闇の中 1
その暗闇を辿り直してもどこに行き着くあてもなく記憶の底から蘇る精神的な空洞にもならない淡い縁のようなものがうっすらと感じ取られるだけであって、とてつもなくどうしようもない障壁に遮られながらとにかく足の動くだけ動かしているのであった。
その所作もどこかたどたどしくそもそもさっきの段階で足を痛めており本当はどこかゆっくりできるところで休みたいのであるが、行き先を見つけられなくては落ち着くこともできないし安心することもできないのでさらにつき進むということをしている。
段々と横っ腹の方が生えてきておりもしトイレにゆくとしたら絶対に水便に近いものになるであろうが今いるところがどこなのか長期的に居て良いものなのかこの判断ができないと留まることさえできないのであってそれでもこの先に何があるかはちょっとわかりそうもない。
それでも歩く。歩くというより、倒れないために前へと傾き続けているだけなのかもしれない。足が勝手に出る。意志が命じているのか、ただ惰性が身体を引っ張っているのか、その区別もつかない。ただ、止まった瞬間に何かが追いついてくる気がしている。何かとは何か。具体的な追手ではない。ただ、名付けられない圧力のようなものだ。
暗闇は相変わらず暗闇のままで、目が慣れるという現象さえ起きない。慣れない暗さというのは不思議なもので、時間の感覚まで奪ってゆく。さっき痛めた足の鈍い痛みだけが、かろうじて現在を証明している。痛みがあるということは、まだここにいるということだ。
休みたい。壁に背を預けたい。しかし、その壁が本当に壁なのか、それとも崩れ落ちる崖なのか、触れてみる勇気が出ない。確信のない接触は、時に転落より恐ろしい。だから触れず、確かめず、ただ進む。
横腹の違和感はじわじわと広がり、身体の内側で小さな反乱が起きているようだ。こんな状況で腹具合を気にしている自分に、妙な滑稽さを感じる。存在の不安と水便の予感が同列に並んでいる。人間とは案外そういうものだろう。
行き先は見えない。だが、見えないという事実だけははっきりしている。その確実な不確実さに支えられながら、足をもう一歩だけ出す。もしこの先に何もなかったとしても、歩いたという痕跡だけは残るはずだと、根拠もなく信じながら。




