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83.クルクル


 クルクルは俺が戦闘時は離れて、頃合いを見計らって帰ってくる。

 サールに来た時もハルニレと森の中に潜んでいた時に何処かヘ飛んで行った。


「このタイミングで戻ってくるとはな‥‥ていうかデカッ!」俺はクルクルの嘴を撫でながらつっこんだ。「急に育ったな」


「クルクル」クルクルは目を細めて鳴いた。


「あの巨大モンスターの卵だったんだな」俺はクルクルの出自を知って合点がいった。インドラの矢をものともしないのも納得できる。


「クルクル」クルクルは嘴で摘んで俺を背中に乗せた。


 視線の下にはヤマタノオロチが大地を這いずり回っていた。

 それをクルクルは足で踏みつけた。

 猛禽類が蛇を捕まえる時のように見えた。

 

 ヤマタノオロチはインドラの矢を周囲に放つもクルクルは意に介さず足の爪でヤマタノオロチを踏みつけ続けた。時折インドラの矢で焦げた羽が落ちる程度だった。


 ズタボロになったヤマタノオロチを見てからクルクルは俺の方を振り返り「クルクル」と鳴いた。


「え」


 その瞬間にクルクルは急速に縮んでいつもの大きさになった。


「お、うわっ」俺はクルクルを胸に抱いてポルターガイストを出した。

 大地に叩きつけられる前にポルターガイストをクッションのように使い、事なきを得た。


「ありがとうな」俺はクルクルを撫でて言った。


「クルクル」そう鳴いてクルクルはまた何処ぞへと飛んで行った。


「さてね」

 少し離れた荒野にクルクルによってズタボロになったヤマタノオロチの体が転がっていた。


 最初の討伐の時には胴体をカンナが焼き払い、首をニドのアポストールが粉々にした。

 俺には切断武器とポルターガイストによる鈍器の攻撃しかできない。


 モシレコタネを討伐するには異能の力が必要になる。


 ヤマタノオロチの死体からボロボロになったモシレコタネが立ち上がった。

「クソが」

 そして巨大な箱が二つ、宙に浮かんでいた。

 

 モシレコタネは首に手を当てて巨大な箱ーー、移動ダンジョンを操作しているように見えた。


「つまりあの箱はモシレコタネの口か」俺は当たりを付けた。

 返らずの淵で使った時は軍隊をヤマタノオロチの中に飛ばした。

 人形のいるダンジョンでの話から移動ダンジョンに囚われると特殊な石のある場所に飛ばされると知った。

 つまりヤマタノオロチの中にも特殊な石があったと考えられる。


「その移動ダンジョンは武器になっていないんじゃないか?」俺はヤマタノオロチの死体を指差して言った。移動ダンジョンで捕らえてもヤマタノオロチの死体がある場所に移動するだけだ。


「せっかく手に入れた伝説のモンスターを粉々にしやがって」モシレコタネは俺の話を聞いていなかった。


 ヤマタノオロチが伝説のモンスターならそれを蹂躙したクルクルは神獣くらいに位置するな、と俺は呑気に考えた。

「お前は何がしたいんだ?」


「この国を破滅させてやる! 俺の故郷が襲われた時に何もしなかった王族を皮切りに国中の人間を俺の村と同じ目に遭わせてやる!」


 ナナシは悪魔によって作られたがモシレコタネの良心を抜き出した存在だ。

 対して体を作り替えられたモシレコタネは邪悪な思念に満たされていた。


「それは逆恨みだ。恨むべきは悪魔の方だろう?」

 悪魔の存在はあちこちで聞く。直接手を下す場合もあれば、多くは間接的に国を破滅に陥れる存在だとか。


「悪魔は俺に力を与えた。何故恨む必要がある?」モシレコタネの目は正気を失っていた。


 村を壊滅させたのは悪魔だろう、と言っても無駄に思えた。モシレコタネの良心はナナシに集約されているからだ。


「ごちゃごちゃ煩いんだよ!」そう言ってモシレコタネは移動ダンジョンで俺を挟み討ちにした。


 俺はあえて避けずに受け止めた。

 不思議な浮遊感のあと、ヤマタノオロチの死体の上に俺はいた。お情けのような糸が体に纏わりついている。生贄を包む繭の残骸だ。ナナシという配給元を経たれて力が十全に発揮されていない。

 足元には小さな黒い石がある。


 俺は黒い石を手に取りズボンのポケットに入れた。


 少し離れた場所で高笑いするモシレコタネの姿が見えた。「ざまあみろ」とか「バカが」とか叫んでいる。


 東の空が薄紫に染まってきた。


「潮時か」

 俺がそう呟くと背中からフワッとした感触で掴む者がいた。ハルニレだ。

「戻ったんだな」


 ハルニレはニコッと笑った。


「モシレコタネを消滅させる糸口が無い」俺は正直に言った。


 ハルニレは両腕を伸ばしてそれを何度も繰り返した。両手パンチのような具合だ。


「‥‥ポルターガイストを全力で出せって事か?」俺はなんとか意訳して訊いた。


 ハルニレは首をブンブンと縦に振った。


 そういえばポルターガイストを全力で出すなんて考えもしなかった。ポルターガイストはどちらかというと戦術の幅を増やす為のサブ的な存在だ。


 俺は両腕を前に構えた。ハルニレはその俺の胴体をフワッと抱えた。何故かハルニレに抱かれると力が漲ってきた。


「いでよ、ポルターガイスト!」俺は全身の力を込めて叫んだ。


 するとあの実体化した巨大な手ではなく、半透明の裸の女性が俺の手のひらから出てきた。

 その背中はニドのアポストールに似ている。


「そこにいたのか!」モシレコタネが俺たちに気づいて叫んだ。「散々俺をバカにしやがって!」


 モシレコタネは鬼の形相でこちらに駆けてきた。

 俺は、モシレコタネは本来ダンジョンの呪いを利用してサールの村人を復活させたいだけだったような気がした。何処かできっと何かを間違えたのだ。おそらく悪魔によって。

「哀れな奴だ」


 ポルターガイストがモシレコタネにパンチをするような格好をする。俺も一緒になってパンチをする格好をした。

「行けえええええええ!!!」


 モシレコタネは一瞬で粉々になって消えた。


「やった!」俺は拳を握って叫んだ。


 半透明の裸の女性の背中を見て俺は既視感を覚えた。


「‥‥ハルニレ?」


 こちらに向けてゆっくりと振り返りその女性は言った。

『オキクルミよ。ユカラ。まあハルニレでもあるけれど。呪いが消えたからやっと話せる』


 そう言って半透明のハルニレは口をパクパクさせながら残りの言葉を発声しないまま消えた。

 俺は嫌な予感がして背中の方へと振り返った。さっきから背中がスースーする。


 小さなオキクルミの姿をしたハルニレも消えていた。

 その向こうには煌々とした朝日が照っていた。


「ハルニレ? ハルニレハルニレハルニレハルニレ!!!」俺は犬が自らの尻尾に戯れるように醜く背後を確認しまくった。「どこにいるんだよ!」


 俺は膝をつき大地に這いつくばった。


「あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」



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