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77.サールの古城


 ダンジョンを出て俺たちは夕闇の荒野で円陣を組んだ。

 オロチ討伐の時のような作戦はできない。討伐後にハルニレが気を失ったことから体に負担がかかるのは目に見えている。


「三チームに分かれよう。キキリとカンナ。ヴォルクさんとニド。俺とハルニレだ」


 そう俺が言った途端にニドから殺気を感じた。


「いや、純粋に戦力の分散を考えてのことだ」


 カンナとキキリはもはや阿吽の呼吸と言っていい。ヴォルクさんの限定的な能力と単独でも無双できるニドならベストな組み合わせだ。


「現時点でのハルニレの能力は俺との組み合わせでしか発揮できていない」と申し訳程度に俺は付け加えた。


「ユカラはニドの乳を揉んだ」ニドは遠くを見ながら呟いた。「その思い出だけで一生生きていける。我慢する」


 あまり堂々と醜聞を披露しないで欲しい。皆の視線が痛い‥‥と思ったが皆意識して視線を外している。

 これはこれで辛い!


「帰ってきたらご褒美にチューして欲しい」とニドは俺の耳元で囁いた。


「我慢はどうした!」



 カンナとキキリは神聖アガルタ帝国国境付近のモシレコタネを。

 ニドとヴォルクさんは王宮の奴を、そして俺とハルニレはサールの古城にいるモシレコタネを討伐する運びとなった。


 カンナはキキリの背に乗り込んだ。

 ニドはシリンの筒を取り出した。


 問題は俺とハルニレだ。移動手段が無い。

「こいつが俺達を運べるほど大きかったらなあ」俺は頭上にいるクルクルを見上げて言った。


 不意に胴回りを優しく抱き寄せる手に気づいた。

 ハルニレはオロチ討伐の時と同じ体勢になりつつ再び翼を生やした。

「大丈夫なのか?」

 

 俺の問いにハルニレは頷いた。

 そして空高く飛び上がる。


「皆、作戦通りで頼む!」俺は慌てて叫んだ。


 地上では皆が手を振って応えていた。



 王宮担当にヴォルクとニドにしたのは顔が効くからだ。

 カンナとキキリを国境付近にしたのはキキリの機動力とカンナの戦闘力が屋外向きだったからだ。


 俺とハルニレの場合は単に俺に土地勘があったからに過ぎない。

 モシレコタネのように互いの個体に連絡手段のない俺達は時間を指定してモシレコタネを討伐することにした。


 決行は日の出と共に行う。平面世界である神無球(かんなきゅう〕というこの世界の日の出に誤差はほとんど無い。


 勝負は一瞬だ。 

 本日中にモシレコタネの居所を確認して夜中は見つからないように潜まねばならない。


 サールの古城付近に来た俺とハルニレは近くの森から古城を確認する。


 古城はすでに朽ちて人の住まない遺跡の体を成している。

 そんな場所になぜモシレコタネがいるのか疑問ではあった。


 国境付近にいる個体は死ぬ可能性があるから戦略兵器としての個体か。王宮のそれはこの国を滅ぼすための諜報活動用だろう。

「となると古城の個体はバックアップ用だろうな」


 廃墟と化した古城に訪れる者はいない。

「となると逆に最も警備が厚い可能性がある」


 俺が考え事をしていると肩を叩く者がいる。もちろんハルニレだ


「どうした?」


 俺の問いにハルニレは口をパクパクさせたあと、空を指差した。


「空に何かいるのか?」


 ハルニレはブンブンと首を振って不意に俺の背後にまわる。


「え?」


 ハルニレは再び俺の胴回りを掴み宙に浮かんだ。

 ちなみにどんなに怪力でも成人男性を両手で掴みつづけるのは至難の技だ。おそらく何かしらのスキルが発動しているのだろう。例えばハルニレが掴む者に重力はかからないとか。


 夜空を飛んだハルニレは古城の尖塔の袂に降りた。バルコニーのようなそこに警備はなかった。


「上から攻めろって事か」俺はハルニレの言いたいことを言語化した。


 ハルニレは手を腰にあてて頷いた。


 確かにこの機動力を考えていなかった。


 尖塔の袂に城内への入り口がある。恐る恐る俺たちは古城内に入った。


 曲がり角に申し訳程度のランプが点されているがそれ以外は完全な暗闇だ。


 ハルニレは俺の上衣の裾を掴み俺も常にハルニレの居所を確認しつつ前に進んだ。


 角を曲がり、階段を降りて、その作業を何度か繰り返したあとに部屋が現れた。

 

 部屋の中にはかつての王と妃、そして息子が並んだ肖像画が掛かっていた。調度品には埃がかぶり、棚の本は手に取るだけで崩れ落ちてしまいそうだった。


「ここにも王がいたんだな」俺は特に感慨もなく呟くとハルニレは肖像画に手をかけ右に左に動かしている。


「何をして」と俺が問いかける前に肖像画は一回転して、背後の本棚がズレて入り口が見えた。


「隠し部屋か」俺が驚いて呟くとハルニレは再び腰に手を当て仁王立ちでドヤ顔をした。


 そういえばハルニレは王族だった。隠し部屋の位置はあるあるに近い感覚で探りあてたのだろう。


 隠し部屋には財宝と武器、そして下へと伸びる階段があった。


 ハルニレは財宝には目もくれず階段を降りていこうとする。


「危ないから俺が先に進む」そう咎めるとハルニレは頬を膨らませつつもいう通りにしてくれた。


 階段は螺旋状に続いているらしい。灯はない。

 さすがに足を踏み外す可能性を考えて俺は荷物から携帯トーチを取り出した。


 トーチをポルターガイストで掴んで足元を照らす。

 螺旋を降りていくとやがて扉が現れた。トーチを消して音を立てないように扉を開くとそこは居住スペースだった。


 ランプを照らしてベッドに横たわる者がいる。モシレコタネだった。


 モシレコタネは意外にも警備を配置せず自室でくつろぐように横になっていた。


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