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72.ヤマタノオロチ


 八本あるヤマタノオロチの首の内、三本を俺達は始末した。


 だが他の五本の首が黙っているわけがなかった。


 各々が好き勝手に動き、攻撃を開始してきた。

 まずは町を丸ごと焼き尽くしたあの「インドラの矢」を吐こうとするのが分かった。


 俺はポルターガイストでその首を掴み隣の首の方へと傾けた。

 インドラの矢を食らった首は消し炭になった。


 ポルターガイストを縮めて至近距離に近づき、掴んだ首を再び切り刻む。

 隣ではカンナがヴァジュラを乱発し、ヴォルクが再び槍を投げた。


「残り一本!」カンナが叫ぶと同時だった。


 ヤマタノオロチは大地から離れ、再び空に浮かんだ。


「逃がさない!」俺はポルターガイストを脚力として跳び上がりヤマタノオロチの真下に位置した。その瞬間ヴォルクがスヴィニヤーでハルニレの位置を示した。


「ターヘル・アナトミア!」


 ハルニレがいる位置を避けて切り刻むと内臓の中から繭のような物が落ちてきた。


 俺は繭を片手で抱え、カンナとヴォルクもポルターガイストで掴んだ。


「撤収する!」


 ここでトドメを刺すべきなのは理性では分かる。

 だが俺はハルニレ救出を選んだ。


 キキリの元へとポルターガイストで飛んだ。 

 あと少し、という所で背後が真っ赤に彩られていることに気づいた。


 ーークソッ! 間違えた。やはりトドメを刺すべきだった。


「アポストール!」


 その一声で真っ赤な世界が消えて怒り狂ったヤマタノオロチの顔が背後に見えた。そして半透明の人型が見えた。


「ニド! 起きたのか!」俺は歓喜して叫んだ。


「アポストールは電撃には負けるが炎には有効らしい。正直ニドも驚いている」ニドは両手を前に出して仁王立ちで俺達を迎えた。


「ニド、助かった!」俺はハルニレが入っている繭を抱えたまま叫んだ。


「任せろ」そう言ってニドは付け加えた。「アポストール! ヤマタノオロチに特攻!」


 まるで恋人に再会できた旅人のようにアポストールは両手を広げてヤマタノオロチに特攻して行った。


 ヤマタノオロチはアポストールの性質を見抜いたのか再び飛び立って間一髪で特攻を避けた。


 アポストールは空を飛べないらしい。ヤマタノオロチのいる上空を見上げて佇み、やがて消えた。


 ヤマタノオロチは一瞬こちらを見てから飛び立って逃げた。王都とは別な方向だ。


 その様を見送ってからカンナは突然倒れた。


「カンナ!」俺は顔面を大地に直撃する前にいつもの透明なポルターガイストでカンナを支えた。


「ヴァジュラ(雷神雷刀)を撃ち過ぎた」カンナは朦朧としつつ言った。


 振り返るとヴォルクもへたり込んでいる。


 どの道追撃をできる状態ではなかった。



「ダンジョンで得た繭にはモンスターの子供が入っていた。オルトロスの子供だ。おそらく生贄にされる前の状態だ」俺は荒野で放ったオルトロスの子供を思い出してニドに言った。「ハルニレもここにいるらしい」


「分かった」ニドは小さく呪文を呟いた。

 その瞬間に青い火が繭を包み表面を焼いた。ニドが綻びを摘んで引くと繭は縦に割れた。


 中には裸の女の子が眠っていた。


「オキクルミだ‥‥」俺は記憶の中のオキクルミと照らし合わせて呟いた。そしてハルニレの姿のオキクルミを思い出して合点がいった。ニドが言ったように二人は入れ替わったのだ。何故かは分からないけれど。


 俺は自分の上衣を脱いでハルニレに掛けてから出来るだけ優しく問いかけた。「ハルニレ」


「‥‥‥‥!」ハルニレは目を開けた。そして口をパクパクさせている。


 その姿を見て思った。俺のこの姿をハルニレは理解しているだろうか。移動ダンジョンに囚われる一瞬しかこのオジサン姿のユカラは認識していない。あるいはダンジョンで初めて会ったあの時だけ。


「俺は‥‥ユカラの知り合いだ」俺は再び嘘をついた。何故かは分からない。そうした方が良い気がしたからだ。


 ハルニレは一瞬悲しげな眼差しを浮かべてから再び口をパクパクして、それから涙を流した。


「‥‥喋れないのか?」俺は言った。


 ハルニレは首肯した。


 俺とハルニレの間に割って入ったキキリはハルニレと自分を交互に指差した。


「キキリと同じ現象ってことか」俺は合点が言って呟いた。


 キキリは頷いた。


「くっ」俺は拳を握って立ち上がった。「ニド」


「何?」


「ヤマタノオロチについて教えてくれ」


「昔文献で読んだ限りではあの状態からでも復活する。ただ少し時間がかかる。倒すにはいっぺんに全ての首を切り落とさないとダメだ」ニドは付け加えた。「復活するには大量の水がいる。おそらく大きな淵か湖に隠れるだろう」


 俺は現在地を太陽と地形を頼りにあたりを付けた。

「ナフームの辺りか。水源は‥‥渓谷があるがあの図体では入れないな。その先に『返らずの淵』があった。切り立った崖に囲まれて落ちたら戻れないと言われている」


「オロチの休養にはもってこいだな」ニドも納得した。「我々にも休養が必要だ」


「この子がハルニレなんだ」カンナはやっと立ち上がって繭の中のハルニレを覗き込んで言った。そして自らの胸を押さえて言った。「今は私の方が勝ちね」


 ハルニレは爪を立ててカンナの顔を引っ掻いた。


「痛タタタタ!」顔をおさえてカンナは背後に寝転んだ。


 立ち上がってハルニレは仁王立ちでカンナを見下ろした。そしてその拍子に俺がかけた上衣が落ちて丸裸になった。


 そのナチュラルにエロい様子を見て思わず俺は呟いた。

「ああ、本当にハルニレだ」


 そしてその膨らみ掛けの胸を見た瞬間にカンナのヴァジュラで気絶した。



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