表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

60/93

60.御前試合


 少し時間は遡る。

 王宮の中のハルニレは臆せず只々我が家の中を歩いているように見えた。当然だけれど。


「凄い。‥‥これいくらするんだろう?」


 サヴァーは廊下に飾られた調度品を愛でながらウットリするように言った。


「目がチカチカする」

 カンナはフラフラと揺れて歩みもそぞろだ。


「悪趣味だよねー」

 ハルニレは他人事のように呟いた。


「いや、自分ちだし」

 俺はこの後の展開に頭を巡らせていたせいかおざなりなツッコミになってしまった。


「緊張してる?」


 ハルニレは俺の頭を両手で持って振り回した。


「あああああ、作戦を忘れるるるる」


「いいよ、作戦なんて。父が反対したら無理矢理私をさらってよ」

 ハルニレはヘラヘラ笑いながら言った。


「いや、国賊になるんだが」


「ユカラなら軍相手でもなんとかしてくれそう」


 ハルニレの手の震えが頭に伝わってきた。


「軍人にも家族はいる。だから無理だ」

 俺は言った。

「だからもしその時が来たら少し作戦を考えさせてくれ」


 ハルニレは俺の頭から手を外して俺を抱きしめた。


「うん。沢山考えて」


「ちちくり合っている所を悪いけど‥‥、ここ謁見する所じゃないの?」


 サヴァーは恐る恐る扉を指差して言った。


「うん。行くよ」

 ハルニレは皆に頭を下げて改めて言った。

「みんな、ここまで来てくれてありがとう」


「好きで来たから‥‥頭を下げられても」

 カンナはそっぽを向いて言った。

「でも、できれば王宮の料理は食べてみたいかも」


「私もそれに賛成!」

 サヴァーは飽くまでもピクニック気分でいた。


「王女だから、王族だからとか関係ない。ハルニレだから助けるんだ」

 俺は言った。


「それ、もしかしてプロポーズ?」

 ハルニレは目に涙を浮かべて言った。


 え? あ、いや、と俺がしどろもどろでいるとハルニレは扉を開けた。

 

 広い室内には玉座があり、そこにゲヘナ国王が座っている。

 近衛兵は四人ほどいただろうか。


「我が娘をたぶらかしたのは貴様らか」

 低い声音で国王は言った。


 思ったより高圧的にきた、と思った。


 俺は跪いて言った。

「ユカラと申します。王女様と共に御息女を探す手伝いをさせていただいております」


 俺の背後でハルニレ以外の皆も跪いた。


「そんなことはモシレコタネにでも任せれば良い」


 国家専属パーティーを名指しして国王は早々にこの会談を終わらせに来た。

 宿での会合でモシレコタネがダンジョンの呪いに関わっているかもしれないという話の流れの後だったので妙な気分で聞いた。


「モシレはただの一度もダンジョンを攻略できていないんだけど!」

 ハルニレは身内への口調のままに国王へと進言した。


「お前は黙っていろ。城を抜け出して何をしているかと思えば冒険者の真似事なぞをしおって」


「失礼ながら真似事ではございません。御息女はダンジョンマスターを何度も屠っております。非公式ながら奴隷商人の壊滅にも尽力されました」


 俺は淡々と事実を述べた。


「もし証拠が必要とあらば、ここにおりますギルドの受付からも一言お耳汚しを承りたく願います」


 俺はサヴァーに目配せをした。


「え? 私?」

 サヴァーは慌てつつも話し出した。


「はい! ユカラの言った事は事実です。奴隷商人の件は名義を変えただけで実質ハルニレ王女のパーティーによる功績です。あと先日町に侵入したモンスターの駆除も彼女達の功績です」


「まあ私のパーティーって言うよりユカラのパーティーだけれど」

 ハルニレは胸を張って言った。

「お父さん。私、強くなったよ」


「なるほどな」


 王は玉座で頬杖をついたまま言った。

「では証明してもらおう」


「え」とハルニレと俺とカンナは言った。キキリは耳を立てた。


 背後の扉が開き、入室してきた者がいた。

「また会ったな」


 棍棒を持った男は言った。


「誰だっけ?」と俺は隣で跪いたカンナに訊いた。


「王国専属パーティーの前衛」


「あ、いや。人違いか? ダンジョンで会ったのは確か少年だったはず」


 棍棒を持った男は首を傾げた。

 当時はまだ少年の体だったからな。俺はいつ男に戻れるのだろう。


「間違っていない。会っている」


 俺がそう言うと男は王に跪いて言った。


「で、誰と戦えばよろしいんで」


 話の流れで言えばハルニレだが自分の娘を戦わせるのもおかしい。「娘を預ける貴様の戦力はいかほどか」という理屈なら俺だろう。


「ではそこの娘、この男と戦ってみよ」

 王はキキリを指差した。

 皆驚いた。キキリは俺にすがるような眼差しを送ってきた。


「大丈夫。キキリなら変身しないでも勝てる」


 キキリは喜色を浮かべて頷いた。

 ーー問題は。


「なぜこの子を御所望ですか?」

 俺は訊いた。


「貴様のパーティーで一番小さいからだ。もしハルニレがピンチの時にそいつしか近くにいないとして頼りにならないとなれば問題だからな」

 王は言った。


「一応筋は通る」 

 俺は呟いた。


「では、はじめるが良い」

 王は面倒臭そうに言った。


 広間の中央で男は棍棒を構えた。

 キキリは棒立ちだ。


「参る」 

 男は一瞬で間合いを詰めてキキリの足を横殴りにしようと棍棒を振り回した。


 一応殺さないよう配慮がなされていた。


 だが相手はキキリだ。


 キキリはその攻撃をジャンプして避けて後ろ回し蹴りで相手を蹴り飛ばした。


 男は飛ばされ玉座を掠めて壁に激突した。


「手加減しろって言い忘れた」 


 俺は呟いた。

 キキリは首を振った。一応手加減したらしい。


「そうか。偉いぞ」

 俺はキキリの頭を撫でた。


「バカな‥‥」

 王は立ち上がって壁に激突した男を振り返って言った。


「恐れながら申し上げます。こちらに居ますキキリは恐らくこのパーティーで最も強いと思われます」

 俺は跪いて言った。


「もし可能でしたら私めが今一度再戦して陛下の杞憂を払拭させていただきたく存じます。もちろん相手はどなたでも結構です」


「そ、そうか。ちょうど軍最強の男が帰還したところだ」

 王は居住まいを正し、玉座に座り直して近衛兵に言った。

「リエフを呼べ! 今すぐだ!」


 ゲヘナ国にも軍はある。主に隣国との小競り合いに駆り立てられるが本格的な戦争にはならない。何かしらの密約があるという噂だが市民レベルでは知る良しもない。


「リエフ、只今帰還しました」

 扉が開いて筋骨逞しい男が一礼して玉座に歩み寄り跪いた。


「旅の疲れはどうだ。今すぐ戦うことはできるか?」

 王は焦ったように早口で捲し立てた。


「特に不調はございません。王の命令とあらば何なりと」

 そう言ってリエフはこちらを睨んだ。


 女子供に向ける視線ではないな、と思った。軍人の目だ。


「じゃあ俺が相手をするよ。方法は?」


「剣術は如何か」 


 リエフの腰には長刀が携えられていた。


 実は俺の最も得意とするのは刃物を使った戦闘だ。だが長年使った武器はカーカに騙された時にダンジョンに置き去りになったままだ。


「どうした? 剣術では不満か?」

  

「いや、帯刀していない。良ければ誰か貸してくれないか?」

 俺は近衛兵に向かって言った。


「図々しい娘だな」

 そう言って近衛兵の一人がサーベルを俺に手渡してきた。


「ありがとう。大切に使わせてもらう」


「余裕だな」

 リエフは構えてから言った。

「貴様、只者ではないな」


「そりゃどうも」

 流石に軍人には分かるか。


「はじめ!」

 王自ら号令をかけた。


もし今後の展開が気になる

もっとキャラ達の冒険が見たい

と思ったら


下にある☆☆☆☆☆から作品への応援をお願いします!


面白かったら☆5つ

つまらなかったら☆1つ

正直に感じたままで結構です!


ブックマーク、評価をさせていただくと個人的にとても励みになります。

よろしくお願いします!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ