86.勾玉
程なくしてクルクルが戻ってきた。それは戦いの終わりを意味する。
「ナナシの居場所は分かるか?」
俺の問いかけにクルクルは先導するように先に立って飛んで行く。
その姿を眺めながら俺は何度オキクルミ/ハルニレを失うのだろう、と考えた。
モシレコタネを倒したあと、みっともなく泣きながら何度も何度もポルターガイストを出そうと試みた。
あるいは脱皮をしたら出てくるかもしない、と思い少女や少年、オジサンや今までなった事のないオバサンの姿になってもポルターガイストは出現しなかった。
疲れ果てて四つん這いになった時に地面に勾玉を見つけた。
確かサールの村でも死した村人の代わりに勾玉があったとナナシが言っていた。
俺は勾玉がハルニレのような気がしてそれを懐に入れた。
「ポルターガイストはスキルではなく、ハルニレとオキクルミが手を貸してくれていただけだったんだ」俺は座り込んでクルクルに向けて独り言を言った。
「クルクル」
「俺はずっと思い上がっていた。俺のスキルで皆を守ってきたのだと。実際に皆を守っていたのはハルニレとオキクルミだ」
クルクルは不意に方向転換し、俺の頭に体当たりをした。
「痛っ」俺が額を抑えるとクルクルは意に返さず再びナナシのいる方へと飛んでいった。
クルクルのその行動の意味を計りかねたまま俺はクルクルの後を追った。
※
「何で一人なんだ?」開口一番ナナシは訊いてきた。
聞けば森の中から俺達とモシレコタネの戦いの一部始終を見ていたとナナシは言った。
「振られたみたいだ」俺は目を逸らして言った。
「お前‥‥いや、あなたはヴァルキュリア様と一緒に戦っていたあの子供だったんだな」ナナシは不意に思い出したかのように言った。
俺は少年だった当時の背格好へと脱皮して言った。「よく分かったな」
「戦いを見れば分かる」ナナシは無言になり、それから言った。「あなた‥‥いや、お前はヴァルキュリア様を探さなければならない」
なぜ敬称が変わったのか分からない。だがそのせいで俺はナナシに傾注することになる。
「え‥‥?」
「古城からサールは目と鼻の先だ。弔いより先にお前の問題を解決してほしい。それまで俺もお前に付き合う」ナナシは言った。
正直一人で考えたい気分だった。ナナシをサールに送り届けたら皆と合流するまで反省会という名の自己嫌悪に浸りたかった。
「どうせなら少女の姿になってくれ。その方が楽しい」ナナシはゲスい提案をしてきた。
なるほど女性が性的に求められるのはこんなに嫌な感覚がするのだなと思いはしたものの、自らを罰するような気持ちで俺はナナシの提案に乗った。「これで良いか」
「ヴァルキュリア様ほどではないが見れる姿だな」ナナシは言った。
「放っとけ!」俺はつい叫んだ。
ナナシはカラカラと笑って言った。「その調子だ」
どうやらナナシは俺を慰めようとしていたらしい。
俺は両頬を両手で叩いた。パチンという乾いた音がした。
「ああ、ごめん! そんなつもりじゃ‥‥」ナナシは不意に日和って言った。
「違う違う。気合いを入れただけだ」俺はナナシに弁明した。「ありがとな」
俺はクルクルを呼び寄せた。
「またあの巨大な姿になれるか? あそこまで大きくなくても良いんだが」
「クルクル」
一声鳴くとクルクルはいつものキキリくらいの人が乗れるサイズになった。
「おお、やはり出来るんだな! 背中に乗っても良いか?」
俺の問いかけにクルクルは首を下げて答えた。
そこから俺とナナシはクルクルの背中に乗った。
「俺の村のあるゴルゴタへ向かってくれ」
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