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91.ユカラの死


 俺が食べた謎の卵はおそらく鳳凰の卵だ。

「となると俺自身も鳳凰に借りがある」


 脱皮の能力はおそらく鳳凰の卵で得たスキルだ。だがポルターガイストの正体はハルニレだ。その二つの関係が繋がらない。

「いや、もしかしてハルニレ自身が鳳凰に食われたとしたら、その卵を食べた俺の中にハルニレがいたという理屈にあう」


 俺が独り言を呟いたその時だった。


 ダンジョン内の巨大な空間に突風が巻き起こり、耳鳴りのような感高い音が鳴り響いた。


「くっ」俺は手近にあった岩にしがみついた。


 鳳凰が舞い降りてきた。

「デカいな、やはり」


 俺は現在ナナシの要望により女の子の姿になっている。

 服を脱ぎ捨て即座に脱皮してオジサン姿になった。用意した短パンと靴を履いて手早く武器を身につけた。

 この突風に対処するには体重のあるオジサン姿が最適だ。


「解放というか、実質鳳凰とのバトルになるな」俺は鳳凰の頭部に何かがへばりついているのを確認した。「何かに取り憑かれている。アレを剥がせば良いのか!」


 ポルターガイストのない状態で戦うとなるとかなり苦戦すると予想できた。

 ターヘルアナトミアでは鳳凰が傷つく。「となると」


 俺はターヘルアナトミアを手放し、眠り姫を抜いた。

「あの頭部のスライムみたいなのを倒したい。眠り姫、助けてくれ!」


『これを使って』と頭の中に声が響いた。


 眠り姫の形状が変わる。

 形状というか存在が消えた。


「え! 何で?」


 次の瞬間、鳳凰は炎を吐き出した。


「ヤバい!」


 咄嗟に差し出した右手の先に半透明な手が見えた。それが炎を防いだ。


「まさか」

 俺の手の先にはポルターガイストがあった。


「ハルニレか。いや‥‥眠り姫か!」


 俺は漠然とハルニレ以外の他の女の力を借りたような気がして若干のやましさを覚えた。

「そんな場合じゃないな」


 この場面で最も欲しい武器はポルターガイスト以外にあり得ない。

 俺はポルターガイストを伸ばして鳳凰の脚を掴んだ。


 鳳凰は脚を振り回し、俺の体は宙に浮いた。


 ポルターガイストを一度外して、今度は鳳凰の羽の一部を掴んだ。

 ポルターガイストを縮めて一気に鳳凰の背中に乗った。


 鳳凰と言っても体が燃えているわけでない。柔らかい羽毛に包まれてむしろ心地よいとすら感じた。日向の匂いがする。


 鳳凰はやたらと急降下したり旋回したりと俺を振り落とそうとしているのがわかった。


 俺はあえてポルターガイストを解除して鳳凰の背中を駆け登った。

 首筋を経て頭部に到着する。

 ポルターガイストを出して鳳凰の首に掴まった。


 鳳凰の頭部には錆色で粘着質のモンスターがへばり付いている。


「スライムか。厄介だな」俺はスキル「アナーリス(道理解析)」を使ってスライムと鳳凰の現状を解説した。


 呪いを付与されたスライムは徐々に鳳凰を侵食していった。ある地点まではアートと行動を共にしていたが徐々に正気を失いかけていた鳳凰は原初に作られたこのダンジョンに閉じこもった。アートに迷惑をかけたくなかったからだ。


 それらの光景が「アナーリス(道理解析)」によって俺の脳裏に映像のように映し出された。「なるほどな」


 そして「アナーリス(道理解析)」による特記事項「スライムは切断系の武器では倒せない」という一文に頭を抱えた。俺には切断系の武器とポルターガイストによる物理攻撃しかない。


 ーーあ!


 俺はカンナの「おまじない」のことを思い出した。


「もしかして」俺はポルターガイストを使って鳳凰の頭部から飛び上がり、短刀をスライムに向けて振り、叫んだ。「カンナ!」


 カンナのヴァジュラ(雷神雷刀)が短刀から発してスライムに直撃した。

 おそらく帯電して魔法で封じ込めていたのだ。

 

 スライムは鳳凰の頭部から剥がれ落ちて地面に落ちた。

 鳳凰も流石にヴァジュラ(雷神雷刀)の余波を受けてふらついていた。だがどうやら正気を取り戻したらしい。


 俺がポルターガイストで地面に着地すると鳳凰は俺とスライムの間に割って入り炎を吐いてスライムを攻撃した。

 しかも単発の炎弾ではなく、火柱をスライムに向けて吐き続けた。


 鳳凰の後ろに位置する俺の顔面まで熱くなる。思わず腕で顔を庇った。


 そしてスライムが蒸発するとそこに残った消し炭を爪で踏み潰した。


 さすが親子だ、クルクルと反応が同じだ、と感想を抱いていると鳳凰はこちらに振り返った。

 一応助けた形になるし、アートの盟友という言葉からそれなりに鳳凰の知能は高いと想像できたがーー、間近で見る巨体に気圧された。


「まさか踏み潰したりはしないよな」俺は独り言を言った。


 すると鳳凰は首を下げて息がかかるくらい近くに顔を寄せた。

 デカい。

 嘴だけで馬車くらいある。


「その、昔あなたの卵を食べてしまった。すまない」俺はそもそもの鳳凰との因果を思い出して頭を下げた。「あなたの子供は俺と一緒に暮らしている。ピンチには助けてもらった」


 我ながら何を言っているのだろう、と思った。

 俺は短パンのポケットにしまったハルニレの勾玉を手のひらで確認した。安心したかったのだ。


 ああ、俺はビビっている。

 ハルニレを失った時くらいに。

 

 鳳凰は不意に嘴を俺の腰骨辺りーー、勾玉の辺りに寄せた。


「これはダメだ」俺はポケットから勾玉を取り出して両手で掴んで鳳凰から遠ざけた。

 

 鳳凰は小首を傾げてから二回首を上下に振った。


「え? なんだ?」


 そして嘴を大きく広げて俺を咥えて飲み込んだ。 

 

 食われた! 

 食道は広く俺はそのまま胃袋に落ちていった。

 鳥の丸呑みを餌の立場から体感した。


 そして液体を含んだ柔らかい体壁に落ちた。

 消化される、と思う間も無く俺の意識は薄らいでいく。


 そういえばアートは「ユカラは何かを失う」と言っていた。まさか命だったとは。

 そして「ダンジョンに生贄を捧げると死んだ人も生き返らせる事ができるんだよ」とかつてオキクルミは言っていた。このダンジョンのヌシは鳳凰だ。つまりーー。


 走馬灯のように色んな事が思い出される。


 これでハルニレが蘇るなら良いか、と思うも未だ俺の手にはハルニレの記憶を有した勾玉がある。


「おい! 鳳凰! うっかりミスだぞ! 蘇らせたい者まで飲み込んでどうする?」


 俺は夢うつつのような気分のままやっとのことで叫んだ。


 叫んだだけで全力を出してしまった。

 そのまま俺の意識は遠のいた。



 ーーそして、俺は死んだ。



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