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85.ハルニレ2


 そのオジサンは明らかに動揺してーー、そして私を助けようとしているのが分かった。


ーーあ。


 オジサンの姿に頭の中の何かが刺激された。


 それは今まで封印されていた過去の記憶だった。

 私はオキクルミという名前で誰かと一緒にダンジョンで狩りをしていた。

 

 そして私はその誰かが好きだった。


 すると不思議な事が起きた。

 オジサンは苦しみだし、衣服を脱ぎ捨て裸になった。

 そして全身の皮膚が落ちて、中から少年が現れた。


ーーユカラ! 


 ああ、あの私の大好きなユカラが目の前にいる!


 しかし、何故?


 そんな疑問を抱く暇もなく虎型モンスターは私に牙を向ける。


 せっかくまた出会えたのに!

 

 そんな私の心の中の嘆きを見越したかのようにユカラは手のひらを差し出し、そして握る。


 ユカラが腕を引くと虎型モンスターは崖から落ちた。何故かは分からない。でもーー。


ーーやっぱりユカラは私のヒーローだ!


 だが脱皮したユカラは自分の姿に驚き、馬鹿みたいにはしゃいで私を困らせた。

 そしオジサンだった自分の正体を隠した。


 お陰で私もまた自分がオキクルミだと言い出せなくなってしまった。

 

ーーでも構わない。またユカラと一緒になれたのだから。


 その後一少しだけ離別したものの再び出会えた。


 私はただただ嬉しくて、はたから見たらはしたない女に見えたかもしれない。

 でも相手がユカラなら誰にどう思われても構わない。

 

ーーただ、私に「生存の印」が無いのが不思議だった。ユカラは私を探そうとしている。しかも四十年もかけて!

 嬉しくて死にそうだった。ユカラの探しているオキクルミはここにいるよ! そう伝えたかった。なんとか堪えて私はユカラの話に合わせた。


 本当は何度か私がオキクルミだと言い出そうとした事があった。

 だがその度に私の口は何も発する事ができなくなる。

ーー母が何かをした。そんな気がした。


 それからカンナやキキリと出会い、そしてヴォルクとも行動を共に出来た。


 カンナとキキリもユカラに好意を寄せている。

 でも不思議と嫉妬心は起きない。私がオキクルミと知ったらユカラは私だけを見てくれると知っているから。


 私は幸せでずっとこの生活が続くと思っていた。

 再び移動ダンジョンに囚われるまでは。

 


 謎の女に襲われた時にユカラは元のオジサンの姿に戻った。

 彼はその姿を恥じているように見えた。

 私にとってユカラはユカラのままだ。

 そう伝えたかった。


 だが私達は移動ダンジョンに囚われた。

 ユカラに「恥じないで。あなたはそのままで素敵なのだから」と伝えられなかった。


 アートーー、我が母は人前では仮面を付けている。 

 アートは私達を救い出しルパルへ送った。


 母と少しでも話したかった。だがその暇はない。そしてルパルには私の分身がいる。


 ルパルの庭先で少女姿のままの分身を見かけた。


 その一瞬のあと、不思議な浮遊感に包まれた。


「分身を作った時の制約で出会った瞬間にオキクルミとハルニレは統一されるはずだった。実際に肉体は統一された。でもルパルは同じ二つの魂は入れない。だからハルニレの魂はルパルの外に弾き出された。アートが咄嗟に肉体を作りそこにハルニレの魂を入れた」


 母の声が聴こえた。


「でも移動ダンジョンに囚われてしまった」と母は続けた。


「え」


 奇妙な浮遊感は終わり、体に何かが巻きつく。

 細かい糸が四方八方から巻きつき指一本動かせない状態になった。


 そして徐々に虚脱感に苛まれ、やがて眠りに落ちた。



 目覚めたらユカラの顔があった。

 だがユカラは自分はユカラの知り合いだと嘘を吐いた。


 またこの顔だ。ユカラは他人に気付かれないよう注意しつつも自己卑下している。


 大丈夫だよ。私はどんな姿のユカラも大好きだよ。

 そう伝えたかった。


 なのに私の口は音の振動を伝えない。

ーー声が出なかった。


 思わず涙が出てしまった。

 ダメだ! 余計にユカラを悲しませる!

 そう思うほどに涙は止まらなかった。


 キキリが私の現状を身振りで説明してくれた。

 そしてカンナは挑発するような事を、あえて言った。

 そう。彼女はきっと何かに気づいた。だからあえて挑発したのだ。

 頬が少し引き攣っている。

 バレバレだよ、優しいカンナ。


 となると私は私の役割を演じなければならない。

 ごめんね、と心に念じながらカンナの顔を引っ掻いた。

 そして以前の私のように、あっけらかんと立ち上がった。

 ねえ、みんな。私は大丈夫だよ。そう伝えたかった。


 立ち上がった拍子にユカラの上衣が落ちて私は再び真っ裸になった。

 あ、と思う間もなくカンナの電撃がユカラを直撃した。



 ニドというユカラの師匠に当たる女は要注人物だ。もちろん最初は敵対していた、という事情もある。だが、それよりもーー。


「お、これは。そうか、‥‥なるほどなるほど」


 気絶したユカラを近くにあったダンジョンへ運ぶ作業はニドが担った。

 偵察しながら慎重に先頭に立つカンナとしんがりをヴォルクが務める。そして私は役立たずだった。


 役立たずだからニドが密かにユカラの体を弄っているのに気づいてしまった。

 どうやらこの女もユカラが好きらしい。しかも熱狂的に。


 咎めるにしても私は声が出せない。そしてキキリが護衛してくれているひ弱な立場だ。


 ただ私をヤマタノオロチから奪還する時にニドは一騎当千の働きをしたらしい。

 だとしたら私に何かを言う権利は無い。

 せめて皆の役に立てたら‥‥。



 ダンジョンの中で妖精と出会い、ユカラは新たなスキルを獲得した。

 妖精は立ち去る間際、皆に気付かれないように私に目配せをした。そして笑った。


 ーーあ。


 記憶の中に何かが光った気がした。

 アートーー、母は私の記憶は少しずつ戻ると言っていた。今まで戦闘では使えなかったスキルが胸の奥で脈打っている。


 ユカラだけではなく、私の中にある記憶やスキルも妖精ウームは思い出させてくれた。

 これなら!


 力強く拳を握り、その手を開いて思い出した。

 私はオキクルミであるはずなのに「生存の印」が手のひらに無かった。妖精ウームが思い出させてくれた過去の記憶によってそれがいかにおかしな事か気づく事ができた。


 もしかしたら移動ダンジョンに囚われた時に母・アートが作った体だからか?

 確か幼い頃ーー、オキクルミだった頃に印はあった。

 ハルニレとして存在している時も途中まで「存在の印」はあった。

 何処かで「存在の印」が消えたことになる。


 どういうこと?

 この謎が解けるまでは慎重に行動しなければならない。

 私はキキリのような意思表示をせず、ただただ黙り込んで皆の指示に従う人形に徹した。



 ヤマタノオロチとの死闘で私はウームのお陰で思い出せた分身のスキルでユカラを手伝った。

 ユカラもやっと自らの意思で脱皮できるようになった。


 だが分身と飛翔スキルは生命力を著しく消費する。私は気を失った。


 二十歳くらいのユカラはあんな姿だったのか、と夢の中でニヤニヤとほくそ笑んでいた。


 幸せな夢から目覚める。戦いはまだ終わっていなかったと知った。

 カーカの元を訪れてから私とユカラはサールの古城に向かった。


 懐かしい。私がまだオキクルミだった頃にユカラと修行した場所だ。

 そこで奇妙な子供に出会った。モシレコタネの分身であり、戦闘力のない、良心を担う個体であると分かった。

 

 それから再びモシレコタネとの戦闘が始まった。

 戦闘の途中でユカラの魔獣であるクルクルが巨大化してヤマタノオロチを殲滅した。


 ーーあ、思い出した。


 クルクルの姿に既視感があった。

 あのダンジョンにいた巨大モンスターだ。


 ーーそうか。そういう事か。


 私は私のやるべき事を悟った。そして私はユカラに指示を出した。ポルターガイストを全力で放て、と。

 

 なぜならポルターガイストは本当の私だからだ。

 かつて鳳凰に食べられた私は鳳凰の卵に宿り、そしてそれをユカラが食べて本当の私はポルターガイストになったのだ。

 つまり今の私は分身体だ。だから生存の印がなかったのだ。


 モシレコタネの消滅と同時に本当のハルニレはユカラに言った。

『オキクルミよ。ユカラ。まあハルニレでもあるけれど。呪いが消えたからやっと話せる』


 そして思った。

 ーーユカラ、今までありがとう。そしてーー。


「さよなら。大好きだったよ」


 分身体の私の地声はユカラの背中に消えた。

 そしてきっと本当のハルニレも消えるだろう。 


 そして、またいつかーー。



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