62.モシレコタネ
「その状況で?」
俺は脇腹を抑えたリエフの姿にうんざりして言った。
「じゃあ私が」
そこでカンナは言い出した。
「手負いなら私くらいがちょうどいい」
「最強の男を自負しておる我をちょうどいい、か」
リエフは自嘲気味に微笑んだ。
「その代わりスキルを使わせてもらう」
「あ」と俺とハルニレは発してキキリはうっかり狐耳を出した。サヴァーはキョトンとしている。
「良かろう。我のスキルは『豪剣』。交わる剣は」
リエフが良い終わる前にカンナは「ヴァジュラ(雷神雷刀)」と唱えて短刀を振るった。
ビシャッという音と共にリエフは硬直して前のめりで倒れた。まるで銅像が倒れるように。
「働かざる者食うべからず。やっと気兼ねなくご飯が食べられる」
カンナは伸びをしつつご機嫌で言ってリエフに背を向けた。
「じゃあヴォルク、後始末よろしくね!」
ハルニレに言われてヴォルクは一瞬「チッ」と舌打ちした。
それから取り繕うように「承知しました」と頭を下げた。
謁見の間を出てから俺はハルニレに訊いた。
「ヴォルクさんに恨まれていないか?」
「え? なんで? 仲良しだよ。ユカラから習った寝技の訓練に付き合ってもらったり、王宮を抜け出す時は便宜をはかってもらったり、国家魔法使いに連絡を付けてもらったり、ダンジョン探索したいと言ったら王国専属パーティーに推薦してくれたり」
「それ、使いっ走りでは‥‥」
「無自覚に人に恨まれるタイプだ」とカンナは指摘した。「さておき間接的に私もヴォルクさんに世話になっている。あとで礼を言っておこう」
「私はハルニレ王女に感謝してるわよ! 宮廷料理なんて普通は一生食べられないし」サヴァーはご機嫌で先頭を歩いた。「それで食堂はどこ?」
後ろを振り返って歩いていたサヴァーは曲がり角で男と激突した。
「あ、ごめんなさい」
謝りつつも倒れたのはサヴァーの方だった。咄嗟に俺が支えたので床に打ちつけられる事はなかった。
「不用意な。前を見て歩け」
不遜に言い放ったの老人は王国専属パーティーのリーダーであるモシレコタネだった。
「あんたこそ前を見て歩きなさいよ!」ハルニレはご立腹で言った。
「これは失礼しました。王女様」咄嗟にモシレコタネはひざまづいて言った。「お知り合いでしたか」
「私の知り合いかどうかは関係ない! 無礼を働いたのはお互い様なんだからサヴァーにも謝りなさい」
「謝罪いたします」とモシレコタネはサヴァーに言った。
「いえ、こちらこそ」
サヴァーは言いつつも怯えてモシレコタネの顔を見られなかった。
「城下町に侵入したモンスターを撃退したとお聞きしました」立ち上がりつつモシレコタネはハルニレに言った。
「まあね」
「ご立派になりましたな」とモシレコタネは長い顎髭を撫でながら言った。「ところで我がパーティーに所属していたスカラーという男をご存知ありませんか。近衛兵のヴォルクの推薦でパーティー入りしましたがダンジョンで行方不明になりまして」
「さ、さあ。知らない」
「時にその魔獣はスカラーも常に連れていましたな。奇遇で」
モシレコタネは薄ら笑いを浮かべながらハルニレの頭上にいるミミを見ながら言った。
「そうね。き、奇遇」
「謁見の間でアンタの所の前衛をぶっ飛ばした。すまないな」
俺はキキリの功績をあえて俺の仕業かのように言った。ハルニレが追い詰められるのを見たくなかったからだ。
「なんだ小娘。それしきの事で悦にいるとは王女様の連れとして厚顔とは思わないのか?」
モシレコタネは眉間に皺を寄せて言った。
「爺さん、あんたの出身は? 俺はプルガトリオ付近のゴルゴタという村の出だ」
「なんだと?」
モシレコタネは俺の挑発的な言い方すら無視して明らかに表情を変えて言った。
「ゴルゴタ近くには別の村がある。古城があるその村はサールと呼ばれていた。その昔プルガトリオからモンスターの大群が押し寄せてサールは全滅した。俺の村ではサールに行くことを禁じられていた。古城にモンスターが残っていたからだ」
俺は、サヴァーの話からモシレコタネがサールの出身だと知っている。反応を見る為にあえて話した。
モシレコタネは口を真一文字に結び、両脇から下ろした手は固く握られていた。
よく見ると肩が震えている。
「最もそのモンスター達は今はいないけれどな」
「何故だ?」モシレコタネは明らかに動揺して訊いた。
「ゴルゴタ出身の男の子とその幼馴染が全部屠ったからだ」
俺とオキクルミは、修行と称してサールのモンスターを一匹ずつ狩っていった。気がつけばサールのモンスターは全滅していた。
モシレコタネの目が泳いだ。いくつかの言葉を探してたどり着いた問いをようやく口に出した。そのように見えた。
「‥‥貴様、名前は」
「ユカラだ」
「そうか」と言ってハルニレに一礼してモシレコタネは立ち去った。「覚えておく」
「これで妙な事をしないで欲しいのだけれどな」
俺は誰にともなく言った。
だがモシレコタネは後日とんでもない事をしでかすことになる。
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