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93.エピローグ


 俺たちのパーティーは復活を果たした。


 ハルニレは王女の立場を捨てて公称はオキクルミとして生きる事になった。

「いつかもう一人のハルニレとヴォルク、そしてオイナに会いに行きたいな」とハルニレは言った。


 ギルドでサヴァーに再会したら公衆の面前で泣かれてしまった。

「すまん。報告が遅れた」


「泣かせた女には報いを与えないとね。今度奢ってね」サヴァーは言って笑った。「それと少し面倒な事が」


 サヴァーが言い終える前に誰かが俺の肩を叩いた。

「おい、よくも今までないがしろにしてくれたな!」


 カーカがそこにいた。帽子とマスクで変装した姿だったが。


「生きていたのか」と俺は率直な感想を述べた。変装しているが体型は分かる。だいぶやつれているし別人のようだ。


「それはこっちの台詞だ! お前死んだはずじゃなかったのか?」


 ギルドで有名だったのは子供の頃の姿か、女の子の姿の時だ。だからオッサン姿の俺が歩いても誰も感知しない。そしてパーティー名を知るのは担当のサヴァーのみだ。

「死んだと思って構わない」


「なんだそりゃ?」そう言いつつカーカは手招きして町外れの荒野まで誘った。「いつぞやの決着を付けよう」


 そういえばダンジョンの中でそんな事を言った覚えがある。

「面倒臭いなあ」

 俺は移動中につい本音を漏らしてしまった。


「何だと!」激昂しつつもカーカは腰の剣に手をかけなかった。



 宿に皆を置いてきて正解だった。こんな茶番は見るに値しない。


 荒野に着いて早々カーカは腰の剣を外してファイティングポーズを取った。

「武器もスキルも使わない、男同士の丸腰の決着だ!」


 やれやれ。

「こんなオッサン相手に殴り合いか」俺は嫌味を言った。


「本当の決着はそういうものだろう?」ニヤニヤしながらカーカは言った。


 おそらく俺がニドと近しい間柄と知ってスキルでは敵わないと踏んだのだろう。カーカのスキル「剣技」も失われたとニドから聞いた。武器を使わない理由もそれだ。

「何が何でも勝ちたいんだな」


「うるせえ! さっさとかかって来い!」


「では遠慮なく」

 そう言って俺は前蹴りを腹部に当てた。


「うっ」うめくカーカの体はくの字に曲がる。

 

 下がった頭にガードの上から左フックを叩き込み、ガードが緩んだところへ右のハイキックを頭部に入れた。


 人形のように倒れたカーカに馬乗りになってマウントパンチを何発も当てた。


 正直だいぶ手を抜いた。私闘での殺人は一応死罪になる。


「痛っ」とか「もうやだ」とか「やめてくれ」とカーカの呟きが聞こえたところで俺は立ち上がってカーカに言った。


「ちなみに徒手空拳の稽古の場合、俺とニドが戦った場合の勝率は五分だ」俺は改めて言った。「まだやるか?」


「もう二度とユカラさんには刃向かいません」とカーカは震える体で土下座して言った。



 宿に帰ってサヴァーから受注したクエストを皆に伝えた。

 そして今俺たちは森の中にいる。


「あ! 忘れてた!」カンナは突然叫んだ。


「どうした?」予定地にはまだ辿り着いていないので俺は泰然として訊いた。


 カンナは懐から笛のようなものを取り出した。「どどど、どうしよう」

 カンナの手は震えている。本気で怯えていた。


 青ざめた顔つきのカンナは笛を手に吹くかどうかを考えあぐねているように見えた。


「吹かなくてももういるぞ」とニドは言った。


 俺たちは全員ニドから離れ臨戦体制に入った。


「いや、失礼だろ。それより」ニドは誰の目にも追えないほどの速さで俺に抱きついた。「おかえり。ユカラ」


「ああああああ、あの。ついうっかり忘れてしまいまして」とカンナはしどろもどろで言い訳を言った。


「それ、吹かなくてもユカラの生存反応は私に伝わる」ニドは俺から引き剥がされながら説明した。「ダンジョンのマーカーの応用だな」


「よく今まで我慢していたな」俺は明らかに師匠に対して言うべきではない台詞を言っている。


「一応空気は読んだぞ。しばらくはユカラも皆と日常を満喫して欲しくてな。カーカとの殴り合いは見事だった」ニドは何故かうっとりと宙を見上げる。


 見ていたのか。殴り合いというか一方的だったけれど。


「王女達のせいでニドも英雄扱いされてしまった。面倒臭い。街中に出ると囲まれるからユカラがクエスト受注するまで待った」


 それからニドはとんでもない事を言った。


「ニドもユカラのパーティーに入る」


 俺とカンナが驚いてキキリは呆然としている。

 だがハルニレだけはニドに近づいて言った。「ずっと感謝したかった。言葉でありがとうを伝えたかった」

 そう言ってニドの手を握り頭を下げた。


「お前はユカラを蘇らせた」ニドは腰に手を当てて踏ん反り返って言った。「特別にユカラと交尾することを許す!」


「ええ!」ハルニレは顔を真っ赤にして両手で自らの顔を押さえて俺をチラチラ見た。「ユカラ、どうする? どうする?」


「カンナとキキリも一緒に戦った盟友だ! 二人もユカラと交尾する事を許す!」ニドは続け様に言った。


 キキリは謎の敬礼をして、カンナは真っ赤になって俯きつつも「よ、よろしくお願いします」と小さく言った。「ユカラ様の師匠の命令だから聞かないと」


「そしてニドもユカラと交尾したい!」ニドはハッキリと言った。


「い、いや。俺の意志は?」と俺は形式上で述べた。こんなオッサンと交尾て。「せめて若い姿に脱皮させてくれ」


「そのままのユカラが良い! ユカラの今のその姿は知恵と勇気と努力で築いた正真正銘の本物の男の姿だ! オッサン姿を恥じるな!」と言ったニドの頭の上の空間が空いて禍々しい魔獣の手が見える。

「嫌なのか?」


「嫌ではないけれど」生命の危機を感じつつ俺は慌てて言った。一応本音ではある。


 ーーそしてニドの言葉に救われて俺は内心泣きそうになった。俺はずっと老いを恥だと思っていたからだ。やはり俺の師匠だ、と思った。 


 それでも最後の良心で俺は言った。「それよりクエストを達成しないと」


「何だ。そんなことか」ニドは言った。


 クエストは森の中に発生したレージーナの群れの討伐だった。以前カンナとキキリがしくじったクエストだ。


 そしてニドは森に入って即座にクエストを達成した。

 出会ったレージーナに「アラーネア」と唱えるとレージーナは動きを止めた。全てを見えない武器で輪切りにして「フランマ」という火炎魔法で粉末にした。


 俺たちは呆然と眺めているだけだった。


「よし! 帰ってから皆で交尾だ!」ニドは叫んだ。


 そんな日々が始まった。



 おしまい

 


これにてこの物語は終了です。

ここまでお読みいただき誠にありがとうございます!


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つまらなかったら☆1つ

正直に感じたままで結構です!


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