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73.妖精ウーム


 気がつくと淡い光が灯る洞窟の中だった。

「ダンジョン‥‥?」


「ちなみにニドが運んだ。カンナもヴォルクも疲れていたし、ハルニレはちびっ子だから!」ニドは言い訳のように早口で捲し立てた。


 キキリは自分を指差して首を傾げた。自分も手伝えたのになあ?

 と俺は解釈した。


 多分、体中触られたな。なにやら股間に違和感がある。まあいいか。ニドには世話になりっぱなしだしな。


「このダンジョンは手近にあった。最近ダンジョンがネズミの子のように増えている」カンナはダンジョンの奥を警戒しつつ言った。「その‥‥さっきはゴメン。やり過ぎた。つい反射で」


 カンナはヴァジュラを俺に放った事を謝った。

 色んな事が重なって余裕が無くなったのだろう。仕方がない。


「ダンジョン自体が一つの産業になりつつあります。まるでもう一つ国ができたみたいに」ヴォルクは火を起こして非常食の干し肉を炙っていた。そして焼けた順に皆に手渡していった。


「炙らなくても食べられるのに」とカンナは呟いた。


「温かい物を体に入れる事で体力回復に繋がります」とヴォルクは言った。「あと情緒の問題です」


「そんなものかな」カンナは言って一口齧り付いてからヴォルクに言った。「格段に美味しい」


「でしょ?」ヴォルクは微笑んで言った。


 そんなやりとりを見つつ俺は今後の方針を考えていた。

 ヤマタノオロチことオロチが復活する前に倒さないと国が滅ぶ。倒すには八つの首を落とさないとダメか‥‥。


 俺の上衣を身につけたハルニレは不意に立ち上がりダンジョンの奥を見つめている。そして奥を指差した。


「何かいるのか?」


「私のセンサーには反応がない」とカンナは首を傾げた。


 それはユラユラと揺れながら洞窟内を浮かんで漂ってきた。

 

「雲?」


 クルクルが近寄っていく。


「おい、危ないぞ!」俺の忠告を無視してクルクルはその雲に飛び乗った。「ええ!」


「うわっ」と叫んでその雲に乗っていた何かが洞窟の地面に落ちた。


「妖精‥‥?」


 手の平くらいのサイズの羽根の生えた女の子が寝床を占領したクルクルを見上げて叫んだ。

「そこ私の寝床なんだけど! 勝手に乗らないで! って、うわ! 何で人間がいるの!」


 反応が忙しいことこの上ない。


「妖精なんて初めてみた」カンナは感慨深く呟いた。「私のセンサーは地面に敷かれているから引っかからないのね」


「もしや」俺はシュウカイドウから貰った首輪に触れた。シュウカイドウは奴隷商から解放した娘だ。


「あ、それ! それがあると人間でも引き寄せられちゃうんだ。せっかく出会わないように結界を作っても意味がなくなるのよ!」妖精はご立腹で言った。


「結界?」水み国で聞いたことのある呪術的概念をまさかゲヘナで聞くとは思わず俺は驚いた。


「閉じ込めたり、あるいは防壁の代わりにしたり、結界があると便利なのよ!」妖精は胸を張って言った。「て、それより私のベッドをいい加減返して!」


「クルクル、そこから降りてくれ」俺が命じるとクルクルは渋々雲から降りた。


「あらよっと!」掛け声をかけて妖精は雲に飛び乗った。「それで願いは何?」


「願い?」俺は訊いた。


「ユカラ、妖精に出逢ったら願いを聞いてもらえるものなんだ」ニドはまるで子供に言い聞かせるように俺に言った。


 シュクカイドウが首輪を渡してくれた意味に初めて気づいた。

 だからこそ妖精は結界を張って人間に出会わないようにしていたのか。


「ちなみに死んだ人間を蘇らせるようなこの世のコトワリを変えるような願いはダメよ」妖精もまた子供に言い聞かせるように俺に言った。


「ダンジョンに生贄を捧げると死んだ人間も生き返らせる事ができる、と聞いたことがあるが」俺はつい無駄口のようなことを言ってしまった。


「ダンジョン内は神域になっているからね。ただ私にはそこまでの力は無いの」妖精はため息混じりに言った。


 ダンジョンが神域? このゲヘナに神はいないはずだが‥‥。


「ハルニレとキキリが再び話せるようには出来ないか?」俺はハルニレとキキリを指差し妖精に訊いた。


「それも私の範疇を超える。強烈な呪いだ。呪いをかけた相手を倒せば呪いは解ける」妖精は苦々しく言った。


 貴重な話を聞いた。無駄口ではなかったらしい。

「それなら結界の張り方を教えてくれ」


「よしきた! その程度の願いなら造作も無い!」


 妖精は自分の乗った雲を俺の顔の前に移動させて人差し指を差し出した。指先が俺に触れた途端に頭の中に結界の張り方が浮かんだ。


「ついでにお前の能力をコントロールできるようにしてやったぞ。ありがたく思え!」


 そう妖精が言ったとたん、俺の中の何かが変わった。無意識で行われていた回路に手が届いた、そんな感覚がした。


「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ」


「ユカラ?」カンナは心配して俺の顔を覗き込んだ。


 目を開けたままで様々な場面が浮かんできた。

 両親をモンスターに殺された時、オキクルミとの出会いと別れ、ニドとの修行、ハルニレ達との日々が目の前に浮かんでは消えた。

 そして全く知らない映像が浮かぶ。


ーーそれはこのゲヘナ国、そして神無球と呼ばれる俺たちの住む平面世界の成り立ちだった。その映像が目の前を通り過ぎていった。


「‥‥なんだこれ」

 映像が通り過ぎた後に俺はやっと言った。


「人間だけが知らないこの世界の成り立ちよ。モンスターや動植物は知っている。スキルや能力と呼ばれるものはこの世界から借りている仮初の力なの。それを理解すれば能力のコントロールは可能になる」

 妖精はそう言って立ち去ろうとする。


「待ってくれ!」俺は思わず叫んだ。「君の名前を教えてくれないか」


「ウームよ。あなたはユカラね」


「何で知っているんだ?」俺は驚いて言った。


「内緒」ウインクしてから妖精は一瞬皆の顔を眺めた。そして微かに笑った。それから雲に乗ってダンジョンの奥へと立ち去った。


「結界か」俺は脳内に保管された知識を思い出す。

「チュリマー(脱出不可)」と言って地面に這う虫の周りに小さな結界を作ってみた。


「本当に出られないみたい」カンナは結界内の虫を煽るようにナイフを振り回した。その度に虫は結界内だけで慌てふためいている。


 興味深いのはカンナの短剣は結界内に入る事が出来る点だ。つまり結界は対象を絞って展開される。


「見えない壁があるというより壁に近づく思考がないように見えますね」ヴォルクは言った。


「だとしたらかなり戦術に幅が出る」俺はオロチ戦に向けて小さな希望を見出した。


 その時、ダンジョンの外から複数の足音と共に怒号が響いた。


「ユカラ率いる冒険者各位に告ぐ! 直ちに投降せよ!」



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