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79.アラーネアの糸


「門番に訊いたらモシレコタネは国境付近の軍隊蜂の塚を対処する為に遠征中との事です」ヴォルクは宮廷内の廊下を歩きながらニドに言った。


「つまりもう一人のモシレコタネは宮廷内で見つからないように潜んでいるという事か。まあやる事といえば王の暗殺辺りか」ニドは事も無げに言った。


「なっ」ヴォルクは驚きつつもモシレコタネの狙いを考えると極自然な事と気づいた。


 深夜の登城だったがヴォルクの顔を見て門番は開けてくれた。

 ニドは気配を消す魔法で門番からは認識されていない。


「一応、王とニドは顔見知りだから気配を消す必要はないのだが。裏からのハルニレの護衛を任されていた事だし。ただ」ニドは周囲を警戒して言った。「敵はモシレコタネだけではないようだ」


 シザーバッグから何かを取り出したニドは廊下にその何かを散布した。


「何ですか、それ?」ヴォルクは訊いた。


「種だよ。殺意に反応するシダ科の魔草だ。猛スピードで増殖して殺意のある者に巻きつく」


「植物なのに殺意に反応するんですか?」ヴォルクは驚きつつ訊いた。


「植物は人の声を認識している。正確には声ではなく感情に反応している。魔草ではない普通の植物でもね」ニドは廊下の奥を眺めて言った。「ほら捕まえた」


 廊下の奥から叫び声が聞こえた。

 現場に行くと侍女が魔草に全身を巻きつかれて横たわっている。傍には小刀が落ちていた。


「誰に頼まれた?」ニドは侍女の耳元に口を寄せて訊いた。


「‥‥何のことですか」侍女は小声で言った。


「王宮内で帯刀できる役職は限られている」ヴォルクは言った。「これが見つかっただけでも死罪は免れない」


 侍女は言葉を失い涙を流した。


「話せば見逃す。侍女が理由もなく逃げた所で追いはしない」ヴォルクはさらに言った。


「‥‥近衛兵長に頼まれました」侍女は諦めたように呟いた。


「なんとね」ニドは言って魔草に手を翳した。侍女に巻きついていた魔草は縮んでニドのシザーバッグの中に戻った。


 侍女がそそくさと廊下を駆けていくのを見送ってニドは言った。「君の上司が絡んでいるらしい」


「となると王宮内の全員が敵と考えても良いかもしれません」ヴォルクは青い顔をして言った。「近衛兵長は王宮内で全権を握っていると言っても過言ではありませんから」


「それはどうかな」ニドは言った。


「え?」


 ヴォルクの疑問を受け流してニドは地下の牢屋へと向かった。



 牢番に許可を得てヴォルクとニドは牢屋に入った。


「牢番曰く最近入った罪人は口が利けないとの事です。言われた通り訊きましたがこれくらいしか情報がありません」ヴォルクは牢屋を確認して歩くニドに向けて言った。


「こいつだな」ニドは壁にもたれて寝そべった男を見て言った。


「そうですね」ヴォルクは牢屋の番号を確認して言った。


「軽微な呪いを確認した。解除する」ニドは鉄格子越しに男に手を翳して言った。「お前は近衛兵長だな」


「え⁉︎」ヴォルクはニドに顔を向けて驚愕の表情を浮かべた。


 ヴォルクが驚いていると男の顔つきが変わる。


「兵長!」鉄格子を掴んでヴォルクは叫んだ。


「え‥‥、ああ、声が出せる⁉︎」男は起き上がって喉を押さえつつ言った。


「誰に成り代わられた?」すかさずニドは訊いた。


「モシレコタネ氏に呼び出されてそこから記憶が曖昧で」兵長は言った。


「この男を解放しろ!」ヴォルクは牢番を呼び出して叫んだ。



「現在兵長になり変わっているのがモシレコタネの可能性が高い。おそらく今晩中に王を殺す気だろう。オロチという切り札がなくなって焦っているはずだ」ニドは牢屋を出てから再び魔草をばら撒いている。「やはり掛からないな。対策済みか」


 ヴォルクは兵長を解放したあと、秘密裏に近衛兵を召集して王宮内の警備に回した。


「まあ人の手では捕まえられないだろう」ニドは効果のない魔草を再び回収したあとに訊いた。「王はどこにいる?」


「おそらく後宮に」とヴォルクは躊躇いがちに言った。「後宮があることは一部の者しか知らない」


「良い身分だな。いっそ死なない程度に痛めつけられた方が身の為かもしれんな」


 ニドの冗談にヴォルクは苦笑いをした。


「今夜に限ってはむしろ好都合ではあるな」ニドは考えこんでからヴォルクに訊いた。「王の寝室へ案内してくれ」



 寝室の扉の前には近衛兵が二人倒れていた。


「おい、大丈夫か⁉︎」ヴォルクは二人の顔を軽く叩くも反応が無い。


「これも軽微な呪いだ。任せろ」ニドは言って手を翳した。


「ううっ‥‥、あれ」二人はそれぞれうめき声の後に目を覚ました。


「王の命が危ない」とヴォルクは二人に告げてから王の寝室の扉を開けた。


「君か。緊急事態で呼び出されて来てみればもぬけの殻だ。王はどこへ消えた?」寝室の中に立つ男は言った。


 非常事態にしても倒れた兵を打ち捨てて寝室にいるのは不自然極まりない。なのに兵長の顔をした男は平然とその場凌ぎの台詞を言ってのけた。


「確認するが彼が兵長か?」ニドはヴォルクに訊いた。


「はい。兵長の顔をした誰かです」拳を握りしめてヴォルクは言った。


「アポストール、抱擁してやれ」ニドは言った。


「クソッ! そいつは!」男は迫り来る半透明の人型の何かを避けて部屋の中を転がり回った。


「やはり意識を共有しているか。オロチの時にアポストールは見たものな」ニドは手を翳して言った。「紛らわしいから姿を戻せ」


 中年の兵長の顔は老人であるモシレコタネの顔に変わった。


「貴様等はあの現場にいたユカラの仲間か!」アポストールの接近を避けながらモシレコタネは叫んだ。


「仲間じゃない! 嫁だ!」ニドは叫んだ。


「堂々と嘘を吐くのはやめてください」とヴォルクはつっこんだ。


「ふざけおって!」モシレコタネはアポストールに捕まる一歩手前で自らの首に手をかけた。


 すると王の寝室に壁が出来てニドとヴォルクの前に立ち塞がった。アポストールの姿が消えた。


「これは‥‥移動ダンジョンか」ニドは珍しく驚いた顔をして言った。


「ダンジョンでなくても出せるんですか?」ヴォルクはニドに訊いた。


 程なくして壁は消えてモシレコタネが現れた。

「あの透明な奴は何処かのダンジョンマスターの袂に送ってやった! ざまあみろ!」


「いや、厄介払いができてありがたいのだが」ニドは平然と言った。「しかしそういう転送スキルなのか。面白いな」


「ちなみに連発できるぞ」とモシレコタネは首に手をかけた。


「大口を開けて飲み込むんだろう? 壁はお前の顔の一部だ」ニドは言った。「一度見れば分かる」


 そしてニドは一瞬でモシレコタネの側まで距離を詰めた。そしてその顔面を手で掴む。

「だったら口を開けさせなければ良い」

 モシレコタネの顔面を掴んで手の甲にもう一方の手を重ねて言った。

「アラーネアよ、在れ」


 モシレコタネの顔が白い糸でぐるぐる巻きになった。

 そしてその首を腰に刺した短剣で切り落とした。


「やった!」ヴォルクは思わず歓喜の声を出した。


「まだだ」ニドは言った。「アラーネア、胴体も拘束!」 

 

 首を切り落とされたモシレコタネの胴体を半透明の蜘蛛が高速で糸を巻き付けているのをヴォルクは確認した。


 だが全身を糸で巻き終える前に手首が落ちて廊下の方へと逃げた。


「クソッ! やられた」ニドは叫んだ。



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