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57.王位継承


「あああああ、バレちゃった!」と部屋に着くなりハルニレはしゃがんで頭を抱えた。


「え! ハルニレ王女?」とサヴァーはハルニレの素顔を見て驚いて言った。


「ここでもバレた!」と凡ミスを繰り返すハルニレを見て俺とカンナは笑った。


「別に隠さなくても良いんじゃない? 現に私とユカラはハルニレが王女だって知らなかったし意外にハルニレの顔を知っている人は少ないよ」とカンナは冷静に言った。「というかだったら何で戦いに行く時に顔を元に戻したの?」


「顔を変えると微妙に視界が歪むから攻撃に支障が出るの」と涙目でハルニレは言った。「それとこれでも何度か命を狙われてるのよ」


 ハルニレの告白に皆息を呑んだ。


「ああ、でもほら夢で多少分かるから」


 空気が沈んだのを察してハルニレはフォローした。


「顔バレは夢で見なかったのか」と俺は突っ込んだ。


「予知夢も万能じゃないのよ。でもまあ多分顔バレしても命に支障はないから夢に出なかったのかも」スクっと立ち上がってハルニレは言った。「うん! よし。過ぎた事は仕方ない!」


 ハルニレらしい竹を割ったような反応に皆笑顔を浮かべた。


「何故ハルニレ王女様はユカラと一緒に?」とそこでサヴァーは質問した。


「姉を探してダンジョンに入っているの」とハルニレは説明した。


 サヴァーはその言葉に納得しつつも少し考え事をしているように見えた。


「どうした?」俺はサヴァーに訊いた。


「気分を害されたら申し訳ありません」とサヴァーは前置きしつつ言った。「第一王女と第二王女は養子だとお聞きしたのですが」


 その噂は俺も聞いたことがある。世継ぎが生まれない国王と妃は秘密裏にどこからか養子を迎えたと。その後ハルニレが生まれた。つまり実質の世継ぎはハルニレになるとも。


「ああそれね。ちょっと事情があるの」とハルニレは珍しく言葉を濁した。「それはそれとしても私は王位を継承する気はないの」


「何で?」と目を丸くしてカンナは訊いた。


「だって面倒でしょ?」とハルニレはハルニレらしいことを言った。「でも色々とバレちゃったしなあ」

 

 王位継承を断り冒険者としてダンジョン探索をするのは確かに色々と問題がありそうだ。


「王位は嫡子でなければならないという決まりは無いんだよな?」


 俺はハルニレに訊いた。


「決まりはないけれど世間がなんというか。私は良いけれど姉たちの心持ちを考えるとね」


 ハルニレは優しい。あけすけで大雑把に見えるが実は繊細な機微も持ち合わせている。


「なんとか出来ない事もない」と俺は言った。「まあ、いずれその時が来たら」


「うん」とハルニレは言った。



 サヴァーも本調子ではない事からこのま俺たちの部屋に泊まることになった。


「しかし」と俺はクルクルを抱え上げて言った。「お前のあれはなんだったんだ? 助かったけれど」


「クルクル」とクルクルはいつものように甘えて喉を鳴らす。


「レージーナのボルテクスとは逆ね」とカンナは感心したようにクルクルを撫でた。


「私、クルクルに触った事ない」とハルニレが触れようとするとクルクルは脱兎の如く逃げ出した。

「え?」


 飛ぶことも忘れてまるでニワトリのように部屋の隅へ駆けて行った。


「‥‥嫌われた。なんで?」


 そういえばキキリを捕らえていたマンドラゴラもハルニレを避けていた。


「モンスターに避けられる体質なのか?」俺は疑問を持った。


「いや、ミミはいつも側にいるし」とハルニレは軽くいなした。そして肩を落としてシンクで洗い物を始めた。


 となるとダンジョン由来のモンスターにだけ避けられているのか、と俺は考えた。

 皆にはクルクルがダンジョンのモンスターの巣から付いてきているとは言っていない。


「これもダンジョンの呪いか」俺は冗談のつもりで呟いてから気になった。「そもそもボルテクスで人の生気を吸って何がしたいんだ?」


「呪いなのかな」とカンナは不意に言った。


「え」と俺とハルニレは同時に言った。


「ああ、いや」と言い訳のように呟いてからカンナは言った。「昔父から『ダンジョンに生贄を捧げて死者を復活させる方法がある』って聞いたことがあって」


 俺もオキクルミからその話は聞いた! なぜ忘れていたのだろう。

「生贄とボルテクスは同義かもしれない。捧げられるか奪うかだけの違いで」


「えっとつまり、誰かが死者復活の為にダンジョンを悪用しているって事?」ハルニレはまとめた。


「その話、しっくり来るわね」とベッドで寝ていたはずのサヴァーは言った。


「もう大丈夫なのか?」俺は訊いた。


 頷いてからサヴァーは言った。

「昔とある村がプルガトリオからの魔物で全滅したの」


 知っている。俺の故郷の近所の村だ。俺が生まれるより少し前の話だ。


「全滅と言ったけれど一人だけ生存者がいたの」その先をサヴァーは言わなかった。


「そういう不遇な境遇の人がダンジョンを利用して死者を復活さしようとしてもおかしくない、と?」カンナは実直に言った。


「ごめんなさい。私のような立場では言えない事を言ってもらって」サヴァーはベッドの上で上体を起こして頭を下げた。


 サヴァーはギルドという団体を背負っている。言えない事もあるだろう。

 冒険者は個人事業主だからその辺りは融通が効く。


「でもその人を犯人にしたいわけではないの。飽くまでも例えの一つね」


 サヴァーはそう言ったものの、だったらあえて例に出すわけがない。

 つまりサヴァーは疑いを抱いている。


「その人物の名前は知っているか?」


 俺は訊いた。


「モシレコタネ。現王国専属パーティーのリーダーよ」サヴァーは目を逸らして言った。


 皿が落ちて割れる音がした。


「モシレが?」


 ハルニレは洗い物で濡れた手を側面に垂らして、呆然とした表情で言った。


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