64.ヴォルクのスキル
「宮廷料理って言ってもユカラの料理ほどじゃないね」
カンナは思ったことはハッキリ言う。
「だから言ったでしょ? ユカラの料理の方が美味しいって」
そう言いつつもハルニレは野菜の包み揚げを口いっぱいに頬張っていた。
「いや、レシピ自体は面白いぞ。多分味付けのほんの少しの差でもっと美味しくなる」
俺はメモしながらキノコと鳥のスープの調味料を予想した。
「この甘みはハチミツか。スープに入れるとは大胆な。多分足りないのは塩とスパイスだ。それだけで味わいが変わる」
「私にはどれも美味しいけれどな!」
サヴァーは病み上がりとは思えない食欲を示した。
俺がキキリに食べたい料理を聞いて切り分けてあげると視線を感じた。
「どうした?」
「べ、別に!」とハルニレとカンナは同時に言った。
「ユカラはその子の親なの?」とサヴァーは空気を読まない発言をした。「そんな雰囲気だったから」
「いや、キキリはキキリでクルクルとミミに分け与えているからそう言うのではないぞ」
俺がそう言うとキキリは魚の香草焼きをフォークに刺して俺の口に運んだ。
「お、ありがとう」と言って俺は香草焼きを食べた。
「ハルニレ王女とカンナが混ざりたいって顔をしているよ」
サヴァーは要らん事を言った。
「違うし!」とハルニレとカンナは同時に言った。
そうこうして会食を終えた俺たちは宮廷を出た。
「これで心置きなくダンジョン攻略ができる!」とハルニレは中庭でキキリの背に乗りつつ能天気に言った。
「いや、忘れているみたいだが」と俺が言いかけた所で宮廷の中から声がした。
「お嬢!」
ヴォルクは近衛兵の服装から私服に着替えたのかラフな格好でハルニレに声をかけた。
「ヴォルク、どうしたのその格好は? 休暇?」
「これからお嬢のパーティーの同行するって話になったじゃないですか!」
「あれを本気にしたの? 建前よ、建前!」
ヴォルクの歯軋りが聞こえたような気がした。
「せめて宮廷の外までは同行して、それから考えれば良いんじゃないか?」
俺は助け舟を出した。ヴォルクさんの気苦労が垣間見えた気がしたからだ。
「ええー⁉︎ いいよ、別に」
「まあ待って」カンナはハルニレをいさめるように言った。「あなたは何ができるの?」
カンナは飽くまでも実利としてヴォルクのパーティー入りを考えていた。
「ここではお見せできかねます」
ヴォルクの言葉に妙な期待感があった。
「ちなみにハルニレ王女も知らないスキルがあります」
「来る気満々じゃん」とハルニレは珍しく嫌味をいった。
「じゃあとりあえずキキリに乗ってください。人気の無い場所に移動します」
そう言って俺はキキリにいつもの町外れの荒野に向かうよう指示した。
※
「さて何を見せてくれるのかな」
ハルニレは腕を組んで偉そうに言った。
二人の関係が掴めない俺は静観するしかなかった。
「皆さんは『地鯨』というモンスターをご存知ですか?」
しゃがんで地面に手を当てたヴォルクは言った。
「水み国の伝説のモンスターだと聞きましたが」サヴァーは手を上げて言った。「巨大な芋虫みたいな姿だったかな」
というか何故サヴァーもいるのだろうか。
「あの巨大な姿こそが伝説であり地鯨自体はこのゲヘナ国にもいます」
「初めて聞いた」カンナは感心して言った。「面白い」
「ではその姿を今ご覧に入れます」ヴォルクは地面に当てた手に力を入れた。
その瞬間、地面に網の目のような模様が一瞬浮かんだ。
「はい、そこ!」
そう言ってヴォルクはネズミを捕まえる猫のように四つん這いで飛び跳ねて地面を押さえた。
「はい、これが地鯨です」
ヴォルクの手には芋虫のような肌色の生物がうねっていた。
「うわ、気持ち悪っ」ハルニレは空気を読まずに言った。「ていうか、それがスキル? 地面に隠れた地鯨を捕まえる事? ショボッ!」
矢継ぎ早に言ってハルニレはヴォルクを馬鹿にした。
「いや、つまり隠された場所を探し当てる事だろう。この場合は地鯨の巣穴だ」
俺は感心して言った。
「ご名答です。お嬢様。スキル名はスヴィニヤー『西洋松露』です」
「ユカラでいいよ」俺は頭を下げて続けて言った。「是非、俺たちのパーティーに入って欲しい」
「ええ!」
ハルニレだけが驚いて言った。
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