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75 天羽々斬


 オロチは持ち上げた首からインドラの矢を放った。

 

「ポルターガイスト!」俺は思わず実体化したポルターガイストを出してしまった。インドラの矢に効くか不明瞭だったのに。だが結果的にインドラの矢を防いだぐことができた。「逃げろ!」


 俺の指示に軍隊は逃げ出した。


「エレクトロ・スフィア(雷神繭)最大!」カンナは淵を覆うほどの巨大な球電でオロチの動きを止めた。


 その瞬間、オロチの首の上から人影が現れた。

「クソッ! また貴様らか!」


 そこには王族専属パーティーのリーダーであるモシレコタネの姿があった。正確には半分は異形のモンスター化しているモシレコタネの姿だ。


 何故ここにいるのか。答えはつまり全ての元凶はモシレコタネだからだ。


「いつから人間をやめた?」俺はモシレコタネに問いかけた。


「サールでモンスターの大軍に襲われた時に我は悪魔に体を作り替えられた」

 そう言ってモシレコタネはかつて俺とオキクルミがいたギルドを全滅させた人型モンスターに変わった。

「久しぶりだな!」


 やはりあの人型モンスターは生きていたのか。おそらく分身を作って逃れたのだろう。

 そいつがモシレコタネだったとは。


「分身が出来るのだな」俺はモシレコタネに訊いた。


「王宮で貴様に会ったのも分身だ。分身同士で情報伝達が出来る。現在年老いた貴様があの時の小娘だという事も知っているぞ。モンスターは可視光だけに頼らず別の光も見ているからな!」


 ハルニレの前で堂々と俺の正体をバラしてくれたな!

 と思いつつも今はそれどころでは無い。


「完全にモンスター化した我の能力は今や天井知らずだ。見るが良い!」

 モシレコタネが両腕を広げると空中に二つの巨大な箱が現れた。互いに向かい合った面だけ空間が空いている。


「まずい! 逃げろ!」俺は再び軍隊に向けて叫んだ。


 巨大な空き箱は軍隊を挟み込んで閉じた。

 そして一つになった箱はオロチの胴体の中に消えた。


「移動ダンジョンと市井で呼ばれている現象だ! 彼らにはオロチの栄養素になってもらう」


 そしてオロチの首から俺達が切り落としたはずの残り七本の首が復活した。

 ゆっくりとオロチは浮上していく。まるで終わりの始まりであるかのように。


「奴はアポストールを警戒して地上には降りてこない」ニドは呟いた。「だが『ソーカル』を再び使うとニドは戦力にならない。ソーカルは相手の全能力を一時的に機能不全にする。代わりにニドも機能不全になる」


 オロチを全滅するのにニドは必要だ。一時的でも機能不全させるわけにはいかない。


 このまま近隣の町あるいは王都に飛ばれたらそれこそ国が終わる。多数の犠牲者が生まれる。

 目の前で殺された両親を見てから俺は罪なき人々が殺されるのを何より嫌うようになった。

 父も母も自然を愛して麦畑を営むごくありふれた無辜の民だったからだ。


「やってやる!」俺は珍しく口汚く叫んだ。「チュリマー(脱出不可)、オロチを封じろ!」


 電光のようなものがオロチの周囲を駆け巡りその巨体を封じた。


 そしてオロチの巨体は再び淵の中に落ちた。結界内には水が侵入しない。淵から大量の水が溢れ出た。


「キキリ! オロチの真上に飛んでくれ!」


「ズヴィニャー(西洋松露)!」俺の意図を汲んだのかヴォルクはいち早くスキルを展開して軍隊の囚われている位置を特定した。


 俺はキキリから飛び降りて叫んだ。「ターヘル・アナトミア!」


 ターヘル・アナトミアで軍隊のいる位置を切り刻むとオロチは雄叫びを上げた。


 実体化したポルターガイストでオロチの体内にいる軍隊をまとめて掬い上げた。


「キキリ!」


 俺が叫ぶとキキリは俺の体を掴んで上昇した。

 ポルターガイストで救出した軍隊を崖の上に置いて俺は言った。


「甲冑を脱いで出来るだけ遠くへ逃げるんだ! お前たちにも家族はいるだろう? 家族のことだけを考えろ!」


 軍隊の男たちは俺の言った通りに実行して脇目も振らずに地平線まで駆けて行った。オロチに生命力を奪われていたので大分ヨロヨロとした足取りではあったが死ぬよりはマシだ。


「ユカラ、まずい。結界が壊れる」


 ニドの言葉に淵を覗き込むと真っ赤になった結界がパンパンに膨れ上がっていた。

 オロチは結界内でやたらめったらインドラの矢を放ちまくっていたらしい。


 体が重い。体力が切れかけている。結界はそれだけ体力を奪うらしい。

 だがまだオロチの首を全て同時に切り落とす算段が出来ていない。ニド、カンナ、ヴォルク、キキリと俺だけでは五つしか落とせない。今のハルニレは戦力外だ。


ーーどうすれば。


 そう思った時、俺の体を抱きしめる腕があった。


「ハルニレ‥‥?」


 そして体の奥から力が漲ってきた。

 元々俺には「エターナル・ゾンビ(無限回復)」というスキルがある。結界によってエターナル・ゾンビが追いつかないほどの体力を消費していたはずだった。


「これは、外からのエターナル・ゾンビ?」かつてオキクルミが使用したーー、俺のスキルをコピーした能力だ。「なぜ、ハルニレが」


 そして妖精・ウームによって作り替えられた俺の中の回路に再び手が届いた。

 ハッと気づいてステイタス画面を開いた。


 ずっと見られなかったステイタス画面が正常に表示されている。

知らないスキルがいくつもある。いつの間に。


 その中に思い当たるスキル名を見つけた。


「リーンカ(上位再生)!」俺は今まで無意識で行っていたスキルを初めて意図的に行う。


 脱皮だ。


「あああああああああ、あのユカラだ! ニドの愛したあのユカラが戻ってきた!」ニドが半狂乱で叫んだ。

 

 髪が伸びて髭が消える。肌は弾力を持ちしなやかな肢体が付いているのが分かった。

 俺は二十歳前後の頃の姿に戻っていた。

 

 だがまだ足りない。 

 そう考えた俺は手荷物を探る。ほとんど実践では使っていなかった「眠り姫」を手にした。


『何が欲しいの』と眠り姫から声がした気がした。


『あいつを倒す武器が欲しい』俺は声に出していない。だが心の中に俺の願望が響いた。


『これを使って』


 眠り姫の形状が変わった。片刃の刃になる。


『これは?』


『天羽々あめのはばきり


 そしてーー。


 俺と俺の後ろから抱きついたハルニレは七つに分かれた。かつてオキクルミが持っていた分身スキルだ。


 同時にハルニレに翼が生えた。



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