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89.神の国


 ハルニレが消えた傷が癒えたわけではないけれど、パーティーメンバーが揃って俺は少し安心した。


「アートはその昔、この国・ゲヘナ国の産土だった」とアートは再び語り出した。


「さっき聞きそびれたけれど、産土って何?」カンナは訊いた。


「神様って事だよ、カンナ」俺はアートに代わって答えた。「でもゲヘナに神はいないと言われている。だからよその国のような宗教もない」

 しかし、そうか。アートはゲヘナの元神様だったのかとカンナに説明しつつ俺は妙な合点がいった。


「プルガトリオから侵略してきたーー、ユカラ達も戦ったヤマタノオロチ率いる他所の神と戦い、封印する為に共に根の国に沈んだ。だが他所の神を復活して国を滅ぼそうとした輩が現れた」アートは続けた。


「モシレコタネだな。悪魔に唆されたらしい」ユカラは傍にいるナナシの顔を見て言った。「このナナシはモシレコタネの中の良心だ」


 周囲がざわつくのをよそにアートは再び話し出した。


「彼はもう無害だ。アートが保証する」そこでアートは一呼吸置いた。「アートには未来が見える。ただ未来はいくつものルートがあり確定しているわけではない。未確定の未来の中からなるべく平和な未来を目指すことにした。その未来に必要な人物がつまりユカラだ」


 唐突に名前を呼ばれて俺は驚いた。

「なるべく平和な未来でコレか」俺はこれまでの死闘を思い出してつい嫌味を言ってしまった。


「これでも随分とマシなほうだぞ。国民が死に絶え生きとし生けるものが滅ぶ未来もあった」アートは腰に手をあて子供に言い聞かせるように言った。「だがそれもユカラの働きのおかげだ」


 ありがとう、とアートは頭を下げた。


「俺は自分がしたい事をしただけだ」

 女の子ひとり救い出せない男に神様から感謝される謂れはない、と俺は本気で思った。


「あの」とカンナが右手を上げて言った。「結局ハルニレと‥‥その、オキクルミはどういう関係ですか?」

 オキクルミを前にしてカンナは言いにくそうに、しかし勇気を出して質問した。


「二人は分身体だ。より正確に言えば分霊‥‥分け御霊とも言うな。最も記憶を引き継ぐオリジナルとその化身という関係になるがな」


「あ!」とカンナは柏手を打った。「キキリも化身だ!」


「私はそちらに座すアート様の化身でございます」キキリは言った。


「そしてオキクルミは我が娘、そしてその記憶を引き継いだ正当な後継者がハルニレとなる」アートは言った。


「私に記憶はないぞ。私は何なんだ?」オキクルミは耐えきれずに口を挟んだ。


「お前は分け御霊の方になる。先代のオキクルミが移動ダンジョンに囚われた時に作った、いわば予備の個体だな」アートはサラッと衝撃的な事実を言った。


「私が予備‥‥」オキクルミは呆然として棒立ちになった。


「分け御霊を作る時はある儀式を経ると合祀する。つまり二人が一人になる。儀式は作る時に本人が決める。時間で制約する時もあれば、再び二人が出会った時に合祀する、と決める事もある。本人にしか分からん」アートは言った。


 俺はそこで不意に膝の力が抜けて、四つん這いになった。


 心配したカンナとニドか叫ぶ声が聞こえた。


 俺の中にポルターガイストとして存在したハルニレが完全に外に出た時にもう一人のハルニレと一緒になった、とアートの解説で理解したからだ。


「あれ?」俺は気づいた。「二人は一人になるんだよな?」


「その通り」とアートは答えた。


「そのまま二人とも消える事はあるのか?」アートの説明によると一人は残る筈だ。


「ユカラの質問に応える為にこのお茶会はある」アートは言った。


「いや、お茶なんて無いぞ」とニドは要らん事を言った。


「これから作る」アートは片手を前に差し出し、握っていた手のひらを開いた。 

 するといつの間にか俺達の目の前にいくつかの机と椅子、そしてカップとソーサー、スプーンが用意されていた。

「存分に楽しめ」


 立ち上がった俺は席に着く前にアートに訊いた。

「ダンジョンで出会った妖精ウームが『ダンジョンは神域だ』と言っていた。もしかして今この場も神域になっているのか?」

 アートがダンジョンから出てこの場にいることに違和感を覚えたから訊いてみた。


「ダンジョンで人々がモンスターを狩り、そこから素材を運び出す事でダンジョンの神聖性がゲヘナに付与されていく。神域になるまであと少しだ」アートは森の中を見渡しながら言った。


「つまりダンジョンのモンスターは神様の一部ということか?」俺は席に着きつつ訊いた。


「ダンジョンは我が体内のようなものだからな。そこから生まれるモンスターはつまり全てアートの一部だ」アートはそう言いつつ柏手を打った。


 柏手と同時に飲み物と菓子や軽食が机の上に現れた。 


「存分に召し上がれ」アートはそう言ってカップを手にする。


「いや、その面があると飲めないだろう」とニドがツッコミを入れた。


「おお、そうだった」アートはそう言ってお面を取った。


 ハルニレがいた。だが頭の上には狐の耳が生えていた。


「なんで泣いておる?」アートは俺を見て言った。「そこのオキクルミも同じ顔だろうに」


「さあ、なんでだろうな」俺はハルニレの分霊であるオキクルミを見ても何も思わない。だが何故かアートの素顔を見たら涙が止まらなかった。


「さて。一息ついた所で、過去の精算をしておこうか」とアートは言った。


 過去の精算?

 皆がお茶を飲みつつ呆然としているとアートはナナシの元まで歩いて行ってその頭を撫でた。


「何だ? 顔は似ているがお前はヴァルキュリア様じゃない」ナナシは何故か毅然として言った。


「村人を弔いたいのだろう?」アートは訊いた。

 

「そうだ。何故そのことを知っている?」


「この世界に未練は無いか? もし無いのなら村人達と再会できるかもしれん」


「え」ナナシは言った。



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