74.軍隊と将軍ギニラ
投降を指示する声に俺たちは狼狽えた。思い当たる節がないからだ。
「声の調子からして軍隊に聞こえるな」
「近衛兵と軍隊は所属が違うけれど私が話し合ってみよう」ヴォルクは名乗り出た。
もちろん一人で行かせる気はない。俺も同行した。
「皆はここで待機していてくれ」
気絶していたのでダンジョンの入口を初めて見た。荒野にある丘の横穴にダンジョンへの入口があった。
その前に四、五十人の兵士が待機している。
「私は近衛兵のヴォルクと申します。王宮から王女の護衛の任を任されてここにいます」
「その王宮からの使いである。ユカラ率いる冒険者達に国家反逆罪の疑いがかけられている。ユカラなる女はどこにいる!」カイゼル髭をたくわえた将軍らしき人物は叫んだ。
さてどうするか。このまま投降する選択肢だけは無い。
そもそも俺たちがここにいると何故分かったのか。
カーカが生き伸びた後にスキルを使って俺たちの場所を特定し、さらに虚偽の報告を王宮に訴えたのか。
カーカがダンジョンを出て王宮にたどり着くまでの時間と俺たちがここまでたどり着いた時間が合わない。
「いや、ルパルは『時間の存在しない場所』だ。もしや」俺は気づいて言った。「なあ、今はいつか分かるか?」
「何だお前は、早くユカラを差し出せ」
「訊くまでもない。ルパルに入って出るまでに五日経っている」背後からニドの声がした。
「待っていろと言ったろ?」俺はニドに注意したもののその情報に驚いてもいた。
「大丈夫だ。あいつらはニドに任せろ」
そう言ってニドはいつもの頭巾とマスクをして軍隊の前に出た。
「久しいな、ギニラ。また一戦交えるか」
「ニド!」ギニラと呼ばれる将軍は明らかに動揺して叫んだ。「なぜここに‥‥」
「ユカラはニドが殺した。差し出すことは出来ない」ニドは言った。
「確かにニドなら殺せるかもしれんが‥‥証拠がない事には我々も」
「何をモゴモゴ言っている!」ニドは少し強めに言った。
それだけで全軍が震え上がったように見えた。
「一体彼らになにをしたんだ?」俺は小声でニドに訊いた。
「ユカラといつもしているごく普通の稽古だ」
「あー」俺は言葉を失った。それは普通の人間では地獄のような気分になるだろう。
「国家反逆罪の根拠は何だ? それこそ証拠はあるのか?」ニドは小気味良く反論する。
「ここから少し行った所にある町からの連絡が途絶えた。そしてこの近くにある淵に伝説のモンスターであるヤマタノオロチが目撃された。それぞれ別ルートからの情報であり、それにユカラ率いる冒険者達が関わっているとの知らせを受けた」
確かにその通りではあるが何か腑に落ちない。
「ユカラ達が関わっていると何処から仕入れたら情報だ?」ニドは眉に皺を寄せて訊いた。
「王族専属パーティーからの知らせと聞いている」ギニラは脂汗を垂らしながら言った。
カーカではなくモシレコタネからか!
しかし依然俺たちの動向を知った経緯は分からない。
「確かに関わってはいるがオロチを発見したから討伐に向かっただけだ。因果が逆だ。国家の危機だからな」
「左様でしたか。これは失礼いたしました!」ギニラは突然手のひらを返したように頭を下げた。
ニドが後ろに回した手の指先で何かをしたのが分かった。ギニラに対して何かの魔法をかけたのかもしれない。
「ちなみにオロチの討伐には向かったのか?」
「ええ、この倍の勢力で行軍中です」
おそらく三倍の兵力で向かってもオロチを倒すのは無理だろう。
「俺たちも討伐に向かう」俺は言った。
「という事だ。疑惑が晴れたのならこのまま討伐に向かいたい」ニドは俺の言葉を補強するように言った。
「我々はどうすれば?」ギニラはへりくだってニドに訊いた。
俺はニドに耳打ちした。
「近隣の町の人々を避難させてくれ。出来れば地下室かダンジョンの下層に潜る方が生存率は上がると皆に伝えてほしい」ニドは俺の言葉をそのままギニラに伝えた。
ダンジョン下層程度なら町人でも倒せるモンスターしかいない。
「何をした?」軍隊が去った後に俺はニドに訊いた。
「洗脳までは行かない、言葉に説得力を持たせる魔法だ」そう言ってからニドは視線を外して付け加えた。「安心しろ、ユカラに使うつもりはない。ユカラがユカラのままで私を求めなければ意味がない」
さらっととんでもない事をニドは言った。
オキクルミの姿をしたハルニレはダンジョンから出てきて俺を凝視している。
この姿になってから何故かハルニレは意思表示をあまりしない。
同じように言葉を発せないキキリは頻繁に意思表示をするというのに。
何か理由があるのだろう、と思いそれについて俺は口にしない事にした。
「で、どうするの?」ハルニレに続いてダンジョンから出たカンナは俺に訊いた。「すぐに討伐に向かう? 私の体力は戻ったよ」
どうやら俺が気絶している間に皆も休息をしていたようだ。
「キキリ」
俺が呼びかけるとキキリは二回転してから巨大妖狐になった。
全員でキキリに乗り込み、返らずの淵へと飛んだ。
返らずの淵は上流から滝が流れ、その下に出来た巨大な淵を指す。淵の周りは切り立った崖であり、落ちたら生きて帰ることは出来ないと言われている。
その巨大な淵全体にオロチは存在していた。
崖の上から軍隊が今まさに攻撃を開始しようとしていた。
「やめろ!」俺は軍隊に向けて思わず叫んだ。
その瞬間にオロチはただ一つ残った首を持ち上げた。
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