やねん」


 自分と同じセーラー服姿の少女達に周りを囲まれてがっちりと抑え込まれた瑞姫は、力任せにズルズルと引きずられていく。

 二十人もの不良達が、あちこちで煙を吹きながら昏倒している異様な場所から連れていかれる美少女の姿。

 そんなシュールな光景を、三人の中学生達はそれぞれの思いで見送り続ける。


「姫子ちゃん、もうちょっと大人しくしてくれないかなぁ」


「あれ? あの子『瑞姫』って名前じゃないの?」


「それ偽名。本当は『姫子』が本名」


「なんで本名名乗らないのだ?」


「いろいろ事情があってね。実はあの姿も本当の姿じゃないんだよね。本当の姿は」


「「本当の姿は?」」


 並々ならぬ興味の視線を向けてくる二人の真友に、意味深な視線を向けた連夜は、にやりと口の端を歪めて見せる。


「それについてはお好み焼きでも食べながら話そうか。お腹すいたしね」


「そだな。おまえのおごり?」


「いいよ~。どうせ、二人ともお金もってないっしょ」


「いつもすまんな、連夜」


「半社会人を舐めるなよ。君達二人におごったくらいじゃびくともしない蓄えがあるぜ!!」


「じゃあ、『ディオ苑』の焼き肉でもいい?」


「そ、それは勘弁して」


 わいのわいの言いながらその場を離れていく三つの人影。

 

 北方諸都市の一つ、城砦都市『通転核』で生まれた三つの絆。

 それぞれが別々の辛く苦しく険しい道を歩んできた者達。

 だが、それゆえに結ばれた絆は強く、中学生活三年間、一度として途切れることはなかった。

 激しくも楽しい時は流れ、やがて、その絆は一旦途切れることになる。


 しかし・・


 絆は再び、結び直される時を迎えようとしていた。

 以前と同じ絆としての再生ではない。

 

 以前とは違う形の・・以前とは違う強さを持った、新しい彼らの絆が。


 今、新生しようとしていた。

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