66.眠り姫
神聖アガルタ帝国はゲヘナ国の南東に位置する工業国だ。山岳地帯が多いことから鉱物資源が豊富でそれゆえに工業が盛んになった。
キキリに乗って飛んできたものの流石に夜になった。
宿を見つけて一泊する流れとなった。
「伝説の武器職人がこの国にいる。その武器には大体魔法が付与されている。前に父とボルテクスに遭遇した時に『アッタルに行けば良かった』と言っていた。その武器職人がいる村だ」
宿に隣接する飯屋でカンナは説明した。
「伝説の武器職人の噂は聞いたことがある。そうかアガルタにいたのか」俺はカンナの言葉に関心して言った。
「アッタルって隠れ里でしょ。前に国家魔法使いに聞いたよ」ハルニレは肉を頬張りながら言った。「場所はわかるの?」
「地図に無い村とされているけれどある時から位置が特定された。その村で能力災害が起きて村人が皆殺しにあったからだ」
カンナの情け容赦無い口振りに皆息を呑んだ。
「それでも武器職人はそこに住み続けているらしい」
「確か何世代にも渡って受け継いでいる屋号があったと記憶します」突然ヴォルクは発言した。
「え? あんた伝説の武器職人のことを知ってたの?」ハルニレは驚いて言った。
「お嬢が知っている事は大体私も知っています」ヴォルクは静かにハルニレを小馬鹿にした。
「ぐぬぬ」
主従関係かと思ったがむしろ立場はヴォルクの方が上に見える。不思議な関係だなと思いつつ俺は訊いた。「ちなみにその屋号とは?」
「トロイ」とヴォルクは言った。
※
翌日にはアッタルに着いた。
伝説の武器職人のいたアッタルという村は山間にある渓谷を利用した地形にあった。村の中はまるで竜巻にでもあったかのような惨状になっていた。
「よくもまあこんな惨状で住み続けられるものね」とハルニレは感想を漏らした。
「意外に常連が多くてな。住処を変えると迷惑になる」突然現れた男は言った。
「うわっ! ビックリした‼︎」ハルニレが背後に転びそうになったので俺はその背中を支えた。
「これでも少しずつ片付けてはいる」男は不機嫌に言った。「何か用か」
「武器職人のトロイさんですか?」俺は訊いた。
「ここには俺と運送人夫のコニィという男しかおらん。コニィは資材の調達や発送を手伝って貰っている。コニィは留守だ」
回りくどいがこの男がトロイということらしい。
「武器というか、ボルテクスという魔法に対応する媒体が欲しい」と俺は言った。
「ボルテクスか。厄介だな」そう言ってトロイは村外れに向けて歩き出した。「来い」
山の斜面に洞穴がありトロイはその中へと入っていく。
洞穴の中は雑然と資材が並び、その向こうに工房があった。
「ボルテクスってのは要するに生命力の万引きだ。つまり生命力の出口に蓋をすれば良い。生命力は大体首の後ろから出て行く」
そう言ってトロイは首輪を差し出してきた。
「そいつはガラパゴってアイテムだ生命力の出口を亀みたいに蓋をする」
俺はガラパゴを手に取り首に巻いた。
「ただしあまり長く身につけると心がな、傾いていく。生命力っては適度に出し入れした方が良いんだ」
心が傾く、という詩的な表現にピンと来なかったが要するに気が狂うという事かと気づいた。
「一日くらいならなんてことは無い。付けっ放しはまずいぜ、という話だ」
そう言ってトロイは俺たちの人数を数えた。
「五人‥‥と言いたい所だがお嬢ちゃんは魔獣だね? 魔獣にはボルテクスは余り効かない。そっちのちっこいニ匹には効くだろうがな」
そういえばレージーナに町が襲われた時にキキリはピンピンしていた。クルクルとミミはグッタリしていたのに。
「魔獣は大きさに比例して生命力が増える。不思議な事に大きさが変えられる場合はその大きさに見合った生命力に変わる」
クルクルやミミくらいの大きさの場合は人間と同じくらいで、キキリのように人間と同じくらいの大きさになると生命力は桁違いということか。
念のためクルクルとミミの首輪も購入した。
「あんたはあんたで微妙だな」とトロイは誰にも聞こえないように俺の耳元で言った。
え?
どういう意味かと考えているとトロイはガラパゴの値段を提示した。
「金払いが良いな。大概値切るものだが」トロイはニヤッと笑って言った。
「もしかしてふっかけた? ユカラ、値切らないと!」ハルニレは一国の王女らしからぬ事を言った。
「値切りには応じない。ただサービスを付けよう」
そう言ってトロイは柄の長い武器を工房の奥から持ってきた。
「これだけ長いと使いにくいな」俺は正直に言った。槍のような使い方をするには短かすぎる。つまり中途半端なのだ。
「一応伸縮ができる」そう言ってトロイが柄の部分を回すと刃が引っ込んだ。
「なるほど」俺はトロイから渡されたその武器を手に取った。
その瞬間、妙な感覚に襲われる。
何だ? 体に何かが纏わりつく。
対面にいたトロイはニヤッと笑った。
「もし使い終わったら返してくれるとありがたい。ずっと使いたいのなら大切に扱ってくれ。何せ御禁制の武器だからな」
「え?」と言って皆はトロイを見た。
「その武器の名は『眠り姫』。名刀だ。その刃に近づいた相手は死なずに眠りに落ちる」トロイはさらに付け加えた。「彼女が目覚めたらさらにその武器の能力が開花する」
「彼女って何?」カンナは訊いた。
「眠り姫は能力から付いた名前ではない。その武器の中には実際に女の子が眠っている。だから付いた名だ」
※
「妙なおまけが付いた」俺は眠り姫を手にアッタルからの帰り道でつぶやいた。
「また女が増えた」とハルニレは小声で言った。
「落ち着いてくださいお嬢。相手は無機物です」ヴォルクはハルニレの側で囁いた。
「きっといつか顕現してボインボインの美少女が現れてユカラに色仕掛けで近づいてそしてユカラも満更でもない顔で皆の手前少しだけ拒絶するんだ。そしてその美少女はさらにユカラにオッパイを押しつけてくる! そうに違いない!」
いや、丸聞こえなんですけど。そしてボインボインの美少女はハルニレも一緒だし行動もハルニレのまんまだ。
というか満更でもない顔て。
「無粋と承知で訊く」とカンナは俺の耳元で囁いた。「何故ハルニレを受け入れない?」
胸がズキッと疼いた。
「‥‥幼馴染を探していると言っただろう」
「ああ、そういう事か。ならもし幼馴染と再会できた時はそのあとどうする?」
カンナの言葉に俺は何も返せなかった。
※
ダンジョン以外にもモンスターはいる。
俺たちは眠り姫の効能を試す為ーー、そしてヴォルクの戦闘力を計るためにモンスターが出そうな山の中を歩いた。
神聖アガルタ帝国は山岳地帯なので出没するモンスターも固有種が多い。
山間の藪の中からゴブリンが複数現れた。皆手斧を持っている。
「ゴブリンか。ゲヘナでは見ないな。山賊紛いのことをしてきたと見た」俺は言った。
ヴォルクは先頭にいる巨漢のゴブリンをひと突きで絶命させ、その背後に控えていた複数のゴブリンに槍をひと振りしただけでまとめて手負いにした。
「及第。充分戦力になる」背後でカンナは言った。
俺はポルターガイストで空中に跳ね上がり、ヴォルクの戦闘の後ろに控えていたゴブリン目掛けて滑空した。
空中で眠り姫の柄を捻り刃を出した。
着地点に密集するゴブリンにひと振りしつつ地面に降り立つ。
次の瞬間に全てのゴブリンが人形のように倒れた。
「刃が届いていないゴブリンも倒れたな」つまり刃は飾りだ。眠り姫はほぼ魔法具だ。「なるほど」
一通りの戦闘を終えてからキキリの背に乗ってゲヘナに帰った。
そしてその足でダンジョンへと向かった。
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