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63.勇者・カーカは精霊魔法を知る


 物見櫓の上で徐々に回復してきた勇者・カーカはニドの要請で地図を広げアイドル・ストーカー(偶像崇拝)を発動した。

 ハルニレ王女の行方を探す為である。


「これは‥‥、宿の位置か」


 勇者・カーカは街中の一画を指す錘を見て言った。


「宿を強襲するのは上手くない。暗殺にならないからな」ニドは街並みを眺めながら言った。「王女がギルドでクエストを受注してダンジョンに入った所を襲うのが理想だ」


「‥‥あ!」勇者カーカは思わず声を出した。


「なんだ。うるさいな」


 そう言ってニドは四つん這いで地図を眺めている勇者・カーカの脇腹を軽く蹴った。


「ウッ」勇者・カーカは寝転んで腹を抑えた。「‥‥ハルニレ王女が移動した」


「それを早く言え」


 そう言ってニドは勇者・カーカの顔面を踏んだ。


「言ったじゃないか! なんでいちいち暴力を振るうんだ!」


 勇者・カーカは涙目のままたまらず叫んだ。


「さてな。思い当たる節はないか探してみるのもいいだろう」ニドは地図を見下ろし、勇者・カーカには一瞥もくれずに言った。「王宮か。ますます手が出せん」


 踵を返してニドは物見櫓を降りていった。


「どこに向かうんだ!」地図を畳み、ニドの後を追って勇者・カーカは訊いた。


「ダンジョンだ」



 王都から離れたダンジョンに向かうにあたりニド達は乗り合い馬車に乗った。


 乗り合い馬車の荷台に横になりニドは何かを呟いていた。


「あの、さっきから何を言っているんで?」


 勇者・カーカは荷台に座りつつ恐る恐るニドに訊いた。


「精霊が騒いでいる。このままではこの国が終わると」


「え! 国が‥‥、というか精霊って何ですか? 御伽噺でしか聞いた事がありませんが」


 ニドは上体を起こし胡座をかいてから言った。


「この国ーー、ゲヘナ国の魔法と水み国の魔法は違う。ゲヘナ国の魔法は大地の力を借りる。その為のルートが大体一人ひとつだけしか持てない。だから例えば雷の魔法を使う者はその種の魔法しか使えない」


「俺も他人から奪う魔法なので原理は同じですかね」


「水み国の魔法は大地との仲介に精霊がいる。精霊と契約を交わし魔法を増幅させる。精霊二体と契約を交わせば使える種類の魔法は二つの属性に増える」


 勇者・カーカはこれまでニドがいくつもの種類の魔法を使いこなしてきたのを目の当たりにしてきた。その謎が解けた気がした。


「すげえ! 俺にも精霊魔法を教えてくださいよ!」


 勇者・カーカは再び「剣技」のスキルを戻せるかと喜んで尋ねた。


「精霊と契約すると寿命が縮む。それでも良いなら教えるが」


「‥‥え。寿命が?」


 勇者・カーカはそれ切り黙って荷台の外を眺めた。

 ニドは再び誰かと小声で話し始めた。



 ダンジョンの中に入ってすぐに現れたモンスターをニドは秒殺した。現れてすぐに四肢が千切れて消えた。


「行くぞ」


 ニドが何のスキルを使ったのか勇者・カーカには全く分からなかった。


 奥に行くに従い冒険者の死骸、あるいは動けない姿を散見した。中には憲兵もいた。


「こりゃあ、ギルドから来た連中だな」


「おい。コレを飲んでおけ」とニドは勇者・カーカに丸薬を渡した。「ボルテクスに対応できる」


 物見櫓での経験からニドから貰った物は警戒しつつも倦怠感が湧き上がり勇者・カーカは慌てて丸薬を飲んだ。


 そしてほとんど何の苦労もなくダンジョンマスターの階層まで来た。ニドは歩き進めるだけでモンスターを撃退していった。


「水み国にダンジョンは無い。初めて攻略してみたがこんなものか」


「すげえぜ! これなら全てのダンジョンを攻略できる!」


 勇者・カーカは新たな階層の入口で興奮して叫んだ。


「ダンジョンはいくつある?」


「確か、現時点では九つだったと思うが。ユカラ達が攻略したのが三つ。過去の冒険者が攻略したのが四つ。だが攻略してもいつの間にか増える。未発見のダンジョンは倍以上あると言われている」


「なるほどね」


 ニドがそう言ったと同時だった。

 階層の入口に鉄格子が降りてきた。他の入口も全て鉄格子が降りてまるで籠の鳥に閉じ込められたような状態になった。


「何だこりゃあ!」


 勇者・カーカが叫ぶと岩肌だけの階層が一瞬にして建物の中のような風景に変わった。床はチェックの模様が描かれ、低い天井にはシャンデリアが所々に配置されている。


「訳がわからねえ!」


 パニックになった勇者・カーカは武器屋で手に入れたばかりの剣を抜いた。


『それ、欲しい』と子供のような声がした。


 部屋の彼方から大量の何かが迫ってきた。まるで土石流だった。


「ほう」とだけニドは呟いた。


 土石流が近づくとそれが大量の人形だと分かった。


「何だよこれ、気持ちわりい!」


 後退りしながら勇者・カーカは叫んだ。


 一体だけ突出して飛んできた人形が勇者・カーカの刀を掴んだ。


「ひあああああああああ!」


 勇者・カーカの刀を掴んだ人形が千切れて霧散した。

 ニドは軽く手を払う仕草をしただけだった。


「目障りだ、下がっていろ」


 ニドの言葉に勇者・カーカは走り転げながら慌てて退散した。

 土石流のような人形の大群を絶望感と共に、ニドの後ろから体を丸めて眺めていた。


「少し多めに出すか」


 ニドは囁き、右手を広げて体の前に差し出した。


「アポストール、餌の時間だ」


 土石流のような人形の群れに人型の穴が空いた。そこから人形の群れが次々と千切れて霧散していく。


「全部は食うなよ」


 あっという間に人形の群れは一体だけになった。


 その人形に向けてニドはシザーバッグから取り出した鞭を振るって拘束した。


「結界を解け。今お前をどうこうするつもりはない。いずれここに来るパーティーを呼び寄せる餌になってもらうだけだ。ダンジョンが攻略済みになっては困るからな」


『分かった』

 

 人形の声と共に建物内部の部屋のような外観は消えて鉄格子もなくなった。

 元のごつごつとした岩肌が露呈した。


「生贄は何処だ?」


 ニドは人形に訊いた。

 勇者・カーカにとっては訳の分からない会話だった。


『あそこ』


 人形が指し示すのは岩肌の一角にある鳥の巣だった。

 巣の中に卵はなく代わりに繭のような物があった。

 

「文献の通りだな」

 そう言ってニドは繭をシザーバッグに入れて横になった。


「あの、これからどうすれば?」

 勇者・カーカは途方に暮れてニドに訊いた。


「ここで王女達が来るのを待つ。おい、人形! 先程の空間を出せ。ベッドも付けろ。ダンジョンに誰かが入ったら知らせろ」


『わ、分かった』ニドの言葉に従って人形は鉄格子で囲まれた室内を再現してそこにベッドも用意した。


「少し寝る」

 そう言ってニドはベッドに横になった。


 戯れに勇者・カーカは小石をニドの方に放り投げた。

 ベッドに届く前に砕けて霧散した。


『「ひいいいい!」』


 気がつけば人形も同じように勇者・カーカと同様の驚きを示していた。

 


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